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                 2005/12/20

  性格は自分を守り生きるための戦略 


1 性格とは「自己防衛生存戦略」である

                        
 
人間の身体の仕組みを知れば、生命を守るために機能してい
ると分かります。また、生命を維持させるため、さらには無事
に死に到らしめるためにさまざまな機能が備わっています。
 そうなると、人間の心も、身体の機能と同様に、まずは自分
を守るように機能していると考えられます。それゆえ、当エニ
アグラム性格学では、「性格とは自己防衛生存戦略である」と
分かりやすい説明の仕方をしています。

 ところで、「心(性格)の座」である脳は、生命体としての
自分を守るために、外部情報を取り入れる装置と機能が働いて
います。音や声などをキャッチするもの、物の形や色などを識
別するもの、温度や匂いをキャッチする感覚器や受信機などが
さまざまな機能が備わっています。

 その働きも、基本的にはまず、自分にとって安全か危険かを
察知したり判断することです。または自分に必要なものか、不
必要なものなのかを判断する機能も備えられています。次に、
インプットした情報を処理して、その情報に見合った反応を起
こし、命令していくアウトプットの働きがあります。



2 危険か安全かを判断する機能「性格」

 心の機能は自分を守るようにできています。ですから「性格」
には、そもそも危険か安全かを判断するための基準となるもの
が備わっているはずです。

 たとえば、友人が車で迎えに来てくれることになっていると、
友人の車を確認しようと車道に出ることがあります。そこに、
他の車が急に近づいて来ましたが、ぶつかるかもしれないと怖
くなって歩道に引き返すかもしれません。しかし、人によって
は、ぶつかるとは思わず、そのまま車道にいるのかもしれませ
ん。
 
事例:1

インプット   判断 処理  アウトプット  →タイプの例
感覚器で
得た情報
A危険物が迫る→
B危険ではない→
a避けよ     
b避けずともよい→
’歩道に退け   →タイプ1
b’車道にいてよい→タイプ8 

 
 実際、同じ対象や状況が、ある人間にとっては危険なものにな
り、ある人間には少しの危険となり、またある人には危険では無
いと判断されています。元々に「判断基準の違い」が備わってい
ると考えられるところです。

 上記の表では大別して2つに別けてますが、上記の中間地点に
いて、どちらがよいのかすぐに判断できない人が実際にも存在し
ます。たとえば、行動タイプ(8・9・1)だけで比較した場合、
タイプ1は「A→a→a’」になりやすい気質の人たちです。タイ
プ8は「B→b→b’」になりやすい気質の人たちです。

 タイプ9は、そのどちらでもなく、多勢に従う人たちです。そ
れゆえ、「調和タイプ」とも呼んでおり、「世界とともに在る」
ために、人々とともに行動できる協調性のある気質の人たちです。
周囲にいる人たちと同調する傾向がくっきりと見え、かつ優柔不
断なところも有ります。


3 共通の価値判断もある

 ところで、未開人は自動車が走っているのを初めて見ると、猛
獣と似ていると判断して恐れるかもしれません。(「未開人」な
るものが現在の地球上に存在しないかもしれませんが、ここでは
「未開人」がいると仮定して説明します)

 一方、文明人には生まれて初めて見る大きな動物「O」は、強い
恐怖心を抱かせるものとなるかもしれません。ですから、文明人
が自動車に対して共通の認識と理解を持っているのに対して、未
開人にとっての自動車は得体の知れないもので、恐怖心を煽るも
のになり得ます。
 同様に、ある未開人たちにとっては子どもでも恐れないおとな
しい動物である「O」は、文明人にとってはおとなしい動物と直ぐ
に判断できません。まずは恐れたり遠巻きにしたり避けるのでは
ないでしょうか。
 

事例:2
文明人→自動車自体は危険なものではない→初めて見る動物Oは危険なもの

未開人→初めて見る自動車は危険なもの→動物Oはおとなしく危険ではない

 これは、所属する人間集団の違いによって、恐怖を抱かせる対
象が異なることを指しています。私たちは同じ社会集団の一員と
して社会生活を営むときに、共通の理解のもとに共通の価値判断
をしているので、同じような情報処理をして同じような行動を起
こしています。
 しかし、属する社会的な集団が違えば、情報処理の仕方が違っ
てきます。



4 タイプとしての差異、個人としての差異

 ところで、もしも、どんなときも全てにおいて共通の理解があ
り共通の価値判断が働くならば、人間たちは一斉に同じ行動をと
ることになります。しかし、現実にはそんなことはあり得ないこ
とです。

 例えば、自動車がスピードを上げて走っている時は、「危険であ
る」と、誰もが認識するでしょう。しかし、スピードの速さを観て、
ある人物は危険な状態であると判断しますが、ある人物は危険では
ないと判断することがあります。つまり、この違いが、性格の違い
なんです。価値判断の違いや危険に感じる度合いが違うので、気質
(性格タイプ)が違うということになります。

    

事例:3
・タイプ1のLさんは、時速80キロは危険な速度と感じる

・タイプ8のMさんは、時速80キロは危険な速度ではないと感じる  

                       
 しかし、さらによく見ていくなら、置かれた環境や経験によって
価値判断の違いや危険と感じる基準の違いが派生してきます。たと
えば、トラックの運転を毎日の仕事にしている人のスピード感覚と、
めったに自動車に乗らない人の感覚には差があると考えられます。
危険を感じる基準も変化してくるでしょう。

事例:4
タイプ1のペーパードライバーMさんは時速60キロでも危険速度だと感じる

タイプ1でトラック運転手Nさんは、時速80キロは危険速度ではないと感じる
  

 従って、性格タイプ(気質)が、同じタイプ1であっても、置か
れた環境や経験や知識などといったもので、危険度を感じる判断基
準が違って来ます。私たちは顔が一人ひとり違うように、一人ひと
り固有の価値判断をして、それを基に一人ひとり固有であり、バラ
バラの行動をしています。ですから、当然にその他の物事の捉え方、
受け取り方なども判断の違いがあります。 

 事例の3と4にある「タイプ8のMさん」と「タイプ1でトラック
運転手Nさん」は、ともに時速80キロ程度では怖くは無く、危険なス
ピードではないと認識しています。しかし、事例:1では、タイプ1
とタイプ8ではまるで違う判断をしています。つまり、タイプ1とタ
イプ8の違いは、事例1にもなり、事例2にも成り得ます。どちらも
正しいのです。

 そして、タイプ1がカーレーサーになりたいと訓練を積めば、スピ
ードへの恐怖心はコントロールされて、それに関してはタイプ8を圧
倒するでしょう。怖がりな気質であっても、そこにおいては怖がりだ
とは言えなくなるのです。

 なお、このようなことは、実は、どのような一面からも有り得るこ
とです。タイプ1とタイプ8を単純に比較したならば、タイプ1のほ
うが怖がりな気質です。しかし、それに当て嵌まらない人たちが存在
します。そして、人の性格というものが簡単に分かるようで、なかな
か分かりづらいのはこのような事例があるためでしょう。しかしなが
ら、この一面だけでタイプ判定をすることはありません。

 

5 「火」を怖がらない幼児、火を怖がる動物  

 さて、何を恐怖と感じるか、その違いが性格であるとするなら、人
間とその他の動物には大きな認識の違いがあります。例えば、「火」
に対する認識の違いがあり、人間では幼児でも、火を怖がらないとい
う性質があります。それはどうやら生まれた時から持っている「生得
的」な機能のようで、それによって価値判断していると考えられてい
ます。

 それ以外ならば、人間の幼児は大人から教えられてもいないのに、
鏡に写った自分を認識できるようです。鏡に映った自分を怖がりませ
ん。しかし、人間以外の動物は恐怖に感じるようであると言われてい
ます。最近は、類人猿も鏡に映った自分を認識できるようで怖がらな
いと分かって来ましたが。

 しかし、これは一般的な場合であって極端な例を上げるなら火事に
遇って家族を亡くし、自分も大怪我をした経験があるならば、火を恐
れるかもしれません。 
 
                   
 

事例:5     
猿や狼など動物は共通に「火」というものを判断できず危険だと見る。

人類は共通に「火」自体を危険なものだと見ていない 

           
事例:6 
火事による人身事故に遭い大怪我を体験したT君は異常に火を怖がる

火による事故に一度も遇ったことのないR君は火を少し見くびっている


 
事例:5は、生得的に備わっている価値判断ですが、事例:6は
体験によって、判断の仕方が変化したことを意味しており、それは
事例:4でも明らかです。



6 生まれ持った気質の比重は大きい

 人の性格は、全て後天的に形成されるものという考え方をする
人もまだいるようです。全てではないが後天的な部分が大きいと
考える人は、依然として多いようです。
 しかし、エニアグラムでタイプ判定ができるようになれば、性
格とは、生得的(先天的)なものの比重が圧倒的であると理解で
きましょう。

 たとえば、タイプ1がカーレーサーになり、スピードへの恐怖
心が減っても、怖がりな気質が根本的に無くなることは有りませ
ん。会議の場で、タイプ8の男性が仕切っている時に、自分の考
えと違うので、ノーと言いたいことが起きるかもしれません。勇
気を出して言おうとしても、タイプ8に対抗して自分の考えを押
し出すことはできないだろうと予想します。

 タイプ8を抑えて、タイプ1が仕切るなどもほとんど可能性が
ないだろうと予想しております。このタイプ8が女性の20歳で、
タイプ1が男性でかつ20歳くらい年上であっても、可能性は低い
と言えるくらいです。それくらいの違いがあります。

 タイプ1が柔道家になり、タイプ8が柔道を知らなければ、投
げ飛ばすことはできるでしょう。しかし、人間関係においては、
堂々としてボス然としたタイプ8に、対抗できないのです。

 従って、訓練して力強くなったためか怖がりに見えなくなるこ
とはありますが、依然として変わらず、また変わりにくい性質の
ほうが多いと考えられます。

 タイプ判定が正確にできるようになると、表面的に見えている
部分とは違い、気質というものが圧倒的に人間関係を動かしてい
ることがクッキリと見えます。それゆえ、タイプ判定ができるの
であり、気質の割合が少なければ、タイプ判定など到底覚束ない
ものです。

 現在では、実際の人間関係の取り方を観察していなくとも、書い
た文章からタイプ判定ができます。ホームページを読むだけでも、
公式的なことしか書かれていないサイトでも、判定できるようにな
りましたが、大量のタイプ判定を続けて来たお陰かもしれません。
しかし、圧倒的に気質の占める割合が多いために、露骨にタイプが
浮き出ていると考えられるところです。 


7 DNAに書き込まれているもの
 

 “恐怖”や“脅威”などといったものは、生物にとって、その行
動を決定づける最大の要因になるものです。また、“火”や“鏡の
中の自己像”を、幼児はなぜ怖がらないのかまだ解明されていませ
んが、遺伝子情報の中に既に組み込まれているのではないかと考え
られています。

 なお、動物たちは自分以外のある種の動物を怖がるのに、別のあ
る種の動物を怖がらないでいます。それが学習によって区別できる
ようになったのか、生得的認識なのか、動物によってさまざまです。

 しかし、学習したのではない、生まれ持った認識や、生まれ持っ
て特定の動物を恐れることがあり、恐怖あるいは危険を回避するた
めにある特定の行動パターンを取ることが多いと解明されつつあり
ます。それらの例を挙げるのはここでは省きますが、動物行動学や
社会生物学によく取り上げられていますから、興味のある方は読ん
でみてください。


 本能行動と言われるものは、鍵と鍵穴のように特定の危険には特
定の行動プログラムが働くようにセットされているものが多いよう
です。“恐怖”に関連する認識や価値判断の基準などは生得的なも
のが多く、それは遺伝情報として組み込まれているものだと考えら
れるのです。また、生物が進化すると行動プログラムも進化すると
考えられています。


8 種保存と個体間競争に打ち勝ち、生き抜く戦略


 
そして、人間のように群れをなして生きる動物は、群れ全体の行
動を合わせ協力し合い、群れの中で役割を分担していく必要があり、
群れが一斉に同じ行動を取るとかえって危険度が増します。

 従って、生き延びるための行動プログラムを幾つかに別けていた
方が良いでしょう。また、全ての本能行動は、全て合目的的に作ら
れているようだと分かって来ていますから、私たちの中にある本能
的にセットされている行動プログラムを見つけることが、心の構造、
ひいては性格の根源を見つけることになると考えられます。

 さて、エニアグラム性格学では、「九つの行動パターンがある」
と発見しており、以下のように解析しています。なお、これらは基
本理論の中の3つ目の理論として既に公表しているものです(以
下のアドレス)。
 
 
  
http://www.mirai.ne.jp/~ryutou-m/eneagram/static/theory3.htm


     
 9タイプの根源にある行動プログラム

タイプ8 自分の所属する群れの中にいて、あらゆる危険に対処できるように力
をつけて強くなっていれば、群れと自分を守ることができるという行動
プログラムを持つ人たち。
 ☆タイプ8=敵から自分や仲間を守れる力強さがないと危険だ!
タイプ2 自分の所属する群れの中にいて、自分が率先して仲間を守る行動を
起こしていけば、群れと自分の身を守ることができるという行動プログ
ラムを持つ人たち。
 ☆タイプ2=仲間を助けないと次に群れと自分が危険だ! 
タイプ5 自分の所属する群れの中にいて、あらゆる危険を予測して対策を練る
ために、あらゆることを知っていれば群れと自分を守ることができると
いう行動プログラムを持つ人たち。
 
☆タイプ5=あらゆる事を知っていないと危険だ!
タイプ3 自分の所属する群れと一緒に行動して、群れ全体の行動から外れな
いように注意を働かせ、群れの中で目立って有能であると敵に警戒さ
れるので、自分の身を守ることができるという行動プログラムを持つ人
たち。
 
☆タイプ3=目立たず無能だと見られていると危険だ!
タイプ6 自分の所属する群れと一緒に行動して、群れ全体の行動から外れな
いように注意を働かせ、状況に合わせて小刻みに変化して、敵を惑
わせて混乱させれば、自分の身を守ることができるという行動プログ
ラムを持つ人たち。
 
☆タイプ6=他人を惑わせ混乱させないと危険だ!
タイプ9 自分の所属する群れと一緒に行動して、群れ全体の行動から取り残
されないようにいつも同調し、群れの誰からも攻撃されないように目立
たず調和すると自分を守ることができるという行動プログラムを持つ
人たち。
 ☆タイプ9=仲間から離れると目立って危険だ!  
タイプ7 自分の所属する群れの中で一緒に行動しつつも、早め早めに危険を
察知して素早く逃げられるように、いつでも身軽で、逃げ道や逃げる方
法を読まれないように予測のつかない動き方をすると、自分の身を守
ることができるという行動プログラムを持つ人たち。
 
☆タイプ7=逃げの行動パターンを読まれると危険だ!
タイプ1 自分の所属する群れやそれを率いる指導者たちに教えられたいつも
通りの行動をして、少しの危険もあらかじめ避けていれば、自分の身
を守ることができるという行動プログラムを持つ人たち。
 
☆タイプ1=いつもと少しでも違う行動をすると危険だ!
タイプ4 自分の所属する群れの中で行動をともにしつつも、群れの誰よりも危
険を早く感知して、素早く逃げてうまく身を隠したなら自分の身を守るこ
とができるという行動プログラムを持つ人たち。
☆タイプ4=誰からも見つからないよう自分をうまく隠さないと危険だ!

 
9 最後に

 どのタイプも、生きて行くための方法を持っているようです。生
き抜くための戦略を生得的に持っているのですから、誰もが死ぬま
では生きられるようにできています。

 しかしながら、自分は強いと思っているタイプ8でも、力強く生
き抜くことができないかもしれません。上昇指向が強いタイプです
が、成功しないままに生涯を終えることもあるはずです。一方、自
分を弱い人間だと思っているタイプ4がいたとしても、社会的に大
成功を収めていたりします。

 成功するにしてもしないにしても、どちらにしても生きるための
方法や能力を、全タイプが、また全ての人たちが生得的に持ってい
るんです。これらの戦略は、完璧なものでは有りませんが、それは
どのタイプにとっても同じです。

 どのタイプにも弱点はあり欠点があるからです。従って、全生物
が生きられるだけの充分ではあるが完璧ではない戦略を持っている
に過ぎません。なお、これに関連することは、以下のところで、も
う少し詳しく説明しています。

     http://www.mirai.ne.jp/~ryutou-m/eneagram/active/page14.htm

 「自分は生き辛いタイプに生まれた」と嘆く人がいます。それは、
自分という人間を知らないからではないでしょうか。
自分を知ると
は、自分がどのような生存戦略を持っているのか十二分に理解する
ということです。そこで初めて自分らしい生き方とは何か分かるの
ではないでしょうか。そして、自分という戦略をより効果的に活用
できる戦術を見出した人が、真の意味で強い人間になれるのではな
いかと予想します。