幹事クリタのコーカイ日誌2006

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1月25日 ● 汗水垂らして働くことの意味。

 昨晩NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』を見ました。この番組は『プロジェクトX』の後番組。過去の業績を追った前番組に対し、こちらは現在第一線で戦っているプロたちの仕事ぶり追うドキュメンタリーです。

 昨晩はコンクールで世界一になったことがあるパティシエの杉野英実が主役。実はうちの娘が最近「将来パティシエになりたい」と言い出したので、それならと見せたのですが、娘は杉野の仕事ぶりを見ていて「やっぱりやめる。趣味でお菓子作りをする奥さんになる」と言い出しました。まあ娘の反応は予想通りだったのですが、それほど杉野の仕事ぶりの緻密さと真摯さは素晴らしいものでした。

 もっとも、我々広告制作の現場にも似たようなプロフェッショナルはたくさんいます。最終的な仕事のレベルは例え杉野に及ばずとも、「細部にこそ、神は宿る」と最後まで細部をとことん詰めていく姿勢は杉野も我々も全く変わりません。また「答えは現場にある」という杉野の言葉にも共感しました。だから娘からしてみたら「厳しそうだからやーめた」になっても、僕の目から見たら「そうそう、それこそプロの職人だよな」という感想でした。

 で、ライブドア事件です。ホリエモンが逮捕されて巷には「額に汗して働くことの素晴らしさ」を称える声が溢れています。実体のない「お金転がし」で金持ちになってもダメだ論です。気持ちはわかります。そう言いたくなるほど、世間の人々は苦労して働いている割に報われないと思っているのでしょう。そして「うまいこと」やっていたホリエモンがこけて「ザマーミロ」だと思うのでしょう。

 でも、だからと言っていきなり「汗水垂らして働こう」とプロテスタント的勤勉さを称賛するのは、やはり気持ち悪いです。「ザマーミロ」の後に「オレだったらもっと巧くやったのに」ならわかります。正直な感想です。しかし「ちゃんと働くことが一番エライ」と言うのは、どこかで気持ちを誤魔化してないか?と感じずにはいられません。そういうあなたたちは宝くじで3億円当たったら遊んで暮らそうと思っているのではないですか?それでも辛い辛いと言いながら今の仕事を続けますか?

 ちゃんと働くことが尊い、という教えは、そうしないと今の世の中が回っていかないからです。ヨーロッパにおける宗教革命と産業革命は近代化への両輪だったと歴史の授業で習いました。産業革命によって必要になった労働力の確保のために、勤勉さを教義とするプロテスタンティズムがぴったりだったのです。手抜きをせずコツコツと働くことは、工場労働者にとっては必要な資質です。しかし、工場を経営する側にとって必要なことではありません。

 高齢化や少子化が問題になるのも、フリーターやニートが問題になるのも、要は「働き手」がいなくなるからです。世の中はたくさんの「働きアリ」を必要としていて、彼らにはとにかく「汗水垂らして働くこと」こそが求められているのです。ホリエモンを見て「やっぱり起業して一攫千金狙うよりもコツコツ働くことが一番だよな」と多くの若者が思うことは、実は世の中の実権を握っている一部の年寄りが喜ぶだけなのかも知れません。ちゃんと働くことは必要ですし、行き過ぎた拝金主義とマネーゲームは諫められるべきですが、かと言ってせっかく育ち始めた起業精神まで摘み取られてはいけません。

 コツコツと汗水垂らして働くのは誰のためか?パティシエの杉野は、決してイヤイヤ汗水垂らして腱鞘炎になりながら働いているわけではなく、自分の喜びのためにケーキを作っていました。広告制作業界で働く多くのクリエーターたちも、やはり好きでやっています。何のために、誰のために働くのか、という問いを抜きにして、ただむやみと汗水垂らすことだけを押しつけるべきではないと思います。むしろ「いかに楽するか」「もっとうまくできないか」と考えるところから新しいビジネスの発想や発見や工夫が生まれるのですから。


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