「おばすてやま」のお話



 むかし、年よりの大きらいなとのさまがいて、つぎのようなおふれを出した。
「60歳になった年よりは山へすてること」
 ある日のこと、60歳になった母おやを山へすてようと、せなかにおぶって山道をのぼったむすこが、母おやをのこして山を下りるころには、もうあたりはまっくらやみになっていた。むすこがとほうにくれていると母おやはいった。
「ここへくる道のところどころで、木のえだをおっておいたから、それを目じるしにしておかえり・・・」
 それをきいた男はなきながら、おろした母おやをもういちどせおうと山を下りていった。そしてだれにも見つからないように、家のゆか下へ母おやをかくしてせわをすることにした。
 それからまもなく、となりの国から
『灰でなわをなってもってこい。それができないなら、おまえの国をせめるぞ。』
と、むずかしいことをいってきた。とのさまは国中によびかけてやり方をたずねたが、だれもその方法を知るものはいなかった。そんなとき、ゆかの下にいた母おやが、
「塩水にひたしたわらでなわをなってやけばいい・・・」
と、むすこにおしえた。
 となりの国は、さらに難問を出してきた。
『玉の曲がりくねったあなに糸を通せ』
と、いってきた。やはりだれにもわからない。こまっているむすこをみた母おやは、
「あなのかた方にはちみつをぬって、反対側から糸をつけたありをいれればいい・・・」と、教えた。
 とのさまはよろこんだ。
「ほうびは何がいい」
と、いわれたむすこは、母親のことを正直に話した。とのさまはこの上なくかんしんし、これ以降、年寄りを大切にしたという。



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