9 ホーム&アウェイ

 

 

逓信省を出て、時計を見る。

時間はまだまだ宵の口。夜はこれからだ。

「・・・ちょうどいい。ホントに風呂、入ってくかァ」

口笛など吹きつつ、上機嫌で歩みを進めるガルヴァ。

オルハーナの街には何度も訪れたことがある。「そういう店」がどの辺にあるのかは知っていた。

もっとも。旅慣れたガルヴァには、そういう一角を嗅ぎ分ける能力が、知らず培われている訳だが。

「♪〜」

道端の看板にピンクが目立ち始める。

呼び込みの張り上げる濁声。どこからともなく聞こえてくる嬌声。喧嘩の怒声。

町並みはすっかり退廃的なそれへと代わり、空気にすら不健全な匂いが混じる。

ガルヴァの嗅ぎ慣れた匂いだ。彼はもともとこういう世界の人間だ。アウェイからホームに戻ってきたような安心感すら覚える。

「最近は教会だの天使だの、似合わねェ世界にいたからなァ。すっかり当てられちまった」

いかがわしい看板を覗きこみ、今夜の獲物を物色しながらガルヴァはひとりごちた。

――男にするか、女にするか。今日はどっちかと言えば犯されるより犯したい気分だ。よし、女にしよう。

「ダンナ、いい娘いるよ。飲んでかない?」

呼び込みを軽くあしらい、夜の街を散策する。

そんなとき、再び声をかけられた。

「ハァイ、オジサン。・・・どう? アタシと遊ばない?」

顔を向けると、そこには女が立っていた。

喪服なのか何なのかは知らないが、見事なまでに黒ずくめだ。服はもとより、髪、瞳の色に至るまで黒い。どうやらヤマトの国の女のようだ。

先ほどのサムライ娘といい、今夜はやけにヤマトの女に縁があるな・・・

「なんだ? 辛気くせェお立ちもいたもんだな」

「やぁね。素人よ」

そういう女からは、匂い立つような色気が漂っていた。

ガルヴァは無遠慮に女を見定めた。

黒の服は体にフィットし、その豊満なボディーラインを際だたせている。そして服とのギャップのせいか、あらわになった肌はハッとするほど白い。

プロポーションは文句なし。歳は20代後半ほど。若干薹が立っているような気はするが、充分に許容範囲だ。そして、気が強そうなその顔立ち。こういう顔を恍惚に歪ませた時の満足感は、得も言えぬ快感となる。

「フン。いいじゃねェか。・・・で、いくらでヤラせてくれるんだ?」

「だからぁ。素人って言ったじゃない。お金なんて取らないわよ」

「・・・タダより高いモンはねェからな。何企んでやがる?」

「別にー。アタシ、オジサンみたいな虎人がタイプなの」

よく言う。

女がなにか企んでいることは、火を見るより明らかだ。

「・・・悪ィな。今夜はハラの探り合いなんかしてる時間はねェんだ」

片手を上げて歩き出す。

そういうこれも、一種のハラの探り合いだ。

「あ、ちょ、ちょっと待ってよ」

ガルヴァが引くと、案の定女が食い下がってきた。

「――わかったわよ。正直に話すわ。『向かい傷のガルヴァ』さん」

「・・・同業者か」

「そ。あんたに近付きたいの。向かい傷のガルヴァがどんな男なのか知りたいし、伝説の賞金稼ぎと寝たとあらば、アタシの名前に箔も付くわ。それが狙いよ」

無理矢理ガルヴァの腕を取り、耳元でささやく。

背は彼よりも高い。

「・・・それにね、虎人がタイプって言うのは、ホントよ」

「ヘッ。よく言うぜ」

が、悪い気はしない。

ガルヴァは鼻の下を伸ばして、

「ま、ヤラせてくれるってんなら、こちとらにゃ異存はねェ」

「決まりね。・・・できれば仕事のこととか、色々教えてもらえると嬉しいんだけど?」

「そいつぁ別料金だな。おまえさんの働き次第、ってトコかぁ?」

「あら嬉しい。・・・アタシ、結構すごいのよ?」

体を密着させる。

腕に当たる柔らかい感触に、ガルヴァの一部分が早くも反応した。

「ヘヘッ。言うじゃねェか。んじゃ、さっそくシケ込もうや」

 

 

案内された宿は、お世辞にも綺麗とは言えない、安宿だった。

「・・・もうちょっとマシなホテルは無ェのかよ」

「アタシまだ駆け出しだからねぇ。アンタみたいにいい宿には泊まれないのよ」

ギシギシ軋む廊下を並んで歩きながら、女は言う。

「なんだったら、アンタの宿でする?」

ガルヴァの脳裏にマリオンの姿がよぎり、彼は慌てて首を振った。

「ダメダメ。口うるせェ相棒がいるんだ」

「あら、残念」

通された部屋も、ずいぶん古ぼけていた。

「壁も薄そうだな。物音筒抜けなんじゃねェのか?」

「気になる?」

「・・・まさか。逆だよ」

下卑た笑いを浮かべて、ガルヴァはさっそく女をベッドに押し倒した。

「きゃっ・・・! ちょ、ちょっと待って!」

不意を付かれ、素が出たのか、まるで生娘のような声を出す。

・・・なんだ? まさか処女か? めんどくせェな。

「んだよ。ここまで来て待ったはナシだぜ」

女の胸に顔を埋め、荒い息を吐きながらガルヴァ。

彼の逸物は、とっくに臨戦態勢に入っている。

「ち、違うの。あの、アタシの趣味に合わせてくれると、その・・・嬉しいかな、って・・・」

「趣味だぁ?」

「そ、そう。ちょっとどいて・・・」

お預けを喰らって、不満そうなガルヴァ。

その前に、金属の輪っかが突き出された。

手錠だった。

「おいおい、ずいぶんハードじゃねェか」

前言撤回。

生娘がこんな道具を持ち出すワケがない。

「こういうの、嫌い?」

「・・・いいや、キライじゃねェよ」

それを受け取ろうとするガルヴァの太い手首に、ガチャリと手錠がかけられた。

「よかった」

「って! オレが縛られんのかよっ!?」

「フフフ。首輪もいいかしら?」

「お、おい、ちょっと待て!」

後ろ手に手錠をかけられ、首輪までかけられるガルヴァ。

だというのに、彼の股間はいきり立ったまま。

実は彼はこういうプレイも好きだった。

「・・・今夜はこっちの気分じゃなかったんだけどなァ・・・ま、いいか」

 

 

一方その頃。

マリオンはガルヴァを探して、夜の街を徘徊していた。

「・・・セントリリアと全然違う・・・」

自分の育った街との違いに今更驚き、マリオンは周囲を見渡した。

もっとも、あの街にも似たような区画は当然存在する。ただマリオンが知らなかっただけだ。

露店を覗いてみると、様々な商品が目に入る。

ビタミンCも入っていて体にいい自白剤。毒々しい色をした「蟲寄せ」のお香。神聖科学の遺跡より発掘されたというふれこみの、インチキめいた機械。等々。

用途もわからないような怪しい商品ばかりだが、そこがまた面白かった。

ガルヴァを探すという当初の目的も忘れて、夜の街を歩くマリオン。

そんなマリオンの視界に、見覚えのある後ろ姿が映った。

長い髪を一つに結わえた、異国の民族衣装。

悪鬼羅刹のサムライ娘こと、ルシア・シャーナードだ。

「――ルシアさん?」

名を呼ばれた女が振り返る。

「あら。また会ったわね、マリオン」

「はい!」

名を覚えていてくれたことが嬉しくて、満面の笑みで返事をする。

実は先ほどガルヴァに会うまでは忘れられていたのだが、もちろんマリオンはそんなことは知らない。

「・・・ガルヴァは? 一緒じゃないの?」

「はい。ボク今、ガルヴァさんを捜しているんです」

「また? ・・・ガルヴァなら今さっき会ったばかりよ」

「ホントですか!? どこに行ったかわかりませんか?」

「少し立ち話しただけだからね。さすがに今どこにいるのかまではわからないわ」

ルシアは笑いながら、少し困ったように眉根を寄せた。

こんな事なら行き先を聞いておけば良かった。

「そうですか・・・」

「あっちの方に行ったけど・・・何? 急用なの?」

「いえ、そういう訳じゃ・・・ありがとうございました」

お辞儀をしてその場を去ろうとするマリオンを、慌てて引き留めるルシア。

「ちょっと! 一人なの? 夜の街を女の子一人で歩くなんて、危ないじゃない」

「あ、大丈夫です。ボク、女の子じゃ・・・っと」

慌てて口をふさぐマリオン。

自分が男であることは伏せて置いた方がいい。さすがのマリオンにもそれくらいのことは理解できる。

「? 何?」

「いえ、えーっと・・・ルシアさんだって、女の子一人じゃないですか」

「あたしはいいのよ。強いから」

自分で言うな。とツッコみたいところだが、確かに。

ルシアの腕っ節は、並の人間にどうこうできるレベルを遙かに超越している。

「いいわ。一緒に捜してあげる」

「いいんですか!?」

「どうせヒマだもの。ガルヴァとはもう少し話したいこともあるし、ね」

そういってウインク一つ。

彼女の本性を知らないマリオンにとって、これほど頼もしい助っ人はいなかった。

「ありがとうございます!」

 

 

マリオンとルシアが呆れるほど都合のいい邂逅を果たしていた、まさにそのとき。

ガルヴァは、今更ながら自分の愚かしさを呪っていた。

パンツ一丁に剥かれ、手は後ろ手で手錠。鎖の付いた首輪で、壁の柱に繋がれている。

そして目の前には――屈強な男が、二人。

「――伝説の賞金稼ぎも、大したことないねえ」

ガルヴァをこんな姿にした張本人、黒ずくめの女は、二人の男の後ろに隠れて煙管を吹かしていた。

「向かい傷のガルヴァの二つ名も、今は昔か」

男の一人が言う。

がっしりした体格の獅子人だった。歳は20代半ばほどだろう。美しい金の鬣に、壮観な顔つき。ガルヴァと対照的な逆三角形の肉体は、格闘技でもやっているのか、無駄な脂肪の一切ない理想的な体型だ。

「過去の栄光にあぐらかいてやがっから、こんな簡単に落ちるんっすよ」

もう一人の男はでっぷり太った猪人。

大きく腹の出たこちらは、背も低くガルヴァの体型に近い。顔つきも粗野で、その言動には品性が感じられなかった。

「チッ」

ロートルであることを否定するつもりはないが、こんな連中にいいようにされているのがガマンできず、ガルヴァは舌打ちした。

「・・・で。なんなんだ、てめェら。教会の回し者か?」

「・・・大局的にいえば、そうなるのかねえ。ま、いわゆる一つの、正義の味方、ってやつさね」

「一般的に言えば、賞金稼ぎだけどな」

「賞金稼ぎだと?」

「そう! かの有名な『黒衣のソードダンサー』、アスカ・キサラギとは、アタシのことさ!」

聞いたことがなかった。

「俺はライトリック! あの『金色の稲妻』ライトリック・ハイウインド様だ!」

大仰なポーズで自己紹介する獅子人。あの、とか言っているが、こちらも聞いたことがなかった。

「おいらはブル! 『アースシェイカー』のブルケット・シーグレー!」

聞いてもいないのに、猪人が名乗りを上げる。やっぱり聞いたことがない。

「・・・・・・」

「ふふん。アタシ達の二つ名に驚いて、声も出ないようだねえ」

いや確かにその通りではあるのだが。

ニュアンスはおそらく真逆だろう。

「あー・・・悪い。・・・どれも全然聞いたことねェや」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・まあ、この二つ名名乗り始めたの最近だし、ムリもないんだな」

と、ブルケット。

「自称かよ!」

二つ名というものは他人がつけるのが普通だ。

自称○○などという称号ほど、しまりのない物はない。

「ブル! 余計なこと言うんじゃないよ! それにアタシらはあの『向かい傷のガルヴァ』を捕まえたんだ。この二つ名は、今に全世界に轟くよ!」

・・・そうかなあ?

「っつーか! なんでオレがおめェらなんぞに捕まらなきゃなんねェんだよッ!?」

牙を剥くガルヴァを前に、3人組は思わず顔を見合わせた。

その行動に、ガルヴァ自身も疑問符を浮かべる。

「・・・呆れたねぇ。自分の置かれた状況がわかっていないのかい?」

「なんだと?」

「リック。あれ見せておやりよ」

「へい、姐さん」

リック、ライトリックは懐から一枚の紙を取り出し、ガルヴァに突きつけた。

それはガルヴァにとって見慣れた物、つまり賞金首の手配書だった。

そして、そこに描かれた人相書きは、もっと見慣れたものだった。

『賞金首ガルヴァ・ウォーレス、星5つ。罪状、誘拐罪。賞金額、金貨200枚』

言い逃れできないほど特徴的な人相書きの下に、そう書かれていた。

「・・・あっちゃー」

ガルヴァは思わず天井を仰ぎ見た。

手を拘束されていなければ、顔に手を当てていたところだ。

迂闊だった。

考えてみれば、マリオンは名目上は枢機卿グレゴリーの娘。それを大衆の面前でかっさらったのだ。手配される理由としては充分すぎる。

しかし、まさか天使が正攻法でくるとは思っていなかった。誤算である。

「姐さん、こいつホントに知らなかったみたいですぜ?」

「らしいねえ。だがまあそんなことはアタシらには関係ないよ。そいつを役所に付き出して、さらわれた娘を助け出せば、賞金がっぽり! アタシらの株は急上昇! バラ色の未来が、すぐそこまで来てるんだからね!」

興奮してまくし立てる黒ずくめの女、アスカ。

ガルヴァはもう一度手配書に目を落とした。

そこには『マリオン・ゲインズブールの救出を最優先。別途報酬、金貨300枚』と但し書きがされていた。

「・・・オレの命はマリオン以下かよ・・・」

当然である。

「というわけで、娘の居場所を吐いてもらうよ?」

「・・・素直に答えると思うか?」

「思ってないさ」

指を鳴らして獅子人が迫る。

ガルヴァより軽く頭二つは背が高い。威圧感としては申し分ないが、ガルヴァとてそう捨てた物ではない。

獅子人が攻撃範囲に入った刹那、その太い足が唸りを上げて空を切った。

「おっと」

「チッ」

やはり格闘家か。

獅子人はその体躯に似合わぬ俊敏さでガルヴァの蹴りを躱し、距離を置く。

「・・・こりゃ迂闊に近づけないねえ。どうせならその短い足も縛っておくんだったよ」

「短いは余計だッ!」

鼻にしわを寄せてガルヴァが怒鳴る。

「フン、まあいいさ。宿の見当は付いてる。あんたはそこで、おとなしく地団駄でも踏んでいるんだねえ」

「クソッ!」

「リック、行くよ」

「へい」

「・・・おいらは?」

「アンタはこいつを見張ってておくれ。

・・・いいかい、ブル。相手は落ちぶれたとはいえ、あのガルヴァ・ウォーレスだ。油断するんじゃないよ」

「合点でさ」

「オレは落ちぶれてなんかねェッ!」

説得力のない格好で怒鳴るガルヴァ。

そんな格好では、何を言ったところで負け犬、いや、負け虎の遠吠えである。

 

 

「・・・・・・」

部屋の中央に腰を下ろし、猪人、ブルケットを睨みつけるガルヴァ。

「・・・そ、そんな顔したって怖くないんだな」

「脅してるワケじゃねェよ。オレぁ元からこんな顔だ」

「な、ならいいけど・・・」

安っぽいソファに腰掛けるブル。

その脇には巨大なハンマーが立てかけられている。リックと呼ばれた獅子人の物とは思えない。おそらくこのブルの獲物だろう。

「・・・おい、ブー」

「ブーじゃないっ! ブルだっ!」

「そうだったか? 悪ィな。・・・ちょっとタバコ取ってくれよ」

「その手には乗らないんだな」

チッ、と舌打ち一つ。

「いいじゃねェか。タバコの吸えない苦しさ、わかんだろ?」

「おいら達タバコは吸わないから、わからないんだな」

「・・・さっきの女は吸ってたじゃねェか」

「姐さんは特別なんだな」

姐さん、か。

「いい女だったんだがなァ。・・・あの性格じゃ、おめェらも苦労すんだろ?」

「ま、まあ、な」

やはり苦労しているようだった。

あの女の顔を思い浮かべる。名前は確かアスカと言ったか。性格はともかく、いい女ではあった。

本来なら今頃、あの熟れた肉体を組み敷いていたハズなのに、今目の前にいるのは太った猪人。常人ならば床に手を付くほど落ち込むところだが、ガルヴァにとって実はそれほどたいした差はなかった。

この男でもいいから犯してやりたい。

いいところまで行ってお預けを喰らったガルヴァの欲望は、今ブルに向けられていた。

「・・・・・・」

「な、なんだよ」

見た目に反して気弱な性格。嬲ってやったら、いい声で鳴きそうだ。

ここまで匂ってきそうな肥満体型。胸、腹のボリュームはガルヴァよりも多い。腰を打ち付けるたびに柔らかく弾むだろう。

短い尻尾の生えた、でかいケツ。そこに隠された秘部を想像して、ガルヴァは舌なめずりした。

「な、なんだよ、さっきから!」

視姦されているのに気づいたのか、はたまた無意識のうちに防衛本能が働いたのか、ブルはその大きな体を隠すように肩を抱いた。

「・・・別に」

ふくらんだ下着の先端に、じわりと先走りが滲む。

それを見て、ガルヴァは一つの案を思いついた。

「・・・おい、ブー」

「だから! ブーじゃなくってブルっ!」

「どっちでもいい。・・・ちょっと催してきた。便所」

「そ、その手には乗らないって言ってるだろ」

「いいよ、別に。ここでするから。

・・・一応断ったからな。怒られんのはてめェだぞ」

よっこらしょ、と立ち上がるガルヴァ。

ブルが慌てて手を振った。

「ちょ、ちょっと待て! 正気か、おまえ!?」

「だってしょうがねェだろ。ほどいてくれなきゃ、ここでするしかねェ。・・・戻ってきた姐さん、この部屋の惨状を見て、なんて言うかなァ?」

「だ、だからって、手錠はほどけないし・・・」

「別にほどいてくれなくたっていい。・・・アレがあるじゃねェか」

ガルヴァは顎で机をしゃくった。

そこには一輪の花が飾られている。

「・・・?」

「バカ、花じゃねェよ。その花瓶だ」

「え、こ、これにするのか・・・!?」

「他に方法はねェだろ。早くしてくれ。オレだって漏らしたくねェんだから」

ブルは仕方なく花瓶を手に取り、花を抜いた。

警戒しながら、ガルヴァの元に行く。

・・・ここまで警戒されると、さすがのガルヴァでも一撃で昏倒させることは難しそうだ。

「ほ、ほら」

どん、と花瓶を床に置く。

「おいおい、これでどうやってしろっていうんだよ?」

後ろ手で縛られたガルヴァは、狙いを定めるどころか、パンツすら脱げない。まあパンツくらいは脱げるだろうが、そうするつもりはなかった。

「へ、変な気、起こすなよ・・・?」

悪いな。

もうとっくに変な気ィ起きてんだよ。

ガルヴァの下着に手をかけるブル。

そっとそれを降ろすと、現れたガルヴァの逸物がぶるんと跳ね上がった。

「・・・!」

ブルの動きが止まる。

その隙に昏倒させようと思っていたガルヴァだが、彼が行動を起こす直前、ブルの喉が動くのが見えた。

・・・こいつ、もしかして・・・

相手は隙だらけだったが、スケベ心を起こしてガルヴァは成り行きを見守った。懲りない男である。

「ちょ、な、なん、なんで・・・?」

「ああ、悪ィな。いいトコまで行ってお預け食ったモンだから、収まりが付かなくてよぉ」

「・・・こ、これじゃ、できないんだな・・・」

上を向いたガルヴァの逸物に視線を釘付けにしたまま、ブル。

猪人の大きな鼻から漏れる鼻息が、くすぐったかった。

「・・・なァ、抜いてくれよ」

「・・・え? ・・・はぁっ!? お、おいら、が・・・!?」

「他に誰がいる? いいじゃねェか。・・・あんたも、男が好きなんだろ?」

「だ、だだっ、だ、誰がっ!」

動揺しまくるブルを見て、ガルヴァは確信した。

次は少し下手に出てみる。

「・・・頼むよ。な、いいだろ?」

耳元でささやくと、ブルの理性がガラガラと崩れていくのがわかった。

よくよく見れば、彼の股間も大きく膨らんでいる。

「・・・あ・・・ぅ・・・でも、おいら・・・包茎は、キ、キライなんだな・・・」

ほっとけ。

胸の裡でぼやくガルヴァ。

まあ言うまでもないだろうが、事ここに至るまで、彼の逸物はずっと皮を被りっぱなしである。

「はぁ・・・すごく・・・く、臭いし・・・はぁ・・・」

「ここんとこ風呂入ってねェからなァ。・・・おめェが綺麗にしてくれよ」

「う・・・ぅ・・・」

あと一押し。

ガルヴァはさらにささやいた。

「・・・おめェにして欲しいんだ、ブル・・・」

「・・・あ・・・ああ・・・わかった・・・」

ブルが我を忘れて口を開くと、粘性の高いよだれが糸を引いた。

「・・・ん・・・」

ガルヴァをパクリとくわえ、ジュルジュルと音を立てて吸う。

「お・・・」

舌先を包皮の中につっこみ、亀頭をなめ回す。

なかなかの技術だった。

「ヘヘッ、上手いじゃねェか」

「ん・・・っ」

このまましてもらおうと決めたガルヴァの脳裏に、唐突にマリオンの姿が浮かんだ。

「・・・・・・」

・・・クソッ。

「・・・ふぅ・・・ぁあ・・・」

「・・・美味いか?」

「う、うん・・・」

「・・・悪ィな。最後までヤラしてやりてェトコだが、そうもいってられねェや」

「?」

ガルヴァが一歩引いてブルの口の中から出る。

よだれの橋が落ちるその前に、ガルヴァの太い膝がブルの顎を打ち上げていた。

「――がっ!」

たまらず顎を押さえてのけぞるブルの脳天に、今度は踵が落とされた。

天使の鎖骨さえ砕く踵落としだ。まともに喰らえば命をも落とす。

声を上げる間もなく、ブルは昏倒した。

「・・・おめェのテクに免じて、手加減、いや、足加減はしてやった。・・・ゲイは身を助ける、ってなァ」

上手いこと言ったつもりか。

ともあれ、ガルヴァは昏倒したブルの体をまさぐって手錠の鍵を探し出し、苦労して手錠を外す。そういうプレイに使われる手錠だったのか、鎖が長めにされていたのが幸いだった。

「さて、と」

首輪も外して、手早く服を纏う。

部屋を後にする直前になって、ブルの股間が目に入った。

彼のズボンは、いまだに大きく膨らんでいる。

「・・・どれ」

スケベ心を抑えられず、ガルヴァはそのズボンを引きずり降ろした。

現れたブルの物は、ガルヴァと同じ形状だった。

「・・・なんだよ、てめェだって短小包茎じゃねェか」

くわえ込みたい衝動を必死で押さえて立ち上がる。

行きがけの駄賃とばかりにソファ脇のハンマーを手にとって、彼は部屋を後にした。

非常に後ろ髪引かれる思いだった事は、言うまでもないだろう。

 

 

 

モドル             →あとがきにススム