マンガ時評vol.34 98/3/15号

鳥山明の退場と、冨樫義博の登場。

 少年ジャンプ復活に関して、昨年11月15日に「『COWA!』はジャンプを救えるか?」というテーマで考察をしました。その時の結論は「このままでは鳥山明はダメ、冨樫義博&井上雄彦の登場を期待するしかない」ということでしたが、早くもそれが現実になってしまいました。『COWA!』はあっさりと半年間14回(もっとも本人によると12回限定のつもりだったそうですから予定オーバーなんでしょうけど)で最終回を迎え、代わりに冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』が連載開始しました。あまりにも予想通りになってしまったことで、ちょっとガックリしているくらいです。ジャンプと鳥山明にはもう少し底力があると思ったのですがね。

 『COWA!』は何が悪かったのか?当然前回も指摘したようにキャラクターだけに頼ってストーリーに何の新味もなかったことが挙げられますが、それとともに鳥山独特の絵の魅力が薄かったこともあると思います。『COWA!』はMacを使ったのではないかと思われる絵でしたが、全体にトーンが暗いだけでそれが何のプラスαにもなっていないどころか、描線に躍動感がなく全然生きていません。見ているだけで楽しくなるような鳥山明の絵が死んでしまっていたのですから魅力は半減です。折角連載開始までに読み切りをいろいろ描いて市場調査までしたのに、一体これはどうしたことでしょう。例え鳥山本人が言うように12回限定作品で、予定通りの連載終了だったとしても、面白くなかったことには変わりはありません。これで良しとしているのなら次回作にも多くは期待できないと思います。

 それに対して冨樫義博『HUNTER×HUNTER』は、まだ始まって2回目ですが、順調な滑り出しだと思います。トレジャーやモンスターを追って旅をするリスキーな職業「ハンター」に憧れる少年を主人公に、すでに2回目で魅力的な仲間が登場しています。展開の速さはこの手のマンガのスタートには不可欠です。現在のところ設定された時代や世界が良くわからないので何とも言えませんが(多分読者の反応を見ながら徐々に設定を絞り込んでいくのでしょう)、冨樫義博得意のオカルティックさ、SF的要素こそないものの、アクション&ファンタジーとしては楽しそうな感じで期待大です。難を言えば、対象を低年齢層まで広げて狙っているのか、絵が少し可愛らしいのが気になります。彼らしい造形センスを発揮するには、もう少し「エグイ」方が良いと思います。それと徐々に同じジャンプで人気を上げてきている尾田栄一郎『ONE PIECE』と設定的に競合しそうなので、あまり内容がかぶらないようにして欲しいですね。

 さて、『HUNTER×HUNTER』も含めてジャンプでは新連載が一気に5本始まっています。簡単に評価してしまうと、期待大のAランクは『HUNTER×HUNTER』と森田まさのり『ROOKIES』。阪神タイガースの選手の名前が続々と登場する新しい学園熱血教師マンガ『ROOKIES』は、森田まさのりらしい熱さとコミカルさを併せ持っています。マガジンの人気連載『GTO』キラーとなれるかどうか。期待度Bランクは義山亭石鳥『河童レボリューション』。『幕張』や『すごいよ!!マサルさん』など、マンガ好き受けするバカバカしいギャクマンガが少なくなってしまったジャンプでは、この作品がブレイクしてくれないと苦しいところでしょう。もっとも『幕張』や『すごいよ!!マサルさん』に比べてキャラクター頼りの作品だけに、ちょっと長く引っ張るには苦しいかも知れません。あまり期待できないCランクは『ホイッスル!』と『少年探偵Q』。ダメでしょう。半年持たないんじゃないですか、今のままじゃ。サッカーマンガと推理マンガは今ジャンプが一番苦戦している分野ですから、大化けさせるノウハウもないと思います。

 さて、残るは井上雄彦がいつ復活してくるかです。期は熟していると思います。どんな新作で登場してくれるのか、大いに期待しているので、早く早く、って感じですね。それに大ベテランじゃないんだから、あまり間を置くとかえって失敗しちゃうような気もするし。