TURNING POINT (BLUE NOTE)

 LONNIE SMITH (1969/1/3)

TURNING POINT


【パーソネル】

LEE MORGAN (tp) JULIAN PRIESTER (tb) BENNIE MAUPIN (ts)
LONNIE SMITH (org) MELVIN SPARKS (g) LEO MORRIS (ds)

【収録曲】

SEE SAW / SLOW HIGH / PEOPLE SURE ACT FUNNY
ELEANOR RIGBY / TURNING POINT

【解説】

 えーと、エバラ主催ソフトボール大会参戦レポートの続きです。前回はえーと、ベンチ入りした13名の中で、ヤル気も実力も伴わない@さば君(33歳)は先発メンバーから外されたのでありました。…というところまで話が進んでいたと思うんですが、ちなみにこの先発メンバーは我が塩サバ物産(仮名)が誇る名監督・ミスター仙石イエス氏(仮名)によって選ばれたわけでありますが、2試合目の先発メンバーにはちゃんと僕の名前も書かれておりました。で、もし1試合目に勝つようなことになれば、3試合目にも出場することになるわけですが、仙石監督の辞書に「勝利」という言葉はないようでありまして、3試合目の先発メンバーに関しては、まったくもって何も考えてはいないようでありまして。まさに「無欲」という言葉が似合うチームなんですよね、僕たちって。で、ジャンケンに勝って先攻・後攻を選ぶ権利を獲得した仙石監督は迷うことなく即断で「先攻っ!」と宣言し、いや、何か深い思慮があってのことだと思うんですが、その決断力と実行力は、まさに監督としての資質120%っ!と断言してもいいほど見事なものでありました。

 で、いよいよプレイボールでありますが、我がチームの先発投手はこの春に結婚したばかりの角谷クンちの新妻ギャルでありました。いいですなぁ、新妻。思わず、嫁に〜こないか〜♪と歌いたくなっちゃいますよね。…って、それは新沼。歌ってみたところで、新妻が僕のところに来てくれるとは到底思えませんしね。ちなみに50歳以上、もしくは女性(女装も可)がピッチャーをする場合には、通常よりも前のほうから投げることが許されるというのが今大会のルールでありまして、この(女装も可)というところが実にスベっているなぁ。。。という気がするんですが、その特典を狙ってギャルの投手の起用という戦法に出たのでありましょう。いや、いつもこの大会でピッチャーを勤める仙石監督兼投手にしたところで、今年で59歳なわけだから同じようなものなんですが、ギャル投手のほうが話題性もありますし、それにこの新妻はなかなか素直なタマを投げるギャルでありまして、僕なんかより数段、野球センスに秀でているのでありまして。ただ、あまりにも球筋が素直すぎてポコポコとよく打たれてはおりましたが、そこは津から応援に駆けつけた若者カルテットが堅実な守備でもり立てて、ゲームが台無しになる寸前で、何とか踏みとどまったのでありました。

 新妻ギャルは責任回数の2回を見事に投げきって降板し、3回からはエース仙石クンの登場であります。今までキャッチャーをやっていた仙石クンが投手にまわった関係で、「いなばくん、キャッチャー!」という、とんでもない声がかかりましたが、端からヤル気のない僕は、「えー、でもグローブがないしぃ。。。」これには当然、「あるあるぅ。余ったやつがあるぅ。」という回答が寄せられたわけでありますが、こういう事態はあらかじめ予想しておりましたので、「えー、でも左利きだしぃ。。。」そうなんっす。実は僕、左利きなんですよね。で、サウスポーというと何だか「野球がうまそう♪」というイメージがあるわけなんですが、左利きというのは「鼻が低い」とか「フケがよく出る」とか「足が臭い」とかいうのと同じく、まったくもって先天的な体質のひとつであるに過ぎないわけでありまして、だから当然、「野球が下手なサウスポー」というのは「リズム感のない黒人」と同じくらいの確率で存在するわけでありまして、まさしく僕がそれなんですけどね。で、左利き用のグローブというのはそうそう誰もが持っているわけでなく、で、グローブがなければ試合に駆り出されることもなかろう。。。という僕の作戦は見事に功を奏し、で、僕が逃げたおかげで「ソフトって、何人でやるっすか?」と質問していたマンポン技師の竹村クンがキャッチャーに駆り出されることになったんですが、人間、どこに不幸が待ち受けているか、わかったものではありませんなぁ。。。いや、キャッチャー・フライをうまくキャッチしたりして、なかなか頑張ってましたけどね。それにバッターはほとんど初球から打ってくるので、捕手というのはこのソフトボール大会においては、かなり楽なポジションであると言えるかも知れません。

 で、試合のほうは“11対0”の惜敗でありました。で、負けてみて初めて仙石監督が即断で先攻を選んだワケがわかったんですが、「先攻なら5回裏の守りにつかなくってもイイしぃ。。。」って、端からまったく勝つ気のない、まったくもって無欲なチームなんですよねぇ、僕って。で、第2試合であります。1回戦で負けたチーム同士が対戦することになるんですが、相手チームに左利き用グローブの在庫がありましたので、結局のところ僕はキャッチャーを担当することになりました、いや、これは思った以上に楽なポジションでありましたな。キャッチャーといってもサインを出すわけでもないし、盗塁もないから恐るべき弱肩で世間に恥をさらすこともないし、ただひたすら“人間バックネットのようなもの”として、来たタマを受けていればイイだけであります。もしボールを後ろに逸らしちゃったところでどうなるわけでもなし、内野や外野がボールを追いかけて走り回らなければならないのに対し、キャッチャーはただぼーっと座っていればイイだけですもんね。来年からは“生涯一捕手”として頑張ろう!と 誓ったわけでありますが、仙石監督がジャンケンに負けてやむなく後攻に回った我が塩サバ物産(仮名)チームは、キャッチャーの好リードもあってか初回を見事に零点に抑え、さ、いよいよ1回裏の攻撃でございます。

 僕はどういうわけだか2番という好打順に抜擢されておりました。先頭バッターは仙石クンでありまして、監督にエースにトップバッターと、老体にムチ打っての大活躍なのでございます。そして彼はいきなり相手の意表をつくバントを試みて見事に一塁を落とし入れ、そして左バッターボックスには期待の星@さばくん(33歳)でございます。一球目、かなり低めの球を余裕を持って見逃して、ストライクっ!思わず「えっ?」と思ってしまいましたが、かなり判定を甘くしておかないとフォアボールの連発になっちゃうことは必至なので、これは仕方がありませんね。となれば、打って出る手だな。。。と作戦を変えた僕は2球目を思い切りひっぱたいたわけでありますが、打球は力なくセカンド方面へふらふらと舞い上がり、超イージーなポップ・フライで、あえなく凡退。うなだれてベンチに戻ると、チームメイトが「あれは普通の守備やったらヒットやったな。」と慰めてくれました。相手の守備が一枚上手だったということですな。なるほど、もし僕がセカンドを守っていたら、あれはきっと落としていたことでありましょう。運が悪かったとしか言いようがありません。

 2回、3回と相手に点を取られ、チーム全体に「やっぱりか。。。」という諦めムードが漂いかけておりましたが、今年のチームはひと味もふた味も違いました。3回裏、第一打席では会心の当たりを相手チームの好守備に阻まれて涙を飲んだ2番・キャッチャーさばクンが 内野を強襲するヒットで塁に出ると、それを期に今まで永遠の眠りについていた打線が爆発しました。ランニング・ホームラン2本を含む打者一巡の猛攻で6点を奪い、なおもランナーを1塁・3塁において、バッターボックスにはまたしても“恐怖の2番バッター”さばクンの姿が。が、チャンスに打順が回ってきて力が入り過ぎ、高めのボール球を引っかけてボテボテのファースト・ゴロになって、あえなくチェンジ。貴重な追加点のチャンスを逃してしまったわけでありますが、得点は6対5と、この回、見事逆転に成功したのでありました。で、4回の表はエース仙石がキャッチャーさばの好リードもあって見事零点に抑え、その裏には4点を奪ったものの仙石クンが凡退に倒れ、あと1人のところで打順が回ってきませんでした。そして10対5の4点差で迎えた5回の表。疲れの見えはじめた老エースの仙石クンが捕まって連打を浴び、あっという間に10対9と1点差まで追い上げられましたが、最後の打者を何とかレフト・フライに打ち取って、ゲーム・セット。塩サバ物産(仮名)チーム、悲願の初勝利っ!選手一同、感激の涙に酔いしれて…と思いきや、いや、キャッチャーである僕以外には誰も得点経過を把握していなかった模様でありまして、「え?ゲームセットぉ?」とか、「何対何やったん?」とか、「勝ったん?負けたん?」とか言っておりまして、とにかくまあ、無事に2試合終わって、ヤレヤレでありますな。

 んなことでまあ、弁当食べて、参加賞を貰って、帰ってきたわけでありますが、この勝利が我がチームにとってのターニング・ポイントになるであろうことを確信して、僕はペンを置きたい思います。

 ということで、今日のアルバムは『ターニング・ポイント』でございます。なにかこう、取って付けたような流れでありますが、ロニー・スミスのリーダー作っすね。アンモナイト風のジャケットが、いかにも“BN末期”だなぁ。。。といった寂寥を感じさせるわけでありますが、サイドマンは凄いでっせ。リー・モーガンにジュリアン・プリースター、ベニー・モウピンと、なかなか立派なところを取り揃えております。69年録音というとモーガンにとっては“晩年”にあたるわけですが、あ、でも死ぬまでにはあと1年半ほどの猶予がありますな。で、モウピンはヘッド・ハンターズに参加する前の、かなりストレートに新主流派風ジャズに取り組んでいた時期でございます。んなことでまあ、じゃ、1曲目から聴いてみましょうね。

 「シー・ソー」はですね、なんとかという人が作って、有名なソウル・シンガーの、えーと、誰でしたっけ。誰さ?アレさ?そう、アレサ・フランクリンが歌って、大ヒットしたナンバーなんだそうです。タイトルは公園なんかでよく見かけるシーソー、俗に“ぎっこん・ばったん”と呼ばれる遊具のことだと思うんですが、ベタなエイト・ビートのリズムにノッた、いかにも(“タコにも”とか言わない。)といった感じのナンバーでありますな。オルガンがリードするメロディにホーン・アンサンブルが被り、これはもう、いかにもクラブでウケそうな仕上がりとなっております。ここでいうクラブというのは、銀座のクラブとか囲碁将棋クラブとかのことではなく、ヤングな若者が平坦なアクセントで「クラブぅ。」とか言うところのクラブでありまして、いわゆるレア・グルーヴってやつですかい?いや、この辺の事情というのは僕にはさっぱりワカランのでありますが、ジャズ・ファンとしての注目点は、何と言ってもリー・モーガンのソロに尽きるでありましょう。オルガンをバックにしたモーガンというのはそう多くはないと思うんですが、いや、ロニー・スミスの前作『シンク』でも吹いてましたっけ?ま、いずれにせよ、ここでのモーガンのプレイは“ぎっこん・ばったん的”なバーティカルなフレージングというより、むしろエキゾチックな味と香りのホリゾンタル・マースカレー的なプレイ(注:ハヤシもあるでよぉ。)に徹しておりまして、しかしなんですな。この前、コンビニでオリエンタル・マースハヤシ味のコーンスナックというのがあったので買ってみたんですが、なんとも表現のしようのないようなフレーバーでありまして、けっして誉められたものではないな。。。という出来映えであったことをここに御報告しておきます。で、演奏のほうはというと、ま、モーガンもまずまずモーガンらしさが出ておりますし、ロニー・スミスのソロもノリがいいし、とても純ジャズと言えた内容ではありませんが、この手のサウンドが好きな人にはイイんでないかと思います。

 はい、2曲目です。「スロー・ハイ」はロニ・スミのオリジナルで、タイトルどおりスローでハイなナンバーでございます。アーシーというか、レイジーというか、切れ痔ぃというか、とにかく、息苦しさ&胃もたれを併発しそうなプレイでありまして、3管のハモリ具合がなかなかイイ感じに仕上がっております。で、1曲目では「アンタ、いたっけ?」というくらい存在感が希薄だったギターのメルヴィン・スパークスが、ここではとってもスパークしております。グラント・グリーンをより一層下品にしたような感じぃ?世の中のジャズ・ギタリストを“上品”と“下品”に大別すれば、間違いなく下品な部類に入ると思いますし、世の中のジャズ・ギタリストを“上品”と“下品”と“上品とはいえない”と“下品とはいえない”に4分割した場合でも、やっぱり下品に分類するべきだと思いますが、えーと、ぼくがメルヴィンについて言いたいことは、それだけです。そういえばエルヴィン菅原クンは元気なんですかね?で、ギター・ソロに続いてベニー・モウピンのソロがフィーチャーされるわけでありますが、ここではわりとR&B的な臭みを感じさせるプレイに終始しているように思われます。ちなみに原文ライナーではエド・ラブという江戸前のブラジャーのような人が、あ、それはエド・ブラですか。とにかくまあ、そのエド君が「多くのリスナーにとって、この作品の中でフェイバリット・チューンになることだろう。」などと書いておりますが、前貼り・ド中年の僕としては、ちょっとアーシー過ぎて、どうかなぁ。。。という感想を持つにとどまりました。

 で、トリオで演奏される「ピープル・シュア・アクト・ファニー」も限りなく“リズムそしてブルース”してますなぁ。。。タイタス・タネル62年のヒットということでありますが、このスカスカのリズムは何すかね?スカですかね?それともブーガルーですかい?ちなみにロニー・スミスはルー・ドナルドソンの『アリゲーター・ブーガルー』でメジャー・デビューを果たしたわけでありますが、ドリフには、ありがてぇ、ブーがいる…というのは個人的には結構好きな一句でございます。いや、個人的には仲本工事が好きだったんですけどね。たいして面白くもないし地味地味なんだけど、体操だけはうまくて、世の中、どんな人でもひとつぐらいは取り柄があるものなんだなぁ。。。という安心感をコドモ心にも感じたものでありますが、高木ブーにしたところでハワイアンだけはプロ級ですもんね。…って、もともとドリフターズはミュージシャンなんですけどね。ビートルズの来日公演で前座をつとめたというのは有名な話でありますが、4曲目はそのビートルズの曲である「エレノア・リグビー」でございます。ソニー・クリスも取り上げていたように、数あるビートルズ・ナンバーの中でもジャズ受けのする曲なんですが、このスミス版はよいですな。3管の気怠いハーモニーとオルガン・サウンドとの絶妙なブレンドが絶品にして絶妙でありまして、モーピンのソロは、彼が音数の少ない演奏で豊かな内容を聴かせることができる素晴らしい技量の持ち主ということを示しておりますし、一方極めて個性的なプレイを披露するのがリー・モーガンで、この演奏はなぜいまの彼が高い評価を受けているのかを改めて教えてくれるものとなった。…と江戸ブラが原文ライナーに書いている通りの演奏でありまして、特にモーガンのソロは傾聴に値するし、浣腸にも値すると僕は思います。で、渦巻くようなグルーヴを露呈するスミスのソロも絶品にして絶妙で、絶壁にして絶倫。…とまあ、そんな凄みを感じさせます。そしてそこに絡む、スパークするギタリスト、メルヴィン・スパークスのプレイも熱いっす。

 はい、ラスト。タイトル曲の「ターニング・ポイント」はソウル色の強いこのアルバムの中で、最もジャズを感じさせるナンバーでございます。教会音楽風の無伴奏オルガンで幕を開け、3管ハーモニーによってシンプルながらモーダルなムードも感じさせるテーマが演奏され、で、ジュリアン・プリースターのソロへと突入してまいります。オルガンとトロンボーンというのは、意外とよく合うものなんですな。ソウル色は希薄で、新主流派的なサウンドを感じさせますが、そのネオ・メインストリーマー的なムードは続くベニー・モウピンのジョー・ヘン・ライクなプレイで頂点に達し、続いてモーガンがそれを余裕のある吹きっぷりでがっちりと受け止めます。…って、何てソレっぽい解説なんでしょうね。片仮名が多いがタマに瑕なんですが、タマに傷がある場合のアンメルツ・ヨコヨコの塗布は、とってもしみることが懸念されますので、ヤメといたほうが無難ではないかと思います。しかし、“アンメルツ・ヨコ”でも充分に意味は通じるのに、それを敢えて“アンメルツ・ヨコヨコ”としたあたり、さすがは小林製薬でありますなぁ。うーん、サカムケア。で、演奏のほうはメルヴィンのギター・ソロ、スミスのオルガン・ソロと続いてまいりまして、どちらも実に聴き応えのある出来映えとなっております。アドリブの後半に絡むホーン・アンサンブルもいい感じですね。以上、8分28秒の演奏でありますが、まったく長さを感じさせない充実した演奏でございました。この1曲に限って言えば、辛口のテラシマ・ジャズ・ファンでも充分鑑賞に耐えうると言えるのではないでしょうかね?

 とまあ、そんなところです。



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