マンガ時評vol.26 97/11/15号

『COWA!』はジャンプを救えるか?

 1年以上前からこの日が来ることは予想されてはいましたが、とうとう少年ジャンプが少年マガジンに部数で逆転されてしまいました。かつて「お化け雑誌」と言われたジャンプが、遂に普通の雑誌に戻ってしまったわけです。もっとも部数的に減らしているとは言え、相変わらず400万部を超えているわけですから、ある意味ではマガジンの健闘をこそ称えるべきなのかも知れません。

 とは言え、やはりピーク時よりも3割も部数を減らしているジャンプとしては、当然巻き返しを図らなければならないわけで、この1年間にもいろいろな手を打ってはきました。しかしカラーページを増やしてみたり、大物作家に次々と読み切りや短期連載を描かせてみたり、あれだけゴタゴタした『BASTARD!』を本誌に戻したりしても、やはり流れを引き戻すには至りませんでした。そして、とうとう部数挽回の本命として登場したのが、鳥山明の『COWA!』です。『Dr.スランプ』『ドラゴンボール』でジャンプ独走時代を引っ張った、いわばV9ジャイアンツにおける長嶋茂雄か、シカゴブルズのマイケル・ジョーダンか、という存在の鳥山明が満を持して登場させた新作です。しかも、『ドラゴンボール』終了後、いくつか読み切りを発表しながら、どのあたりに3つめの金脈があるのかを探りながら始めた連載なわけですから、ジャンプとしても鳥山明としてもかなりの自信作だと思います。

 で、この『COWA!』、基本的なパターンは『Dr.スランプ』のようなファンタジー・コメディです。お化けと人間が共存する村での、どうと言うこともない可愛らしい物語です。ここまで3話ほどは、まだキャラクター紹介の域を出ていないので、現時点であまり決めつけて評価を下すのも早計だとは思いますが、それでも敢えて言いたいです。このままなら全然ダメでしょう。下手するとジャンプを救う優勝請負人かと思われたのに、清原並の戦犯扱いされてしまうかも知れません。何がダメか。まず感じるのは、『Dr.スランプ』の二番煎じにしか見えないところです。しかも二番煎じらしく、味が薄くて香りも少ない。スピード感、ぶっとび感、爽快感、ドキドキ感、はちゃめちゃさ、ちょっとHな味付け、全て『Dr.スランプ』には及びません。可愛いだけで子どもっぽいし、とんがった所もないし。今のところ『COWA!』で目立つのは可愛らしいキャラクター造形だけです。もちろん可愛いデザインのキャラクターは確かに、今後マンガがヒットした時にグッズ展開に有利でしょう。しかし、そんな計算だけで面白い作品が生み出されるわけもありません。鳥山明は『ドラゴンクエスト』のキャラクターデザインの仕事で儲けすぎてしまったのではないでしょうか?

 もちろん最初に断ったように、まだスタートしたばかりですから今の段階で判断するのは早計かも知れません。しかし、このまま進んでいくのであれば、決してヒットするとは思えませんし、とてもジャンプを救うこともできないでしょう。そして、もう僕の次なる期待は井上雄彦と冨樫義博に向いています。井上は今『BUZZER BEATER』だけのようですが、以前にも書いたように、これはあくまでも実験的作品に過ぎないと思います。『SLAM DUNK』の続編が始まるのか、それとも全く新しい作品で登場するのか、とにかく早く本誌に新作を描いて欲しいと思います。また冨樫は『レベルE』が終わってしまいましたが、あの面白さは改めて彼の才能の大きさを感じさせました。『幽遊白書』は『ドラゴンボール』同様、最後は作家の意図しないカタチで引き延ばされて、あんなカタチで終わってしまいましたから、今度こそキチンと描かせてあげて欲しいですね。ともあれ現時点で考えられるジャンプの救世主はこの2人のような気がします。