アサヒ神話崩壊か

日経産業99-11-12。99ー10月のビール・発泡酒出荷数量(課税ベース)で、アサヒが96年8月以来、38ケ月ぶりに前年同月比を割り込んだ。これを「アサヒ神話崩壊」の始まりと決めつけるのは早計だろう。ただこの裏には「誤算」と「打算」があった。
「製品ができているのに出荷できないなんて、本当にバカげた話。大失態もいいところだ」とアサヒ幹部は吐き捨てる。新製品「WiLLスムースビア」は2度にわたって発売延期となった。このWiLLは業界のp垣根を超えた新たなマーケティング手法が発売前から話題となり、アサヒは年内目標を当初の30万ケース(1ケース大瓶20本)から10月初めには倍増の60万ケースに上方修正し、更に百万ケースにまで目標を高めた。
ところが、アサヒにとって一つの誤算が生じた。全国一斉発売ができなくなるほど初回受注が伸びたのだ。生産が間に合わないなか、当初予定日に発売を強行したら店頭で売り切れが続出という事態を招く。このため当初は10月22日の全国発売を予定したが、同日に首都圏や近畿圏など第1次地区で発売、11月13日に四国や九州など第2次地区で発売することにした。それでも生産が追い付かず、最終的には1次地区の発売日を10月28日に再延期した。この結果、WiLLの10月出荷は28万ケースにとどまった。また製品ができているにもかかわらず、2次地区向けとして工場内で抱えた在庫は25万ケースにのぼった。
またWiLLの混乱はスーパードライにも影響した。WiLLの生産は西宮工場で行ったがその分スーパードライの生産を落としており、「通常通りスーパードライを生産していれば全量を出荷でき前年割れは免れたはず」とか。
業界内では「アサヒは実売ベースでは数ケ月前からすでに前年割れを起こしており、特約店(卸問屋)などの倉庫に押し込むことでなんとか出荷数量をプラスにしていた(ライバルメーカー幹部)との声も聞かれる。当のアサヒは「前年割れは残念だが、スーパードライ人気にいささかの陰りもない」と胸を張る。強気の背景には前年割れはしても、前年同期比でみたシェアは伸びているという事実がある。
業界内ではアサヒの強気の姿勢から2つの打算を読みとる向きがある。
一つは、市場が低迷するなか、なるべく目立たない形で記録をストップさせる意志が働いたとの見方だ。「全社共通して悪いのだから、アサヒも仕方ないと消費者に思わされるには10月はタイミングが良かった」というもの。もう一つはアサヒの「死んだふり説」。10月は無理に出荷数量を積まずに在庫を一掃することで「11月以降に再び出荷数量を伸ばし、飛躍しようとしているのではないか」との見方だ。ビール市場で首位のアサヒも、ビールと発泡酒の合計ではキリンの後塵を拝してしている。アサヒがいったん死んだふりをした上で、ビール・発泡酒合計での首位捕りに動く。業界ではこんな疑心暗鬼が渦巻いている。

・・・私は、アサヒの99ー10月の出荷量が結果的に減少した理由は以下の2点とみる。 (1)10月は例年の「押し込み」の谷間であった。つまり、適正な在庫調整を行う月であったこと。
(2)WiLLの出荷延期が誤算であったこと。
確かに、アサヒはビール・発泡酒での首位奪取を目指しているだろうし、おそらくその目標は2000年1月であろう。 これはキリンの出荷が例年1月は年末の出荷の影響でやや抑え気味になるため、アサヒに首位を狙えるチャンスがそろうからである。ただ、今回の10月の出荷はアサヒ自身のもくろみをやや下回ったのではないかと予想する。

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