4 小さな祈り
綺麗な、澄んだ歌声。
目を開くと、暗い天井が見えた。
窓には月が顔を覗かせている。
いつも見上げている、いつもの月だ。
あれが見えるということは、つまりここは天国(あそこ)ではない。
「・・・気が付きましたか?」
唄が止んで、代わりに声が聞こえた。
顔を向けると、マリオンの顔。疲労が色濃く出てはいるが、安堵した表情だった。
「・・・オレは・・・っ!」
体を起こすと、激痛が電流のように全身を駆けめぐった。
かけられていた毛布が落ちる。視線を落とすと、服はすべて脱がされ、代わりに包帯がぐるぐるに巻かれていた。かなり不器用な人間が巻いたらしい。おそらくはマリオンの仕業だろう。
「まだムリです。寝ててください」
マリオンの手に押し戻され、ガルヴァはベッドに横たわった。
「・・・ここはどこだ? ・・・天国・・・じゃねェよなあ?」
思いの外喋れるのに、ガルヴァは自分自身で驚いた。かなり回復している。いったい何日眠っていたのだろう。
「おい、あれからどれだけ経ったんだ? どうしてオレぁまだ生きてる?」
「いっぺんに聞かないでください。まずは落ち着いて」
マリオンがコップを差し出す。
ふちの欠けたそれには、水が入っていた。
少しだけ体を起こして水を飲んだ。冷たい水が胃に染み渡る。
「ここは、教会の・・・反省房です」
反省房?
首が痛いのをこらえて見渡す。
黒い石壁。高い天井。どれだけ手を伸ばしても届かない高さに窓があり、そこから月光が注いでいる。部屋の端にはブースで仕切られた便器。そして特筆すべきは、壁の一面を構成する、鉄格子。
酔っぱらって暴れて、何度かお世話になったこともある。
間違いない。これは反省房などではなく、牢獄だ。
「・・・そうとも言うかもしれません。あと、ここは天国じゃなくて、ちゃんと現実です」
「そりゃァそうだ。牢獄のある天国なんて、イヤだからな」
マリオンは少しだけ笑った。
「次の質問は何でしたっけ? あ、そうそう、時間だ。時間は・・・あれから、まだ半日しか経ってませんよ」
「半日?」
では、怪我は自分で思ったよりも大したことなかったのか。みると、両腕には添え木がしてあった。脇腹もジクジクと痛む。骨折は間違いないらしい。
「それと、ガルヴァさんが生きているのは、きっとまだこの世界でやることがあるからですよ」
「・・・そうか?」
「きっとそうです」
そのとき、ガルヴァはハッとしてマリオンを見つめた。
光の翼は、生えていない。
「おめェ・・・」
ガルヴァの表情で、何を言いたいのか察したマリオンが、すまなさそうに首を振った。
「・・・隠していてごめんなさい。ボクは、天使です」
「ホンモノの・・・?」
「はい」
マリオンが、光の翼を広げて見せた。
薄暗い牢獄に光があふれる。
舞い降りる羽根を手にして見ると、それは雪のように溶けて消えた。実体はないらしい。
「ボクの存在は、教会でも最重要機密なので、人に話すことは堅く禁じられていたんです。黙っていてごめんなさい」
翼をたたんだマリオンが頭を下げた。
「まァいい。オレもおめェに黙ってたことがある」
ギロリと睨み付け、ガルヴァが言った。
「オレが天使を探してるのは・・・復讐のためだ」
「・・・はい」
気付いていたのか、マリオンはそっと頷く。
「知ってたのか。いい度胸だな。オレに殺されるのが、怖くねェのか?」
それとも、マリオンもあのウルズエルとかいう天使みたいに、バカっ強いのだろうか。
ガルヴァはふと不安になった。
「そんなわけないじゃないですか。・・・でも、まずは身体を治さないと」
「あ?」
「そんな身体じゃ、復讐も満足にできませんよ?」
言われてガルヴァはもう一度身体を見下ろす。
左足は吊られ、両手は添え木で完全に固定されている。身体に巻かれた包帯もあちこちに血のシミができていた。
手も足も出ないとは、まさにこのことだった。
「くそっ!」
「安心してください。ボクは逃げませんから」
マリオンが優しく言って、ガルヴァの腹を撫でた。
「・・・・・・」
思わず顔を赤くしてしまうガルヴァ。
「どうしたんですか?」
「べ、別に」
毒気を抜かれて、ガルヴァは枕に頭を沈めた。
「・・・色々聞きてェ事がある」
「なんでしょう?」
「アイツ、ウルズエルって天使はなんなんだ?」
「護衛、ね」
「ルファさんは、ボクたち天使の上司みたいなものですから」
「上司? ・・・ってこたァなんだ、あの女も、その、天使なのか?」
「えっと、彼女は人間です。あ、でも、月から来たっていう意味では天使なのかな?」
「月から?」
「はい。そうらしいです。よく知りませんけど」
月に天使が住んでいるという神話は、本当だったのか。
ガルヴァは、窓を見上げる。ますますあそこへ行きたくなった。――復讐のために。
「最後にもう一つ」
「はい?」
ガルヴァは鋭い目つきでマリオンを見た。
「シリウス・・・?」
ガルヴァが気を失う前に呟いた名前。
それ以外に心当たりなど無かった。
「いいえ。知りません」
ガルヴァの視線を真っ向から受け止め、マリオンは答えた。
「そっか」
ま、そりゃそうか。20年も前の話だからな。
いずれにしても、よくわからねェ。
ガルヴァは睡魔に襲われ、全身の力が抜けていくのを感じた。
「少し眠った方がいいですよ」
「ああ・・・」
マリオンが、包帯で巻かれた自分の体を撫でてくれた。
懐かしい気持ちがわき上がってきたが、それがなんなのか思い出せなかった。
「なあ、マリオン」
急速に眠気がわき上がってくる。まるで睡眠薬でも飲まされたようだ。
「なんです?」
「さっきの唄、もう一度・・・歌って・・・くれ、ねェか・・・?」
「いいですよ」
牢獄に流れる優しい賛美歌。
眠りに落ちながら、ガルヴァは不思議な優しさに包まれていく気分がした。
唐突にガルヴァの脳裏に過去の思い出がよみがえる。
故郷ブランニーナ。生まれ育った実家。暖炉のまえの母の膝枕。
若くして死んだ母の顔を思い出したのは、もう何年ぶりだろう。いつの間にか、自分は母の年齢を追い越していた。
そういえば、あの頃もこうやって母親に頭を撫でられ、子守歌を聴かされて眠ったんだっけ。
ガルヴァはもちろん子守歌なんて覚えていなかったし、こんな神聖な歌ではなかっただろう。しかし、根底に流れるものは同じだと感じた。
「・・・母ちゃん・・・」
寝言を洩らすガルヴァの体を撫でながら、マリオンは歌い続けた。
その声に、小さな奇跡を乗せて。
銀の月光が、変わらず窓から降り注いでいた。
歌にノイズが混じっていることに気が付いて、ガルヴァは目を覚ました。
夜はいつの間にか明けていて、窓からは透き通った青空が見える。いい天気だ。牢獄の中でなければ、さぞいい気分だっただろう。
歌が途切れ、マリオンが咳き込んだ。
再び歌い出すも、その歌声はかすれている。これがノイズの正体か。
「――ってまさか!」
ガルヴァは飛び起きた。
驚いたマリオンが思わず歌を止める。
「一晩中歌ってたのか!?」
「い、いやだなあ。そんなわけないじゃないですか」
かすれた声で、説得力のないことを言うマリオン。
「いくらなんでも一晩中はムリですよ。ちゃんと寝ましたし、休憩も取りましたよ」
つまりそれ以外の時はずっと歌っていたわけだ。
ガルヴァは、歌ってくれなどと安易に頼んだ事を後悔した。
「おめェは・・・限度ってモンをしらねェのか」
自分が悪いとも思いつつ、マリオンを責めずにはいられなかった。
「ごめんなさい。・・・でも、ガルヴァさんが元気になってよかった」
言われて初めて、体中の痛みがほとんど無くなっていることに気が付いた。
時間の感覚はしっかりしている。あれから一晩しか経っていないはずだ。
「な、なんで・・・?」
当初は死すら覚悟したほどの重傷だ、全治六ヶ月はくだらない。
それがわずか一晩でここまで回復するとは。
信じられず、自分の体を見渡した。相変わらず包帯がぐるぐるに巻かれていて痛々しいが、ケガの程度はたかがしれている。
「おい、こりゃ一体・・・まさかマリオン、おめェ魔法が使えるのか?」
マリオンは笑った。目の下にクマができていた。
「魔法なんて使えません。ボクにできるのは、歌うことだけです」
「歌?」
「はい、歌です。ボクは、メロディにちょっとした力を乗せることができるんです」
「そういうのを魔法って言うんだろ?」
ガルヴァの問いに、マリオンは少し考え込んで首を振った。
「そうかもしれませんけど、ちょっと違うと思います。ボクの歌は、聞く人の背中を後押しするだけで、直接傷を治したりすることはできないんです。ガルヴァさんの傷は、ガルヴァさん自身が治したんですよ」
それでも充分に魔法だ。
――こりゃ後押しなんてレベルの話じゃねェぞ。なにせ、全治六ヶ月が、一晩で・・・いや、全治するのには二晩くらいかかるか・・・。つまり、えーと、何倍のスピードだ? 六かける三十の、割る・・・
ガルヴァは頭の中で指折り数えてみたが、途中で意味がないことに気づいて計算をやめた。計算ができなかったという説もある。
とにかく、尋常じゃないスピードで回復したのだ。これを魔法といわずして何というのか。
「あ、そうか。だからおめェ、オレの傷を治すために一晩中歌い続けたのか・・・」
おそらく、ガルヴァの体を治したいが一心で、同じ牢に入れてくれと頼み込んだのだろう。よくルファがそれを許したものだが、おかげで助かった。なにせあのまま放置されていれば、間違いなく死んでいただろうから。
「えへへ」
マリオンは、疲労困憊の顔で嬉しそうに笑った。
「ったく・・・ムチャしやがって」
ガルヴァはあきれ顔で起き上がり、手の包帯を噛みちぎった。
指を開き、握ってみる。大丈夫そうだ。
そのときガルヴァは、この部屋にはベッドが一つしかないことに気が付いた。元々一人部屋だったからだろう。
「よいしょ、っと」
ベッドから降りる。さすがに治りきっていないのか、体中が軋んだ。だが、耐えられないほどではない。
「あ、まだ寝てたほうが・・・」
「バカ。今じゃオレよりおめェの方が死にそうじゃねェか」
ひょいとマリオンを抱え上げてベッドに放り投げる。
痛いと文句を言うマリオンに、毛布を投げつけて黙らせると、身体に巻かれた包帯を取り始める。これだけぐるぐるに巻かれていると、動きにくくてしょうがない。
「もう取っちゃって大丈夫ですか?」
毛布から頭を出したマリオンが心配そうに言う。
「おかげさまでな」
傷が塞がりきっていないところだけ自分で巻き直す。
「・・・手慣れてますね」
「まァ、賞金稼ぎなんてやってりゃ、これくらいはな」
ガルヴァはニヤリと笑って、
「あのままじゃ、まるでミイラ男だからな」
とイヤミを言うが、
「ミイラ男はそんなに太っていませんよ」
天使の笑顔でカウンターパンチが入った。
「・・・だっ、誰がデブだ! オレぁ筋肉がついててゴツイだけだ! ・・・まあ、最近ちょっとだけ腹が出てきたような気がしないでもねェが、人間40にもなりゃァ、腹の一つや二つ、出てくるモンだ!」
「お腹は一つしかありませんよ」
「うっせェ。いいから寝てろ」
包帯を巻き直したところで自分が全裸だと気づき、今更恥ずかしくなってきた。
「・・・な、なァ、オレの服は?」
牢獄の隅にはもう一枚支給された毛布があるだけで、ガルヴァの衣服は見あたらない。
「もっていかれちゃったみたいですね」
「チッ。こんなカッコじゃ、脱獄もできやしねェ」
毛布を拾い上げて腰に巻き付ける。少し落ち着いた。
ガルヴァはそのまま鉄格子まで歩いた。素足に冷たい床の感覚が、今は心地よい。
鉄格子を掴んで外を見ると、法衣を着た若い男がいるのがわかった。
自分と同じく虎人(おそらく牢番だろう)は、イスに座って、雑誌か何か読んでいる。テーブルの上に置かれた灰皿が目に入って、ガルヴァは声をかけた。
「おい、兄ちゃん。一本恵んでくれねェか?」
虎人は雑誌から顔を上げると、困ったようにガルヴァを見た。
一本というのはもちろん煙草のことだろう。しかし、迂闊に近づいたら、首でも絞められて鍵を奪われそうだ。
「いいじゃねェか、一本ぐらい。投げてくれっばいいからよ」
それもそうだと思ったのか、虎人は箱から一本煙草を取り出して放り投げる。
「ってコラ。火、付けてくれなきゃ何の意味もねェだろっ」
ちゃっかりと煙草を拾って毛布に挟みながら、ガルヴァは文句を言った。
虎人は少しだけすまなさそうな顔をすると、今度は火を付けた煙草を放り投げてくれた。
ポトリと床に落ちたそれを拾い上げ、埃を払う間も惜しんで口にくわえる。
「ふぅーっ・・・生き返ったぜ。ありがとな、兄ちゃん」
一息で半分まで灰にして、ガルヴァ。その声は本当に生き返ったようだった。
「・・・タバコって、そんなにおいしいんですか?」
鼻まで毛布をかぶって、マリオンが聞く。
「ああ、うまいね」
「ふうん・・・」
少し興味を持ったらしい。
「やめときな。自慢のノドがやられちまうぜ?」
「ボ、ボクはそんなもの吸いませんよ。だいいち未成年です」
「オレがおめェぐらいの時は、もうスパスパ吸ってたモンだがな」
「不良・・・」
「いいからもう寝ろ。なんなら、今度はオレが子守歌歌ってやろうか?」
「うなされそうなので遠慮します」
ガルヴァは違いねェと笑って、煙草を床に押しつけた。
すでにフィルターまで吸っていたから、消す必要は無かったかもしれない。
「・・・・・・」
寝息を立て始めたマリオンの顔を覗き込み、ガルヴァはため息をついた。
なんだってコイツはオレにこうまでしてくれるんだ? 殺されるかもしれないっていうのに。
そう思ってから、ガルヴァは自問自答した。
果たして、自分にマリオンを殺す事ができるのだろうか。
「・・・・・・」
もう一度マリオンの寝顔を見る。
何一つ疑うことを知らない、純真無垢な天使の寝顔。
ガルヴァの頬に朱が差した。
慌てて頭を降って雑念を振り払う。
・・・すっかり見抜かれてんのかもしれねェな。
ボリボリと頭を掻いて、ガルヴァはその場にドスンと腰を下ろした。
「しっかし、それにしても・・・ここの連中は何を考えてやがる・・・」
マリオンのような美少女を、ガルヴァのような男と同じ牢獄に入れるとは。
これはまさに、猛獣の檻に放り込まれたイケニエの女の子、状態である。
「お。オレ今、ウマイ事言ったな」
「・・・なにがですか?」
一人でニヤニヤしているところに声をかけられ、ガルヴァは飛び上がって驚いた。
「おっ、おめェ、起きてたのか!?」
「ええ。まあ」
「と、とっとと寝ろっつーの!」
「そうは言いますけど、まだお昼ですし・・・」
規則正しい生活を送っているヤツはこれだから・・・
ガルヴァは頭痛を覚えた。
「なにか心配事でも?」
「いや、そうじゃねェ・・・」
ベッドの中から覗くマリオンの顔に見とれて、鼓動が高鳴る。
「・・・いや、そうかも・・・」
「?」
「い、いや、ホラ、あれだ。おめェみてェな可愛い女の子を、オレみてェな男と同じ部屋に閉じこめるなんて正気かよ、って思っただけだ」
そこで初めて気付いたように、マリオンは「あ」と口を開いた。
「・・・ガルヴァさん、もしかしてボクのこと、意識してるんですか・・・?」
「バッ・・・! ちっ、ちが・・・! ンなわけねェだろ! お、おめェみてェなガキによ!」
しどろもどろで答えるガルヴァに、マリオンは悲しそうな顔で言った。
「ですよね・・・。それに、安心してください」
「あ?」
「・・・・・・?」
ガルヴァにこの言葉は理解できなかった。
何度も言うようだが、この世界には獣人のオスと、人間の女性しか存在しない。メスの獣人、男の人間は存在しないのである。どれだけ男の恰好をしていようと、言葉遣いが汚かろうと、人間でいるだけで、それは女性と認識される世界なのだ。
「・・・は?」
たっぷり一分ほどかけてその言葉を反芻したガルヴァが、それでもやっぱり理解できずに間抜けな声を出した。
「だから。ボク、男の子なんです」
悲しげな声で言うマリオン。
対照的に、ガルヴァはぽかんと口を開けていた。
「お・・・お、男ーっ!?」
ようやく自体を察したガルヴァが、飛び上がってマリオンを指さした。
腰に巻いたタオルがハラリと落ちる。
「・・・付いて、るのか・・・?」
よほど動揺していたのか、マリオンと自分の股間を交互に指して、ガルヴァが訊いた。
「・・・ええ、ま、まあ・・・」
さっきまで普通に見ていたはずなのに、こうなると異様に恥ずかしい。
「・・・そこまで立派じゃ、ありませんけど」
「あ、いや、そりゃどうも」
いそいそとタオルを巻き直してガルヴァ。
「そっか・・・男なのか・・・」
考えてみれば、マリオンは天使。
月に住む者、言ってみれば異星人だ。
この星の住人の常識が通用しないのは、昨日身をもって証明されたばかりだというのに。
「ん、じゃあ、あのルファってヤツも男なのか?」
「いえ、彼女は正真正銘の女性です。ウルズエルもですけど」
「そっか・・・それにしても、おめェが男・・・信じられねェな・・・」
「・・・見ますか?」
「えっ」
どきっとしてマリオンの顔を見つめる。
相変わらず顔は赤いままで、視線も逸らしたままだった。
「い、いやいや、いい。別に見せなくてもいいから!」
「・・・冗談ですよ」
気のせいか落胆した表情で、マリオンはポツリと洩らした。
「男の人ですもんね。・・・普通は、同性のモノなんて見たくありませんよね」
いやあ、ホントはスッゲェ見てェんだけどな。
心の声を押し殺して、ガルヴァは苦笑いを浮かべた。
「だから安心してください。たとえ変な気を起こしても、ボクは男ですから・・・」
いや、いやいや。
ことガルヴァに関しては、男だからといって安心できるわけではない。何せバイセクシャルなのだから。
いや、むしろ男の方が・・・
「思いを遂げることは・・・できないんです・・・」
「え?」
「ごめんなさい、やっぱり少し寝ますね」
マリオンはそう言って頭まで毛布をかぶった。
悲しそう、というよりも、苦しそうな声だった。それに今・・・
泣いてなかったか・・・?
「まさか、な・・・」
ガルヴァは再びボリボリと頭を掻いて、その場に座り込んだ。