HEAVYWEIGHTS (JAZZLAND)

SAL NISTICO (1961/12/20)

HEAVYWEIGHTS


【パーソネル】

SAL NISTICO (ts) NAT ADDERLEY (cor) BARRY HARRIS (p)
SAM JONES (b) WALTER PERKINS (ds)

【収録曲】

MAMBLUE / SECONDS , ANYONE? / MY OLD FLAME
SHOUTIN' / AU PRIVAVE / HEAVYWEIGHTS

【解説】

 「私、スキーをするのは初めてなのぉ♪」 というギャルが練習をする場合、長い板と短い板とでは、どっちがいいか?…という話を書いていて、うやむやのうちに終わってしまった前回でありますが、今なら僕は自信を持って、 「長いほうがエエって!」 と断言することが出来ます。 が、その話はとりあえず置いといて、この前泊まったラ・フォーレ志賀というホテルの話をしたいと思うんですが、このホテルはですね、横手山のゲレンデのど真ん中にありました。駐車場に車を泊めようとすると、思わず滑っているスキーヤーを撥ねそうになっちゃうほどなんですが、僕がここを選んだポイントはその利便性によるものだけではなく、思わず下痢便性になってしまいそうな豊富な食事量にソソられるものを感じてしまったからなんですが、毎週土曜日は “爆裂!生ビールプラン” とか “満腹ポンポコリンプラン” などと銘打って、通常のセットメニュー以外に中華6品と手作りケーキ、さらには生ビール一杯がサービスで付くらしいんですよね。 爆裂!とかポンポコリンと言ったプランのネーミング・センスにはかなり多くの問題点を抱えているものの、これで7350円というのはかなりリーズナブルだと思うんですよね。 いや、このお値段には若干の疑問がないわけではなく、オフィシャルサイトでは今ひとつ料金が明確でなく、楽天トラベルとかだと7350円になっていて、でも12月23日は特別料金で8400円取られるのかな?…と思ってメールで確認したところ6400円という返事が返って来て、 「かなりリーズナブル」 どころとちゃうやん♪…と喜んでいたら、実際には7350円取られてしまって、ちょっぴり不満だったりしたんですけど。

 が、そのポンポコリン具合のほうは看板に偽りは無く、ただ、爆裂!の生ビールはオバチャンがなかなか持って来てくれなかったり、 「こちら、飲めない人やった?」 と勝手に決めつけられたりして、ちょっぴり不満だったりしたんですが、中華バイキングのほうはきっちり6品取り揃えられておりました。 中華6品と言うと、鶏の唐揚げ、麻婆豆腐、シュウマイ、海老チリ、胡麻団子にアンニン豆腐やな。…という僕の予想は40点という結果で、海老チリとアンニン豆腐以外は今ひとつ名前のよく分からん食い物だったりしたんですが、海老チリの海老は、立派に海老やな。…と言えるだけの質感を備えていたし、海老チリのチリも、立派にチリやな。…と言えるだけのチリ味を醸し出しておりましたので、バイキングにしては質的にもなかなか優れていると評価してもいいのではなかろうかと。 ただ問題は、常軌を逸しているとしか思えない無謀なほどの物量攻撃でありまして、バイキング以外のセットメニューのほうも、刺し身、焼き魚、茶わん蒸し、鶏料理、肉団子、うどん鍋と、こんだけ食ったらもう、中華は食えん!…と言いたくなるようなボリューム感でありまして、とどめに半ば自棄でアンニン豆腐、焼きプリン、ケーキの “デザート3点セット” を食ったら、ポンポコリンを超越して、ちょっぴり気持ち悪くなってしまいましたがな、こりゃ。。。

 が、このホテルの物量攻撃は夜だけでは終わりませんでした。 ここの朝食は焼きたてパン食べ放題♪…というのがウリになっているんですが、それも食パンとか、バターロールとか、甘食パンといったシケたパンではなくて、卵とツナのサンドイッチとか、チョコデニッシュとか、調理パンみたいなのとか、普通のパン屋で買ったら130〜180円は取られてもやむを得ないよな。…と思えるようなものが出てくるらしいんですよね。これはもう、中華バイキング6品よりもソソられるものがあって、これを見て僕はこのホテルに泊まることを決断したわけなんですが、こちらのほうも看板に偽りはありませんでした。卵とツナのサンドイッチはパンの耳がついているところが手作りの情感を醸し出していたし、ソーセージパンのソーセージは、朝から食うにはヘビーやろ?…と言いたくなるほど脂ぎっておりました。 ま、それは別にいいんですが、ここの朝食は焼き立てパンのバイキング以外に、普通の “和食セット” まで付いていたんですよねー。 さすがに、出されたものは全部食べる主義の僕としてもゴハンだけは食べることが出来ず、なめこの味噌汁や焼き鮭をおかずにパンを齧ることになってしまったんですが、いやあ、恐るべきホテルでありましたなぁ。。。ちなみに、部屋とか風呂なんかは値段相応やな。…と言った感じで、特筆すべき点は無かったんですが、気持ち悪くなるまで食いたいという趣向の人にとっては、まさにパラダイスと呼べるホテルと言えるのではないでしょうか。

 で、スキーのほうはと言うと、今シーズンは暖冬による雪不足がタタって、クリスマスのこの時期でも志賀高原はまだ全面滑走可能には程遠い状況でありました。 とりあえず初日はサンバレーをベースに、蓮池、丸池、ジャイアント、発哺ブナ平、東館山の一部、寺小屋、高天ケ原…と滑ったところで連絡が途切れ、シャトルバスで移動して、焼額山、山の神、ダイヤモンド、一ノ瀬ファミリーと滑って、時間切れ。 2日目は熊の湯を起点に笠岳に移動したら、リフトでたまたま隣に乗り合わせたオッチャンが、 「横手山はコンディション悪いでー。」 と言っていたので、そっちに行くのはヤメにして、前の日に時間の都合で滑れなかった奥志賀までクルマで移動することにしたんですが、いや、今から思えばこれがそもそもの間違いの元だったんですけどね。 この “間違いの元” の伏線としては、今回、僕は新しく買ったばかりのファンスキーで滑っていたというのもあるんですが、いや、ゲレンデコンディションがあまりよく無さそうなので、とりあえず古い板にしておこうか?…とも思ったんですが、ついつい、おニューの誘惑に負けてしまったんですよね。 で、この新しい板は幅が狭めなので新雪に埋まりやすいという弱点があるほかは、おしなべて好調だったわけなんですが、この好調さもアダとなりました。 僕の滑りはこの二日間、実に快調そのものでありまして、ジャアントも東館山のオリンピックコース (一部のみ滑走可能) も、何のその。 ま、熊の湯で、たくさんのスクール生のギャル達の目の前で、ちょっとエエとこ見せたろかい?…と思って調子に乗って滑っていていたら、ズルっとコケてとんだ恥さらしだったのだけは余計でしたが、そして最後の締めは志賀高原でも屈指の名コースとの誉れが高い奥志賀のダウンヒルコースでありますか。  とりあえず、ここを3本滑って終わりにしようと思っていたんですが、1本滑った時点でかなりヘロヘロになってしまったので、滑走目標を2本に下方修正することにして。 が、ここでちょっぴり欲が出ました。奥志賀高原はゴンドラ終点の上にもう1本短いリフトがあって、そこは短めの初級者コースになっているんですが、どうせならそこを直滑降で飛ばしたろ!…と。 で、1本滑ったらもう一度リフトに乗って、最後はゲレンデトップからベースまで一気に滑り降りたろ!…と。 が、それが間違いの素でありました。 この初級者コースとダウンヒルコースのつなぎ目部分はちょっぴり上り坂になっていて一気に滑り降りることが出来ず、ちっとも快適でないばかりか坂道を歩かされて余計に足が疲れるだけの失敗企画に終わってしまい、そのその憂さを晴らすべくダウンヒルに入ってから思い切りスピードを出して滑っていた次第でありますが、事故はその直後に発生しました。。。

 おらおらおらーっ! 快調にターンを決めていたサバ君でありましたが、新雪に板を取られて、おーっと、転倒っ! 板が左回転したのに対して、身体のほうは右方向に回って、瞬間、ヤバっ!…と思いましたね。 ここで長いスキー板のように、ある程度の荷重がかかると板がブーツから外れるタイプのビンディングであれば問題はなかったんでしょうが、 僕が前回このコーナーで指摘した 「板がブーツから外れないので、コケると大怪我をする恐れがある。」 というショートスキーの短所が、そのまま我が身に降りかかってきた感じでありますな。 もし、古いほうの板を履いていれば金具が緩くなっていて靴から外れた可能性もあるんですが、おニューで固定がしっかりしてましたならなぁ。。。 とても自力で下山出来る状況とは思えなかったのでパトロールに救助要請をしたんですが、助けに来てくれるまでの時間が異常に長く感じられました。 僕が苦しんでいる横を滑っていくニイチャン、ネエチャン、おっさん達は、まったく誰も心配して声を掛けたりはしてくれなかったしぃ。。。 そんな中、僕の近くで一人のねえちゃんが大コケして、仲間が出来たか?…と思って喜んでいたら、あまり大したことはなかったようで、ただ、連れのニイチャンがコケたねえちゃんの直前で思い切りエッジを利かせて停止して、ネエチャンが雪まみれになって、 「どうしてそういうことするのぉ!」 とマジぎれされて2人の仲が険悪になっていくのを傍で見ているのはなかなか楽しかったりしたんですが、いや、今はそんなことを喜んでいる場合じゃ無いんだって! 世間の人の冷たさに晒されながら助けを待っていると、ようやく、苦しんでいる僕に気付いて、 「もう大丈夫ですよぉ!」 と力強い声を掛けてくれた青年がいたんですが、それがパトロールの兄ちゃんでありました。 僕はてっきりスノーモービルで搬送してくれるものだと思ってワクワクしていたら、普通にスキーの板を履いただけの兄ちゃんだったので、ちょっとガッカリしちゃったんですけど。

 その後、もうひとりの兄ちゃんが救助用のそりを持って来て、僕はそれに乗せられて下まで降ろしてもらうことになったんですが、 「途中、雪が掛かりますから。」 というので顔の部分まですっぽりとビニールのようなもので覆われて、下に着く前に窒息するやんっ!…と思わずには言われませんでした。 ま、何とか手で空気の通り道を確保して、最悪の事態だけは避けられたんですけどね。 が、全身すっぽりと袋に覆われて上のほうから厳粛なムードで運ばれてくる姿を見て、周囲の人間は恐らく、 「し、死んだんか!?」 と思ったに違いなく、好奇の視線に晒されなくて済んだという点では顔を隠してくれたのは有り難かったんですけどね。 ダウンヒルコースのほとんど出だしの部分でコケたので、2000m近い距離をそりで運ばれるのはすごく長い時間に感じられましたが、いちばん下のところまで来たら顔を覆いをはずされて、みんなの晒し者になるんやろな。…というのが、ちょっと気が重かったんですけど。 が、パトロールの兄ちゃんが気を使って駐車場の横まで搬送してくれたので、周囲の人が固唾を飲んで見守る中、むっくりと起き上がって、 「何や、生きてるやんっ!」 とギャラリーを落胆させずに済んだわけですが、みんながガッカリするくらい僕も自分の症状に関しては割と楽観視していたんですよね。 パトロールの兄ちゃんも僕の足首をチェックして、 「大丈夫っ!骨が折れたり、ひびが入ったりはしてません!」 と太鼓判を押してくれましたしね。 僕のほうも余裕を見せるため、 「いやあ、この1本を滑ったら帰ろうと思ってたんですよねー。」 などと状況説明をしたりして、それに対してパトの兄ちゃんは 「大抵、そういうものなんっすよ!」 と答えてくれた次第でありますが、 「骨が折れたらこんなふうに、とても話なんかしてられません。」 とも言っておりました。骨折というのはそれほど痛いということなんでしょう。いやあ、骨を折らずに済んで本当によかったと思います。 ただ、下に降りたら当然 「救護室」 のようなところで検査されるものだとばかり思っていたら、自分の乗って来たクルマのところまで搬送されただけでサヨナラということになってしまって、ちょっと意外な感じがしたんですが、症状、ぜんぜん大したことないよな!…というのがパトの兄ちゃんの判断だったのでありましょう。

 ただ、ちょっと足を捻っただけの捻挫にしてはあまりにも痛くて、一人では歩くことも車を運転することも出来なかったりしたんですが、僕がまだ自分の症状を軽く考えておりました。 会社に電話して、「とりあえず今日と明日の休暇届けを出しといてー♪」 と、軽やかに告げたくらいですからね。 松葉杖を使えばすぐに歩けるようになるかな?…くらいに考えていて、ま、捻挫なら “カ○キュウ” (←近くにある骨接ぎ) でエエかぁ。…とか思っていたんですが、うちのおかんの 「あんな、ややこしいとこ!」 という差別的な問題発言によって即座に却下されて、やむを得ず近くの “青○記念病院” というところに行ってみることにしたわけですが、レントゲン撮影の結果を見た先生はきっぱりと一言。 「完璧に折れてますなー。今すぐ入院して、手術が必要です。」  かくして、さば君の生まれて初めての入院生活♪…が、始まったのでありました。 いやあ、これでしばらく “jazz giant” の前半ネタに苦しむ心配だけはなくなりましたなぁ。。。

 ということで、サル・ニスティコでありますが、とりあえず今日 (2006年12月29日) 、サバ兄にCDプレイヤーといくつかの音源を病院まで持って来て貰ったので、これで何とか後半部分まで書ける目処がつきました。ジャケ絵を書くのはまだ厳しいので、とりあえず退院後までリンク切れの状態でお茶を濁そうと思います。(編集部注:現在、ジャケ絵掲載済。) で、更新作業のほうはサバ兄に任せるので、一部至らぬ部分もあろうかとは思いますが、ひとつご容赦のほどよろしくお願いします。 とまあそんなことでサル・ニスティコなんですが、サルと言えば志賀高原には猿がおりました。 蓮池からジャイアントへの連絡コースを我が物顔で歩いておりました。 ま、猿の立場からすれば元来このあたりは自分たちの居住地であったに違いなく、何、勝手に連絡コース作ってんねん!…と、文句のひとつも言いたくなるところで、我が物顔なのも当然かも知れませんが、かと言って、嫌がらせのようにウンコを垂れ流していくというのはどうか?…と思わずにはいられません。まるで畜生のような浅ましい行為だと言わざるを得ませんが、連絡コースだけでなくて、ジャイアントのメインゲレンデにも猿は出没しておりました。まるで走ってくる自動車の間隙を縫って道路をビューッと横断する野良猫のように、上から降りてくるスキーヤーがいない隙を狙ってゲレンデを疾走しておりました。そのうち、カッ飛び系のスキーヤーに撥ねられる猿も出てくるに違いなくて、いやあ、野良猿として生きていくというのも、なかなか大変でありますなぁ。。。 一方、ジャズの世界で生きているサル君はどうかと言うと、とりあえずテナーを吹いて生きているみたいですね。 今回取り上げる 『ヘビーウェイツ』 のジャケットはイラスト仕立てになっているんですが、それを見る限りでは白人のオッサンのようでありますな。ニスティコという名前からするとイタリア系なんすかね?  ま、僕としてはリーダーの素性にはあまり興味がなくて、ナット・アダレイバリー・ハリスサム・ジョーンズウォルター・パーキンスという、いかにもリバーサイドの傍系レーベルなサイドマンにソソられてこいつを買ったんですが、ちなみに僕が持っている輸入盤CDは 『カミン・オン・アップ!』 というもう1枚のアルバムとカップリングされて 2in1 で出されております。 『カミン〜』 のほうはサル君の一族郎党と思しきサル・アミーコなる人物がトランペットを吹いていたりして興味深げな内容だったりするんですが、脚の骨を折って入院しているベッドの上で全13曲ものレビューを書くというのはちょっと骨の折れる作業なので、後半の7曲は最初から無かったことにしておこうかと。 とまあそんなことで、では1曲目から聴いてみることにしましょうかぁ。

 まず最初は 「マムブルー」 という曲なんですが、これはバリー・ハリスのオリジナルなんですな。 カン、ココッコン、カン、ココッコン♪…といった地味なドラムのイントロに続いて登場するテーマは、ちょっぴりラテンな香りのするリフ・ナンバーやな。…といった感じでありまして、ホーンとピアノが微妙にコール&レスポンスする形で演奏が進められております。 でもって、ソロ先発はナット・アダレイでありますかー。 僕は小学生の頃、給食がほとんど食べられないとっても食の細い少年だったんですが、 長じてオトナになってからは、旅館でも、法事の席でも、病院でも、出された食いものは基本的に全部食う。…という主義の人間に転じました。食が太くなると同時に、胴回りのほうもしっかり太くなってしまいましたが、ただ納豆だけはどうしても駄目なんすよね。ラ・フォーレ志賀の和洋折衷な朝食でもゴハンと納豆だけは残してしまいました。 そういえば隣の席の兄ちゃんはあまりの物量に正常な判断能力を失ったのか、箸でパンをつまんで食べたりしておりましたが、納豆嫌いの僕もナット・アダレイは大の好物でありまして、ここでのソロも、見事の一言に尽きる出来となっております。強いて二言にするとすれば、見事であっぱれ。 頑張って四言まで増やすとすれば、見事であっぱれで、甘茶でカッポレ。 無理して増やしたところでどんどん意味不明になるだけなのでこれくらいでヤメにしておきますが、シンプルなテーマを徐々に展開させていくような感じのアドリブはラテンの香りに満ち溢れていて、彼の持ち味であるファンキーさも多分にあって、途中、リズムが4ビートに転じてからは、一気に上り詰めるノボル君が指を詰めるようなフレージングを駆使したりして、大いに場を盛り上げておりますな。 それに対し、ソロ2番手を務めるサル君は何だかとっても地味なプレイを展開しておりまして、まろやかなトーンと、おだやかな吹きっぷりからは、とってもジェントルな人柄が窺われます。顔はいかついんだけど、胃下垂でちょっぴり食が細い。そういうキャラなんでしょうな、おそらく。 それでも後半に入ると病状も改善したのか、ちょっぴりデクスター・ゴードンを彷彿させるような後ノリでそれなりに健闘しておりまして、でもってソロ3番手はバリー・ハリスでありますな。この人はアレです。ちょっぴり重いタッチのピアノにバップの重鎮的な重みが感じられますよね。ま、重鎮と呼ばれるほどのトシでも無いんですが、少なくとも人前でフリチンになったりしないだけの理性と知性は持ち合わせておりまして、この人がピアノを弾くと演奏の全体がピシっと締まりますよね。通称、締まり屋のハリりん♪…って、いや、何だかちっとも締まらない呼び名でありますけど。 とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。 アルバム全体のイメージを左右する1曲目としては上々の立ち上がりでありまして、きっとジョー君にも気に入って貰えるのではなかろうかと。いや、病室で僕の隣のベッドに寝ているんですけどね、ジョー君。 今朝はどういうわけだか山田くんとか呼ばれてましたけど。

 ということで、続いてはサル君オリジナルの 「セコンズ・エニワン?」 という曲でありますな。タイトルは 「秒、誰が?」 といった意味なんすかね? 今ひとつ意味不明なので、何か特別な慣用句なのかと思って翻訳ソフトにかけてみたところ 「秒、だれでも?」 という結果が出て、ほとんど変わり映えしなかったんですが、曲そのものはアップ・テンポのバップ・チューンで、タッド・ダメロン的な香気を感じさせるなかなかの作品に仕上がっております。テーマ部でナット君はミュートを駆使しておりますな。 でもって、ソロ先発がバリー・ハリスというのもバピッシュなムードを高めておりまして、以下、ナット・アダレイのやや短めなソロと、サル・ニスティコのややサルっぽいソロがあって、テーマに戻って、おしまい。 あかんやんっ! 2曲目の解説、めっちゃ短いやんっ! こんなことなら13曲目まであることにしてもよかったような気がするんですが、今さら過去の過ちを清算することは出来ませんしね。ちなみにザウルスの日本語変換辞書では 「せいさん」 の候補として “清算” のほかに 、生産、精算、凄惨、成算、正餐、青酸、瀬井さん、誠さん、征さん、清さんと言った候補が上がったんですが、あまり汎用性のなさそうな単語は別に無くてもいいような気がするんですけどね。 シイタケ生産農家の瀬井さんは、清さんとの金銭トラブルを清算するため、青酸を飲んで凄惨な最後を遂げた。…みたいな事件は1年のうちにそう何度も起きるものではありませんからね。 とまあそんなことで3曲目の 「マイ・オールド・フレイム」 でありますが、これはナット抜きのワンホーン・カルテットによるバラード演奏となっております。チャーリー・パーカーを始め、数多くのジャズマンから愛奏されているスタンダードなんですが、タイトルはどういう意味なんすかね? 「私の古い枠」 ? とか思っていたら、違ってました。「私の古い炎」。 なるほど、 “flame”と“frame” は、まったく違うものだったんですな。 ここで言う “炎” というのは冠二郎が歌うところの 「セイヤ、セイヤ!」 みたいなものではなくて、恐らく 「恋の炎」 といった情緒的なものなのではないかと思うんですが、古い恋が突然、フラッシュバックのように再燃するというのはよくある話ですよね。数十年ぶりに再開した初恋の相手が病院までお見舞いに来てくれて、しかも “うまい棒” のテリヤキバーガー味まで持って来てくれたりすると、僕の心は完璧に全焼っ♪…ということになってしまいます。 サル君はいったい、どんな古い恋の炎が再燃したのか、部外者である僕にはよく分からんのですが、バリー・ハリスのピアノのイントロに続いて登場するサル君のテナーはしみじみと味わい深く、 「猿の目にも涙」 という諺を彷彿させるリリカルなプレイを展開しております。 いや、本当にそんな諺があったかどうかあまり覚えがないんですが、1曲目や2曲目に比べるとテナーのトーンがより深くなっているところに、彼の古い恋の奥深さを思い知ることが出来ますな。 深キョンとかに恋したのかも知れませんね。 やはり、ちょっぴりデクスター・ゴードンを彷彿させるような気がしないでもないバラード演奏でありまして、中間部で聞かれるハリスのソロも、しみじみとパウエル直系しておりまして、秀逸です。 とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 はい、4曲目。  「シャウティン」 。 これはアレです。トミー・タレンタインのオリジナルです。 トミ・タレ君はスタ・タレ君ことスタンリー・タレンタインの実兄であると同時に、けっこう作曲の才能もあったりするんだよね。…ということで知られておりますが、この 「シャウティン」 という曲も 「叫び」 というタイトルほどに叫んではいなんですが、いかいもハード・バピッシュな佳曲やな。…といった感じの仕上がりになっております。 ソロ先発はサル・ニスティコなんですが、にすい (←方言?) トーンに独特の味わいが感じられます。テナー界の穏健派というか、アブマディネジャド大統領 (←だっけ?) とは反りが合わないタイプというか、アブマディネジャド大統領 (←だっけ?) の毛は出来ることなら剃りたくないというか、ま、よほどのマニアでない限り、大抵の人はネジャド君の毛など剃りたくないに違いありませんが、そのちょっぴり頼りない感じが母性本能をくすぐるタイプであると言っていいかも知れなくて、でも相手はイタリア系 (←たぶん。) ですからね。 きっと手が早いに違いないので、世の中のママさんは十分に気をつけたほうがいいと思います。 とか言ってるうちにナット君のコルネット・ソロになっちゃいましたが、ミュートを付けているのか、オープンなのか、微妙なトーンでありますな、こりゃ。 少なくとも、少し鼻が詰まり気味であることだけは確かなんですが、看護婦さんの中にも咳をしている人がいたりするので、病院の中にいても油断はならんのですよね。 隣のベッドで寝ている爺さんの見舞いに来ている婆ちゃんは、 「下痢がちっとも治らんでなー。今はやりのノロウイルスやろか?」 とか言ってたしー。 とか言ってるうちにバリー・ハリスのピアノ・ソロも終わって、 ts→ds→cor→ds の4バースで、ま、そこそこは盛り上がって、テーマに戻って、おしまい。 さ、残すところあと2曲で、とりあえずあと5日ほどは原稿書きから開放されることになるんですが、暇つぶしに最適であるとは言え、ずっとベッドの上で原稿を書き続けるというのもなかなか大変な作業ですからね。

 で、5曲目はパーカーの 「オウ・プリバーブ」 でありますか。 パーカーには割と少なめなラテンタッチの作品でありまして、ラテン系の好き者であるサル・ニスティコには相応しい選曲であると言えましょう。 聴いているだけでも調子のいいナンバーなんですが、演奏しているほうはもっと気持ちがいいに違いなくて、ただ、ソロ先発のサル君のプレイはノリノリで、もう誰も手が付けられない。…といったほどではなくて、後ろのほうからそっと近付いて、 「サルのアホ!」 と書かれた紙を背中に張り付けることが可能なくらいには手を付けられそうな感じで、好き者ではあるものの、さほどお調子者では無いということなのかも知れません。 ま、それなりに頑張ってはいるので、演奏が退屈で詰まらないといった事はまったく無いんですけどね。 続くナットのソロは相変わらず鼻が詰まっているような感じなんですが、演奏が詰まらないのと鼻が詰まっているのはまた別の話でありまして、特に後半はどこかで聴いたことがあるようなバップ・フレーズを巧みに引用したりして、なかなか鼻のある、いや、なかなか華のあるプレイを展開しております。 で、続くバリー・ハリスは、頭にたくさん脳ミソ詰まってんやろな。…ということを感じさせる知的なソロを展開しておりまして、やはり頭の中には脳ミソがたくさん詰まっていたほうが知性は高まるような気がしますからね。頭の中に蟹味噌がたくさん詰まっていても駄目かも知れませんけど。 で、その後、ts→ds→ts→ds の4バースでそれなりに盛り上がって、テーマに戻っておしまい。 さ、いよいよラストですな。 アルバムの末尾を飾るのは 「ヘビーウェイツ」 という曲なんですが、これはアレです。フランク・プラーラが作曲したナンバーであります。 と言われても、僕はこのフランク・プラーラというのが一体どういう人なのかまったく見当が付かないんですが、僕の勘では、いつもフランクフルトを食べながらプラプラしている人なんちゃうかな?…という気はするんですけど。 一見するとただの “頭に春が来ちゃった人” みたいなんだけど、実は素晴らしい作曲の才能を秘めている音楽版の “裸の大将” みたいな。 ただこの 「ヘビー級」 という曲は、アルバムのタイトルになってるわりには今ひとつインパクトが弱いよな。…という気がしなくてもなくて、おまけにラ・フォーレ志賀の朝食バイキングのソーセージパンのソーセージほどにもヘビーでなくて、ま、いくらフランクフルト好きのフランク君でもあまりヘビーなソーセージばかりを食べていると下痢になっちゃうので、たまにはこんな魚肉ソーセージみたいな淡泊なやつが食べたくなるのかも知れませんけど。 よく聴くと微妙にモードっぽい雰囲気があったりもするわけなんですが、演奏のほうはごく普通にオーソドックスで、サル、ナット、ハリスの順で、純正ハードバップなアドリブが繰り広げられております。 中では、ちょっぴりマイルスっぽい展開も聴かせるナット君の出来がいいですかね? ハリス君のピアノ・ソロも、ツボを押さえた鍼灸師みたいな安定感のあるものとなっておりまして、やはり 「餅は餅屋」 と言いますからなぁ。 とまあそんなことで、今日のところはおしまい。

【総合評価】

 リーダーのサル・ニスティコ君は今ひとつ押しの弱いタイプなんですが、案外、はたき込みとか引き落としで星を稼ぎそうなタイプではあります。今場所は7勝8敗で、なんとか十両には踏みとどまれるかな?…みたいな。 そんな “ヘビー級” ならぬ、軽量関取なサル君のこのアルバム、サイドマンの頑張りもあって、地味なハード・バップの佳作…くらいの出来にはなっているのではなかろうかと。 さほど多くの物さえ期待しなければ、かなり楽しめると思うんですけどねー。 とまあそんなことで、では皆さま、よいお年を♪ とりあえず僕も来年は、骨を折らないように頑張りたいと思います。


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