上級者理論               


       
「自分」というフィルター 

         ……ユクスキュルから学ぶ「世界の見方」……

  自分には、自分というフィルターが掛かっています。私たちはフィ
ルター越しに世界を見ているので、フィルターを変えたら、それまで
と違う世界が見えるはずです。
 そして、私たちは人間は、どうやら特殊なフィルターを装填してい
る動物のようです。しかし、生まれつき装填されているものなので、
特殊だとは気づきません。それどころか、フィルターを掛けているこ
とさえ気づいていないのです。それに気づかなければ、違う世界が
あることを知り得ません。
 例えば、動物たちにも「自分というフィルター」が掛かっています。
そこで、動物に掛かっているフィルターを知れば、ヒト族も自分に掛
かっているフィルターに気づくかもしれないと考え、ご紹介しようと
思います。       

              
      
1 フィルターの違い 

 人間は、自分たちこそ、一番進化した優秀な動物だと考えている
かもしれません。しかし、犬のように嗅覚が発達していません。もし
も、犬のような嗅覚器を装着したら、世界は臭いに満ち溢れている
ことを知って、驚くに違いありません。
 例えば、帰宅したら3時間前に知らない人物が家中を徘徊していた
と臭いで確認できます。どうやら泥棒に入られたと分かります。臭い
をたどっていけば、犯人を発見できるかもしれません。また、犬くら
いの嗅覚器を備えていたら、道を歩いていても、虫や鳥、花や樹木
の臭いで、むせ返るほどだと分かるでしょう。

 もしも、コウモリのように超音波を出して、自分を取り巻く環境を
キャッチする能力があれば、夜でも自由に行動できます。そうなると
街灯は不用になるかもしれません。車にライトを付ける必要もありま
せん。もっとも、人間たちは超音波の原理を利用してレーダーを発明
しています。現在では、レーダーで魚群を感知して、漁獲できるよう
になりましたが。

 さて、モンシロチョウは、メスの羽の色(紫外線と黄色の混ざった
色)を認知できます。紫外線をキャッチできるので、メスを見つけ出
して交尾できるのだそうです。人間はモンシロチョウのようには紫
外線を感知できないので、海や雪山で紫外線を多量に浴びても気
づきません。夜になって眼がやられたと気づいても遅いのです。
 もしも、紫外線を感知できたなら、今は紫外線量が多いようだか
ら外出を避けようと考えられますが。もっとも、現在では、紫外線カ
ットの化粧クリームや眼鏡だけでなく、帽子や洋服さえもありますが。


2 感覚器の違いで行動が違う 

 人間は視覚と聴覚が発達していますが、ある動物は、嗅覚や触
覚が明敏でよく発達しています。鳥も視覚と聴覚が発達しています
が、人間よりも鋭くて、遠隔地の音源でも捜し当てられます。

 その他、赤外線をキャッチできる感覚器を持つヘビがいます。磁
力線のような電場を張りめぐらして獲物を見つける魚がいます。動
物たちも、それぞれに特殊なフィルターを持っており、人間以上に
優秀な能力を持つ動物は、数え上げられないほどです。 

 動物行動学者であるニコラス・ティンバーゲンは、さまざまな試み
をして、動物の行動を調査しました(1951年)。
 繁殖期にいるメスのドケウオが、オスの巣に近づくと、オスはジ
クザクダンスでメスを迎えます。しかし、他のオスが来ると威嚇しま
す。どうして、オスとメスを見分けられるのか、彼はいろいろに実
験して調べたようです。
   
 分かったことは、オスの魚は、繁殖期のメスを判別する場合、「丸
く膨らんだ腹」であれば良いらしいことです。いい加減な人工の作り
物でも、腹さえ膨らんでいたら、メスと認識すると分かりました。な
ぜなら、オスは、メスに対してなら、ダンスしながら出迎えるからで
す。仲間のオスは威嚇するべき対象ですが、たとえば、水槽の脇
には窓があり、この窓の外を通り過ぎる赤い郵便車に向かって威
嚇したようです。

 つまり、下面が赤ければ、魚類でなくとも威嚇するのです。メスと
は、ただ「丸く膨らんだ腹」であり、オスとは「下面が赤い」ものと
いうだけで、それしか認識できず、それだけのフィルターを持ってい
るに過ぎないのです。生きて行くには、それで十二分に間に合って
いるようなんです。 
     
          
3 感覚器がなければ認識できない 

 動物行動学者・レットヴィンは両生類に関する実験をして、カ
エルの眼には、世界はどのように映っているのか調査しています。
どうやら、ある特殊な物体にはよく反応して、自分とは無関係な
ことには反応しないようです。
 簡単に言うならば、「餌と危険物」からの刺激だけにしか反応し
ません。昔から、「カエルの面になんとか」と言われていますが、
まさに、その通りの結果が出ています。

 また、カエルの目の前に、緑の窓と青い窓を並べておくと、怖
じ気づいたカエルは、85%の割りで、青の窓に向かって飛び込
むようです。カエルにとって、緑が草むらだとしたら、青は水中
なのです。危機時に瞬間的に選択するのは、青色であり、青に強
く反応するようです。
 こうした実験から分かって来たことは、動物たちは生きていく
ために必要な感覚器だけを装着しており、不必要な感覚器は装着
していないということです。必要最低限だけ装着していると分か
って来ました。
 さて、人間にも、耳という感覚器が無かったら、物音や音声な
どを認識できません。ですから、ある感覚器を装着していなかっ
たら、ある物や物事は認識できません。私たち人間を認識できな
い動物ならば、人間などという存在は、彼らには無いに等しいの
です。
                           
 そうなると、私たち人間の感覚器も、人間が生きていくために
必要なものだけだと考えられます。


4 ありのままに世界を見ていない

 このように、それぞれの動物たちが、それぞれの異なる感覚器に
よって、独自の環境世界に住んでいます。それを、「それぞれ固有
の環境世界に閉じ込められている」と言ったのは、ユクスキュルで
す。

 動物行動の研究をしていたヤーコプ・フォン・ユクスキュルは、
1934年に「生物から見た世界」というタイトルで、友人と共著
を出しています。

 例えば、ハエは50センチ以上先は見えないので、見えなければ、
その世界は無いに等しいという説明です。ワニは動いているものし
か認識できないので、人間も動かなければ存在しないことになり襲
われることはないと説明しています。
 ついでに、イヌは色を認識できないので、盲導犬にとって交通信
号機は無きに等しいものだとよく知られています。

 ユクスキュルは、ダニから見た世界、ハエから見た世界なども説
明しており、人間たちとは違う世界にいることを、さまざまに分か
りやすく図表なども示して教えてくれます。興味ある方はお読みく
ださい。以下のアドレスに詳しく紹介してくれています。

http://www.hss.shizuoka.ac.jp/shakai/ningen/hamauzu/related/shutai.html
                
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0735.html


 つまり、ありのままの世界を私たちは見ているのではなく、私た
ち人間にしか見えない世界を、それが全世界なのだと、間違って捉
えているに過ぎません。
           

5 9つのタイプはそれぞれに違う世界を見ている 

 さて、これまでは人間と他の動物についての感覚器の違いでし
た。しかし、同じ人間でも感覚器の明敏さなどが微妙に違うように
思われ、しかもタイプごとに違いがあるようです。そして、感覚器
の違いだけでなく、情報の処理の仕方が違うので、性格が違うと考
えられます。

 日常的な感覚としてよく分かることと言えば、例えば、同じ怖い
事件に遭っても、ある人は怖いと感じ、ある人にはそれほど怖い体
験ではないようです。情報処理の仕方に違いがあるためと考えら
れます。 

 当会の理論ならば、「自分から見た世界」と、「世界から見た自
分」という二つの認識の仕方があります。一つの認識の仕方を原
理的に考えるならば、3通りしかありません。そうなると、3×3と
なり、9通りの世界と自分との関係性があることになります。

 この9つのタイプは、ユクスキュル流に言うならば、それぞれ固
有の環境世界に閉じ込められていることになります。つまり、各
々のタイプにとって、見える世界、認識できる世界が違っている
のです。 


☆自分から見えた世界 → 自己認識の仕方は3通り

 1 自分は世界の中心にいると自己認識する
 2 自分は世界とともにあると自己認識する 
 3 自分は世界の淵にいると自己認識

☆世界から見た自分  → 世界認識の仕方は3通り

 1 世界と自分は否定的に結びついている
 2 世界と自分は肯定的に結びついている
 3 世界と自分は両価的に結びついている 

記については基本理論その1として、以下のアドレスにて公表
しています。

http://www.mirai.ne.jp/~ryutou-m/eneagram/static/theory1.htm    


6 一人ひとりが違う世界を見ている 

  ユクスキュルは、以下のような「A群の@」についてのような違いを、
初めてうまく説明してくれた学者です。

 同じ種であれば、基本的には同じ世界に住んでいるはずなのです
が、詳しく見たら違う世界にいたようです。さらに個々人で見ても、
年齢や職業などでも、世界は違うものに見えています。

 また、エニアグラムで9つのタイプがあると知ったなら、「B群
」をも同じであることが分かるでしょう。そして、現在の心の状態
によっても、世界は違うものに見えています。あなたが幸せな時は、
風をやさしく感じ、人の暖かさに気づき、世界は良いところになる
でしょう。
 しかし、不幸な時は、全てが灰色に変わり、人間を忌み嫌い怖が
り、世界は耐えがたいところになっています。 


A群
・生物は、それぞれに違う世界で生きている………@
・生物はそれぞれの種によって、それぞれ違う世界に生きている
・2000年前と現代の人類とでは、世界は違うものに見えている
・人種や民族などによって、世界は違うものに見えている 
・男性と女性にとって、世界は違うものに見えている 
・年齢、職業、宗教、文化等によって世界は違うものに見えている
・金持ちと貧乏人では、世界は違うものに見えている
・健康人と重病人では、世界は違うものに見えている
・健常者と障害者では、世界は違うものに見えている

B群 
・9タイプは、それぞれに違う世界で生きている 
・同じタイプでもウイングが違うと、世界は違うものに見えている
・成長している・後退している人とでは世界は違うものに見えている
・個々人の環境が違うのでそれぞれに世界は違うものに見えている
・個々人の能力、考え方その他の違いで世界は違うものに見えている
・その時の心の状態によって、世界は違うものに見えている


7  自分を解き放つために

 新しいクラスに馴染めず、学校に行くのが怖いと思っているとし
たら、それはあなたの心がそうさせています。クラスの人からいじ
められるかもしれない、傷つくかもしれないと予想していたら、あ
なたはいじめられる可能性が強くなり、傷つく可能性も大なのです。
なぜなら、あなた自身がそれを招いていると考えることができます。

 もしも、新しいクラスで新しい出会いがあり、自分の親友になる
ような子がいるかもしれない、と予想しているなら、親友を見つけ
出せる可能性が高いのです。つまり、あなたの心がそれを招いてい
ると考えることもできます。

 人に優しくなれたら、人から優しくされるでしょう。そうして、
自分を取り巻く優しい世界を築くのかもしれません。人に厳しいと、
人からも厳しく見られるようになりますからね。そうなると、自分
を取り巻く世界は厳しくて、誰も信じられず愛されず、孤独に生き
るしかないかも知れません。

 ユクスキュル流に言うならば、「あなた固有の環境世界に閉じ込
められている」ので、現在のようなあなたになったと考えられます。

自分には、「自分というフィルター」が装着されているのですが、
世界を見る目を変えたなら、
見える世界が変わってしまうのだとい
うことです。

自分の不幸を他人のせい、環境のせいにしていては、けっして幸
福にはなれないことを教えてくれているのではないでしょうか。