上級者用エニアグラム理論                

(改定版2007/12/01) 

   
「コンプレックス」は誤解されている!
         

1 コンプレックスとは「複雑さ」を指す 
                   
「コンプレックス」という言葉は、どうやらイメージが悪いようです。
多くの人が「自分にはコンプレックスなどない!」と断言します。ま
た、「マザコン」という言葉は、侮蔑的に使われることが多く、母親
に頭が上がらず、言いなりになっている軟弱な男性を指したり、母親
に依存的で自立できない夫などに対して使われているようです。

 その他、「学歴コンプレックス」「短足コンプレックス」「運動コ
ンプレックス」などさまざまに使われますが、主に、「劣等感」を意
味していると考えられます。そんな悪い印象があるためか、自分はコ
ンプレックスとは無関係だと声を大にして言うのではないでしょうか。 
                     
 さて、エニアグラム性格学では、全タイプがコンプレックスを持っ
ていると分析しています。「コンプレックス」とは「complex 複雑な」
という意味であり、複雑な心理状態を指しています。従って、上記の
ように間違って捉えられると、大変に困ります。 
   
 それでは「複雑な心理状態」と「単純な心理状態」とは、どのよう
に違うのでしょうか。それを明らかにしたいと思います。 
  

2 複雑な心理状態 
                              
 単純な心理状態とは、例えば、「美しいものは美しい!」と言い、
素直な気持ちで率直に語れることです。嫌いな人がいたら、避けれ
ばいいのであり、好きな人には近づきます。とてもシンプルなことで
す。

 つまり、ある人や事柄と自分との関係において、素直な反応をして
おり、気持ちが整理されています。従って、理性的な対応ができ、あ
きらめることもでき、他人にも冷静に語れます。第三者から見ても、
単純な心理状態の人は、素直な対応をしていると分かります。

 しかし、複雑な心理状態にいる人の言動は、少し変か、しつこいか、
こだわっているように見え、はたまた、異様にも感じます。複雑な心
理状態とは、例えば、美しいものを美しいと思いつつも、素直に賛美
できないことです。賛美もするかもしれないが、「but!」「しか
しね」と、続きを入れます。そして、屈折したり、支離滅裂にもなり
ます。また、複雑度も、軽いものと重いものがありますから、延々と
続く場合は、複雑度が重いことを表わしていると考えられます。 

 例えば、「母親にはとても大切にしてもらった。けれど、自分を全
く理解してくれない人であった。身の回りの世話はまめにしてくれて、
自分のことを心配してくれるのはうれしいと思う。しかし、監視され
ているように感じる。母は自分には何も求めないと言うが、実は期待
していると思う。しかし。期待されるとプレッシャーになり、母親の
期待に沿わなければ、自分の存在は否定されるように感じる……、」
と、母親のことになると、延々と話が続く人がいます。 

 反対に、母親のことは絶対に口にしない人がいます。怒りや不満が
多すぎて、とても他人に語る気になれないのです。この場合の複雑度
も、かなり重くなっていると考えられます。

 このように、母親に関することで複雑になるならば、「8・3・7
・4」から探します。その他のタイプでも母親との関係が険悪になる
と、複雑な心理状態に入る可能性があります。しかし、ほとんどの人
が、自覚しないままに話しているため、自分に「コンプレックスがあ
る」とは気づきにくいようです。

                   
    
3 複雑になると、語る量が多くなる 
                      
 
ある30代の女性は、一緒にお酒を飲みに行くと、最初は身近な
話題から入り、会社の批判などをします。しかし、そのうちに、社
会批判になり、最後には自分の父親の話になります。なぜか毎回、
そのようなパターンになるのです。別の話題を取り上げてそこに誘
っているのに、いつしか、彼女は父親の話に舞い戻ります。この女
性はタイプ1に該当しますが、タイプ6もタイプ2にもある傾向で
す。
       
 ファザー・コンプレックスは、父に対して複雑な心理状態にある
ことを意味しますが、どちらかと言えば、非難を言う回数が多いと
言えます。しかし、そうとは限らず、父親を慕い、ほめそやす人も
います。
 従って、単に、量的に多くなると考えても良いのです。言っている
内容は非難だろうと賞賛であろうとも、どちらでも良いのです。と
にかく、「父」に関することを何回、口にしたのかです。傍で聞いて
いた場合、頻繁で顕著であると分かれば、それが「ファザコン」に該
当すると考えてください。

 講座で、あるタイプ2の主婦に、「タイプ2は、子どもに意識が向
くタイプ」と説明します。すると、「私は夫を大切にしているので、
子どもより夫への関心のほうが高い」と言います。しかし、講座で、
口にするのはほとんど子どものことでした。彼女は「それは、たまた
まそうなったに過ぎない」と、まだ言い募ります。しかし、たまた
ま子どもの話になるのが、毎回のことになっていることに気づいてい
ません。
 つまり、量的な把握をすれば、関心度というものは、くっきりと浮
かび上がります。そして、「関心がある人」=「大切な人」とは限り
ません。


4 複雑度の強い人は、拒絶する 
                        
 
あるタイプ7の20代の男性は、エニアグラム性格学の理論を知り、
マザー・コンプレックスの項を読みました。すると、ほとんど受け付
けませんでした。その他の理論については、興味深かったと言います
が、これだけは「受け入れがたい!」「間違っている!」のだそうで
す。自分がタイプ7であることは認めており、人間関係に役立つ理論
だと理解していると言うのです。
 彼にとっての母親は、かなり自分を苦しめる人間のようです。こう
なると複雑度は強いと言えます。当会の理論を理解しようとはせず、
冷静に受け止めません。いましも逆上しそうな雰囲気で、強く否定し
ます。従って、複雑度のかなり強い人とは理性的な話し合いはでき
ません。 
                                  
 一方、幸いにも複雑度の弱い人は、自覚症状も少ないので、「自分
にはコンプレックスなどない!」ことになります。           
 このサイトのどこかでも掲載していますが、あるタイプ2の男性は
「父親を5〜6歳の頃から無視していた」と言います。「無視する」
も、いわば消極的な批判であり、少しだけ不満があるからと考えられ
ます。しかし、年齢を見ると、あまりにも幼児期です。父親との関係
が険悪になる体験があったから、このような心理状態になったのでは
ない、と予測できるでしょう。


 
従って、生まれながらの気質(=性格タイプ)に拠ると考えられま
す。タイプ2は、心の中に理想の父親像があり、現実の父親が劣って
いるため不満感を抱きやすいのです。さらに、心の中に理想の子ども
像があり、現実の子どもが劣っているため、不満感を抱くという傾
向も、同時に持っています。

 タイプ2にとって「父と子」は永遠のテーマとなり、タイプ2の作
品の多くに、このテーマが入っています。ロシア映画「父って何?」
は、タイプ2w1の作品ですが、父親という存在を永遠に追い求めて
いるかのような作品です。期待外れだった父親を殺してしまいます。
ハリウッド映画「運命の絆」は、中年主婦が主人公の映画ですが、こ
の主婦は11人の男子の母親です。2w1の作品と見ています。

 そして、複雑度が強くもなく弱くもなく、適切にある人が比較的簡
単に、自分のコンプレックスを受け入れたり認知できます。



5 自分にとって自然なことで説明できない

 あるタイプ6の男性は音楽好きで、CDやテープなどもよく買いま
す。ロックが好きだと言いますが、好きな歌手を訊ねると、全て男性
歌手でした。その理由を聞くと、「いや、なんとなく、男の声のほう
が好きだから、深い理由はない」と答えました。 

 マンガ「ちびまる子ちゃん」をタイプ2の作品と見ていますが、あ
る巻では、まる子ちゃん以外は、登場人物の全てが男性になることも
しばしばあります。

 ある小学校のクラスに転校生が来るというので、タイプ6の男子が
歓声を上げました。しかし、教室に入って来た転校生が女児だと知っ
て、「なあんだ、女かあ〜」とがっかりしたようです。しかし、タイプ7の
男児は、キレイな女の子なので喜色満面となり、急に活力が湧いて
きたように見えたと、担任教師から聴いたことがあります。

 
 
タイプ6は「父性と男性コンブレックス」がありますから、興味の
ある歌手が男性に偏りやすいのです。また、タイプ7は「母性と女性
コンプレックス」があるため、とかく、女子の存在に意識が傾きやす
い。
 タイプ7の男子に直接そのことで質問しても、納得のできる返事
はなく、「男が女好きなのは当たり前」と言うかもしれません。

 このような実際の現象にある両者の違いについて、説明してくれる
ところはありません。身近な人たちを見ても、このような著しい傾向
が見えるのに、本人たちに訊ねても、明快に納得のいく答を返してく
れる人はいません。そういう心理学説も見当たりません。当サイトの
みです。

 なぜならば、性格=本能ですから、当人が意識的にしていることで
はないからです。ある年齢が来たら、自然に異性を好きになるように、
自然にあるタイプは、母親を求めています。また、あるタイプに生ま
れると、気がついた時には、父親のほうばかり意識しているのです。

  
6 過剰反応をしている相手とは 

 ところで、大好きな人だからこそ、裏切られると、大嫌いな人にな
ります。従って、関心が高いとか、意識が向いているからこそ、大好
きにもなりやすく、逆に大嫌いになる可能性も高いのです。言葉を変え
て言うならば、「過剰反応」していると考えられます。 
    
 それと対極なものがあるとすれば、それは「無関心」です。その場合、
「反応は弱い」か「適切」になります。酷い父親であっても、「酷いこ
とをされた覚えがある」と言ったきりで、感情的ではなく、それは当人
にとってとっくに過ぎたことになっています。どうやら「さしたること
ではない」と当人は考えているようだと、外からもハッキリと見えるの
です。
      
                        
 
・過剰反応             ・適切な反応か、無反応    
 ・関心が高い            ・関心が高くない
    
↑↓            ↑↓
 ・好きと嫌い             ・どちらでもないか、無関心
 ・愛すると憎む           ・どちらでもないか、無関心

 
        

 
例えば、酷い父親であったとしても、タイプ4にとって、父の存在
は忘れやすいのです。ですから、「酷いことされたなあ!」などと、
他人事のように気楽に話題を提供します。

 しかし、父親への複雑度が強くなりがちな気質を持つタイプ261
ならば、「一生、許せない!」と語るようなことかもしれません。事実、
タイプ6とタイプ5の兄弟がいますが、父親観はまるで異なっていま
した。このタイプ6にとって、父親は「人でなしの軽蔑すべき人間」
になっていましたが、弟のタイプ5は、父親に同情的にさえなってい
ます。

 同じ父親を持ち、同じような辛い体験をしても、人によって、受け
止め方が全く違います。これは一般的にもよく知られている現象です。
エニアグラム性格学は、タイプによって、受け止め方が違ってくると
説明してます。なお、その現象や、心理状態の違いはどこから来た
のか、説明してくれる理論は、当サイト以外に見つかっていません。

    

7 ストーカーの心理 
                             
 ところで、このように説明していくと、ストーカーの心理とよく似
ていると発見できるでしょう。スターの熱狂的なファンが、ある時か
らストーカーになり、つきまとい脅迫さえします。それは関心が異常
に高まり、それ以外のところに関心を振り向けることができなくなっ
てしまうからでしょう。偏執的になるのは、このような心理状態に陥
ることで、誰もが成り得ることではないでしょうか。 

 まず、防御タイプは、一点集中型になりやすいので、関心を他に
振り向けにくくなる傾向はあります。次には攻撃タイプです。最も、
そのようになりにくいのは調和タイプです。しかし、最もなりにくい
と思われる穏やかなタイプ」でも、絶対にストーカーにはならない、
と断言できません。
 ですから、タイプというよりも、自分を不幸だと思っている人間は
思い詰めやすいと考えられます。 逆恨みなどからも来ているとも
考えられます。 
              
 誰からも愛されず、受け入れてもらえないと、一人の人間に関心
が集中しやすく、その人から好意を受けると、有頂天になります。
が、少し冷淡にされると、地獄に陥ったような気分になり、憎しみが
高まって攻撃せずにはいられません。過剰反応の最たるものが、ス
トーカーの行為です。
 ストーカーを取り締まる法律ができましたが、法律で取り締まって
もストーカーそのものを無くすことはできません。誰もが幸せにならね
ば、問題は解決できません。


8 誰もが二つのコンプレックスに陥る気質を持っている 
 
            
 当会は、全タイプがコンプレックスという複雑な心理状態になる可
能性があると解析しています。基本理論のところで紹介しています
から、一度、お読みください(以下です。)。

 
 
http://www.mirai.ne.jp/~ryutou-m/eneagram/static/theory5.htm


狭義のコンプレックス
   

広義のコンプレックス
   

   
 コンプレックスとは、複雑な心理状態のことですが、簡単には、対
象に不満を持ちやすいと考えてください。あるいは、厳しい見方をし
がちです。
 たとえば、タイプ8・3・7は、女性に厳しく、娘のしつけに厳しくな
り、うるさがられるかもしれません。母親に不満があり、母親の叱責
が一番に身にこたえます。そのくせ、困ったときに相談したり、何か
期待しているのも、母親や女性や娘なのです。

 タイプ2・6・1は、男性に厳しく、息子のしつけに厳しくなり、干
渉が多くなるかもしれません。父親に不満があり、父親の叱責が一
番に腹が立ち、ショックともなります。そのくせ、辛い時困ったときは、
相談をかけたり、何か期待しているのも、男性のほうであり、父親や
息子なのです。

 タイプ5・9・4は、人間への見方が厳しく、男女の違いによって変
化はないタイプです。人間に不満があり、周囲の人々全体に対して、
警戒したり用心しており、非難や中傷があると、腹が立ち、ショック
ともなります。そのくせ、人間を求めており、人間たちと穏やかな良
い関係になりたいと願っています。人間に対して関心がないかのよう
に振る舞うことがありますが、実は、人間全体のことを考えない日は
ありません。


9 一様なものではなく、個人差が大きい

 
そして、気質として持っていても、発現する人と、そうでない人が
います。それは、癌体質を遺伝的に親から継承していても、癌になら
ない人がいるのと同じです。
 性格も遺伝的に継承していますが、親子は全く同じDNAではありま
せんし、さらに環境が違います。同じ遺伝子を持つ一卵性双生児は、
基本タイプとしては同じですが、多少なりと性格が違います。まして、
「コンプレックス」という複雑な心理状態は、複雑な作用で深まりや
すいものですから、簡単に見分けることができません。

 結論的に言うと、理想的な父母を持っており、幸福な生活をしてい
る人たちは、コンプレックスは発現しにくいと考えられます。しかし、
理想的な環境にいる人が多数を占めることはなく、多くは不満があり、
不幸な状態にいる人も少なくありません。ですから、置かれている状
況によって、複雑度は違ってきます。一様なものではありませんから、
誤解しないでください。