形が大切

さぼさぬけ

「わたし、丸いおにぎりって許せないのよ」
 涼子はぷうっと頬を膨らましていった。空は少し雲が多かったが、ピクニックには悪くない天気だった。時々雲の隙間から顔を覗かせる太陽が、こちらを羨ましそうに伺い見ているように涼子には感じられた。
「そうなの? 僕の家は幼稚園からそうだったよ?」
 達也は自分の持ってきた弁当を指さしながら言った。
「だって必然性がないんだもの。普通おにぎりって、にぎったらさんかくになるじゃない?どうしてわざわざ苦労して丸くしなきゃいけないの?」
「そりゃあ、見栄えがいいからじゃないの?」
「食べにくいじゃない。それに、持ち歩きにくいわ。さんかくの方がずっと合理的。なんで、みんな丸いおにぎりなんか作ってくるのかしら」
 そう言って、涼子はおにぎりにかみついた。
「うーん、あのさ、結構簡単なんだよ、丸いおにぎりって。僕も作ったことあるもん」
「嘘」
「本当だよ。サランラップに来るんでさ、振り回すの」
 彼女は目をおにぎりみたいに丸くした。
「そんな方法があったの?」
「うん」
 達也がうなずくと、涼子は目をおにぎりみたいにした。
「そんな事、知らなかったんだもの。私の今までの苦労は何だったのよ」
 涼子の目は、さんかくだった。

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