SUGAN (STATUS)

PHIL WOODS (1957/7/19)

SUGAN


【パーソネル】

PHIL WOODS (as) RAY COPELAND (tp) RED GARLAND (p)
TEDDY KOTICK (b) NICK STABULAS (ds) 

【収録曲】

AU PRIVAVE / STEPLECHASE / LAST FLING
SUGAN / GREEN PINES / SCRAPPLE FROM THE APPLE

【解説】

 君は機械材料に詳しいかな?僕はですね、ぜんぜん詳しくありません。別に機械材料に詳しくなくても、生きていく上ではまったく何の支障もないや。…と思って、敢えて機械材料に詳しくなろうと努力することもなかったんですが、そうも言っていられなくなって来ました。というのもですね、今日、某・マンホールポンプ場にいたら役所の人がやって来て、 「いろいろと質問したいことがある。」 てなことを言い出したんですが、僕は最初、事態をわりと楽観しておりました。今日の僕はポンプ制御盤の改造作業を、そばに立ってぼーっと眺めているという仕事をしていたんですが、質問というのは恐らくポンプの制御に関係する話であろうと思っていたんですよね。僕は某・専門学校のロボット制御研究科というところで優秀な成績を修め、塩サバ物産(仮名)に入社してからもしばらくそっち方面の仕事をしておりましたので、制御に関してはわりと詳しいです。少なくとも、人魚や、雷魚や、すず風にゃん子・金魚よりも、制御の話のほうがまだ分かるんですが、僕に投げ掛けられた質問はまったくの方向違いでありました。ポンプの主軸の材質だとか、逆止弁の材質だとか、仕切弁の材質だとか、自動空気抜きの材質だとか、そんなこと僕に聞かれてもぉ。…と言いたくなるような材質に関する質問ばかりでありまして、何ひとつとしてまともに答えることが出来ない自分が、ちょっぴり可愛いな♪…と思わずにはいられませんでした。ほら、馬鹿な子ほど可愛いとか、よく言いますからね。

 そこでまあ、この場をお借りしてちょっと機械材料のお勉強をしてみたいと思うんですが、まず最初はですね、 “SUS304” でありますか。 「普通はやっぱり “SUS403” じゃなくて、“SUS304” なん?」 と聞かれたので、とりあえず 「そうですねー。」 と答えておいたんですが、いや、本当にそうなのかどうかはサダカではないんですけど。 ま、正解の確率は50%なので、一か八かの勝負に出たわけですが、ちなみに材料関係には極めて疎い僕でも、 “SAS” がサザンオールスターズの略であるということくらいは知っています。材料とはまったく関係のない話なので、それくらいは大丈夫です。 で、一方 “SUS” というのは “すす” ではなくて “さす” と読むのが通例で、どうやらステンレスのことらしい。…という程度の知識は僕にもあるんですが、そもそもステンレスというのはどういうものなのかというと、とにかくですね、錆びないんですよね。ステンレス鋼 (stainless steel) は、耐食性を向上させるためにクロムを含有させた合金鋼。鉄に約10.5パーセント以上のクロムを含有させた合金をいい、しばしばニッケルをも含有する (JIS G 0203「鉄鋼用語」の定義による) 。一般にはステンレス-スチールともいう。ステンレス (stainless) とは 「錆びない」 という意味。…ということなんですが、いや、もっと複雑なものなのかと思ったら、基本的には鉄にクロムを混ぜただけのものだったんですな。

 クロムというのはアレですよね。 “黒マン徹子にどうしても会えん” …の最初に出てくるヤツですよね。 僕は周期表の第4周期の Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛) の部分は、このような記憶しておりました。全体的に爽やかさに欠けるとか、 “どうしても” の “しても” の部分はどこから出て来たのだ?…とか、言いたいことは色々とあると思いますが、クロムとニッケルということになると、鉄からするといずれも1件を飛ばした先の家ということになりますよね。どうしてすぐ隣のマンガン君やコバルトちゃんと仲良くしようとしないのだ?…と思わずにはいられませんが、お隣というのはあまりにも距離が近過ぎて、何かとトラブルが発生しやすいのかも知れません。夜遅くまでワケの分からんジャズを大音量で流していてうるさいとか、庭にある柿の木がこっちの敷地にまで侵入していて邪魔臭いとか、こちらの台所と隣の家の便所とが向かい合っていて、ギンナンを炒っていると隣からウンコ臭い匂いがただよってくるとか。 ま、最後の例はどっちもどっちのような気もするんですが、そんなこんなで常日頃から何となく疎ましく思っている相手が、実はとっても贅沢な暮らしをしているという噂を耳にしたりすると、そこに “妬み” という感情が加わってくることになります。

  “徹子” というのは鉄とコバルトを足したものなので、この名前を使うと話が少しややこしくなってしまいます。 そこで、鉄の名前を “ (てつ) ” ということにしようと思うんですが、この哲クンはですね、頭がハゲているんですよね。どうしてハゲているのかと言うと、うちの会社の社長と同じ名前だから何となくそんな気がするだけなんですが、この哲クンが江場のミスタートンカチあたりで、2件隣の家のクロム君とばったり顔を合わすわけであります。 「おおっ。」 とか、 「ああ。」 とか、適当な挨拶を交わした後、2人の共通の隣人にあたるマンガン君の話題になったんですが、 「あいつ、1週間くらいおらへんかったやん。どこ行っとったか知っとる?」「さぁ?」 「中国やてー。で、高い中華料理屋で “満願全席” 食うたんやてー。」 「何でそんなん知っとるん?」 「あいつ、自分のブログ持っとるやん。そこに書いてあったでー。」 かくしてマンガン君が中国に行ったということが 『夕日のマンガン』 というブログを見た哲クンにバレてしまったんですが、マンガンの癖に “満願全席” を食うとは生意気や!…というので、2人は隣人の贅沢ぶりに憤りを感じるわけです。第一、中国に行ったのに “天津甘栗” のひとつも土産に持って来ないというのは、人の道としてどうかと思うよね。そういえばアイツは4年前に会社のリフレッシュ休暇で北海道に行った時も、 “白い恋人” を買って来なかったよな。…とか、ずいぶんと昔の話まで蒸し返されたりして、マンガン憎しの思いで一致団結した哲クンとクロム君の2人は大いに意気投合して、かくしてステンレスが誕生したわけであります。( 『新日鐵住金ステンレス株式会社』 オフィシャルHP 「ステンレスの歴史」 より抜粋せず。)

 ところで、ステンレスの記号として用いられている “SUS” でありますが、これは “Steel Special Use Stainless” の略なんだそうですね。特別使用錆びない鋼(はがね)…とでも訳すんでしょうか。そもそも “SUS” のことをステンレスと呼ぶのは間違いでありまして、 「錆びない」 だけでは何のことだか意味が分かりません。正しく “ステンレス・スチール” と言わないと外国人には通じないわけですが、こともあろうに日本人はステンレスをさらに省略して “ステン” と呼んだりしますよね。これでは 「錆び」 の意味にしかならず、本末転倒もいいところであります。…などと細かいことを言う人もおりますが、土建屋相手にそんな理屈をこねても無駄でありまして、じゃ、あれか? ロシア民謡の 「ステンカラージンの歌」 も 「ステンレススチールカラージンの歌」 と言えというのか?…と、まったく道理の通らない反撃を受けるのがオチでありましょう。 土建屋なのにステンカラージンを知っているとは、あるいは歌声喫茶世代なのかも知れませんが、場内の敷鉄板養生とかをしながら 「俺らの空は鉄板だ」 を口ずさんだりしているんでしょう。楽しそうな職場ですね。 で、鉄板と言えば、鉄にも何だか2つほど種類がありますよね。記号で言うと “SS” と “FC” ということになるんですが、えーと、一般構造用圧延鋼材が “SS” で、鋳鉄が “FC” でありますか。鋳鉄というのはアレですよね。炭素 (C) およびケイ素 (Si) を主成分とした合金であり、Cの含有量が 2.1%以上のものを指している。これらの組成の割合によってねずみ鋳鉄、白鋳鉄、などにわかれ、これらを総称して鋳鉄というが、一般に鋳鉄という時は最も広く使われているねずみ鋳鉄を指すことが多い。…ということなんですが、いいですよね、ねずみ鋳鉄。まず第一に名前がラブリーなんですが、どんどんとこの調子で “いぬワン鉄” とか、 “ねこニャー鉄” とか、 “にわとりクックアドゥールドゥ鉄” といった鋳鉄を作って欲しいところですよね。…って、このネタは前にも使ったことがあるような気がするし、ニャー鉄ではもはや、鋳鉄でも何でもないような気もするんですけど。

 そもそもねずみ鋳鉄はどうしてねずみなのかというと、黒鉛が入っていてねずみ色に見えるから “ねずみ鋳鉄” 。そんだけ。あまりにも単純明快過ぎてほとんど何の行数稼ぎにもなりませんでしたが、白鋳鉄はセメンタイトが析出して断面が白く見えるから “白鋳鉄” 。ねずみ鋳鉄と白鋳鉄が混ざって色がまだらになっている “まだら鋳鉄” というのもあるようで、もはや鋳鉄業界には何も求めるべきものは無さそうです。仕方が無いので話をステンレスに戻しますが、ひとくちに “SUS” と言っても、その組成によっていくつかの種類があるようです。 まず最初にクロムが 13%含まれている “13Cr” というグループ。そもそもの発端は、役所のお兄さんから 「 “13Crステンレス鋼” と “SUS403” では、何がどのようにアレなのか?」 と質問されたことだったんですが、いや、君はそんな基本的なことも分からないのかい? ステンレスというのはだね、鉄とクロムの合金なんだけど、そのクロムが 13%含まれているものを “13Crステンレス鋼” と言うんだよね。専門的にはマルテンサイト系って言うんだけど、ちょっと難しいから君はそこまで覚えなくてもいいかな? で、 “SUS403” というのはね、マルテンサイト系のステンレススチールの一種だから、 “13Crステンレス鋼” の中に “SUS403” も含まれるという関係になるんだよね。…などと、人を見下したような態度でスラスラと答えられる筈も無く、 「さぁ?」 と首をかしげて、その場の追求から逃れるのが精一杯でありました。でも、こうしてきちんと勉強をしたので、次からは大丈夫です。ただマルテンサイト系という言葉がすらすらと出てくるかちょっと心配なんですが、 “黒マン徹子いいさ、丸チン斉藤よ、おっさん” と覚えておくといいかも知れません。クロムと鉄で13% (いいさ) なのは丸チン斉藤で、よ、おっさん (SUS403) もここに含まれると。 で、同じく黒マン徹子 (クロムとマンガン) の組成ながら、クロムが18%含まれるものはフェライト系と呼ばれ、 “SUS430” などがこの系列ということになります。こちらはですね、 “黒マン徹子、いやあフェラいいと、ヨッさん、オーケー” という語呂合わせでどうでしょう? 徹子ちゃんのテクに、ヨッさんがオーケー (SUS430) を出したということらしいんですが、吉田と言う苗字のおっさんは、大抵 “ヨッさん” と呼ばれることになるんですよね。そのヨッさんがオーケーを出したということであれば、徹子ちゃんの技能は確かなものであると言えるでしょう。

 で、ステンレスには鉄とクロムだけではなく、そこにニッケルを加えた “Cr-Ni系” のものもあるんですが、この場合の組成は決まっていて、クロムが18%、ニッケルが8%ということになるようです。いわゆる “18-8ステンレス” と呼ばれるものなんですが、専門用語で言うとオーステナイト系ということになりますか。 “SUS304” というのが代表例なんですが、 “SUS” の後に付けられている3桁の数字がどういう基準で付けられているのかは、今ひとつよくわかりません。 Cr-Ni系が300番台で、 Cr系が400番台という取り決めはあるみたいなんですけどね。 で、オーステナイト系の覚え方でありますが、せめて最後くらいは綺麗で爽やかに決めたいところですよね。綺麗で爽やかに “304 (さんまるよん) ” とクロムとオーステナイトと鉄とニッケルを詠み込まなければならないんですが、えーと、 “さまよって、苦労を捨てないと、哲、禿げにける” …って、いや、うちの会社もこのところ業績不振が伝えられ、行き場所を求めてあちこち彷徨っているようで、社長の哲クンも何かと気苦労が絶えないんですよね。このままでは、ますます頭がハゲでしまうに違いありません。いけません。社長の毛の喪失は社員のヤル気を失わせることにもなるので、何とかして欲しいところなんですが、何かいい手立てはないものでしょうか? カロヤンとか、リアップとか、加美の素とか、薬用スペラゲン707とか、薬用毛髪力イノベートEXとか、 薬局に行けばいろいろな種類の育毛剤・養毛剤が売られているようですが、刹那的にとりあえず頭が黒くなればいいというのなら、黒鉛を塗るという手もありますよね。僕はこのコーナーで使うジャケットの絵をシャープペンシルで書いているんですが、1枚分を書き終えると紙に接した手のひらの横の部分がシャーペンの粉で黒くなっています。あれをですね、頭皮にも応用するといいと思うんですよね。百均で大量の鉛筆を買ってきて、カッターで縦に割って中の芯だけ取り出し、すり鉢とすりこぎで粉末にしてやるといいと思うんですが、ちなみにHBの鉛筆の芯には黒鉛と粘土が7:3の割合で入っているんだそうですね。粘土など頭皮に塗ったところでネチャネチャするだけで何のメリットもないので、出来れば黒鉛含有率の高い色の濃い鉛筆を買ったほうが得策なんですが、最低でも4B〜6Bくらいの “かきかた鉛筆” 、出来ればJIS規格には無いものの9Bといった鉛筆を探し出したいところです。

 で、この黒鉛の粉を卵の黄身などに混ぜて頭皮に塗ってやればいいわけですが、これでもう、アタマは黒々…とまではいかないにしても、ま、灰色くらいにはなるんじゃないですかね? うちの会社の社長が “ねずみ哲” 、もしくは “まだら哲” へと華麗な変身を遂げるのも、そんなに先の話ではないかも知れません。

 ということで、今日はフィル・ウッズです。この人はアレですよね。パーカーに心酔しちゃった。→パーカー死んじゃった。→パーカーの未亡人と結婚しちゃった。…というエピソードで知られているわけですが、ま、その気持ちは分からんでもないんですけどね。喪服姿とか、けっこうソソられるものがありますからね、未亡人って。 未亡人と異邦人とイボ痔。僕はこの3つの中では未亡人がいちばん好きなんですが、同じ意味でも “後家” という言葉にはあまりソソられるものを感じませんな。 娘さんよく聞けよ、山男にゃ惚れるなよ、山で吹かれりゃよ、若後家さんだよ♪…という歌の最後の部分は、是非とも “若未亡人さんだよ♪”…に変更して貰いたいところですが、 “若後家” ではなんだか名古屋にあるカレーうどん屋の “若鯱家” と間違えやすいですしね。 とまあそんなことで、今日はフィル・ウッズの 『スガン』 というアルバムを紹介したいと思うんですが、いや、これは地味ですな。ステータスなどと言うワケの分からんレーベルから出ているんですが、これは恐らくプレスティッジの傍系なのではなかろうかと思われます。ま、プレスティッジの “フレミングの右手の法則” みたいなマークは書くのがけっこう面倒なので、ステータスのシンプルな “S字矢印マーク” は歓迎なんですが、それはそうとこのアルバムはジャケットのデザインが今ひとつ冴えません。小西啓一クンは日本語ライナーに、草原の中にスクッと立つ一本の大樹。ウッズの姿にもオーヴァーラップするその大樹を、低いアングルから捉えたジャケット写真。その上に少しデフォルメされた書体でタイトルの5文字が浮かび上がり… などと書いて、そのデザインを絶賛しておりますが、僕はその意見には12%くらいしか賛同出来ません。まず第一、それほど大樹には見えないし、低いアングルとも思えないし、5文字のタイトルはとても少しのデフォルメとは思えなくて、いやあ、こういう書体は手書きするのが面倒なので、是非ともヤメて欲しかったんですけどね。字を書くならゴシック体やろ!…ということを、デザイナーは肝に銘じておいて欲しいと思います。

 でもって、サイドマンもなかなか地味なところを取り揃えておりまして、サブリーダー格の扱いとなっているレッド・ガーランドはともかくとして、トランペットがレイ・コープランドで、ベースがテディ・コティック、ドラムスがニック・スタビュラスですかい。コティッ君とスタビュラりんはいずれも白人で、当時のウッズのレギュラーメンバーということなので、そこにガーランドとソープランド好きのコープランドがゲスト参加アルバムと言えるかもしれません。…と言うようなことを小西クンが書いているので、あるいはそういうことなのかも知れません。 で、選曲のほうはと言うと、パーカー・ナンバーが3曲、ウッズのオリジナルが3曲となっていて、これはなかなか好ましいプログラムであるように思うんですが、とまあそんなことで、1曲目は 「オー・プリバーブ」 でありますか。たいへん調子のよいナンバーでありまして、僕の個人的な “ソソられるパーカー曲ランキング” では、3位か、4位か、5位か、6位か、7位か、8位か、ま、最低でも9位くらいまでには入っているのではないかと思われます。3位と9位ではかなりの差があるような気もするんですが、パーカー曲をちゃんと順位付けしたことがないので、自分でもよく分からんのですよね。んなもの、ランキングでも何でもないような気もするんですが、とにかくまあ、ウッズはこの調子のよいナンバーをアップテンポで軽快に料理しておりまして、イントロ無しでいきなり始まるテーマは、アルトとトランペットのユニゾンとなっておりますな。

 で、ソロ先発はウッズなんですが、いかにもパーカー直系と言った感じのフレージングでありまして、ちょっぴり濁ったトーンはマクリーンを彷彿させるものがありますな。いや、ジャスト・ア・リトル、ほんのちょっぴりではあるんですけどね。 で、小西クンが言うには、ソロの途中に 「ボタンとリボン」 の一節を織り込んでいるとのことでありましたが、僕にはよく分かりませんでした。 「ボタンとリボン」 って、歌詞の最後が “バッテンボー” と聞こえるヤツだよね?…ということ以外、あまりよく知らない歌ですからね。 で、ソロ2番手はレイ・コープランドなんですが、僕は正直、この人とビル・ハードマンと、アイドリュース・シュリーマンの区別があまり付きません。とにかくまあ、3人ともB級っぽいよね。…というくらいの印象しかないんですが、ここで聴く限り、コープランドという人はガレスピー的なアプローチの純正バップ・トランペッターといった感じでありまして、名前のわりには軟弱な感じのするビル・ハードマンよりも、ちょっとだけハードなキャラであるような気がしないでもありません。 で、続くガーランドもカクテル的な甘さを抑えたバピッシュなピアノを披露しておりまして、大いに傾聴に値する出来となっているんですが、バックに聞こえるスタビュラスのタイコも悪くないですね。ちょっぴりフィリー・ジョーを彷彿させるような切れ味があって、ノリスケの奥さんのタイ子さんと同じくらい悪くないと思います。けっこう美人ですからね、タイ子さん。ノリスケが死んで若後家さんになったらチャンスかも知れませんが、イクラちゃんはすぐにゴネたりして、なかなか取り扱いが難しそうではあるんですけど。 で、ピアノに続いてテディ・コティックのベース・ソロがあって、 as→ds→tp→ds の4バースがあって大いに盛り上がって、テーマに戻って、おしまい。典型的な直球ビ・バップといった感じでありまして、いや、悪くないですなー。

 続いて、2曲目は 「スティープルチェイス」 でありますが、これは僕があまり好きではないパーカー曲のひとつであります。テーマ部でコープランドがミュートを使っているのもあまりよくなくて、でもまあ、よく聴いてみると単純なユニゾンではなくて、微妙に対位法っぽくなっているところなど、なかなか凝った作りになってはいるんですけどね。 で、曲の好き嫌いは別として、アドリブ・パートに入ってからのウッズは快調そのものでありまして、よどみのないヨド物置きのようなフレージングは素晴らしいの一言ですよね。個人的にはヨドコーよりもイナバ物置きのほうが好きなんですが、物置きの好き嫌いは別として、続くコープランドのミュート・ソロはどうもちょっとアレですよね。生理的にどうもこの人のミュートの音が好きになれんのですが、いや、よく聴いてみると演奏そのものは悪くはないんですけどね。途中、誰かの 「うー!」 という声も聞かれたりして、なかなかの熱演ぶりの熱延鋼板であるとは思います。 で、続くガーランドはブルージーなアプローチでブルンジ人のハートをがっちり掴んで、最後は as→ds→tp→ds の4バースがあって大いに盛り上がって、テーマに戻って、おしまい。

 3曲目はウッズのオリジナルで、 「ラスト・フリング」 という曲ですね。ミディアム・テンポのマイナーなムードの佳曲でありまして、AA形式のテーマが2管ユニゾンで演奏されて、その後、ウッズのアドリブ・ソロに突入する…と思わせておいて、もう一度ユニゾンに戻ったりして、実はこれ、AABA形式の “Bの部” がアドリブになっているというパターンだったんですな。 で、テーマに続いてレイ・コープランドのソロになるわけですが…と思わせておいて、実はまたメロディに戻るのではないか?…と、僕はすっかり疑心暗鬼に陥ってしまっているんですが、さすがに今度は大丈夫でした。今度こそほんとにトランペットのソロがしばらく続くことになるんですが、ここでのコープラりんはアレですね。やや上ずったドナルド・バードっぽい吹きっぷりだったりするんですが、譜割によって緩急に変化を付けたりするところが…、と、小難しいことを書こうとしているうちにアルト・ソロに変わってしまったので先に進みます。 えーと、ここでのウッズのソロはですね、若々しいです。以上です。そんだけかい!…と思われるかも知れませんが、小西クンの曲解説にも、ウッズのソロも熱く、若々しい。…とあるだけですからね。お金を貰って書いているプロにしてこの有り様ですので、道楽でやっている僕にそれ以上の物を求めてはいけません。で、続いてガーランドのソロでありますが、とってもシングルトーンでありますな、こりゃ。 なんともブルージーでスムージーでエロ爺ィな弾きっぷりでありまして、聴くものをして陶酔の境地に誘(いざな)うものがあるんですが、後半、定石どおりブロックコードに転ずるというマンネリさも、ここではヨシとしておきましょう。ガーランドとブロックコードと言えば、カエルとフロッグと同じくらい切っても切れない関係でありますので、文句を言ってどうにかなるという次元の問題ではないですからね。とまあそんなことで、AABA形式の “Bの部” がアドリブになっているテーマに戻って、おしまい。

 4曲目はアルバム・タイトル曲の 「スガン」 でありますか。曲名の意味するところはよく分からないし、小西クンもその点に関しては何も言及していないので、ここはひとつ原文ライナーに頼ることにしようと思うんですが、えーと、ニュー・ホープの近くにある街か場所の地名と思われる。…でありますか。僕の持っているCDには原文ライナーの日本語訳も掲載されているんですが、アイラー・ギトラー君のほうがよっぽどマシなことを書いているということに、今頃になって気付きました。ま、面倒なので、詳しく引用するようなことはヤメておきますが、スタビュラスの派手なドラムのイントロに続いて演奏されるテーマはマイナー調のように見えて、実はメジャー・キーで書かれているということでありますな。かなり速いテンポ設定で、ハード・バピッシュな魅力の感じられる仕上がりとなっておりますが、AABA形式の “Bの部” がアドリブになっているというのは前曲と同じパターンです。で、本格的なアドリブ・パートがコープランドから始まるというのも同様で、でもって、ここでのトランペット・ソロは実に素晴らしい出来でありますな。続くアルト・ソロも実に出来がよく、ただ、ガーランドのコンピングがやや単調に思えなくもないんですが、これはウッズのプレイを引き立てるために敢えて脇役に徹したものと思われ、で、日本語ライナーにはウッズが 「ドナ・リー」 や「ビ・バップ」 の一節を引用している旨の記述があるんですが、えーと、注意しながら聴いてみたんですが、よく分かりませんな。 で、バッキングではやや手を抜いていたガーランドが、自分のソロになって俄然ヤル気を見せておりまして、特に中盤の “右手と左手のタイミングが微妙にずれている両手弾き” としか表現のしようがない独特のプレイが実にスリリングでありまして、これはえーと、アレですね。ガーランドのリーダー作 『ソウル・ジャンクション』 に入っていた 「バークス・ワークス」 でのソロを彷彿させると言ったらいいのか、とにかくまあ、そんな感じでとても出来がいいと。 で、続くアルトとトランペットの4バースは間にドラムスを挟まないことによってスピード感とスリルとサスペンスとサスベンダーが高められておりまして、いや、ズボンつりはあまり関係なかったかも知れませんが、でもって、テーマに戻って、おしまい。いや、完璧なる演奏でありますな。

 5曲目もウッズのオリジナルで、 「グリーン・パインズ」 という曲です。ギトラーいわく、風光明媚なペンシルヴァニアの光景を綴ってみせた…とのことでありますが、いや、脂でギトギトのギトラー君も、なかなか詩的な表現をするものですな。テンポを落としたムーディな仕上がりの作品でありまして、コープランドはミュートを吹いておりますが、オブリガード担当に徹しておりますので、さほど耳障りではありません。 で、ソロ先発がトランペットということになるんですが、こういう小粋な曲で使われるミュートというのは悪くないですよね。前半はちょっぴりリー・モーガンを思わせるものがあって、最後のほうはやっぱりマイルスだったりして、流れるようにガーランドのアドリブへと引き継がれることになります。 で、このピアノのソロが実にリリカルで素晴らしいんですが、さっきから隣の家の犬が吠えまくっていて、何とも耳障りでありますな。通信販売で “無駄吠え防止装置・アボアストップ” を買って、夜中にこっそり首に巻いたろかい?…と思わずにはいられませんが、 “お客様からの声” として 「1日中つけてはいないので、つける時はつけるのをとてもいやがるようになった。そこで、ゲージの側に置いておいたら、置いておくだけでもいやなのか、吠えなくなった。」 などと書いてあって、それなりに効果はあるみたいですからね。犬に対する嫌がらせとしては最適ではないかという気がするんですが、演奏のほうはというと、ピアノに続いて情熱を感じさせるウッズのソロがあって、いつの間にかテーマに戻っていて、というか、もともとテーマとアドリブの区分があやふやな曲なのかも知れませんが、そんなこんなでエンディングを迎えて、おしまい。途中で犬さえ吠えなければ、実にしみじみとしたいい演奏だったと思います。

 で、アルバムの最後をパーカー・ナンバーで締めくくることになるんですが、 「スクラップル・フロム・ジ・アップル」 というのは個人的に嫌いではないので、ま、いいのではなかろうかと。タイトルにある “scrapple” というのは何なのかと思ったら、 “挽肉・野菜・オートミールなどの揚げ料理” なんだそうですが、アメリカ人は好きですからなぁ、オートミール。…って、いや、その場しのぎにとりあえず適当なコメントを書いておいたんですが、そもそもオートミールってどんなものでしたっけ? 挽肉と卵と細かく刻んだ野菜を混ぜて、長方形の型に入れてオーブンで焼いた料理? だとすれば、オートミールに挽肉と野菜を混ぜて油で揚げたりしたら、相当にワヤな食い物になっちゃうんじゃないかという気がするんですが、調べてみたらですね、まったく違っていました。オートミールというのは “オーツ麦を加熱してひき割りにするか、平たく押しつぶした食品” なんだそうで、それだったら挽肉と野菜を混ぜて油で揚げたりしても、まだ食えないこともないかも知れませんね。 どうやら僕はオートミールとミートローフをごっちゃにしていたようなんですが、ま、所詮は麦をひき割りにしたり、平たく押しつぶしただけの食品でありますので、オートミールそのものはさほど美味くもないような気はするんですけど。 で、 「アップル (←ニューヨークの事?) から来た挽肉・野菜・オートミールなどの揚げ料理」 はというと、軽快なピアノのイントロに続いて、2管のユニゾンでかなり速いテンポのテーマが演奏され、でもって、ソロ先発はガーランドでありますか。きびきびとしたタッチは日本のオートミールとも言える “きび団子” を彷彿させるものがあって、いや、このあたりの展開はかなり強引だとは思うんですが、続くフィル・ウッズのソロは、まるで鳴門の渦潮のようなスピード感ありますよね。パーカーを彷彿させる吹きっぷりには思わず気持ちがうずうずして、ついでに背中がむずむずして、焼魚にかける柑橘類がゆずゆずしたりもして、何だかワケが分からないので先に進みますが、続いてレイ・コープランドのソロがあって、最後の締めは as→ds→tp→ds の4バースでありますか。途中、ウッズ君がドラムスの番になっているのに未練たらしく吹き続けているところが注目ポイントなんですが、恐らく回数を数え間違えたか何かだと思うんですけどね。何とも頼りなげな吹きっぷりが (苦笑)。 …という感じなんですが、気を取り直してテーマに戻って、で、今日のところはこれでおしまい。

【総合評価】

 パーカー・ナンバーの印象が薄れてしまうほど、ウッズのオリジナル曲の出来がいいです。演奏自体もケレン味のない純正ビ・バップに仕上がっておりまして、いやあ、お薦めですな、こりゃ。


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