DIAL “S” FOR SONNY (BLUE NOTE)

 SONNY CLARK (1957/07/21)

DIAL S FOR SONNY


【パーソネル】

ART FARMER (tp) CURTIS FULLER (tb) HANK MOBLEY (ts)
SONNY CLARK (p) WILBUR WARE (b) LOUIS HAYES (ds)

【収録曲】

DIAL "S" FOR SONNY / BOOTIN' IT / IT COULD HAPPEN TO YOU
SONNY'S MOOD / SHOUTIN' ON A RIFF / LOVE WALKED IN

【解説】

 先日、久しぶりに懐かしいヒトと再会しました。いや、15年ぶりぐらいですかね?以前に会った時はそのヒトは一人だけだったんですが、先日はどういうわけだか3人に増えておりました。3人がまったく同じ顔をして並んでいたので、ちょっとビビってしまいましたが、そのヒトというのはいったい誰なのかと言うと、救急蘇生訓練用人形のことでありまして。ほら、人工呼吸の練習の時に使うブサイクな南極2号みたいなヤツでございます。

 えー、2ヶ月ほど前のことでしたか、愛知県の半田市というところで下水道の清掃をしていた作業員が硫化水素中毒で5人も死んじゃうという事故がありましたよね?半田市(はんだし)。最近、モロ画像にもちょっぴり飽きてきて、モロ出しよりもむしろ半出しくらいのほうがソソる?…という感じになってきたんですが、それはともかく、これは下水道のマンホールでうんこポンプの点検業務に勤しむ立場の人間にとって、人ゴトではすまされない問題でありまして。そこでまあ、ここはひとつ酸素欠乏作業等主任技術者講習というのを受講しておくべきではないか?…という話になって、塩サバ物産(仮名)岐阜営業所の先鋭・うんこ部隊の4人が3日間の講習に参加することになったんですけどね。いや、僕は別にうんこ専属というわけではなく、うんこポンプの点検業務に従事したその手で上水道のタンクの清掃なども行なうという両刀使いなんですが、いや話を聞いてみると酸欠とか硫化水素中毒というのは実にオソロシイものでありますな。…ということがよくわかりましたので、簡単に順を追って説明してみたいと思います。

 まず最初に基本でありますが、空気中には一体どれくらいの酸素が含まれているのでしょうか?答えは約20.93%です。何故そんなに中途半端な数字なんだ?キリのいいところで、ちょうど20%でイイぢゃないか?…という気もするんですが、ま、空気には空気なりに、何かヒトには言えないような理由があるのでしょう。で、酸素を除いた残りはほとんどが窒素でありまして、はあはあはあ。いや、これは別に“”という漢字の左に月偏を付けてみて思わずコーフンしてしまったわけではなく、何だか息苦しくなってしまったわけなんですが、窒素には窒息する気体という意味があったんですな。つまり空気から酸素が無くなって窒素だけになってしまうと人間は窒息してしまうわけでありまして、これがすなわち酸素欠乏、4文字に略して酸欠と呼ばれる状態であるわけです。では一体、空気中の酸素がどれくらいまで薄くなるとヤバくなってくるのかというと、労働基準法では酸素濃度が18%以下になると酸欠作業に該当するという基準になっているようです。ちなみに人間の髪の毛は1日に100本以上抜けると薄くなってヤバくなると言われておりますが(「日本脱毛の会」調べ)、空気中の酸素は、栓を抜いて30分ほど放置した銀矢サイダーのように15%ほど気が抜けた状態になっちゃうと危ないわけですな。ちなみに銀矢サイダーというのは昔、うちの近くの鈴木鉱泉というところで作っていたサイダーなんですが、炭酸がきつい上に、あまり美味しくないという特徴を有しておりました。最近では見かけなくなってしまいましたが、どうして消えちゃったんでしょうね?やっぱりマズかったから?

 ちなみにこの酸素濃度18%以下というのは少し余裕を持たせた数字でありまして、実際に酸欠の症状が現れるのは16%以下なんだそうです。で、12%以下になっちゃうと死の危険が生じてきて、6%まで下がると「数回あえぎ呼吸をした後、昏睡、死亡。」だそうです。僕は首を絞められても何とか2分くらいは生き延びれるように、子供の頃から風呂の中で海女さんになる練習をしてきたんですが、無酸素状態の空気を吸うということは、どれほど息を止めていられるか?…という事とはあまり関係ないようです。分圧か何かの関係らしいんですが、無酸素空気を一口吸っただけで意識がなくなって、二口めではもう死んじゃうというのだから、ある意味ではかなり安楽な死にざまと言えるかも知れませんね。では一体、どのようにすれば酸素の薄い空気を得ることが出来るのかというと、これはわりと簡単です。高山に行けばイイだけです。高山と言っても飛騨高山(たかやま)では駄目で、高い山に登らなければなりません。飛騨高山には“さるぼぼ”がありますが酸素もわりとあるほうなので、行ったからといって高山病にかかることはありませんが、高い山に登ると高山病にかかります。高山病というのはすなわち酸素が薄いことによる酸欠症状でありまして、標高2500メートルで酸素濃度が15.4%ということは、乗りクラス会ライン…いや、乗鞍スカイラインの最高地点(標高2702メートル)まで行けば、動悸・息切れ・めまいで救心のお世話になるという事態も充分に考えられるわけです。エベレストぐらいになると酸素濃度はわずか6%で、これはもう即死するしかありません。が、人間というのは実によくデケたものでありまして、徐々に高度を上げることによってカラダが順応するというか、慣れるというか、耐えることを覚えるというか、とにかくまあ、酸欠に負けない丈夫なカラダになって、標高8848メートルで酸素マスクなしでも大丈夫な場合もあるというのだから、大したものでありますなぁ。ちなみに、ここまでカラダを順応させるには約3週間を要するんだそうです。

 さて、そこでマンホール・ポンプの点検であります。今まで僕たちは酸欠に対する知識を何も持ち合わせないまま、何にも考えずにマンホールの蓋を開けて、「うんこ臭いぢゃないか!」と文句を言っておりました。そして無防備にマンホールの中に入ったりして、平均して1ヶ所あたり約15分ほどで点検業務を片付けておりました。そして役所の人から「あれで1ヶ所ウン万円というのは、ぼったくりぢゃないか?」などと文句を言われておりました。が、これからはエベレスト登山隊の知恵に学び、マンホールの中に入るのに最低でも3ヶ月をかけて、酸欠状態に順応するように心がけたいと思います。石の上にも三年、クソの上には三ヶ月。いやあ、昔の人はうまいこと言ったものですなぁ。…ということで酸欠のお話は次回に続く。

( つづく )

 ということでソニー・クラークです。このコーナーも4巡目くらいに入って次第に取り上げるアルバムが欠乏し、息切れ状態になってまいりました。そこで、ある程度メジャーな作品を取り上げざるを得ない状況になってきておりますが、ということで今日は『ダイアル・S・フォー・ソニー』です。クラークの初リーダー作ですな。で、タイトルはヒッチコックのスリラー映画『ダイヤルMを廻せ』のもじりだということですが、“”から“”に変わるということは、そちらの世界ではわりと よくあることのようです。やっぱり虐められるよりも虐めているほうがラクだしー。で、このアルバムはサイドマンが悪くないっすよね。アート・ファーマー、カーティス・フラー、ハンク・モブレイの3管編成はソフト3P路線を予感させるし、ウィルバー・ウェアとルイス・ヘイズを従えたリズム陣も堅実です。堅くて実があるというのはとってもイイことだと思います。フニャフニャだったりすると役に立ちませんからねぇ、何事も。…とまあ、そういうことで、では1曲目から聴いてみることに致しましょう。

 1曲目はアルバム・タイトル曲の「ダイアル・S・フォー・ソニー」です。もちろんクラークのオリジナルなんですが、ちなみに、もじられる元になった『ダイアルMを廻せ』の原題は“Dial M for Murder”でありますな。そういえばJ.J. ジョンソンのアルバムには『ダイアルJ.J.5』なんてのがありましたが、どうして電話のダイアルにアルファベットが出てくるんですかね?…と思って調べてみたら、アメリカの電話器というのは電話番号をゴロ合わせで覚えやすくするため、2から9までの数字にアルファベットが3つずつ割り当てられているんだそうでありまして。なるほど、今の携帯電話と同じようなものなんですな。そういえば携帯電話のボタンも「1」のところにはアルファベットが書いてなくて、「2」のところが「ABC」になっているんですが、ではどうして「1」から始めないないのかというと、そこまでは調べがついておりません。「2」から始めたおかげで3つずつではボタンが足りなくなって、「7」と「9」のところはアルファベットが4つ並ぶようになっているんですが、「1」のボタンには何か特別な機能があって、そのためにわざとアルファベットを割り当てなかったのかも知れませんね。

 で、前フリが長くなってしまいましたが、ところでフリチンはどうしてフリチンと言うんでしょうね?いや、チンのほうはわかるんですが、そのチンフリとはどういうことなんでしょうか?自由だから“FREEチン”、あるいはフリフリするから“振りチン”?…と、どうでもいい話は置いといて、演奏のほうは実にブルージーなピアノのイントロで幕を開けます。初リーダー作の一発目からクラークらしさ横溢…といった感じですな。続く3管ユニゾンによるテーマもいかにもクラークらしいファンキーさに溢れておりまして、実によろしいですな。で、ソロ先発はモブレイなんですが、彼のもさーっとした吹きっぷりは好き嫌いが分かれるところでありますな。僕も昔は今ひとつ好きではなかったんですが、今でもやっぱりあまり好きではありません。人間、いくつになっても趣味趣向はあまり変わらないんだねっ。…ということをこの事例から読み取ることが出来るわけでありますが、ま、昔に比べればその嫌いの度合いは次第に薄まってはきております。で、続いてはフラーですな。僕はわりと昔からフラーとフラダンスが好きでありまして、いやフラダンスのほうは総桐箪笥ほどには好きではないんですが、フラーのファンキーな味のあるトロンボーンはかねがねから好ましく思っております。ここでのプレイもいいと思います。で、ソロ3番手はファーマーですか。僕個人としてはクラークにもっとも合うトランペッターはファーマーだと思っているんですが、あまり元気ハツラツというよりも、少し酸欠で死にかけているようなプレイのほうが彼の黄昏たムードにはよくマッチしますよね。ここでのプレイもいいと思います。で、続いてクラークのソロになるんですが、初リーダー作の一発目からクラークらしさ横溢…といった感じでありまして、とってもいいと思います。続いてウィルバー・ウェアのピチカート・ソロがあって、テーマに戻ってエンディングですな。ベースの無伴奏ソロで終わるというのがなんとも地味な演出で、とってもいいと思います。以上、とってもいい演奏でありました。

 2曲目の「ブーティン・イット」もクラークのオリジナルです。タイトルはどういう意味なのかと思って翻訳ソフトで調べてみたら「bootin' それ」という結果が出てあまり役に立ちませんでしたが、ホレス・シルバーっぽい感じの元気のいいハード・バピッシュなナンバーでございます。元気なのはいいんですがあまり哀感が感じられず、こういうのは日本人にはあまりウケがよくないかも知れませんね。日本人のウケはよくなくても御茶うけにはよさそうな感じで…、あ、日本語ライナーを見たら「曲名はエキサイティングに演奏しよう位の意味」と書いてありました。翻訳ソフトにかけてみる前にこちらを読めばよかったんですな。で、確かにエキサイティングに演奏しようといった感じのナンバーでありまして、そのエキサイティングな演奏はとってもいいと思います。アドリブ・パートはいきなりクラークから始まるんですが、なかなか歯切れのいいプレイが展開されております。人間トシをとると歯と歯の間に隙間が出来てタクアンなんかが噛み切れなくなったりするんですが、当時のクラークにはその心配は無用…と言ってもいいような歯切れのよさでございます。ソロ2番手はフラーでありまして、これまた地味な楽器をアップテンポも苦にせずに吹ききっておりまして、とってもいいと思います。続くモブレイはちょっぴりムサイところがありますが、ま、これが彼の持ち味なので他人がとやかく言う筋合いではありませんよね。んで、特筆すべきはファーマーのソロでありまして、彼にしてはかなり派手目のフレーズを連発しております。特に後半、モブレイのテナーが絡んでくるあたりはまさに得記載天狗…って、天狗じゃなくてエキサイティングですな。小さな「ぃ」を書き忘れただけで無茶な変換になるものでありますが、その後、ピアノ→ドラムス→トロンボーン→ドラムス→テナー→ドラムス→トランペット→ドラムス→ピアノの4バースがあって、短いドラム・ソロがあって、テーマに戻って、おしまい。以上、とってもエキサイティングな演奏でありました。

 で、3曲目はムードが一転して、しみじみとしたバラードになります。「イット・クッド・ハップン・トゥ・ユー」です。 いいですなぁ、ジミー・ヴァン・ヒューゼンの曲は。ピアノのイントロが最高にブルージーです。尾車親方は元麒麟児です。いや、最後の「じ」しか合っておりませんが、うちの父方の婆ちゃんが好きだったんですよね、麒麟児。童顔フェチなんすかね?で、ブルージーなピアノのイントロに続いてファーマーがしみじみとテーマを歌い上げ、そのままソロへと入ってまいります。ファーマーのバラード・プレイは定評あるところ。…と油井センセも書いておられますが、さすがですな。後年の彼はバラードと言えばフリューゲル・ホーンで吹くのが常でありましたが、トランペットによるプレイもしみじみと味わい深いです。で、続くクラークのソロがこれまた絶妙ですな。股間、いや睾丸…それも違います。巷間よく言われる「後ろ髪ひかれるタッチ」が実に好感が持てます。で、この曲ではモブレイとフラーはお休みか?…と思っていたら、ここでモブレイも登場してきました。この人の吹くバラードは派手さこそありませんが、その分地味でありまして、でも悪くはありません。最後にフラーが出てきてしみじみとテーマ・メロディを吹いて、おしまい。構成的にもなかなかよくデケた演奏でありました。

 4曲目の「ソニーズ・ムード」はソニー・クラークの循環コードによる32小節曲。ソロ・オーダーはファーマー→モブレー→フラー→クラーク。…と、油井センセの曲解説もかなりテキトーになってまいりましたが、こうして順に名前を書いてみるとファーマー、フラー、クラークと「あ〜」の音を基調に韻を踏んでいて、なかなかリズム感がいいですな。モブレーだけ「え〜」で仲間外れになっておりますが、そんなことで彼を虐めてはいけません。煙草の火を額に押し付けたり、布団蒸しにしたりしてもいけません。酸欠になる恐れがありますからねぇ、布団蒸し。で、油井センセになりかわってもう少し詳しく説明すると、AABA形式の曲でありますな。いかにもクラークらしいファンキーなムードのある作品なんですが、特にサビのメロディがよろしいですな。で、ソロ・オーダーはファーマー→モブレー→フラー→クラークの順です。いや、オーダーというのは順番の意味だから「…の順です。」は必要ないと思うんですが、これを書かないとなんとなく落ち着かないんですよね。その点、油井先生は割り切っておられてさすがだと思います。はい、5曲目です。「シャウティン・オン・ア・リフ」はシャウティングなリフ・ナンバーですね。シャウティングと言っても意味不明にわめきまくっているわけではなく、節度のあるシャウト。そんな感じの作品であります。2曲目同様、翳りがないのであまり日本人のウケはよくないかも知れませんが、各自の短いソロを挟みながら展開されるテーマ部はなかなかエキサイティングですな。で、ソロ・オーダーはクラーク→モブレイ→ファーマー→フラー→ルイス・ヘイズ。…の順であります。…って、やっぱり最後に「順」を付けたくなってしまいますが、ウノ先生の小説の主人公もよく「ジュン、って潤ってきちゃうんです。」と言ってますしね。

 ということで、はいラストです。「ラヴ・ウォークト・イン」はガーシュインのナンバーですな。「忍び寄る恋」などという邦題が付けられていることもありますが、おそらくは夜這いをテーマにした歌ではないかと思われます。こっそりと寝室に忍び込むようなピアノの無伴奏ソロで幕を開け、で、テーマの間際にリズムが入ってミディアム・テンポに転じます。ちなみにこの曲はホーンが抜けたトリオによる演奏なんですが、終始クラークの歯切れのよいプレイが展開され、アルバムの最後を飾るに相応しいリラックスしたナンバーに仕上がっております。ということで、以上です。

【総合評価】

 いや、改めて聴きなおしてみると全体的にレベルの高い演奏が揃っておりますな。ファンキー・チューンと、明るいハード・パップ風と、しみじみバラードと、トリオ演奏…というようにアルバムの構成もよく考えられておりまして、サイドマンの好演もあって、傾聴に値する作品だと思います。えーと…、特にボケは無し。


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