マダガスカル産パキポディウム属の栽培
 マダガスカル産パキポディウムを三つのグループに分けて、栽培方法を説明します。
 パキポディウムは、アフリカ南部からマダガスカルまでと分布域はあまり広くありませんが、さまざまな環境に進出したので性質はかなり違います。
 大型のレウコポディウム節、グラダンディムム節の植物は、成長期は観葉植物や一般植物なみに管理すれば健康的に育ちますが、クリソポディウム亜属の植物は多肉植物的な管理が必要です。レウコポディウム節、グラダンディムム節の植物を、クリソポディウム亜属の植物といっしょに扱えば痩せてしょぼくれた株ににってしまいますし、逆にクリソポディウム亜属の植物をレウコポディウム節、グラダンディムム節の植物的に扱うと故障が起こりやすいものです。これらの2つの植物は、パキポディウムはパキポディウムでもまったく違うものだと認識した方がよいでしょう
 このページは、初心者向きの栽培解説ではありません。ある程度、植物(特に多肉植物)の栽培の経験がある人向きです。
 それぞれのグループに所属するパキポディウムが何かについては、節、亜属名のタイトルのリンクをクリックしてください。

Group 1
レウコポディウム節 Leucopodium
グラダンディムム節 Gladanthemum
 
【成長期・休眠期】

 レウコポディウム節・グラダンディムム節のパキポディウムは、4~6月頃に萌芽し、晩秋~初冬に落葉するまでが成長期で、盛夏も盛んに成長する。
 成長期には、灌水は、表土が乾いたら与えるといった頻度でよく、乾燥しやすい時期には、ほぼ毎日灌水する。成長期は、屋外で管理し、梅雨を除き雨ざらしの方がガッツリと健康的に成長する
 

【温度管理】

 レウコポディウム節・グラダンディムム節のパキポディウムは、低地の乾性林に自生することが多く、高温な気候を好む。このため、春~秋の成長期は、屋外で健康的に管理すれば、旺盛に成長し、ほとんど心配がいらない。
 一方、冬季の低温には注意しなければならず、10度程度にしておきたい。
 マダガスカル北端の熱帯地方に自生するデカリー(Pachypodium decaryi)、アンポンゲンセ(Pachypodium ambongense)は低温に弱く、落葉・完全断水で、15度以上に加温する。
 

【用土】

 レウコポディウム節・グラダンディムム節のパキポディウムは、マダガスカルの北部から南部にかけての西側の低地や台地に点在する。多くの場合、石灰岩層が多い。よって、用土としては、赤玉土をベースとし、軽石と腐葉土を加えたやや重の用土でよいが、若干の石灰分を含める方がよい。
 ゲアイ(Pachypodium geayi)やラメリー(Pachypodium lameri)、ルーテンベルギアヌム(Pachypodium rutenbergianum)、それらの変種等の大型で成長旺盛な種類については、多肉植物の用土より、一般の園芸培養土をベースにした用土を調整した方が成長旺盛である。
 

【肥料】

 成長期にはかなり肥料を好み、前述のように灌水を多くすれば濃度障害を起こしにくいので、追肥を与えて成長にアクセルかけるとよい。
 

Group 2
クリソポディウム亜属 Chrysopodium
 
【成長期・休眠期】

 クリソポディウム亜属のパキポディウムは、4~6月頃に萌芽し、晩秋~初冬に落葉するまでが成長期であるが、萌芽後新葉が展開するまで勢いよく成長し、その後は成長したり止まったりを繰り返す。
 萌芽期に花芽が伸びてくる場合は、潅水を多め管理する。乾燥させると花芽が落ちてしまう場合もある。
 成長期で、盛んに成長している時には、灌水は、表土が乾いたら与えるといった頻度でよく、乾燥しやすい時期には、ほぼ毎日灌水する。  成長期で、成長を休止しているとき、灌水はやや控えるが、完全に用土を乾燥させないようにする。成長期に用土を極端に乾燥させると、細根が枯死し休眠が始まってしまう。そうかと言ってやりすぎると根腐れする可能性もないわけではないので、初心者にはこの加減が難しいかもしれない。
 


パキポディウムは、成長期には、屋外(軒下であるが強い雨の場合はかかる)でやや遮光して管理するとよい。
【温度管理】

 クリソポディウム亜属のパキポディウムは、標高の高い場所に自生することが多く、どちらかと言うと冷涼な気候を好む。このため、春~秋の成長期は、屋外の風通しの良いところで過ごさせるのが望ましい。
 特にブレビカウレ(Pachypodium brevicaule)は標高2,000m近い高地に自生するので、特に太平洋ベルト地帯での高温期の過ごしには留意する。ただ、冷房機がいるような代物でないので、屋外で風通しがよく、照り返し、反射熱のない環境であれば、普通に夏は過ごせる。
 盛夏が高温で直射日光が激しい地方では、屋外栽培の場合遮光するとよい。
 一方、冬季は、落葉・完全断水すれば、5度程度まで耐えられる場合が多い。

低地
~中地性
ホロンベンセ Pachypodium horombense
デンシフロルム Pachypodium densiflorum
*デンシフロルムは低地~高地まで幅広い。それだけ適応性があるということ。
ロスラーツム Pachypodium rosulatum
*ロスラーツム(基本腫)は、他のクリソポディウム亜属のパキポディウムと異なり北西部の低地に産する。レウコポディウム節に準ずる栽培の方が伸び伸び育つ。
ロスラーツム カクチペス Pachypodium rosulatum spp. cactipes
ロスラーツム グラキリウス Pachypodium rosulatum ssp. gracilius
マカイエンセ Pachypodium makayense
やや
高地性
ロスラーツム エブレネウム Pachypodium rosulatum var. eburneum
ロスラーツム イノピナツム Pachypodium rosulatum var. inopinatum
高地性 ブレビカウレ Pachypodium brevicaule
 

【用土】

 クリソポディウム亜属のパキポディウムは、マダガスカルの中央山地に自生し、ほとんど珪岩、石英脈の土壌である。よって、用土としては、排水のよい軽石をベースとした一般多肉植物用の用土でよいが、石灰分は含めない。
 春~秋の成長期に、雨に当たる可能性のある屋外で過ごさせる場合は、ことのほか通気・排水がよい用土を用いる。
 

【肥料】

 盛んに成長している時には、液肥など即効性の肥料を与え成長にアクセルかけるとよい。
 

【栽培の難易度】

 以下は、私の独断によるクリソポディウム亜属のパキポディウムの栽培の難易度を示したものである。
 上にいくほど気難しく、栽培の難度は上がる。
 なお、大株は耐久力があるので無理が効くが、ふさわしくない栽培では、徐々に弱り最終的には枯れる。
 

Group 3
パルフィロポディウム亜属 Parphyropodium
 
【成長期・休眠期】

 パルフィロポディウム亜属のパキポディウムは、4~6月頃に萌芽し、晩秋~初冬に落葉するまでが成長期で、盛夏も盛んに成長する。
 成長期には、灌水は、表土が乾いたら与えるといった頻度でよく、乾燥しやすい時期には、ほぼ毎日灌水する。
 

【温度管理】

 パルフィロポディウム亜属のパキポディウムは、北部の丘陵に自生し、高温な気候を好む。このため、春~秋の成長期は、屋外で健康的に管理する。
 一方、冬季の低温には注意しなければならず、落葉・完全断水で、10度、欲を言えば15度程度にしておきたい。
 

【用土】

 パルフィロポディウム亜属のパキポディウムは、マダガスカルの北部の石灰岩層に自生する。よって、用土としては、赤玉土をベースとし、軽石と腐葉土を加えたやや重の用土でよいが、若干の石灰分を含める方がよい。
 春~秋の成長期に、雨に当たる可能性のある屋外で過ごさせる場合は、川砂や軽石の配合を多くし、通気・排水がよい用土を用いる。
 

【肥料】

 見た目よりも成長期にはかなり肥料を好む。前述のように灌水が多い時期であれば濃度障害を起こしにくいので、追肥を与えて成長にアクセルかけるとよい。
 肥料不足、灌水不足では、ひょろひょろとして貧弱に育つ。
 

共通項目
 
【灌水】

 パキポディウムの灌水の基本は、葉の状態に比例して灌水を行なうことに尽きる。

○成長期

 葉が展開している季節には、十分な灌水を与える。不足すると痩せて、更には落葉が始まる。
 屋外で晴天が続き、用土表面がカラカラに乾く時候には、排水がよい用土を用いれば、毎日灌水しても問題はない。

○休眠期の始まり(秋~冬)

 休眠期が近づき葉が黄化してくれば、植物本体と葉の間に、水や養分を遮断する膜ができているので、黄化に合わせて灌水の回数を減らして、すべての葉が黄化すれば完全に断水する。まだ、緑の葉が多くある段階で断水してしまうと、痩せてしまう可能性がある。

○休眠期

 完全に断水する。ただし、幼苗は断水期間が長いと弱るので暖かい環境で若干の灌水を行なう。


春、萌芽を始めれば、灌水開始の合図
少しずつ灌水頻度を多くしていく。
○休眠期の終わり(春)

 休眠期が終わり萌芽を始めれば灌水を開始し、葉の展開に合わせて灌水の回数を増やしていく。
 加温温室で管理している場合には、灌水により休眠から目覚めさせる方法もある。春の3、4月ごろ、一度限り十分に灌水(迎え水)する。この場合、一度十分灌水したら以降灌水せず、芽が動き始めるかどうか観察し、萌芽し始めたら、葉の展開に合わせて灌水の回数を増やしていく。
 萌芽しないようであれば、数週間程度断水し、再度試みる。

【危険信号】

 パキポディウムが健全であるとき、成長期・休眠期にかかわらず幹は固く張っている。その幹にしわが寄り、縮み、柔らかくなるのは、危険信号である。
 成長期において、このような状況になる理由は、根が水分を吸い上げられない状況になっているということである
 それは用土が乾燥しすぎても起きる。この場合は、灌水すれば戻るので問題ない。
 問題なのは、用土が湿っていても変わらないという場合である。その理由は、(灌水が少なすぎたり、多すぎたり、濃度障害を起こしたり、用土の温度が高すぎたり・・・その他の原因で)根が傷んでしまって、もはや水分を吸い上げられない状況にあるということである。パキポディウムは不定根はまず出ない。根の基部まで傷めば致命的と考えてよい。
 成長期から休眠期に向かう段階では、幹が固く張った状態で、自然に落葉させて休眠させる。へたくそに休眠に向かい幹が痩せ細った状態で休眠に入ると、そのまま休眠ではなく永眠する可能性が高い。  

【挿木】

 レウコポディウム節・グラダンディムム節のパキポディウムは、旧胚軸部分であれば不定根が出る場合があるので、条件付ではあるが、挿し木はできないとまでは言い切れない。一方、クリソポディウム亜属のパキポディウムは不定根は出ないといっていいだろう。腐らせてしまったらえぐって挿木してもダメ。
 
【病気・害虫】

コナジラミ
冬季に温室など風通しの悪い環境で大発生する白く小さい虫で、葉の裏にいて株を触るといっせいに飛びます。
べとつく分泌物を出すので、それにスス病が発生する。
薬剤の散布が必要であるが、成虫、幼虫に効果があるだけで卵や蛹には効かない。このため、数週間間隔で繰り返し、すべての植物に念入り(特に葉の裏)に散布する必要がある。
オルトラン水和剤、アクテリック乳剤を用いる。

アクテリック乳剤の使い方
コナカイガラムシ
成長点付近に発生し、成長をストップさせる。べとつく分泌物を出すので、それにスス病が発生する。
外皮により、通常の接触性殺虫剤はほとんど効果がない。
アクテリック乳剤を用いる。
基本的にコナカイガラムシの予防は至極簡単。コナカイガラムシは風と雨に弱いので、成長期には屋外の軒下などで健康的に育てるとほとんど発生しない。

アクテリック乳剤の使い方
ヒメジュウジナガカメムシ
キョウチクトウ科の植物を好んで群がり、吸汁する。
ウイルス病

葉の変形、萎縮

モザイク斑
 最も恐ろしい病気は、ウイルス病である。ウイルス病は不治の病であり、現在においても治療法はない。感染した場合、他への伝染を防ぐために、その樹は焼き捨てるしかない。
 ウイルス病は、かなり多くの種類の植物に感染が見られるが、キョウチクトウ科の植物に発生が見られることからパキポディウム属でも感染する可能性がある。
 写真は、ウイルス病と思われる症例である。ウイルスに感染すると、葉の色が緑と薄緑~黄色のモザイク状になる症状や、葉の変形、萎縮が見られる。害虫などが見当たらないのに、新しい葉においてこうした変形が継続的に見られる場合は、ウイルス病を疑う必要がある。
 ウイルス病は、アブラムシ、その他の害虫によって媒介されるほか、病樹に触れたハサミ、人間の手などからも感染する。また、種子にも感染する可能性がある。
 おかしいな?と思ったら、隔離して様子を見ることが必要、手やハサミなどで媒介するので、疑いのある植物に触れたら、健全な植物に触れないこと。
 キョウチクトウにおけるウイルス病は、キュウリモザイク病原ウイルス(Cucumber mosaic virus(CMV))とのことであり、主にアブラムシにより媒介される。なお、これはキョウチクトウの病原ウイルスであり、パキポディウム属でもそうなのかは分からない。
成長点黒化病

 成長点が黒ずみ成長が停止する。枯死まで至ることは少ないが、成長点が痛むので脇芽が萌芽し形が崩れる。ラメエリ、ゲアイ及びその近縁種にたまに発生する。
 原因がはっきりしない。ホコリダニ類が成長点を侵し、パキポの樹液が滲み出るために黒くなるのではないか?と推測している。