サントリー商品開発研究所 ビール開発研究所長 川崎氏

日経産業98-10-23。サントリー ビール開発研究所長 川崎恭嗣氏(47)。75年東大農学部を卒業してサントリーに入社、一貫してビール畑を歩む。「ビールほど研究しつくされた酒はない」という。様々な麦芽とホップを組み合わせ、5リットルの醸造タンクで出来映えをみる。おいしければ100リットルタンク、さらに成功すれば千リットルタンクへと段階を踏んでいく。87年には、中国で新工場の立ち上げに携わった。「原料選びから製造法までビールの基礎を1からおさらいした。」この経験は「どこをどうすれば、どういう結果になるかという制御パラメーターを全て手に入れた」と言い切る自信にもつながっている。その一方でこれまでの研究で説明がつくのは「ビール全体像の3割だけ」ともいう。
 川崎氏が思い描く理想型には2つの方向がある。1つはのどの渇きを止めるさっぱりとした飲料。「その結果が発泡酒のスーパーホップスになった」と語る。もう1つ、究極の理想型と位置づけるのが、麦のうまみを真っ正面から味わう濃厚なビール。「色や香りを無理に付けず、麦芽と酵母を素直に引き立てる」タイプ。ある程度の目処はついていた。通常より麦芽の使用量を増やし、熟成期間をたっぷりとればいい。ただ高コストで商品として成り立ちにくい。
 技術向上と消費者の需要喚起の観点から、採算性を度外視したビールを作ってみようという動きが社内で出たのはちょうど1年半前。「十年以上夢見ていたチャンスがやっと巡ってきた」と小躍りした。
 麦芽は出来のいいデンマーク産と仏産を多くブレンドし、ビールの主力銘柄「モルツ」の1.5倍の量を使った。雑味となる澱(おり)を除きやすくするため、マイナス1度という温度管理を徹底し、通常よりながい1ケ月半の熟成期間をかけたのが「贅沢熟成」
 「妻と子供を2で割ったのがビール」という。「愛情にこたえるが、こちらのわがままはなかなか聞いてくれない」存在というわけだ。

サントリーの98年12月期のビール部門の売上高は前期比12%増の2441億円と3期連続の増収見通し。売上高は伸びているが利益は赤字の模様。同社は部門別損益を明らかにしていないが、償却費負担や販売促進費の増加で、ビール部門は営業損益段階で赤字の状態。洋酒と食品部門で大きく稼ぎ、他部門の赤字を埋めているとか。
 ただその営業赤字も近年は縮小傾向で「仮にビール部門を分社化したら新会社の赤字はごくわずか」(深井汪常務)という。「モルツ」「スーパーホップス」に絞り込んだ結果、コスト削減が進んでいるようだ。

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