マンガ時評vol.9 97/2/20号

ベルバラの再掲載はマンガの終末への序章か。

 なんと「女性セブン」が、あの池田理代子の名作『ベルサイユのバラ』の再掲載を始めました。20年以上も前に大ヒットした少女マンガの王道的作品が、今になってゴシップ系女性誌に復活した。それも書き直したのではなく、昔のそのままのカタチで。これは一体なにを物語っているのでしょうか。

 少女マンガの衰退については、この稿の第1回でも言及していますが、とにかくかつてのようなパワーや影響力がなくなっていることは確かです。今や少女マンガはヒロイックファンタジー以外にヒットは生まれにくく、そのヒロイックファンタジーは全然すそ野に広がりがありません。そして、もっと言えばマンガというジャンル自体が、実は最近パワーを失いつつあると考えられます。今、子どもたちはマンガ読むよりゲームをします。パソコンで遊びます。ヒロイックファンタジーしかヒットしないのは、それがゲームの世界に近いからです。新しいマンガ雑誌が創刊されても、結局生き残っているのはゲーム系出版社のものばかり。今や子どもの文化の中核はマンガからゲームに取って変わられてしまっています。

 そんな環境の中、現在の出版マンガ文化を支えているのは、実はマンガの黄金期を子供時代に体験した昭和30年代、40年代生まれの大人たちです。『あしたのジョー』や『ドカベン』や『エースをねらえ!』や『はいからさんが通る!』で育った世代が、今でもマンガ文化を下から支えているのです。彼らにとってマンガは、まさに夢の投影でした。明るい未来への物語でした。夢を失い未来への希望を持てないと言われる今の子ども達とは違うのです。あの頃は子ども達は皆、この先には豊かで楽しい未来が待っていると信じていました。『ベルサイユのバラ』は、そんな世代にとって、まさにバイブルのような作品です。そこには少女マンガの全てがあります。夢が、希望が、恋が、友情が、信頼と裏切りが、笑いと涙が、少女たちが望むもの全てが描かれていたのです。

 そして今、そんな奇跡のような作品しか「女性セブン」を、その読者たちを救えないのだとしたら。新しいマンガでは、もはや女性達を満足させられないのだとしたら。これはもうマンガ文化が下り坂に入ってしまったことの証明だと思います。かつてのジャズのように、気がついたら年配者しかファンがいないジャンルの趣味へと、このまま少女マンガは静かに移行していってしまうのでしょうか?不安感が広がるベルバラの再登場です。