【アルバム名】
DADDY PLAYS THE HORN (BETHLEHEM)
【リーダー名】
DEXTER GORDON (1955/9/18)
【パーソネル】
DEXTER GORDON (ts) KENNY DREW (p) LEROY VINNEGAR (b) LARRY MARABLE (ds)
【収 録 曲】
DADDY PLAYS THE HORN / CONFIRMATION / DARN THAT DREAM / NUMBER FOUR /
AUTUMN IN NEW YORK / YOU CAN DEPEND ON ME
【内   容】
 みんな、貝を食べてる貝?貝は食べておいしいだけでなく、ただ眺めているだけ でも楽しいよね?ということで、本日のテーマは「貝は世界を救う」でございます。救 うのか?本当に。。。
 
 歴史の教科書に“貝塚”というのが出てくることからも解るように、日本人は縄 文時代から貝を食べておりました。以前どこかに書いたことがあると思いますが、僕が 通っていた日進小学校はグラウンドに貝殻がいっぱい落ちていて、走っていてコケると 貝殻でひざを切っちゃうようなところでありました。これは「日進貝塚」という、とっ ても立派な貝塚である!というので市の史跡か何かに指定されていたんですが、その後 の調べでこの貝殻はせいぜい太平洋戦争の前くらいに捨てられたものであることが判明 し、史跡の指定を取り消されちゃいました。おおかた、しぐれ屋さんが貝殻の処分に困 ってこのへんに捨てちゃったんでしょうが、もうちょっとよく調べてから史跡に指定し なさいってばー。。。
 
 はい、ではここで貝殻を捨てた張本人であると思われる“しぐれ屋さん”につい て考えてみたいと思います。“しぐれ屋さん”というのは時雨蛤を作って売っているお 店のことでありまして、時雨ハマグリだけでなく、シジミの時雨煮だとか、アサリの時 雨煮だとか、白魚の紅梅煮なんていうのも作って売っております。白魚といえば芭蕉が 桑名の浜で詠んだ
 
  ・あけぼのや 白魚白きこと 一寸
 
  > 曙は引退。
 
という句がございますが、ハマグリの佃煮に“時雨蛤”という名前を付けたのは、 芭蕉の高弟の各務支考という人だそうでありまして。成るほど、高弟が“時雨”という 名前を付けたもんだから、しぐれ屋さんは学校の校庭に貝殻を捨てたわけなんだね。と いうことが肯定できるわけでありますが、ローマの軍人皇帝時代は235年に始まって おります。「兄さん、5円で軍人買うて♪」と語呂合わせで覚えてくださいね。で、こ の“時雨蛤”というネーミングの由来なんですが、“時雨”というのはもともと晩秋か ら初冬にかけて降る冷たい雨のことですよね。時々ぱらぱらと降るので“時雨”という 字になったようですが、“しぐれ”という読み方は暮れ時のように空が暗くなることか ら来たという説が有力のようです。
 
  ・夕暮れに 空は時雨て 兄ぐれる
 
  > 非行に走る兄。
 
という芭蕉の句もありますが、佐々部岱山という俳人が総本家貝新の主人から煮蛤 の命名を頼まれ、師匠の支考に相談したところ「ハマグリは時雨の降る10月頃におい しくなるんだよねー♪」というので“時雨蛤”と名付けたということです。なるほど、 アメリカ人のシグ・レイニーという人が考えたんじゃなかったんですね、時雨煮。とこ ろで時雨煮と佃煮の違いって知ってますか?僕は知りません。で、ちょっと調べてみた んですが、佃煮というのはてっきり江戸が起源だとばかり思っていたんですが、大坂で 生まれたものだったんですね。大阪で生まれた〜引っ越しのサカイ〜♪(←“大阪で生 まれた女”の節で歌ってネ♪)ということで、時は江戸時代。摂津の国は佃村の漁師が 家康に連れられて江戸の町にやってきて、築いた島が佃島。この地で売れ残った水産系 の食物(小魚、アサリ、昆布など)を保存のために醤油、砂糖などを入れて煮詰めたの が佃煮の始まりであると言われております。だからまあ、江戸生まれと言ってもいいの かも知れませんが、考え出したのは大阪人というわけでんな。で、製法のポイントは“ 煮詰める”というところにありまして、すき焼きを作っていて次第に汁気がなくなって 煮詰まってくると、「あ〜ん、佃煮みたいになっちゃったのぉ。。。」ということにな るわけですが、まさに彼女の言うとおり。“煮詰まる=佃煮”という公式が成り立つわ けでありますが、いや個人的には結構好きですけどね、佃煮みたいなすき焼きを作っち ゃう人妻。
 
 一方の時雨煮は違います。“上品”を旨とする桑名人は、例え“ハマグリ”など という上品なイメージの希薄な貝類を煮るにしても“煮詰める”などという下品なこと は致しません。ところでこの“ハマグリ”という名前なんですが、これは“浜で取れる 栗”から来ております。なるほど、栗みたいな形をしてますもんね、ハマグリって。も っともシジミもアサリも大きさこそ違え、やっぱり栗みたいな形をしているんですが、 一方“蛤”という漢字。これはおそらく“貝合わせ”から来ているのではないでしょう かね?ハマグリの殻はどんなに合わせてみても殻形や模様が絶対に1対1でしか合わな いところから“夫婦和合の縁起物”とされているようでありまして、いや、何だかいや らしい響きですけどね“夫婦和合”。で、平安時代にはハマグリの殻に詩や歌や絵を書 いて「貝合わせ」という遊びに用いたそうでありまして、いや、何だかいやらしい響き ですけどね“貝合わせ”。で、そのいやらしいハマグリをいかにして風流なワビ、サビ の世界の“時雨蛤”に仕立てあげるのかと言うと、多量の“たまり醤油”の中で浮かし ながら煮るというのがポイントのようでありまして。これを“浮かし煮”と言って、決 して煮詰めたりしないのがコツだそうであります。この製法により素材の味が活かされ た、ふんわりとした煮あがりのスグレた“志ぐれ”が出来るそうでありますが、今日の 話は次第に煮詰まってきたので、これにておしまい♪
 
 @ さ、デクスター・ゴードンです。通称・デックス。背が高くって長身だった ので“ロング・トール・デクスター”という呼ばれ方もあるようです。ま、背が高いか ら長身なわけなんですが、日本語に訳すと“ノッポさんデクスター”といったところで しょうか。何となく紙工作とかが得意そうですけどね。でっきるっかな?でっきるっか な?はてはて、ふう〜ん♪はて、ふう〜ん♪で、バップ期に活躍したデックスでありま すが、50年代に入ると麻薬による極度の“らりらり♪”のため引退生活を余儀なくさ れました。52年にワーデル・グレイとのコンビで何枚かのレコードを残した後は約3 年ほど吹き込みが絶え、55年に復活して3枚のレコードを残したと思ったら再び“ら りらり♪”が悪化して、その次のアルバムは60年まで待たねばなりません。で、その 貴重な55年の吹き込みはベツレヘム盤の『ダディ・プレイズ・ザ・ホーン』、ドラマ ーのスタン・リービーのリーダー作『ディス・タイム・ザ・ドラム・オン・ミー』、ド ゥトーン盤『デクスター・ブロウズ・ホット・アンド・クール』の3枚なんですが、今 日はその中からジャケットのセンスがイカす『父ちゃんは管楽器を演奏する』を取り上 げてみましょう。
 
 このジャケット、“半ズボン少年”の表情もイケてるんですが、サックスのイラ ストだって見逃すことが出来ません。特にラッパの部分の形状が何とも言えず味わい深 いですなぁ。。。いや、僕はただオリジナルに忠実に模写しただけなんですが、かれい 技師あたりに「縦長の形状が何ともリアルでありますな。」などと指摘されちゃいそう です。ボカシとかマスク処理とかモザイクとか入れておいたほうがよかったですかね? とまあ、それはともかく、ケニー・ドリュー、リロイ・ヴィネガーというメンバーは悪 くないですよね。で、1曲目のタイトル曲「ダディ・プレイズ・ザ・ホーン」。出だし の“ぱっぱぱ、ぱっぱっぱぁ〜♪というフレーズが能天気の極みでありまして、泥沼時 代の吹き込みとはとても思えませんね。ま、ただ“らりらり♪”でハイになってるだけ なのかも知れませんけどね。真面目さとか悲壮感といったものがみじんも感じられない のがこの人の特徴でありまして、ソロの途中に違う曲のメロディを引用するのも得意で ありますな。ここでもどこかで聞いたことのあるようなフレーズがいくつか出てきて、 思わずニヤリとしてしまいますが、ニタリ貝というのも見ただけで思わずニヤリとして しまうものでありますなぁ。“ニタリ”と“似たり”を引っ掛けたネーミングも秀逸で ございます。時雨煮にしておいしいかどうかは知りませんけどね。とか言ってるうちに ドリューのソロになりました。50年代のドリューは“スインギーな格調の高さ”とい ったものを感じさせ、とっても良好です。
前貼り貼りっすとソニー・クラークを足して2で割って、ケリーを少々振りかけた ような感じぃ?前貼り貼りっすとソニー・クラークを足して2で割って、ケリーを少々 ふりかけると“前貼り暗く蹴り”というようなものになりそうなものですが、そうなら ないところがジャズの奥深いところですよね。どうせなら前貼りは明るく蹴りたいとこ ろですけどね。特に2コーラス目からのノリのいい弾きっぷりは特筆もんの僕ドラえも ん。と言ってもいいと思います。それにしてもえらく長いソロですなぁ。先に進みたい のにぜんぜん終わりませんがな。。。と言ってるうちにリロイ・ヴィネガーのウォーキ ング・ソロになって、デックスが再び登場して2度目のソロをとって、テーマ・メロデ ィの再現なしにエンディングとなりました。元々これといったメロディのない即興曲だ ったのかも知れませんね。とにかくまあ、1曲目は終わり。
 
 2曲目はパーカー・ナンバーの「コンファメーション」。調子のいい曲ですな。 カワイイねぇ。その髪形、とってもよく似合うよぉ。その洋服、まるで君のために作ら れたみたいだよぉ。んもー、調子のいいこと言ってぇ♪という“調子のいい”ではなく 、快適なテンポの曲という意味ですけどね。テナーとピアノのユニゾンによるイントロ に続き、デックスがおなじみのメロディをブロウします。テナーだとどうしても“もた れ気味”になっちゃいまして、ただでさえ“後ノリ派”のデックスだけにどうしてもス ピード感に欠ける嫌いはありますが、アドリブが進むにつれてそんなことは気にならな くなっちゃいます。お得意の引用もいくつか聞かれますね。きびきびとしたドリューの ソロもよろしい。ということで3曲目。地味・ヴァン・ヒューゼンの「ダーン・ザット ・ドリーム」は個人的な愛聴曲でありまして、僕って人間が高尚に出来ているから、高 貴なヴァン・ヒューゼンの曲って、けっこう好きなんですよね。地味で暗い趣味ですけ どね。ここでのデックスはバラードというよりミディアム・スローくらいのテンポで、 割に淡々とプレイしております。ヘンに感情過多にならないところがイイですな。それ でいて、きっちりと泣かせてくれます。イメージとしては陳腐な形容ですが“気怠い昼 下がりの団地妻”って感じぃ?…って、ホントに陳腐な形容ですなぁ。。。ちなみにデ ックスは64年のBN盤『ワン・フライト・アップ』でも同じくドリューのトリオをバ ックにこの曲を演奏しておりますが、そちらの演奏のほうが重ねた年輪の分だけ表情が 深くなっておりますな。興味のある人は聴き比べてみてネ♪
 
 はい、あと3曲です。病苦(←下痢。)と闘いながらここまで頑張ってきて、そ ろそろゴールが見えてまいりました。4曲目の「ナンバー・フォー」はふたたびゴード ンのオリジナルでミディアム・テンポのリフ調のナンバー。ゴードンがまずブロー(J OBにあらず)、ドリュー、ヴィネガーのソロをはさんで、息の合った演奏が繰り広げ られる。正面からの歌い上げ精神が好ましい。と、日本語ライナーで佐藤秀樹センセイ が書いているとおりのナンバーです。短いながらもこじんまりとまとまった感じの小品 ですね。“短い”も“こじんまり”も“小品”も、ほとんど同じような意味のような気 もしますけどね。はい5曲目。「ニューヨークの秋」はおなじみヴァーノン・デューク のナンバーです。
 
  ・ぼったくりバー 飲んでゆく独り 冬の夜
 
  > ぼられて、GO!
 
という句で知られる作曲家でありますが、僕は「パリの四月」よりもこの「ニュー ヨークの秋」のほうが好きです。で、いつも書いてますが、僕はデックスの吹くこの曲 を聴くと、映画『ラウンド・ミッドナイト』のワンシーンを思い出します。この映画は 「男の友情」という一種の“プラトニック・ホモ”がテーマになっているんですが、雨 の夜、街はずれの路地でデクスター扮するジャズ・サックス奏者のデイル・タナーがこ の曲を吹いていると、画家の卵でホモ達のフランシス君がやってくるんですよね。デイ ル・タナーはサックスから口を離し、「歌詞を忘れたんだ。」そこでフランシス君、静 かに“Autumn in New York , Why does it seem so inviting♪”と歌い、デイル・タナ ーは頷いて「ニューヨークの秋」の旋律を奏でる。いいシーンでしたなぁ。
僕もこんなホモ達が欲しいのぉ。。。と思ってしまいましたが、とか言ってるうち にラストの「ユー・キャン・ディペンド・オン・ミー」が始まりました。「君は僕のこ とを頼ってくれるかな?」いいですなぁ。男の友情ですなぁ。アップ・テンポの快適な 歌物ナンバーでありまして、ノッケからバリバリ全開、ノリノリ、ベイビィ!なデック スのブロウが堪能できます。こんな頼もしい兄ィなら、どこまでも着いていってもイイ かな?という気持ちにさせられます。寄り添うようなドリューのピアノのいじらしさも 涙を誘いますね。んなことで、今日は終わり♪


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