IN PERSON AT THE BLACKHAWK VOL.1 (COLUMBIA)

MILES DAVIS (1961/4/21)

IN PERSON AT THE BLACKHAWK VOL.1


【パーソネル】

MILES DAVIS (tp) HANK MOBLEY (ts) WYNTON KELLY (p)
PAUL CHAMBERS (b) JIMMY COBB (ds)

【収録曲】

WALKIN' / BYE BYE BLACKBIRD / ALL OF YOU
NO BLUES / BYE BYE / LOVE , I'VE FOUND YOU

【解説】

  秋ですなぁ。秋といえばサンマの季節です。前回サンマの話を書いたら、その日の夕食が謀ったようにサンマの塩焼きでありました。で、はらわたはですね、やっぱり苦かったです。いや、モノは試しと思って端っこのほうをちょっと舐めてみたんですが、駄目でした。見るからに腸やな。…としか思えない細い管のような部位もあって、見た目がグロいのもよくありません。今の技術を持ってすれば、種なしブドウとか、種なしスイカが出来るんだから、はらわた無しサンマというのは作れないのか?…と思ってしまうんですが、そんなことでまあ、頭と尻尾と骨とはらわたは廃棄処分することにして。 で、秋と言えばキノコの季節でもあります。臭い冷蔵庫にはキムコが欠かせないように、秋の食卓にキノコというのは無くてはならない存在でありまして、キムコとキノコときな粉。この3つは “秋の3大食材” と言われております。いや、キムコときな粉は秋でなくてもあるし、キムコというのは食材ではない気もするんですが、そんなことでまあ、今日はキノコのお話です。

 キノコの王様と言えば、やはりマツタケということになりましょう。 この時期、山あいの幹線道路を走っていると、 「朝採りマツタケ、1000円より この先500m」 などと書かれた手書きの看板を見かけることがあるんですが、どうもアレは胡散臭いですよね。いや、 “この先500m” の部分は看板に偽りはなくて、500mほど走るとちゃんとマツタケ屋が出店しているんですが、 “朝採り” の部分がどうも怪しいですよね。ま、5日ほど前の朝に北朝鮮で獲ったものでも “朝採り” には違いないので、別に不当表示というわけではないんですが、それにしても1000円という値段がどうも信用おけません。よくみると小さく “より” と書いてあるので、最多価格帯はもう少し上なのかも知れないし、量が分からないので安いとも高いとも判断はつかないんですが、それにしてもマツタケが1000円というのはちょっと安過ぎるような気がします。 “松茸” ではなくて “マツタケ” と片仮名で書いてあるところがどうも怪しくて、よく見たら “マツタケ” ではなくて、 “マシタケ” だったりするのかも知れません。何せクルマの中からチラっと見るだけなので、片仮名の “ツ” と “シ” の判別は非常に困難なんですが、中には間違いなく本物のマツタケであることをアピールするために松茸のイラストが書かれたものもあったりするんですけどね。ただ、あまりにも絵心が無さ過ぎて、あるいは逆に絵心があり過ぎてリアルになってしまって、一見すると卑猥な落書きにしか見えなくて、一瞬ドキっとしちゃったんだけど、ああん、なんだ、松茸かぁ。…と、ガッカリした経験のあるギャル系ドライバーも少なくないことでしょう。

 ということで、松茸のお話はおしまい。そもそも僕は松茸というのがそれほど好きではないんですよね。値段のわりに、さほどうまくないよね。…というのがその理由なんですが、5000円出して松茸を1本買うくらいなら、うまい棒を500本買います。うまい棒のほうが、うまいですもんね。ということで、続いてはキノコ界でもっともポピュラーな椎茸について考えてみたいと思うんですが、椎茸というのはですね、安いです。安いからわざわざ片仮名で書いて、パチモンの “ツイタケ” を売りつける必要もないんですが、どうして椎茸が安いのかというとですね、人工栽培出来るからなんですからね。椎茸の栽培というのはわりと簡単で、家庭用に “もっこり大将” という栽培キットまで売りに出されているほどなんですが、僕は椎茸があまり好きではありません。あまり好きではないから椎茸にはつい冷たく当たることになって、時には煮たり、焼いたりといった虐待を加えることもしばしばです。椎茸を虐げている。…といっていいかも知れませんが、僕は椎茸の中でもですね、干し椎茸というヤツが嫌いです。ナマのほうはまだいいんですよね。まだいいどころか、すき焼きの具に入っている生椎茸はむしろ好きな類なんですが、ナマで食べるとけっこう美味しい椎茸を、どうして干して干し椎茸なんかにしちゃうんでしょうか?干すと椎茸の持っているうまみが凝縮される。…なんてことを言いますが、僕には椎茸の “まずみ” が凝縮されちゃっているとしか思えなくて、椎茸を干した人に殺意すら覚えてしまいます。同様に僕は切干大根というヤツも好きではないんですが、こうして考えてみると、僕はどうも “乾物” というヤツにあまり好意を持っていないということが明らかになってきました。

 乾物というのはですね、乾いたものであります。鰹節・昆布・煮干・海苔・椎茸・桜海老・切干大根・高野豆腐・乾燥ワカメ…と、乾物にはいくつかの種類があるんですが、こうして見ると僕は乾物全体を嫌っているわけではないということが判明しました。この中で僕があまり好きではないのは干し椎茸と切干大根と煮干と桜海老の4品目であって、鰹節・昆布・海苔・高野豆腐の4品目に関しては、どちらかと言うと好きな部類に入ります。乾燥ワカメは、ま、別にどうだっていいので、僕の乾物に関する憎悪の念は、フィフティ・フィフティと言ったところでしょう。となると、わざわざ話を乾物全体にまで拡大することはないな。…という気もするので、話を椎茸に限定することにしますが、椎茸というのはですね、学名を “レンティヌス・エドデス” と言うんだそうです。江戸時代に盛んに栽培されるようになったので、エドデス。…って、そんな蛭から分泌される物質だから、ヒルジンみたいな安易な発想でいいのか?…と思わずにはいられませんが、1875年にイギリスの調査隊が東京で椎茸を手に入れ、持ち帰ったことからこのような学名が付いたんだそうです。イギリスの調査隊のセンスもあまり大したことありませんな。で、椎茸の栽培は前述の通り、江戸時代にお盛んになったんですが、当時の手法はシイとかナラとかクヌギの木にナタで切れ目を付けて、そこらへんに浮遊しているシイタケ菌の付着を待つという、大変に素朴なものだったようです。現在のような近代的な椎茸栽培法が確立したのは1943年になってからなんだそうで、その歴史は意外と浅いんですが、無論、天然の椎茸を使った干し椎茸というのは、もっと古くから作られていたようです。

 12世紀…というと、いい国作ろう鎌倉幕府より少し前でありましょうか。どうも、この頃から干されていたようなんですよね、椎茸というヤツは。どうして干されたのかというと、おそらく保存のためではないかと思うんですが、いや、我ながらつまらない答えではあるんですけどね。湯布院へ社員旅行にいった際、大浴場で上司である松茸部長の裸体を見て、ついうっかり、「松茸部長もアッチはほうはエノキダケなんですね。」…と口を滑らせて不興を買い、以来、干されるようになってしまった。せめて、 “シメジ” くらいにしておけばよかったのに!…というのは話としては面白いんですが、歴史的に見てまったく根拠がないですからね。真実を伝えることをテーゼとする “塩サバ通信” にウソは書けません。ちなみに、どうして社員旅行の行き先が湯布院なのかというと、あの辺りは椎茸の産地だよね?…と思ったからなんですが、地域限定ハローキティも、大分は “どんこバージョン” ですからね。 “どんこ” というのは椎茸の種類なんですが、丸型で肉厚なんだそうです。肉が薄い種類は “こうしん” といって、肉が厚くもなく薄くもなく中くらいのヤツは“どんこ”と“こうしん”の間を取って、 “こうこ” というんだそうです。別に “どんしん” でもいいような気はするんですが、ま、それはともかく、肉の厚さだけではなくて、傘の開き具合も種類によって違っているみたいですね。傘が開く前に採取すると “どんこ” 、7割ほど開いてから獲ると “こうこ” 、その中間が “こうしん” なんだそうで、となると種類の違いと言うよりも、採取する時期の問題なのかも知れませんね。

 で、生のナマナマしい椎茸を天日で10日ほど干してやるとですね、カピカピで “まずみ” の凝縮された干し椎茸になるんだそうですね。最近は熱風乾燥で1日で干し椎茸にしちゃうようですが、生椎茸と干し椎茸ではどちらが出荷量が多いのかと言うと、断然ナマのほうみたいなんですよね。生椎茸が生シイタケが8万トンで、干しシイタケは1万トン。僕のイメージとしては、生・干し、フィフティ・フィフティ?…という予想だったんですが、意外な大差があるんですな。ただ、この数字にはカラクリがありまして、同じ椎茸1本でも、生のものと、干されてカピカピになったものとでは重さが全然違いますからね。干し椎茸というのはお歳暮で届けられたりすると、手にした瞬間にソレと分かってガックリするほど軽いものであります。その時の情景を石川啄木は 「お歳暮の 干し椎茸の そのあまり 軽きに泣きて 三歩あゆまず」 …と詠じておりますが、干し椎茸は “貰ってもぜんぜん嬉しくないお歳暮ベスト10” の堂々第1位をこの10年ほどキープしておりますからね。お歳暮と言うのは気持ちのもんや。贅沢言うな、啄木!…と思わずにはいられませんが、ま、僕としても干し椎茸では、何も貰わないほうがマシや。…という気がするんですけど。

 椎茸のうまみ成分はですね、グアニル酸というものなんだそうです。昆布の出汁はグルタミン酸、鰹節はイノシン酸で、干し椎茸の戻し汁がグアニル酸。この3つを “日本3大うま酸” と呼ぶそうなんですが、ま、僕にとってはこのグアニル酸は “まずみ” の元凶であるわけですけどね。で、干し椎茸はどうして生椎茸よりもグアニル酸が多いのかというと、ただ単純に干されて成分が凝縮されたからとか、そういうことではないようで、えーと、生椎茸の細胞の核にはリボ核酸という物質があって、その外側には酵素があると。生の状態ではそのリボ核酸と酵素が隔絶されて安定な状態になるんだけど、一度干された椎茸をもう一度水で戻してやるとですね、リボ核酸と酵素が反応して、グアニル酸が誕生すると。 と同時に天日で乾燥された干し椎茸はですね、エルゴステリンという成分が太陽の光を浴びてビタミンDに変化して、栄養価も高くなっていると。もっとも熱風で乾燥した干し椎茸ではビタミンDのほうは期待出来ないんですが、こういうヤツは食べる前に1時間ほど日光に当ててやると、ビタミンDが10倍くらい増えるんだそうで。そうとは知らずに干し椎茸を日に晒さずに食べちゃったとしても、大丈夫。食べた後で人間のほうが日光浴をしてもそれなりに効果はあるんだそうです。ま、すっかり消化されて便として排出されちゃった後では手遅れでしょうが、そういうことなら生椎茸でも話は同じですよね。どうも干し椎茸のグアニル酸の味が苦手なんだよね。…という人は、生椎茸を食べて、その後で日焼けサロンに通えばビタミンDの問題はすべて解決でありますな。

 ということで、シイタケのネタが尽きたので話をマツタケに戻しますが、マツタケとよく似たキノコに “バカマツタケ” というのがあるそうです。何とも人を馬鹿にした名前でありますが、 “トリコローマ・バカマツタケ” という学名のついた立派なキノコなんだそうです。マツではなくてコナラなどの広葉樹林に出るそうなんですが、香りは本物のマツタケよりも強くて、味もそこそこだと言うのだから、まんざら馬鹿にしたものではありませんな。ところであのマツタケ特有の香りでありますが、あれは “マツタケオール” という成分によるものらしいですね。ただマツタケオールだけでマツタケ臭くなっているわけではなく、桂皮酸メチルというのも混ざっているそうです。どちらかというとマツタケオールはただカビ臭いだけで、桂皮酸メチルのほうがマツタケの香りだねっ♪…という感じが強いそうです。マツタケオール、駄目ぢゃん! で、一方、うまみ成分のほうはグアニル酸が主体のようなので、マツタケというのは要はシイタケがマツタケ臭くなったものだと思っておけば、それほど大きな間違いはないでしょう。 ちなみに、 “香りマツタケ、味シメジ” と言われるシメジにはグアニル酸のほかにグルタミン酸もバランスよく含まれているそうで、こちらは言うなれば昆布ダシのよく効いたシイタケといったところでしょうか。グニアル酸はグルタミン酸と組むとより旨味が増すと言われているので、 “味シメジ” というのは化学的に見ても納得のいく話だったわけですな。 で、グルタミン酸といえば “味の素” でありますが、値段のわりに、さほどうまくないよね。…という気がするマツタケも、味の素を振りかけてやればシメジ並みに美味しくなるかも知れません。この秋、マツタケを食べる機会があるようでしたら、是非一度お試し下さい。もっとも、そんなことするくらいなら、最初からシメジを食べればいいような気もするんですけど。 ということで、キノコの話はおしまい。

 ということで、今日はマイルス・デイビスです。マイルスといえばジャズ界の帝王、キノコでいうとマツタケみたいな存在であるわけですが、マツタケだけではさほどいい味が出るわけでなく、グルタミン酸系のパートナーと組んで初めてその真価が発揮されると言えるでしょう。例えば50年代のグル (←グルタミン酸系のパートナー) はコルトレーンでありまして、加入当初の彼は、不味いやんけ!…と、評価のほどは散々だったんですが、マイルスの持つグアニル酸がいい効果を及ぼして、トレーン自身も次第に旨味を増すようになりました。60年代のグルはウェイン・ショーターなんですが、個人的にはこの組み合わせが一番好きだったりします。で、今回紹介するのは 『イン・パーソン・アット・ザ・ブラックホーク・VOL.1』 というアルバムなんですが、正式名称はもっと長ったらしいです。 『フライデイ・ナイツ・マイルス・デイビス・イン・パーソン・アット・ザ・ブラックホーク・サンフランシスコ・ボリューム・ワン』 というのがフルネームなんですが、この名前は、長ったらしいやんけ!…というので今ひとつ評判が悪くて、わが国ではもっぱら 『ブラックホークのマイルス・デイビス・第1集』 という名前で知られております。で、これがどういう作品であるのかは原タイトルを見れば一目瞭然なんですが、金曜の夜にマイルス・デイビスがサンフランシスコにある “ブラックホーク” でイン・パーソンな第1集。ま、そういうものですよね。 “in person” を Excite翻訳 に掛けたら、 “自分で” という結果が得られたんですが、金曜の夜にマイルス・デイビスがサンフランシスコにある “ブラックホーク” で自分でな第1集…では意味がよくわからないので、 “人の中で” くらいの意味ではないかと思うんですけどね。人の中での演奏、すなわちライブの実況盤でありますな、

 このアルバムが録音された61年当時というのはマイルスにとっては微妙な年代であります。コルトレーンが退団しちゃって、でもまだショーターの加入には至らず、理想のグルを求めて試行錯誤を繰り返していたわけでありますが、まず手始めに組んでみたのがソニー・スティット…って、これはあまりにも両者のスタイルが違いすぎて、うまくいく筈がありません。言うなれば、焼き松茸にトマトケチャップとマヨネーズをぶっかけて食べてみるようなものですからね。もしかしたら、意外と美味しいかも?…と思って試してみたら、やっぱり駄目だったわけですが、で、続いて試してみたのが本作でテナーを吹いているハンク・モブレイでありますか。モブレイという人は単独で食べればそれなりに味のあるキャラなんですが、マイルスと組み合わせるというのはどんなもんですかね?例えていうなら “うざく” みたいなものでありまして、濃厚な味のウナギの蒲焼(=マイルス)と、さっぱりしたキュウリの酢の物(=モブレー)とのコンビネーションは、ただキュウリの酢の物にウナギの蒲焼を切ったのを入れただけやんけ!…といった感じで、あまり両者が仲良くしている感じがありません。僕はやっぱりウナギの蒲焼とは合わないや。…ということを自覚したキュウリの酢の物は、結局すぐに “うざく” から脱退することになるんですが、じゃ、この 『ブラックホーク』 は駄作なのかというと、一概にそうとも言い切れず、この作品には絶妙な隠し味が効いているんですよね。キーパーソンはドラマーのジミー・コブなんですが、マツタケの旨味成分のグアニル酸は昆布のグルタミン酸と組むと旨味が増すことが知られているので、昆布とマツタケのコンビはかなり期待が出来るのではないでしょうか? でもさっき、マイルスはウナギの蒲焼ということになってたじゃん。…とか、そういう細かい話は置いといて、では1曲目から聴いてみることに致しましょう。

 まず1曲目は 「ウォーキン」 でありますか。マイルスのライブ盤って、どれもこれも選曲がマンネリだよね。…という気がしないでもないんですが、これはマンネリなのではなくて、あくまでも “定番” と捉えるべきでありまして、これは、マツタケ料理といえばやっぱり “松茸ご飯” と “土瓶蒸し” だよね。…というのと同じことであります。ここでいきなり “松茸と棒ダラの香草風味五目あんかけスパゲティ” みたいなオリジナル創作料理を出されても、ワケがわかならいだけですからね。同じ “焼きマツタケ” という土俵の中で、いかに新しい味を出すことが出来るかということにマイルスは心血を注いできたわけでありますが、そんなことで、モブレー入り 「ウォーキン」 のライブ・バージョン。MC無しでいきなり演奏が始まるので、WCに行く暇もないんですが、かなり速いテンポでやっておりますな。テーマ部のアレンジはすごく適当で、しかもあっという間に終わってしまうので、モブレーなんかは、あれ?あれ?…と思っているうちにどんどん取り残されて、そしてそのままマイルスのソロへと突入してしまいます。ウイントン・ケリーも出遅れたクチでありましょうか。テーマでは何とか音を出しておりましたが、アドリブ・パートの出だしは意図的なのか、あるいはついて行けなかったのか、しばらくピアノレスになっておりまして、それにしてもここでのマイルスはなんだかふっ切れちゃっておりますな。このメンバーじゃ、グループ・エクスプレションなんて無理だしぃ。…と、端から “いちトランペッター” に徹した姿勢が、いつになくスリリングなソロを生んでおりまして、すりりんご好きの人にも大いに楽しめるのではなかろうかと。美味しいですよね、すりりんご。子供の頃、風邪をひいて熱を出すとよく食べさせて貰いましたが、コドモ心にも、なんか離乳食みたいやな。…という気がするところがちょっとネックだったんですけどね。でもまあ、大根を水あめに漬けたシルを飲まされるよりは遥かにマシでありまして、何でも 「喉にええんやでぇ。」 との事だったんですが、大根臭くて、今ひとつでしたからね、アレは。

 で、出遅れ気味だったケリー君も途中から次第に調子を取り戻して、マイルスとのインタープレイを感じさせる瞬間もあったりするんですが、ま、基本的にはいかにもライブらしい “吹きっぱなし” なところがいいのではないかと思います。 ということで、ソロ2番手はモブレーですか。ぼくはモブレーというキャラが決して嫌いではないんですが、かと言って熱烈に好きなわけでもなく、ま、普通やな。…と思っているわけなんですが、こうして聴いてみるとアレですよね。やっぱりマイルスとの相性はあまりよくないような気がします。とても気が合いしょうもないというか、愛妾にはしたくないタイプというか、とにかくまあ、モブレー独特のもさこい (←標準語?) トーンが鋭角的なマイルスのトランペットとは不釣り合いなんですよね。同じ “もさこい系” のケニー・ドーハムとだったら相性バッチリだと思うんですが、ま、そんなことで彼のソロは軽く聞き流しておいてと。 で、続くケリーのソロはですね、まずまずだと思いますね。 「ケリーは煙草に付ける火のような存在だ。ヤツがいないと俺はうまい煙草が吸えない。」 …と、何やらマイルスがうまい事を言ったと伝えられておりますが、ここでのソロは火付け役…と呼ぶにはやや迫力不足ではあるんですけどね。が、スインギーさと慇懃さは群を抜いて抜群でありまして、それにしても慇懃というのは難しい漢字でありますな。インキンというのは片仮名だから、とっても簡単なんですけどね。で、ピアノに続いてポール・チェンバースのアルコ・ソロが出てくるんですが、この部分は邪魔なだけなのでテープ編集してカットしちゃったほうがいいかも知れません。…と思っているとマイルスがいきなり登場して、熱いソロを吹き始めるんですが、この “いきなり感” を演出するには先程のベース・ソロが重要な意味を持ってくるわけなので、ま、必要悪だと思って受け入れるしかありません。 ということで、テーマに戻って、おしまい。

 2曲目は 「バイ・バイ・ブラックバード」 ですかい。略称 “バイ・ブラ” で知られる有名なスタンダードでありますが、いや、そんな略称はさほど有名ではないような気もするんですが、君はバイブレーターを使ったことがあるかな?僕はあります。かなり長くて振動部分だけで1mはあったでしょうか?生コンを打設する時に使うんですよね、バイブ。振動を与えて生コンを柔らかくして、型枠内の隅々まで行き届くようにするための機器なんですが、オカダ君がいつも安全日誌の使用機器の欄に “バイブラ” と書いているんですよね。あれ、正式名称は “バイブレーター” じゃないのか?…と、いつも思うんですが、温泉に行くとよくバイブラ・バスというのがあったりするので、それと混同しているのかも知れません。とまあそれはともかく、演奏のほうはアレです。ケリーによる非常にキュートな、それでいて、今ひとつ曲調に合ってない気がしないでもないイントロがあって、続いてマイルスがミュートでテーマを演奏しております。軽い吹きっぷりがなんとも耳に心地よいんですが、ケリーのコンピングも今度はちゃんとメロディにマッチしてますな。で、ソロ先発はマイルスであります。テーマからの移行も非常に滑らかでスムーズで円滑でいい感じで、やっぱりマイルスはミディアム・ファストくらいのテンポで歌モノをやらせると、うまいよね。…と思ってしまうんですが、続くモブレーのソロはですね、やっぱり今ひとつですよね。ま、吹いているうちに次第にマシにはなってくるんですが、やはりここでも彼のソロは軽く聞き流しておくことにしてと。 で、続くケリーのソロはですね、まずまずだと思いますね。 いかにも彼らしい軽快さは十分に発揮されているんですが、盛り上がっているか?…というと、それほどでもなくて、どうもケリーもモブレーもマイルスの前だと萎えて縮んで萎縮して、実力が発揮出来なくなっちゃうのかも知れませんね。なんだか身につまされますなぁ。それでも後半はちょっぴりブロック・コードを使うなどしてそれなりに頑張って、そんなこんなで、テーマに戻っておしまい。

 で、3曲目は 「オール・オブ・ユー」 ですな。キミのすべてが好きだ。でも白身は嫌いだ。 “からざ” はもっと嫌いだ。…という人は少なくないと思うんですが、どうにかならないものですかね、生卵の “からざ” 。何だかこう、鼻水を啜っているみたいな感じがして、どうにも好きになれんのですが、私のカラダだけが目当てだったのね!…という話はあるとしても、卵の “からざ” だけが目当てだったのね!…というのはありえないと思います。ニワトリはもっと企業努力して、 “からざ” のない卵を生めるように頑張って欲しいところでありますが、演奏のほうはですね、ま、相変わらずですな。マイルスがテーマを吹いて、そのままアドリブ・パートに入って、で、ソロ2番手がモブレーなんですが、オリジナルのLPでは事もあろうにこのモブレーのソロをテープ編集して、ばっさりとカットしちゃったんだそうでありまして。何てことをするんでしょうか。いくらなんでもそれはあまりにも酷すぎる仕打ちでありまして、いくらなんでもイクラちゃんはもう少し言葉数が多くてもいいような気がするんですよね。いつまでたっても 「バブー」 と 「チャーン」 と 「ハーイ」 だけで、果たして真っ当な社会生活が送れるのか?…と、他人事ながら心配になってしまいますが、せめて 「ママ」 と 「マンマ」 と 「パイパイ」 くらいはマスターしておいたほうがいいと思うんですけどね。ま、イクラちゃんが言葉の問題でさほど社会生活に支障をきたしているようには見えないので、他人がとやかく言うことはないのかも知れませんが、一方、いくらなんでも酷すぎる仕打ちを受けたモブレーのほうもですね、CD化に際して無事にソロ・パートまで収録されることになって何よりでありますが、ま、演奏を聴いてみた限り、別にカットされたままでもよかったかな?…という気がしないでもないんですけどね。

 ということで、4曲目です。 「ノー・ブルース」 はマイルスのオリジナルでありますな。ブルースで無いのではなく、 「ノー」 という名前のブルースなんだと思われますが、ブルースとかズロースとかそういったものは、やっぱりあったほうがいいと思うんですよね。僕が子供の頃に “ノーパン喫茶” というのが大流行して、オトナになったら絶対に行ってやるぅ!…と思っていたんですが、いざオトナになってみたら “ノーパン喫茶” のほうが無くなってしまって、愕然としてしまいました。が、オトナになって冷静に考えてみると、やっぱり喫茶店のウェイトレスはパンツを履いているほうがいいと思うんですよね。パンツというのは脱がすためにあるんや!…と達観出来るまで、僕はオトナになったわけでありまして、だからノーパン喫茶ではなくて、 “パンツ脱がし喫茶” とかがあれば、是非とも行ってみたいような気はするんですけどね。で、 「ノー・ブルース」 でありますが、これはアレですよね。もの凄くシンプルな曲であります。ここにきて初めてモブレーがきちんとテーマ部に参加することを許可されたようなんですが、マイルスとモブレー&ケリーの連合軍とが掛け合いで短いテーマを演奏した後、すぐさまマイルスのソロになって、ま、このあたりはいつも通りのパターンですよね。で、その後、ケリーのピアノ・ソロになってしまったので、モブレーはテーマで吹かせてもらった分、ついにソロ・スペースを削られちゃった模様でありますが、いや、さんざん馬鹿にしておいて今さら言うのもなんですが、モブレーのソロがないのはちょっと寂しいですよね。あんな男でも刺し身のツマとか、ミックスフライ定食の皿の端のパセリくらいの役には立っていたんだね。…ということを改めて思い知らされましたが、改めて曲の頭から聴き直してみるとケリーのソロの出だしがやや不自然なので、 モブレーのソロはテープ編集で切られちゃったのかも知れません。さぞや無念なことでありましょう。でもまあ、僕はパセリを残すタイプなので、それはそれで別によかったような気もするんですけどね。で、ピアノの後で再びマイルスが登場してドラムスとの掛け合いを披露するんですが、根が地味なジミー・コブが、なかなかいい働きをしておりまして、そういえばマツタケは昆布と組むといい味を出すんだっけ?…ということを今頃になって思い出したところでテーマが出てきて、で、演奏のほうは切れ目なく5曲目の 「バイバイ」 へと続いていきます。 「バイ・バイ・ブラックバード」 から黒い鳥が逃げたもの…ではなくて、ライブのエンディング・テーマのようなものなんですが、チェンバースのピチカート・ソロがフィーチャーされたり、ケリーが軽快なピアノを披露したり、昆布クンが出たりと、短いながらもメンバー全員が一丸となった、いかにもライブらしいリラックス・ムードが横溢していて、いいと思います。ま、モブレーはほとんど出番がないんですけど。

 で、ラストの 「ラブ・アイブ・フォンド・ユー」 はほとんどオマケのようなものでありまして、ケリーが無伴奏でたわむれにピアノを弾いているだけなんですが、これが何とも言えずにいいムードなんですよね。何だか、 “人の優しさ” というのを教えられたような気分になります。今日の僕、ちょっとモブレー君につらく当たり過ぎたよな。…と反省する気持ちも芽生えたりして、彼が学校から帰った後に、そっと机の引き出しの中にネズミの死骸でも入れておこうと思う次第なのでありました。おしまい。

【総合評価】

 いやあ、マイルス・フリー・ブローイング時代でありますな。実にもう、自由に吹いちゃっております。評判のよろしくないモブレー君も、ま、それなりには頑張っていると思うし、でもまあ、いくら頑張っても駄目だったような気はするんですが、あ、もし本作がお気に召したようでありましたら、 『土曜日の夜の第2集』 のほうもよろしくです。ちなみにこちらは 「ウェル・ユー・ニードント」 「フラン・ダンス」 「ソー・ホワット」 「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」 「オレオ」 「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」 「ネオ」 という選曲ですな。第1集よりもモード系の曲が多くて、モブレー君の去就がちょっぴり心配だったりするんですけど。


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