伊吹山へ行ってきました。伊吹山というのは岐阜と滋賀の県境にあって、滋賀県ではいちばん高い山ということになっていますが、標高 1377mだからあまり大したことはありませんな。高さだからいいようなものの、そのまま寝かせて直線距離にしてしまえば 1377mなんてのはたかだか400mトラックを 3.5周弱ですもんね。伊勢湾岸道の揖斐川橋が 1397mだから、それより 20mも短いです。とまあ、あまり大したヤツではないんですが、地元ではそこそこ有名でありまして、冬になればこの山から “伊吹おろし” というのが吹いてくるし、山頂近くまでドライブウェイが通っているから “関ケ原鍾乳洞” や “メナードランド” とセットにして子供会の旅行で行くことだってあるし、桑名からだと2番目くらいに近いスキー場もあったりします。いちばん近いスキー場は “御在所” なんですが、ここはコースが2本しかなくて、しかも長さが 250mと 180m。 地味ゲレンデ・フェチの僕としてもさすがにまったくソソられるものがなくて、未だに滑ったことがないんですが、そこへいくと伊吹山のほうは最長滑走距離が 3500mもあって、近いわりにはなかなかビッグなゲレンデであると評価することが出来ましょう。 もっともここが全面滑走可能になるのはシーズン中に5日もあればいいところで、つまりまあ、名古屋市内で10センチも雪が積ってしまっただぎゃ。…みたいな特別な状況にならない限り、駄目なんですけどね。そういう僥倖に恵まれない限り、ま、人工雪の 300mのコースを1本滑れればいいところかな?…といった感じで、あまりにもしょぼいので昨シーズン限りで営業を打ち切るという噂も耳に入って来ております。ま、個人的には “奥伊吹” のほうが無事なら、いっかぁ。…という気もするんですが、最悪、 “国境” まで足を延ばすという手もありますしね。
とまあ、ウインターシーズンは今ひとつ冴えない伊吹山でありますが、夏は大丈夫です。子供会の旅行で行った時もですね、たいへん勉強になったことを覚えております。お昼に山頂でおにぎりを食べて、食後のデザートには梨を食べたんですが、おかんに 「 “二十世紀” やで、美味しいでー。」 と言われて、そっか!これは “二十世紀” という名前の梨なのか!…ということが分かって、とっても勉強になりました。 伊吹山とはあまり関係のない話のような気もするんですが、それ以外のことはまったく何の記憶もないんですよね。関ケ原鍾乳洞の中に白いサカナがいたよね。…とか、関ケ原メナードランドではエアーホッケーをしたよね。…とか、他の観光地の思い出ばかりで。 そんなことではいけない!…と一念発起して、今から7〜8年ほど前に自力で伊吹山に上ったことがあるんですが、いや、天気がよければ琵琶湖がよく見えるという話を聞いて、ちょっと興味を持ったからなんですけどね。結局その日はちっとも天気がよくなくて、琵琶湖なんぞはまったく見えなくて不本意な結果に終わってしまったんですが、いや、ドライブウェイ終点の駐車場から山頂まではちょっと歩かなければならなかったんですね。ちっとも知りませんでした。西・中央・東と3つの遊歩道があって、山頂までは片道30分から1時間弱といった感じなんですが、子供会の旅行で行った時にはそんなに歩いた憶えはなかったんですけどね。あるいは歩くのが面倒だった親が純情な子供をだまくらかして、駐車場のところで 「ここが山頂やでー。」 などと適当なことを言って、その辺でおにぎりや二十世紀梨を食べただけなのかも知れませんけどね。
そんなことでまあ、伊吹山に行ってきました。その日もちっとも天気はよくなくて、琵琶湖のほうはまったく期待が持てないんですが、今回の主目的はシュモクザメとお花畑なので、ちょっと曇っているくらいのことは、ま、いいとして。 東館山でニッコウキスゲの群落に目を奪われて以来、僕はにわかに山野草フェチとなって、山と渓谷社 『ヤマケイポケットガイド3・高山の花』 まで買ってしまったんですが、それだけでは飽き足らずに、今度は成美堂出版 『花色でひける・山野草の名前がわかる事典・自然の野山や高山に咲く山野草523種』 というのを買いました。ヤマケイのほうは240種しか載ってなくて、今ひとつ物足りなかったんですよね。 で、伊吹山というのはお花がたくさん咲いていることでマニアの間では有名なんだそうで、ここでしか見られない、いわゆる固有種というのもたくさんあるんだそうです。この山で初めて発見されて、 “イブキ○○○○” と命名された植物も少なくないそうで、そういえばイブキタモンヤグラとか、イブキマイカグラといった名前をどこかで目にしたことがありますな。…と思って調べてみたところ、それは草花ではなくて競走馬の名前であることが判明しましたが、お花のほうはと言うと、イブキトラノオとか、イブキタンポポとか、イブキハタザオとか。
そんなことでまあ、伊吹山に行ってみることにしたんですが、山野草フェチというのは山頭火フェチよりも数が多いようで、名神・関ケ原ICあたりから渋滞に巻き込まれてしまいました。ま、ドライブウェイに入ってからはしばらく順調だったんですが、何でもいいけどこの道路、ただの道路のくせしてちっとも無料 (ただ) ではなくて、3000円も取られちゃうんですね。ぼったくりもいいところです。片道17キロで 3000円。 ま、帰りは無料…というか、往復の通行料が 3000円ということなので、キロ当たりの単価は 88円23銭くらいで割り算しちゃえば意外とリーズナブルな気もするんですが、それでも 3000円も取られるというのは何だか癪なので、片道 1200円、往復で 2400円、それに駐車場代で 600円取られて、ま、そんなものかぁ。一応は山頂の近くまで行けるんだしぃ。…と考えれば、少しは怒りも薄まるのではなかろうかと。 それだけ払っても眺めさえよければそれなりに納得もいくんですが、この日はまったく天気がよくなくて、おまけにラスト3キロくらいで渋滞にハマってまったく前に進まなくなって、いや、散々でありましたな。たかが伊吹山ごときに、こんなに人が来るなって!…と思わずにはいられませんが、遊歩道も凄い人だかりでゆっくりお花の写真を撮ってる暇もありません。おまけに凄い霧で、琵琶湖どころか3メートル先が見えんっ! おかげで、行きは “西” 、帰りは “東” を歩くつもりだったのが、間違えて帰りに “中央遊歩道” に迷い込んでしまいました。ま、遭難しなかっただけマシ?…とでも思って諦めるしかありませんが、ということで、前回に引き続いて “山野草お写真♪” を紹介したいと思います。何となく全体的にボケたような感じになっておりますが、あくまでも濃霧のせいでありますので、僕の責任ではありません。
これはアレですよね。 “ラベンダー” です。いや、ちょっと違うんちゃう?…という気がしないでもないんですが、僕の近くにいたおじさんがですね、ツレのおばさんに 「これ、何という花やっけ?」 と聞かれて、 「ラベンダーやん。」 と答えておりましたので、まず間違いないと思います。 間違いないとは思いますが、これはどう考えてもラベンダーではないですよね。ではいったい何なのかというと、 “ネコジャラシの青紫ばーじょん” ではないか?…と言うのが僕の考えなんですが、念のために 『花色でひける・山野草の名前がわかる事典・自然の野山や高山に咲く山野草523種』 ( ← 以下 「花523」 と略す ) で調べてみたところ、ぜんぜん違っておりました。おじさんも僕も大ハズレでした。 “クガイソウ” というのが正解だったんですね。いや、これがクガイという草だったとは、意外です。名前の由来は、葉っぱが何層にも付いて、だいたい9段くらいになるから “九蓋草” 。…ということなんですが、何だかこう、 “ク” がいそうな感じはするものの、あまりお洒落なネーミングではありませんよね。よく目立つ花ではなくて、どうでもいい葉っぱのほうで名前を付けたその意図がよく分からんのですが、確かこういう形の花のことを “トラノオ” と言うんぢゃなかったんだっけ?…と思って、もしかしてこれが噂の “イブキトラノオ” か?…と思ったら、ぜんぜん違っていたので、ガックリしました。クガイソウというのは日本中どこでも見られる、ごく平凡な植物のようでありますな。ちなみにイブキトラノオというのは淡紅色の花を付けるんだそうで、色的には “ルリトラノオ” のほうに似ているかも知れません。見分けるポイントは葉っぱの付き方にあるんですが、えーと、ルリトラノオは葉っぱが対生なんだけど、クガイソウは輪生であると。 葉の付き方にいちいち名前があるというのはつい2週間ほど前まで知らなかったんですが、えーと、輪生というのは3〜8枚の葉が輪になって生えている状態、対生というのは葉が1つの節から2枚出る付き方でありますか。その他に互生とかいうのもあって、ま、詳しくは ここ を見て貰うとして。
えーと、これはですね、 “シシウド” ですね。もう 「花523」 ってば、本当に山野草の名前が分かって便利なんですが、もしかしたら間違えて分かったつもりになっているだけなのかも知れませんけどね。とにかくまあ全体的に小振りなものが多い山野草の中にあって、このシシウドは非常にデカいので、よく目立ちます。遠めに見る限りは、何だか白いカタマリがあるな。…といった感じで、決してラブリーでもキュートでもないんですが、ま、所詮はウドですからね。立川の名産らしいんですが、酢味噌で和えてみたところで、所詮はウドやな。…といった感じでさほど美味しくもなくて、そもそもウドというのがどういう植物なのかまったく分からなくて、ウドの大木のウドと、酢味噌で和えるウドというのは同じものなのか?…という疑問もあったりして、いや、こんな花の咲く植物だったとはちっとも知りませんでした。 で、遠目に見る限りはただの白いカタマリでも、アップで見るとけっこう複雑な花の付きかたをしてますよね。 “白い花火” などと表現されているのを見たことがありますが、確かにそんな感じですよね。 で、これ、ウドという名前は付いておりますが苦くて食べられないんだそうで、でもまあ、イノシシだったらきっと食べるよねっ♪…という、イノシシ差別この上ない勝手な思い込みからこの名前がついたんだそうで、いや、そうではなくてイノシシのように勇壮だから、シシウドっ!…という説もあって、どちらが正しいのかよくわからんのですが、シシウドが好きなエラの張った俳優、その名はシシウド・ジョー。
…って、あまりにも投げやりなオチでありましたが、続いてのお花の名前はですね、僕の近くにいたおばさんの発言によると、「 ツリガネソウっ!…か、 ホタルブクロかの、どっちか。」 なんだそうでありまして、調べてみたらですね、見事に正解でありました。おばさん、やるぅ〜。 ラベンダーのおっさんとは大違いでありまして、概してやはりおばさんのほうが山野草の分野には強いみたいですね。 で、ツリガネソウとホタルブクロ、果たしてどちらが正解なのかと言うとですね、どちらも正解です。 “ホタルブクロ” のことを “ツリガネソウ” と呼んでいる地域もあるんだそうで、この2つの名前を口にしたおばさんの解答は大正解であると言えるでしょう。おばさん、やるぅ〜。…というのはもういいとして、それにしてもこのホタルブクロというのは何ともヘンな名前ですよね。この花の中に蛍を入れて遊ぶから、ホタルブクロっ!…というのが名前の由来なんだそうですが、風流なんだか、そうでもないんだか、微妙なネーミングではありますよね。でもまあ、 “ゲロ袋” よりはマシ?…という気がしないでもなくて、そもそもこの花は斜め下を向いて咲いているので中にゲロを吐いてもそのまま流れ出てきて、役に立たないような気もしますしね。 で、このホタルブクロには普通のホタルブクロとヤマホタルブクロの2種類があるそうですが、見分けるポイントは “萼片” にあるんだそうです。いや、いきなり萼片と言われても植物に詳しくない僕は愕然とするしかないんですが、花の根元のほうに付いている花びらを地味にしたようなヤツ。あれが萼片なんだそうですね。で、ホタルブクロには萼片の間に反り返った付属体があるんですが、ヤマホタルブクロには付属体が無いんだそうです。そんな細かいことはどうでもエエやん。…という気もするんですが、僕の撮った写真をよく観察してみたところ萼片に付属体のようなものは見当たらなかったので、…というか、山に生えていたんだからきっとヤマホタルブクロなんだろうということで、これはホタルブクロではなくてヤマホタルブクロのほうだと思うんですよね。いや、きっとそうに違いありません。
この時期の伊吹山でクガイソウやシシウドと並んでよく目立っていたのが、この桃色系の小さな花のカタマリでありまして、濃い霧の中、まるでピンクのじゅうたんを敷き詰めたかのような光景は、ああん、とってもラブリーなのぉ♪…でありました。 が、生憎、この花を撮影している時に僕の周囲にはおじさんもおばさんもおりませんで、自分の力で花の名前を調べなければならんのですが、これはえーと…、 “シモツケソウ” ですかね? 自信がない場合は “シモツケソウ 伊吹山 7月” で検索してみて、そこそこヒットがあれば正解であると判断してもいいよね?…と思っているんですが、えーと、ま、そこそこ大丈夫なのではなかろうかと。少なくとも “シモネタ好き 伊吹山 7月” では該当するページが見つからなかったので、それよりは正解の可能性が高いと思います。 で、シモツケソウの名前の由来はですね、古い日本の地名で “上野” とか “下野” というのがありますよね。上のほうにあるのが上野で、下のほうにあるのが下野なんですが、上野というのは “うえの” ではなくて “こうづけ” と読むこともあります。吉良上野介は “よししょう・うえのすけ” ではなくて “きら・こうづけのすけ” となるんですが、それが “下野” となると “しもつけ” ということになるそうです。その下野 (←今の栃木県) のあたりでよく見られる木に “シモツケ” というのがあるんですが、そのシモツケによく似た花を咲かせる草だから、“下野草”。 そんな安易なネーミングが許されてもいいのか?…という気がしないでもないんですが、いつも便所いる虫だから、ベンジョムシ。…といった例もあることなので、ま、別にいいような気もするんですけどね。
さて、ここでクエスチョンです。この花は何と言う名前でしょう?…って、そんなのは簡単ですよね。クガイソウ…と言いかけて、いや、ひっかけ問題でルリトラノオというのもあり得るよな?…と思って葉の付きかたをチェックした人もいるかも知れませんが、あるいは意表をついてラベンダーだったりとか。…って、いや、青紫のゲジゲジのほうではなくて、黄色いほうの花の名前を聞いているんですが、これはえーと…、 “キリンソウ” ですかね? 麒麟は黄色い。この花も黄色い。だから麒麟草。…というのと、この花は黄色い。だから黄輪草。…という、2つの説があるようですが、どちらも同じくらい説得力に欠けるところがあって、でも麒麟って黄色いだけではなくて黒い模様もあるよな?…という気もするので、ただ黄色いだけのこの花は麒麟草ではなくて、黄輪草だよな。…と僕は思うんですけどね。ただ、確かに花は黄色いんだけど別に輪になっているようにも見えないので、黄輪草という言い方にも若干の疑問があるんですが、いつも便所いるわけでもないのに、ベン・ジョンソン。…といった例もあることなので、ま、別にいいような気もするんですけどね。
この花の名前を判断するに当たってはですね、強い味方がついております。そうです。おばさんです。ホタルブクロ、もしくはツリガネソウを見事に言い当てたおばさんと同一おばさんだったのかどうかはサダカではないんですが、この花を見たおばさんはですね、 「 “ナデシコ” みたいなの。」 …と言っておりました。 が、僕はですね、このおばさんの説には強い疑念を抱いております。それは何もそのおばさんが、ナデシコって顔か?…と言いたくなるようなルックスだったからとか、そういうことではなくて、僕がこの花を見たのが7月だったからなんですけどね。ナデシコというのは春に咲くものですからね。園芸関係にはまったく詳しくない僕がどうしてそう断言出来るのかと言うと、その昔、新井薫子という歌手が 「大和撫子“春”咲きます」 という歌を歌っていたからなんですが、見ず知らずのおばさんと新井薫子、どちらの言うことを信じるかといわれれば、僕は断然、カオルコ派ですからね。春に咲くヤマトナデシコが7月になって咲いている筈がなく、よっておばさんの言ってることはまったくの間違いなんですが、ではこれは何という花なのかと思って調べてみたら、やっぱりナデシコだったんですけどね。正確に言うと “カワラナデシコ” ということになるようですが、ナデシコ、もしくはヤマトナデシコというのも要はカワラナデシコの別名であるようなので、 「 “ナデシコ” みたいなの。」 …というおばさんの発言は、まったくもって正鵠を得ていたことになります。 調べてみたらナデシコというのは夏から秋にかけて咲くものなんだそうで、秋の七草にも入っているくらいなんですが、いや、疑ったりしてどうもすいませんでした、見ず知らずのおばさん。 で、そうなってくると許せないのがカオルコでありまして、 「大和撫子“春”咲きます」 って、 「新井薫子“嘘”付きます」 もいいとこやん!…と思わずにはいられません。
とまあそんなことで、今日のところはおしまい。
ということで、今日はマッコイ・タイナーなんですが、いや、さすがに僕も前半のオチがこの程度でいいのか?…というのが気になったので、何かネタになる花が咲いているところがないかと思って探してみたんですけどね。するとですね、四日市に 御池沼沢 というのがあることが判明しました。いや、うちからクルマで30分くらいのところにこんな湿原があるとはちっとも知りませんでした。しかも国指定天然記念物というんだから、かなり期待が持てますよね。おまけに 場所 を見るとメリノール女子学園のすぐ近くのようでありまして、うまくいけば双眼鏡でお花を観察しているふりをして、そこらを歩いている女子高生を覗くことだって出来るかも知れません。大きな期待を持って早速行ってみることにしたんですが、いやあ、さっぱりでしたな。単なる周囲をフェンスに囲まれた荒地みたいな感じでありまして、お花なんぞ、まったくと言っていいほど咲いてはおりませんで。期待が大きかっただけに落胆の度合いも半端でないんですが、とりあえず一輪だけ咲いていた “アザミ” の写真を掲載して本題に入ることに致しましょう。
アザミというのは葉にトゲトゲがあって、綺麗な花だと思って手を伸ばすとチクっと刺さって、欺かれるから “アザミ” なんだそうですね。顔は可愛いけど性格はトゲトゲしい。そんなメイドにぴったりの名前でありますが、同じように葉の裏や茎にトゲトゲがある植物に “ママコノシリヌグイ” というのがあって、こちらのほうはトゲトゲのある茎で継子の尻拭いをすると、とっても楽しいのぉ♪…という継母の継子イジメ的発想から名前が付いたんだそうで。ま、継母が継子を苛めるというのはままある話なので、その気持ちもわからんではないんですが、ヤラれたほうは、継子痛いなー。…といったところでありましょう。ということでマッコイ・タイナーの 『テンダー・モーメンツ』 でありますが、この作品はですね、大仕掛けです。トランペット、トロンボーン、アルトサックス、テナーサックスのほかに、フレンチホルンとチューバまで加えて、総勢えーと…、9人編成でありますか。地味楽器担当の2人を除けばリー・モーガンを始め、なかなか興味深いメンツが顔を揃えておりますが、とにかくまあ、1曲目から聴いて参りましょう。まずはえーと、 「モード・トゥ・ジョン」 ですね。タイトルからして恐らく、半年ほど前に昇天してしまったジョン・コルトレーンに捧げられたものなんでしょうが、個人的にはあまり好きではないんですよね。いや、トレーンや、この曲のことがあまり好きではないのではなくて、ササゲの煮たのがあまり好きではないんですが、捧げ…と書いてふと、ササゲの煮たのって、あまり美味しくないよな。…と思ってしまったんですけどね。ササゲの胡麻和えというのはけっこう好きで、このマッコイの書いた曲もなかなかいいと思うんですが、これはアレですよね。モード曲ですね。チューバ&フレンチの地味地味コンビをバックに4管フロントがアンサンブルを奏でる導入部が何とも荘厳で、テーマ部のアレンジも大編成をうまく活かした、いかした達郎的な仕上がりでありまして、その分厚い音の固まりを突き抜けて、すっとマッコイのピアノ・ソロが出てくるところもなかなか洒落た演出ですよね。ピアノ・ソロの途中でホーン・アンサンブルが絡んで来る場面もありますが、いかにもマッコイなプレイを堪能することが出来て、彼のファンには堪えられないところであります。その後、モーガン、スポールディング、ベニー・モウピンと、各自が持ち味を十分に発揮したソロが続いて、いや、スポールディング君の持ち味はちょっぴり意味不明なところがあるので、別に持ち味を十分に発揮してくれなくてもよかったんですが、モウピン君はいいですよね。ハービーの 「ヘッド・ハンターズ」 に入っている見た目がさっぱりしない人。…といったイメージしかなかったんですが、まともなジャズだって出来る人だったんですな。ということで、重厚ハモりのテーマに戻って、おしまい。
2曲目は 「マン・フロム・タンガニーカ」 という曲です。タンガニーカから来た男。…というタイトルに相応しく、とってもアフリカンで痰蟹烏賊な感じの曲なんですが、サウンド的にはジェームス・スポールディングがフルートを吹いているのがポイントですよね。1曲目とはまた違ったハーモニーとなっておりまして、マルチで楽器が出来るという点では評価してもいいと思うんですよね、ジェー・スポくん。 テーマ部はとても言葉では表現出来ないほど複雑に各楽器が絡み合っておりまして、とってもアフリカン乱交なムードなんですが、ソロ先発は1曲目と同様マッコイでありまして、重厚なアンサンブルとシンプルなピアノとの対比が、堆肥好きの人にはたまらんところでありましょう。マッコイのソロは一聴してそれと分かる個性的なものでありまして、ま、はっきり言ってしまえばマンネリで飽きられやすい一面もあるんですが、2曲目くらいの時点ではまだ新鮮で楽しめるものとなっております。 で、ソロ2番手はジェー・スポくんのフルートですか。アルト吹かせるよりは癖がなくて聴きやすいですよね。で、3番手のジュリアン・プリースターのソロがなかなかの聴き物でありまして、…とか言ってるうちにリー・モーガンが出てきましたが、全体的に重厚ムードのソロが続いた後だけに、この軽さは一服の清涼剤でありますな。で、その後、ジョー・チェンバースの重厚なドラム・ソロがフィーチャーされて、テーマに戻って、おしまい。 で、3曲目は 「ユートピア」 です。ユートピアと言えばアレですよね。 “ユートピア宝” ですよね。…って、んなもん、東海地区在住で、かつてCBCラジオで 『唄啓のこれは得だすお聞きやす』 を聞いていた人にしかわからんような気もするんですが、ユートピア宝は 「ブス、ブス、ブス。」 の “佛庄総本店” と並ぶ人気ネタでしたからね。 これはとくだす…というので僕はてっきり、誰かが “特ダシ” する番組なのか?…と思って楽しみにしていたんですが全然違っていて、いや、もしそうだとしてもラジオだからあまり意味はないし、もしテレビだったとしても特ダシするのが京唄子ではまったくソソられるものがないんですが、このマッコイの 「ユートピア」 はアレです。トリオ演奏で始まっております。重厚なアンサンブルも3曲続くとちょっぴり胃もたれするので、これは賢明な措置だったと思いますが、ま、トリオなのはイントロの部分だけで、すぐにホーンが入って来ちゃうのであまり意味はないんですけどね。で、この曲は何だか今ひとつ捕えどころがなくて、全体を通じて、中だるみといった位置付けかな。…という気がしないでもないんですが、テーマの後ですぐマッコイのソロになるのもそろそろ飽きて来ましたしね。で、2番手のモウピンも何だか捕え所のないフレーズの羅列に終始しているし、その傾向は続くモーガンでも修復しきれずに、ハービー・ルイスのベース・ソロも地味なまま終わってしまって、ま、全部で6曲もあればひとつくらいはハズレがあるのが常であるわけでして。
さ、4曲目の 「ユートピア」 で汚名返上…って、あ、3曲目のタイトルを間違っておりましたな。 「ザ・ハイ・プリエスト」 というのを抜かしてしまいましたが、いや、どうりで今ひとつ 「ユートピア」 らしくない曲だという気がしたんですよね。が、あれだけ “ユートピア宝” の話を書いてしまった以上、今さら書き直すのも面倒なのでそのまま続けますが、4曲目は 「ユートピア」 という曲です。ユートピアと言えばアレですよね。 “ユートピア宝” ですよね。で、この曲はアレです。どこかで聴いたことがあるような曲です。マッコイノの他のアルバムに入っていたのか、面倒なので調べるようなことはしませんが、モーダルでいかにもマッコイらしい曲だと思います。ピアノと重厚アンサンブルの絡みでテーマが演奏された後、スポールディングが登場するんですが、テーマではフルートを吹いていたのにソロではアルトに持ち替えているんですな。裏切られた。…という思いがしないでもないんですが、ま、個人的にはこの人も変態アルトもさほど嫌いではないので、別にいいんですけどね。で、続くモーガンは相も変わらず元気一杯で、で、3番手のモウピン君は何だかスポールディングのフレーズをテナーで吹いているようにも聞こえて、で、続くマッコイのソロはマンネリではあるんですが、これは一種の安心感にもつながって、途中、ホーンのアンサンブルが被さってくるあたりはなかなかいい感じだと思います。ま、全体的に無難な出来ではありますな。 ということで5曲目です。 「オール・マイ・イエスタデイズ」 。 “すべて私の昨日” ですかね? 曲名にややボケの要素が不足しているような気もするんですが、どうせなら、 「オール・マイ・オーマイスパゲティ」 …って、いや、つまらないボケなら書かないほうがよっぽどかマシなんですけどね。 で、この曲はアレです。何となく 「君が代」 を彷彿させる重厚なバラードでありまして、ま、はっきり言ってしまえばかなり退屈な演奏なんですが、そう言ってしまっては身も蓋も無いので言葉を変えると、えーと、重厚なバラードです。とっても重くて厚いサウンドが胸にズーンと響くというか、あ、それはそうと高校野球の宮崎代表・聖心ウルスラ学園、負けちゃいましたね。何となくブルセラ・マニアの心を揺さぶる名前なので密かに応援していたんですが、残念です。互いに哀しみを分かち合いたいと思いますので、もしこれを読んでいる聖ウル学園の女子生徒がおられましたら、メールを下さいね。
ということで、ラストです。 「リー・プラス・スリー」 。スインギーなピアノ・トリオ演奏がしばらく続いて、今までない雰囲気になっているところがよろしいですな。さすがにマッコイも満更アホではなかったようで、アンサンブルの偏重って、ちょっと飽きるよね?…ということは重々承知していたようであります。で、この曲、テーマらしいテーマがなくて、全編がアドリブ・ソロといった感じなんだと思いますが、マッコイに続いてはリー・モーガンがかなりアウトな感じのソロを披露しておりまして、なるほど。これは “リー・モーガン+リズムの3人” という演奏だったわけですな。 で、面白いのか?…と言われれば、ま、さほどでもないな。…というのが正直なところなんですが、エンディングも何だか中途半端な感じで、達しないまま終わってしまったような不満がないわけでもないんですが、ま、6発目ですからね。最後にはそういうことにもなっちゃうでしょう。ということで、今日のところはおしまい。
【総合評価】
“濃い系” が好きなら、ま、それなりに楽しめる作品でしょう。ま、マッコイなんて 『バラードとブルースの夜』 とか以外、“濃い系” が好きな人以外は手を出さんのでしょうけど。