【アルバム名】
THE BEGINNING AND THE END (COLUMBIA)
【リーダー名】
CLIFFORD BROWN (1952/3/21,1956/6/25)
【パーソネル】
CLIFFORD BROWN (tp) CHRIS POWELL (vo,conga)
BILLY ROOT (ts) SAM DOCKERY (p) ACE TISONE (b)
ELLIS TOLLIN (ds) 他
【収 録 曲】
I COME FROM JAMAICA / IDA RED / WALKIN' /
NIGHT IN TUNISIA / DONNA LEE
【内   容】
 天才と呼ばれる人は、性格が悪かったり、破綻をきたしたりしている場合が多い 。マイルスなんて性格の悪いイジメっ子だし、チャーリー・パーカーなんて裸でホテル に火をつけて走り回るわ、ヨード飲んで自殺は計るわ、やること無茶苦茶である。そう か。ヨード飲んで自殺を計ったか。ヨード卵なら健康になれたのに。そんな中で、クリ フォード・ブラウンは天才だったにもかかわらず、性格もすこぶるよかった事で知られ ている。頭もよくて麻薬もカジったりしない典型的な優等性タイプで、こういう子供は 「ああ!パーカーくん麻薬カジってる!いけないんだぁ。先生にゆーたろー!」と告げ 口をしたりして、みんなから「チクリ魔」として嫌われたりすることが往々にあるが、 ブラウニーの場合、あまりにも人間がよく出来ていて、そういうこともなかったらしい 。ただ唯一の難点は顔で、確かに性格はよさそうだが、お世辞にもカッコいいとは言え ない。ま、そのタラコ唇はトランペット吹くには最適だろうけど。
 さて、この『ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド』は名前の通り、ブラウニー の初レコーディングと、死の直前の演奏がカップリングされている。初レコーディング のほうはクリス・パウエルというおじさんグループの一員として吹き込まれたもので、 歌の入ったラテンジャズである。「わいはジャマイカから来たんや」というような歌で すね。ふれっふれっ、などと随分楽しそうです。ブラウニーは間奏で短いソロをとるだ けだすが、すでに完成されたスタイルで吹いていて、さすがは天才という感じがします 。栴檀は双葉より芳し、こういうお子さんに蚊帳つりたい、首吊りたい。(←落語「子 褒め」より。)一方、ジ・エンドのほうはフィラデルフィアの楽器屋さんでの地元民と のジャム・セッションの模様を収録したもの。ジャム・セッションというのはアンパン マンの主人ではなく(←それはジャムおじさん)、仲間が集まって自分達のためにする 演奏、というようなもの。正式な録音ではないので音は悪いし、メンバーは素人に毛が はえた程度の人ばかりですが、ブラウニーのソロは生涯でも最高と言える出来で、中で も『チュニジアの夜』が圧巻です。
 夜中にこのジャムセッションを終えたブラウニーは、ブラウン=ローチ・クイン テットのピアニスト、リッチー・パウエル(バド・パウエルの弟)と合流して、リッチ ー・パウエルの妻、リッチー・パウ子(仮名)の運転する車に乗り込みました。で、運 命の1956年6月26日早朝。三人を乗せた車はペンシルヴェニア・ターンパイクの 土手に猛スピードで激突。ブラウニー、パウエル、パウ子の3人は即死。この時、ブラ ウニーはわずか25歳であった。アーメン。ちなみにこの6月26日という日はブラウ ニーの妻クリフォード・ブラウ子(仮名。本名はラルー・ブラウン)にとって結婚記念 日であると共に自分の誕生日でもあった。おかげで彼女は結婚記念日の御馳走と、お誕 生日ケーキのほかに葬式まんじゅうまで食べるはめになった。太るで。(←そういう問 題か。)「クリフォードの思い出」という曲は彼の死を悼んで作られたものである(ベ ニー・ゴルソン作曲)。クリフォードの再来と言われたリー・モーガンがこの曲をしみ じみと演奏しているので、ぜひ聴いてみよう。聴いて泣こう。(『リー・モーガンVO L.3』収録)


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