WAILIN’ (PRESTIGE)

HAROLD MABERN (1969/6/30,1970/1/26)

WAILIN'


【パーソネル】

HAROLD MABERN (p,el-p) BUSTER WILLIAMS (b) IDRIS MUHAMMAD (ds)
VIRGIL JONES (tp,flh) <#1-5> GEORGE COLEMAN (ts) <#1-5>
LEE MORGAN (tp) <#6-11> HUBERT LAWS (ts,fl) <#6-11>
BOOGALOO JOE JONES (g) <#10>

【収録曲】

STROZIR'S MODE / BLUES FOR PHINEAS / I CAN'T UNDERSTAND WHAT I SEE IN YOU
WAITZING WESTWARD / A TIME FOR LOVE
GREASY KID STUFF / I HAVEN'TGOT ANYTHING BETTER TO DO / XKE
ALEX THE GREAT / I WANT YOU BACK / JOHN NEELY-BEAUTIFUL PEOPLE

【解説】

 “温泉” というのがありますよね。英語では “ホット・スプリング” 。温かい泉。そのまんまですね。 “スパ” というのも似たような意味で、日本ではこちらのほうが一般的に使われているようです。長島温泉にある遊園地が “スパーランド” という名前なのもこれに由来しているわけでありますな。いや、子供の頃は、とってもスーパーなランドだから “スーパーランド” なんだけど、どこかで間違えて “スパーランド” になっちゃったんだよね。…とか思ってましたけどね。いずれにせよ、長島スパーランドでスパに浸かって、スパゲティを食べる。…というのが、僕たちが子供だった頃のトレンドでありました。いや、長島スパーランドにスパゲティなんか売ってたっけ?…という気がしないでもないんですが、ドイツでは温泉のことを “バーデン” というそうですね。有名な温泉保養地である “バーデンバーデン” というのはつまり “温泉温泉” という意味であるわけですが、ちなみに “スパ” というのはベルギーの温泉地の名前に由来した言葉なんだそうです。ということで、今日は温泉について考えてみたいと思うんですが、そもそも 温泉というのどういった物なのでありましょうか?

  “温泉” というのはですね、温かい泉です。つまりまあ、温かくなければ温泉でないし、泉でなければ温泉ではないと言えるわけでありますが、となると、そもそも “” というのがどういうものか?…というのが問題になってきますよね。 “泉” というのはですね、自然に水が湧き出しているところ。…ということでいいのではないかと思いますが、あくまでも “自然に” というところがポイントなんですけどね。水道管が破裂して水が噴き出しているようなところは “泉” とはいいません。ああ、泉だよね。…と、暢気に構えている場合ではなくて、さっさと水道屋を呼べってば!…という事態であるものと思われます。 で、続いて “温かい” という問題でありますが、これには明快な規定があるようです。摂氏25度以上のものが “温泉” である。…ということになっているようです。それ以外のものは “鉱泉” と言うんだよね。…と、僕はずっと思っていたんですが、温泉法の定義によれば、それは必ずしも正しくはないようでありまして。温度が25度未満でも、ある特定の成分をたくさん含んでいれば“温泉”と呼んでもいいのではないか?…ということになっているようでありまして、つまりまあ、世の中には温かくない温泉というのもあるわけなんですね。

第二条  この法律で 「温泉」 とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。

湧出” ぐらい漢字で書けよ!…という気がするんですが、いや、いきなり言われたら僕もきっと書けないとは思うんですけどね。湯が出るんだから、“湯出(ゆぅしゅつ)”?…とか、きっと間違った答えを書いてしまうに違いありませんが、それはそうと、温水に限らず、鉱水や水蒸気やその他のガスだって温泉と呼べるんだね。…ということがこの定義から分かって頂けると思います。条件としては “別表に掲げる温度又は物質を有するもの” と、OR条件でありますので、どちらか一方をクリアすれば、もう片方はどうでもいいわけですな。しかしまあ、その他のガスだって温泉であるというのは盲点でありました。炭化水素を主成分とする天然ガスを除く…ということは、メタンとかエタンとかプロパンとかブタンとかペンタンとかヘキサンとかヘプタンとかオクタンとかノナンとかデカンとかでなければ大丈夫ということなんですが、そういえば志賀高原にある発哺温泉というのは高温の蒸気を冷やして温泉にしているらしいですね。蒸気の噴き出す音が「ほっぽー、ほっぽー」と聞こえるので、発哺温泉という名前になったそうですが、なるほど、それでこんなジャイアント馬場みたいな名前になっちゃったわけでありますな。もうちょっと格好のいい蒸気の噴き出し方は出来なかったのか?…と、悔やまれてなりませんが、それはともかく。僕は今回、3つの温泉地に行って、4つの入浴施設を利用しましたので、その概略などを簡単に紹介しておきたいと思います。

 馬曲温泉・望郷の湯 (長野県・木島平村)

 この名前は知ってる人でないとなかなか読めませんよね。え? “ぼうきょうの湯” ぢゃないの?…って、ああん、そっちぢゃなくて、 “馬曲温泉” のほうなんですけどね。恐らく知らない人なら “うままがり温泉” とか読んでしまうに違いありませんが、あるいは “ばきょく温泉” とか。 “まぐせ温泉” というのが正解なんですが、何だか馬糞(まぐそ)とかが浮いていそうで、語感的にはやや問題のある温泉ではありますな。が、露天風呂からの眺めがとってもいいという話なので、一度行ってみたいと思ってたんですよね。そこでまあ、行ってみました。場所はですね、木島平スキー場からもうちょっと山の中に入って、坂をぐんと上ったところであります。で、行ってみたら何故だか手前の道のところに消防車がずら〜っと並んでおりましたので、一瞬、全焼しちゃったか?…と、子供時代のつらい思い出が脳裏をよぎりましたが、そうではなくて、何やら消防団関係の人々が群れ集っていたみたいなんですけどね。入口でお金を払って中に入るとそこが食堂になっていて、制服を着たおっさんやお兄さんがたくさん終結しておりました。ちらっと見ただけなんですが、おそらくビールや酒なども飲んでいたのではなかろうかと。いいのか?帰り道、消防車の酒酔い運転やん!…という気がしないでもないんですが、もしこういう日に自宅が出火しちゃったら、運が悪かったと思って諦めるしかありませんね。

 で、風呂はどこや?…と思ったら、どうやら食堂を抜けた先にあるようで、で、行ってみたらこれがまた、思ってたよりも全然シケていたのでありまして。小さな浴槽がひとつと、お湯の出の悪い洗い場が3人分くらいあるだけなんですよね。ま、田舎の温泉やし、こんなものかぁ。…という気もしたんですが、そういえばここは眺めのいい露天風呂がウリだったはずなんですが、そんなものはどこにも見当たりません。そこで初めてピンと来たんですが、僕が最初に入ったのは内湯のほうであって、どうやら露天風呂は別になっているというシステムのようでありまして。で、脱衣所に上がってパンツを穿いていると、ちょうど覗きのおばさん…ではなくて、掃除のおばさんが入ってきたので、「露天風呂は別にあるんですかぁ?」…と質問すると、そのおばさんは丁寧に露天風呂の場所を教えてくれました。いやしかし、おばさんが入ってくるタイミングがパンツを穿いた後だったので、よかったです。もし、フリチン状態を見られてしまったらシャイで無口な僕はとてもおばさんと親しく話しなど出来なかったに違いなく、露天風呂の場所も聞き出しそびれて、わからないままこの温泉を後にする破目になるところでした。いやあ、パンツ様様(さまさま)ですなぁ。ちなみにこの温泉の露天風呂は食堂や内湯のある建物とは完全に独立していて、そこから階段を下りた先のところに作られておりました。露天風呂専用の更衣室もあるんですが、内湯からフリチンのままで移動出来ないところがやや面倒でありますな。ま、勇気さえ振り絞ればフリチンのまま移動出来ないこともないんでしょうが、僕にはとてもそんな勇気はありません。恥ずかしさのあまり “そのもの” も萎縮してしまって、その辺をうろついているおばさんに、「まぁ。」…などと嘆息された日にゃ、一生癒えることのない心の傷を負うことになってしまいます。

 で、そうして辿り着いた露天風呂でありますが、期待が大きすぎたせいか、思っていあたよりも、「うーん。」…という感じでしたね。ま、確かに眺めが悪くはないんですが、見えるものと言えばそこらへんの地味な山ばかりだし、周囲にもっと雪が残っている季節なら、もう少し眺めもよかったのかも知れませんけど。 “雪景色の素晴らしい露天風呂” という触れ込みでしたからね。で、大きさ自体も、ああん、思ったよりも小さいのぉ。…という感じでありまして、前日、草津の “西の河原大露天風呂” に入ったから余計ですよね。いつも小さいなモノばかりを見ていれば、それが標準サイズなんだぁ。…ということになって世の中は平和なんですが、一度デカいのを体験してしまうと、もう駄目なんですよね。何だかとっても物足りなくなってしまって、いや、人間の欲望というのは果てのないものでありますなぁ。。。 ちなみに、これは後から判明したことなんですが、ここの露天風呂は女湯のほうが立派に作られていて、男湯のほうは半分くらいの大きさしかないんだそうでありまして。いや、ギャルを大切にするという心がけは立派だと思いますが、せめて日替わりで大きいほうにも入れるようにして貰えると嬉しいんですけどねぇ。 湯船の温泉を舐めて味見をするにしても、昨日まで女湯だったということになれば、より一層、気合が入るというものなんですけどねぇ。ちなみにこの温泉の湯は無色透明無味無臭でありまして、成分的には決して褒められたものではないような気がします。湯を舐めてみたら、ちょっぴり馬糞の味がした。…ということはないので、安心して味見をしてみてくださいね。

 ということで、引っ張って引っ張って、温泉ネタはまた次回に続きます。

 さ、今日はハロルド・メイバーンですな。ブルーノートの4000番台にサイドマンとしてよく顔を出しておりますが、リーダー作となるとまったくピンとこないんですが、60年代後半にプレスティッジから何枚か出していたんですね。ちっとも知りませんでした。で、今回紹介する 『ウェイリン』 とアルバムについては若干の説明が必要なんですが、これは輸入盤のCDに多い “2in1” というヤツでありまして。具体的に言うと、1969年録音の 『ワーキン&ウェイリン』 と、1970年録音の 『グリーシー・キッド・スタッフ』 という2枚のアルバムをカップリングしたもののようであります。が、収録時間の関係で、前者のアルバムに収録されていた 「トゥ・ビジー・シンキング・アバウト・マイ・ベイビー」 という曲だけ割愛されちゃったようでありまして、いや、もともと録音されたものの収録時間の関係でオリジナルLPにも入ってなかったのかも知れませんが、とにかくまあ “2in1” というのは確かにお得ではあるんですが、オリジナルのジャケットがどういうものだったのか分からなくなる場合も少なくないし、ファンにとっては痛し痒しというところですよね。痛くて痒いんですよね、ヘルペスとかに罹ると。いや、罹ったことはないので、よくは分かりませんけど。で、この2枚の作品は69年から70年にかけての録音ということで、ジャズとしてはもう、ほとんど瀕死の状況にあったと言えるかも知れません。事実、メイバーンはエレキ・ピアノに手を出すという愚行に走ったりもしておりますが、幸いにもそれは1曲だけでありまして、サイドマンにもなかなか魅力的な人材が顔を揃えておりますので、内容的にはなかり期待出来るんぢゃないか?…という気がするんですけどね。ということで、では 『ワーキン&ウェイリン』 のセッションから聴いてみることに致しましょう。

 まず最初は 「ストロージャーズ・モード」 という曲です。ストロージャーというのはアレですね。60年台に活躍した…というか、あまり活躍出来ないうちにシーンから姿を消した白人アルト奏者、フランク・ストロージャーのことでありますな、いや、多分。 で、タイトルに “モード” とあるように、これは典型的なモード・イディオムによる作品でありますな、いや、多分。 テーマ自体は極めてシンプルでありまして、基本的にはひとつのフレーズをリピート、リピート、リピートしているだけなんですが、最初のうちはテナーとトランペットのユニゾンで、後半は2本の管楽器が時間をずらして追いかけっこみたいにして吹いていて、そこのところに工夫の跡が見られるよね。…という気がしますよね。で、ソロ先発はジョージ・コールマンでありますか。この人のプレイはとかくフレーズの垂れ流しになりがちなんですが、60年代も末になってようやく肛門括約筋を活躍させるすべを身につけたのでありましょうか、垂れ流しではなくて、わりと節度の感じられる吹きっぷりになっているところに成長の跡が窺えます。垂れ流しの予防には成長と整腸作用が大切ですからね。ウエイン・ショーターに肉薄…とまではいかないまでも、ま、骨厚くらいはしているのではないでしょうか。続くバジル・ジョーンズの馬汁的なソロもよい出来でありまして、さすがはモーガンだねっ♪…と思ってしまいました。いや、このCDのジャケットにはトランペッターとしてリー・モーガンの名前しかクレジットしてないので、てっきりモーガンのソロだとばかり思っていたんですよね。実際のところ、モーガンは70年のセッションだけに参加しておりまして、69年のほうはバジル・ジョーンズだったんですな。続くメイバーンのソロはマッコイ・タイナー的な響きを持っていて、ジャズ・ロック系が得意なんだよね。…という僕のイメージと若干違ったものになっておりました。ま、これはこれでいいとは思うんですけど。で、最後にバスター・ウイリアムスのソロも聴けますね。この人に関しては、バントの格好からヒッティングに切り替えるのがうまいんだよね。…といった印象があったんですが、タイコを叩かせてもなかなかのものでありますな。…というネタを考えたんですが、よく考えたらタイコを叩いているのはバスター君ではなくてムハンマド君でありました。今さら訂正するのも面倒なので、さほど面白いネタでもないな。…という気はするんですが、とりあえずそのまま放置しておきます。ということで、テーマに戻って、おしまい。アルバムの冒頭を飾るに相応しい、派手で賑々しい演奏なのでありました。

 2曲目の 「ブルース・フォー・フィニアス」 。ここでメイバーンは問題のエレピを使っております。はっきり言ってこれは余計ですよね。保守的と言われるかも知れませんが、ピアノとイチゴは生が一番!…と思うわけでありまして、いや、赤倉のクレープ屋でアイスクリームを食べたんですけどね。ダブルに出来るというので、 “牛乳と生イチゴ” という組み合わせにしたんですが、果たして注文は “なまイチゴ” でよかったんですかね? “生娘” の場合、 “なまむすめ” ではなくて “きむすめ” が正解なので、イチゴの場合も “きいちご” が正しかったのかも知れませんが、それだと “木苺” と間違いやすいですしね。ま、それはそうと、この曲のタイトルにあるフィニアスというのは恐らく、ピアニストのフィニアス・ニューボーン・Jrのことではないかと思われるわけですが、曲としてはアレですね。ブルースです。ブルースとエレピの取り合わせというのは、どうか?…という気がしないでもないんですが、ま、それを除けば全体的にはオーソドックスな出来なんですけどね。ジョージ・コールマンのソロはオリバー・ネルソン的なブルースの真実を感じさせ、ジョージ君もなかなか変幻自在でありますな。続くメイバーンのエレピ・ソロは、ま、当時としては最先端のアイテムで、それなりに意義もあったんでしょうが、今の耳で聴くと何だか外国人旅行者が日本にやってきて、いまだにお土産に “たまごっち” を探しているような違和感を感じてしまいます。そうやないやろ。今は「だんご3兄弟」やろ!…と思わずにはいられません。

 3曲目、 「アイ・キャント・アンダスタンド・ホワット・アイ・シー・イン・ユー」 。「私はあなたで何を見るかを理解することができません」…って、今ひとつ日本語の意味がよくわかりませんが、これはいい曲です。いかにもメイバーンらしいジャズ・ロック調のナンバーでありまして、その軽さがバルサ材みたいに扱いやすいと思います。夏休みの木工工作といえばバルサでしたからね。照り焼きにしても美味しいしー。…って、それはバルサではなくて、ワラサですけどね。で、これ、メロディも分かりやすくて日本人好みでありまして、ま、どこかで聴いたことのあるような曲と言ってしまえばそれだけなんですけど。ソロ先発のジョージ・コールマンはここではモードな吹きっぷりで達者なところを見せていて、続くバジルは恥じることなく貝汁的なフレーズを聴かせてくれております。メイバーンのソロはこう曲調がいちばん “らしい” ですよね。好きな車は日産のラシーンらしいしー。ということで、テーマに戻って、おしまい。ということで、4曲目。 「ワルティング・ウエストワード」 ですか。これはアレですよね。ワルツです。タイトルに “西向き” と付いているところをみると、あるいはウエストコースト・ジャズを意識したものなのかも知れませんが、いや、個人的にはウエストコーストよりもドライイーストのほうが好きなんですけどね。酵母が乾燥していて、もう、たまらんっ♪…みたいな。いや、何がたまらんのか自分でもよくワカランのですけど。で、この曲、出だしの部分はアメリカ民謡の 「駅馬車」 です。テーマ・メロディ自体はさほど駅馬車ではないんですが、それでもどことなく全体的に駅馬車的なムードが漂っていて、のどかなワルツであるな。…といった感じがしますね。ソロ先発はメイバーンでありまして、軽快なタッチで卒(そつ)のない演奏に終始しているように見受けられます。かなり長いソロでありますので、テーマ部を除けばトリオ演奏として楽しめますな。…と思っていたらジョージ・コールマンが登場して、バジルも出てきて、総演奏時間は 9分23秒と、かなり長いものとなっておりますな。長芋というのも長いものなんですけどね。ということで、バスター・ウイリアムスの地味なピチカート・ソロがあって、テーマに戻って、おしまい。

 5曲目は 「ア・タイム・フォー・ラブ」 という曲です。 「愛のための時間」 。それが長いか短いかは、その人の持つ実力によるわけでありますが、いや、長ければいいというものでもないやろ!?…と、僕としては思うんですけどね。で、これ、何ともキュートでラブリーなバラードでありまして、愛を語るにはやっぱりこうでないよね。…という気がしますよね。ピアノに2本の管が絡むイントロに続いて、テーマ部はピアノが奏でる主旋律にホーンが装飾を付けるという形で演奏されております。何となく、ゴージャスなメリヤス…という感じがしますよね。いや、何となくイメージ的にメリヤスというのは安っぽい感じがするんですけどね。アドリブ・パートはメイバーンのピアノだけなんですが、なんともメランコリーな雰囲気が漂っていて、思わずブロッコリーを食べたくなっちゃいます。いや、大して好きではないんですけどね、ブロッコリー。カリフラワーが緑になっただけやん!…みたいな感じがして。

 ということで、続いては 『グリーシー・キッド・スタッフ』 のセッションに参りましょう。 “2in1” のCDというのは実質2枚分の曲解説を書かなければならなくて、随分と損をした気分でありますが、こちらの1曲目、通しで言うと6曲目にあたるのは、アルバム・タイトル曲の 「グリーシー・キッド・スタッフ」 でありますか。 “greasy” には “脂ぎった” という意味があるようですが、 「脂ぎった子供のこと」 …って、何だか意味不明ですね。 “stuff” には俗語で“(性的対象としての)女、すけ、ギャル” という意味もあるようなので、そちらで解釈したほうがいいかも知れませんね。「脂ぎった子供ギャル」 …って、いや、これも何だかよくわかりませんけど。で、曲としては、これはアレですな。ホレス・シルヴァーが書きそうなジャズ・ロック調のナンバーといった感じでありまして、ソロ先発はヒューバート・ロウズでありますか。この人に関してはほとんど何の知識も持ち合わせていないんですが、この演奏を聴く限りでは、あまりウネウネしていないジョー・ヘンダーソン…といった感じでありました。で、2番手はリー・モーガンでありますな。前半のセッションではバジル・ジョーンズの演奏を、さすがはモーガンだねっ♪…と思って聴いていた僕でありますが、こうして聴き比べてみるとさすがに本人のほうがより一層モーガンっぽい感じがしますね。何というか、音の抜けがいいような気がします。70年というと彼にとっては晩年に近い時期でありますが、 “らしさ” はまったく損なわれていませんね。で、続くメイバーンのソロは、これまた実に “らしい” 感じの仕上がりでありまして、ハンク・モブレイの 『ディッピン』 を彷彿させる出来であると言っていいでしょう。ということで、テーマに戻って、おしまい。楽しくって、いいな♪…という1曲でありました。いいぞぉ、脂ぎった子供ギャル!

 7曲目の 「アイ・ハブント・ゴット・エニシング・ベター・トゥ・ドゥ」 は歌物でありましょうか。このCDは作曲者のクレジットがないのでよくワカランのですが、綺麗なメロディを持った、しみじみとしたバラードでありますな。基本的に、メイバーンのピアノに2本のホーンが絡む格好で演奏が進んでいきますが、ヒューバート・ロウズの吹くフルートがなんともいいムードを醸し出しております。でもって、メイバーンのピアノはレッド・ガーランドを彷彿させる小粋さがあって、いや、ゴツい顔して、なかなかやるではないか。…といった感じですね。ということで、次。 「XKE」 。タイトルの意味は不明です。あ、原文ライナーを読むと、どうやらマルコムXと、マーティン・ルーサー・キングと、メドガー・エヴァーズのことらしいですけどね。マルコムXの “” 、キングの “” 、エヴァースの “” 。どうやらそういうことみたいです。ちなみにメドガー・エヴァーズという人の事はまったく知らなかったんですが、ミシシッピ州の公民権運動のリーダーだったようです。公民権運動というとおそらく、公民館で民謡教室を開こう!…とか、そういった運動だったんでしょうね。で、曲のタイトルからすると何やらマックス・ローチの 『ウイ・インシスト!』 的なものを想像してしまうんですが、その実態はさにあらず。何とも調子のいいハード・バピッシュは作品に仕上がっているんですよね。マルコムX君もきっと草葉の陰で泣いているに違いありませんが、個人的に政治色の強い作品というのはあまり好きではないので、まったく不満はないんですけどね。ソロ・オーダーはメイバーン、モーガン、ロウズとなっていて、各人の溌剌としたプレイを堪能することが出来ます。ロウズ君も今回はそれほどジョー・ヘンではなくて、どちらかと言うとオーソドックスなロリンズ派…といった感じになってますね。で、ムハンマド君の短いドラム・ソロがあって、テーマに戻って、おしまい。

 次、 「アレックス・ザ・グレート」 。曲名はメイバーンの息子ミシェル君のミドルネーム、アレクサンダーに因んだものなんだそうです。原文ライナーにはBフラット・メジャーとBフラット・マイナーにビルトしたボサノヴァ…というようなことが書かれておりますが、なるほど、リズムはボサノヴァですな。ただ、それほど軽い感じはなくて、全体的にはわりとモーダルでシリアスなしりあがり寿。…といった仕上がりとなっております。いや、面白いですよね、 『地球防衛家のヒトビト』。朝日新聞の夕刊漫画としては久々のヒット作だと思いますが、特に先日の “コンクラーベねた” など、心の底から共感してしまいました。だよねー。 “コンクラーベ” って、絶対に誰でも “根競べ” だと思うよねー。 で、曲のほうはというと、テーマ部こそやや複雑骨折気味でありますが、アドリブ・パートは快活な海老カツ。…といった感じで、心の底から心底楽しめます。ソロ先発はメイバーンでありまして、ボッサのリズムが何とも耳に心地よいですな。そこにフルートとトランペットのユニゾンが絡んでくるアレンジも秀逸にして後逸だと思います。もう、タマを後ろに逸らしちゃってぇ。…みたいな。その後、ロウズ君のフルート・ソロがあって、リー君のトランペット・ソロがあって、あ、よく見たらこのCD、ちゃんと作曲者の名前がクレジットされているではありませんか。それによると、今までのところ5曲目と7曲目以外はメイバーンのオリジナルということになるようですね。バラードは歌物である。…と、そういうことでいいと思います。で、 「偉大なアレックス」 におけるリー君のソロはなかなか抑制が効いていて、いいな。…と思いますが、とまあそんなことで、テーマに戻って、おしまい。

 10曲目は 「アイ・ウォント・ユー・バック」 という曲です。「僕は君とバックでやりたい」。違いますね。「僕は君に戻ってきて欲しい」。恐らくそういう意味ではないかと思います。この曲はメイバーンのオリジナルではなくて、では歌物なのかと言うとそうでもなくて、これがまた、ベタなR&B風の曲なんですけどね。あ、ジャクソン・ファイブのヒット曲なんですかね?何とも御陽気で大衆的なサウンドでありまして、アルバム全体のジャズ的な雰囲気を一挙にブチ壊しているような気がしないでもないんですが、ま、リー・モーガンのソロはそれなりのレベルを保ってはいるんですけどね。ヒューバート・ロウズのいかにもR&B的なテナーもなかなかでありまして、この人は元来、こういうキャラなのではないか?…といった気がしますよね。で、この曲だけ、ギターのブーガルー・ジョー・ジョーンズが参加しているみたいですが、まったく存在感がなくて、別にいてもいなくても、どっちでもよかったんぢゃないか?…という気がしないでもありません。いずれにせよ、いきなりこんな演奏が飛び出してきたりして、そこのところがいかにも1970年モノでありますなぁ。

 で、ラストの 「ジョン・ニーリー・ビューティフル・ピープル」 は一転してシリアス風モーダルな作品であります。ジョン・ニーリー(?)というのはシカゴのテナーマンなんだそうでありまして、ハロルドの最初の大きな “JOB” は “BLOW JOB” …ではなくて、モリス・エリス楽団だった。…てなことが原文ライナーに書いてありました。ジョン・ニーリーという人がその楽団に在籍していたということなんですかね?いずれにせよ、なかなか印象的なメロディを持った作品でありまして、ソロ先発のハロルド君もなかなかいい感じで指を動かしております。もう、来るべきユビキタス社会の到来って感じぃ? 何でもいいけど “ユビキタス” という言葉はどうしても、包丁で指切ったっす。…という情景を想像してしまいますなぁ。ユビキタス社会って、そんないつも指を切ってるような社会は嫌や!…とか思ってしまいます。 で、テーマ部ではテナーを吹いていたヒューバート・ロウズがソロではフルートを吹いていて、これがなかなかいい感じなんですが、続くモーガンの出来はまずまずと言ったところですかね? で、バスター・ウイリアムスの地味なピチカート・ソロがあって、その後でメイバーンが再登場します。斉藤くんは再登場しません。端からこのセッションには参加してませんからね、斉藤くん。で、メイバーンが再登場して、ドラムスとの4バースを繰り広げるんですが、それはそうと、どうして乾パンの缶詰には氷砂糖が入っているんですかね?いや、今日の昼食が乾パンの缶詰だったので、今それを食べながら書いているんですが、どういうわけだか中に氷砂糖が入っているんですよね。ま、恐らく栄養的な見地からそのような所業に走ってしまったんだと思いますが、乾パンを噛み砕くつもりで間違えて氷砂糖を噛んじゃうと、歯が欠けるちゅうねん!…と思わずにはいられません。非常食というより、非常識だと思いますね、これは。ま、気をつけて食べればいいだけの話なんですけどね。ということで、今日のところはおしまい。

【総合評価】

 屈指の名盤…とまでは言えないかも知れませんが、メイバーンの盤だよね。…ということは言えるのではないかと思います。“2in1”で全11曲というのは、飽きるんぢゃないか?…ということが懸念されたんですが、いろいろなタイプの演奏が入っているので、意外と最後まで楽しむことが出来ました。それはそうと、やっぱり氷砂糖は邪魔ですなぁ。。。


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