6 イニシアティブ
ぐるぐるに縛り上げた山賊達を引き渡し、賞金を精算した頃には、すでに日は暮れていた。
「思ったより時間くっちまったなあ」
「まあ、列車自体が大幅に遅れたもんね」
ちなみに、向かい傷のガルヴァとは駅で別れた。
どうも、どこか向かうところがあったようだ。
「さて、これからどうする?」
財布の中身を数えつつ、俺は二人に聞いた。
正直、財政はかなり潤っている。わざわざムチャして大物賞金首を追う必要もないのだが。
「えー、せっかくだから追おうよ。ここまで来たんだし」
「・・・まあ、それもそうだけどな」
「ん、決まりね! んーと、普段はどうしてるの?」
「普段って?」
「二人はさ、いつもどうやって賞金首を見つけだしてるの?」
おかしなコトを聞いてくる。
「ほら、実はあたし、魔物退治専門で、賞金首って追ったこと無いのよね。だからイマイチ勝手がわからなくて」
そういうことか。
道理で、ルシアほどの手練れが、二つ名も持っていないワケだ。
「ん〜、普段は、結構テキトーに見つけてるな」
ジーハーの呑気な答えに、俺は思わず頭を抱えた。
「そんなわけないだろ!? 聞き込みとかしてるじゃないか!」
「そうだっけ?」
「そうだよ!」
もっとも、ジーハーの場合は何を聞いても右から左へ抜けていくのだろうけど。
ってことはなんだ? 普段のコイツは、俺の後ろをつけてくるだけの金魚のフンってことか。
「聞き込みかー、なんか、大変そうだね」
「そうでもないぞ?」
とは、ジーハー。
「そうそう。大変なのは、得た情報から相手の動きを追ったり、先読みしたりする、推理の方だ」
「うんうん」
「へぇー」
「金魚のフンは何もしなくて良いからラクだろうけどな」
「うんうん。・・・って、それオレのことか?」
他に誰がいる?
「じゃあ、さっそく聞き込みしてみようか?」
ルシアの言葉に、俺は眉根を寄せた。
「うーん、この時間だとどうだろう? 聞き込みは時間帯によって結構成果変わるからなあ」
そりゃそうだ。
忙しい時間帯や、夜中に「すいません、ちょっといいですか?」なんて来られても、相手にとっては迷惑なだけ。適当にあしらわれて追い返されるのがオチだ。
できるだけヒマな時間、機嫌のいい時を狙って行うのが望ましい。
「そっか。聞き込み一つとっても結構奥が深いのね」
うんうん、とジーハーが頷く。
俺の視線を感じ取り、ジーハーは耳を寝せた。俺の表情で、何を言いたいのか悟ったのだろう。
「とりあえず今日はもうやめ。サッサとメシ食って風呂入って寝よ」
「えー、そんな悠長にしてたら、賞金首に逃げられちゃうよー」
賞金首は逃げない、と言ったのはどこの誰だったか。
「別に逃げられてもいいじゃないか。なんだか、だんだん割に合わない仕事に思えてきたし」
「そんなー」
確かに金額は伸すが、細かい仕事をいくつもこなした方が効率が良さそうな気もする。
「それにな、躍起になって探すと却って見つからないけど、気を楽にして探してたら、案外あっさり見つかるもんだ」
「そういうもんなのかなー」
「そういうもんだ」
「よし。んじゃあ、サッサとメシにしようぜ?」
ジーハーがまとめて、俺達は歩き出す。
「・・・なあ」
歩きながら、ジーハーがこっそり耳打ちしてきた。
「・・・オレにも一応、プライドってもんがあるんだけど」
「そりゃ初耳だな」
「・・・金魚のフン呼ばわりされると、さすがに傷つくんだけど」
「事実だからしょうがない」
ジーハーの耳は寝たままだった。
食事を終え、ホテルに部屋を取って入ると、ジーハーが口を開いた。
「なあ、今日は体調いいんだろ?」
「ん? ああ、そうだな」
絶好調、といってもいい。
もっとも、さっきクスリを飲んだから、明日は血を吐くことになるだろうが。
「そっか。よかった」
「ジーハー・・・」
我が事のように喜んでくれるジーハーに、俺は目頭を熱くした。
「じ、じゃあ、今夜はヤレるんだな?」
俺は情けなくて涙が出てきた。
なんのことはない。コイツは、正真正銘、我が事だから喜んだだけなのだ。
「誰が、誰と、何をヤるのかな?」
「そんなの、決まってんだろ? ・・・ごめんなさい」
俺の体から立ち上る怒りのオーラに気付いて、ジーハーは謝った。
「で、でも、一緒に寝るくらい、いいよな?」
「あぁ?」
俺はとびっきりのめんちを切ったが、ジーハーはしつこく食い下がる。
「い、いいじゃねえか。いつものコトだろ?」
「・・・まあ、そうだな。・・・一緒に寝るくらい、許してやるか」
「ありがてえ!」
「ただし! 前にも言ったが、レイプまがいのことはするなよ? あと、汗くさいのはイヤだから、風呂にも入ること」
「おう」
いやにすんなり承諾したことに、一抹の不安を感じなかったこともない。
しかし、俺は不用意にもジーハーの言葉を信用してしまった。
そう、不用意にも。
「じゃ、俺は先に風呂入ってくるから」
「おう」
ジーハーに見送られて部屋を出る。
「・・・ま、ベッドに入っちまえば、こっちのモンだしな・・・」
俺は、その言葉を聞き逃してしまった。
一生の、不覚。
俺がベッドで寝ていると、ジーハーの巨体がもぞもぞと潜り込んできた。
ちなみに、万が一ルシアに来られても平気なように、もう一つのベッドはキチンと乱してある。
「お、おい、抱きつくなよ」
「ん〜、悪い、悪い」
とか言うが、その腕からは俺を離すそぶりを感じない。
風呂上がりのジーハーの毛皮は、いつもと違って石けんの香りがした。
・・・ま、いっか。
俺は諦め・・・なかった。
「って、ちょっと待て! パンツぐらい履け!」
「なにを今更・・・」
「今更じゃないっ! イヤなら俺は一人で寝る!」
それはさすがに堪えたのか、ジーハーはしぶしぶベッドから出て、下着を身につけた。
でかい尻をパンツに押し込み、後ろの穴から短い尻尾を出す。その後ろ姿は、なんだか滑稽で笑えた。
「ほれ、これでいいんだろ?」
「本当ならシャツも着てほしいところだが・・・まあ、許してやる」
嬉しそうな顔で、ジーハーは再びベッドに潜り込んでくる。
俺に抱きついてきて、首筋に舌を這わせてきた。
「んっ・・・こ、こら! なにもしないって約束だろ!」
「そんな約束したっけ?」
「お、おまえなあっ! あっ、こ、こら!」
性感帯を嘗められ、俺は声を漏らした。
しかし、危ういところで踏みとどまる。
「いい加減に、しろっ!」
ジーハーの顔を、何とか押しのけ、俺は言った。
「もういいっ! 俺は一人で寝る!」
「あっ。わ、悪かった。悪かったってば。んなに怒るなよー」
「怒るわい!」
ジーハーの腕から逃れようと、俺は暴れた。
しかし、ジーハーはそんな俺をきつく抱きしめた。
その力に、いつもとは違う何かを感じて、俺は動きを止める。
気が付くと、ジーハーは俺の胸に顔を埋めていた。
「・・・だって・・・んだよ・・・」
「・・・ジーハー・・・?」
「・・・しかたねえだろ? ・・・だって、好きなんだからよ・・・」
ストレートな告白。
俺は思わず言葉を失った。
「・・・そりゃ、おめえが嫌がってんのはわかるよ。無理強いは、やっぱいけないんだろうな、とも思うよ・・・。
でも、オレ、おめえが好きなんだ」
「ジーハー・・・」
「・・・な、なあ。キスさせてくれよ」
「い、いや、でもそれは・・・」
「頼むよ。一回だけでいいからさ」
ま、まあ、軽いキス一回くらいなら、俺の理性も耐えられるだろう。
「・・・仕方ないな。一回だけだぞ?」
「あ、ありがてえ!」
そして俺達は短いキスを交わした。
・・・短い?
いや、短くない。
ジーハーの唇はいまだに俺の唇を塞いでおり、その舌は俺の歯を割って侵入してきた。
「んっ・・・!」
口の中で、ジーハーの舌が暴れ回る。
いかん、頭の芯がぼーっとしてきた。
俺は慌てて顔を離す。
「はあっ、お、おまえな、一回だけって・・・!」
「一回だけだろ? ディープキスを、一回だけ」
「ディープキスなんて聞いてないぞ」
「軽いキスだなんて言ってねえぞ」
くそ。屁理屈を・・・
「いっとくけど。・・・まだ終わってねえからな」
「へ?」
言うやいなや、俺の口は再びジーハーの口に塞がれた。
強引に舌をねじ込んでくる、荒々しいキス。
視界が白く滲むような感覚に陥る。
気が付くと、俺は自分から舌を絡めていた。
「はぁ、はぁ・・・」
「・・・んんっ!」
荒い呼吸が交わされる。
ジーハーの舌が俺の口を離れ、顎を伝って首筋を這った。そのまま降りて、腋の下を嘗め上げる。
「ひぁっ!」
マニアックな責めに、俺は思わず声を上げた。
って、ちょっとまて。これはもう、ディープキスの範疇を超えていやしないか?
いつの間にか、シャツの前ははだけられているし・・・。
そのことに気付いたとき、ジーハーが、俺の乳首に歯を立てた。
「――!!」
びくん、と反応し、俺は体を反らせてしまった。
「・・・へへへ、相変わらずいい感度してるな」
ジーハーのいやらしい声に、思わず顔が熱くなった。
なおも乳首を責められ、俺は悶えた。
唐突に、攻撃が止む。
「・・・?」
ジーハーの顔が迫ってきて、キス。
今度こそ、軽いキスだった。
「・・・続けて、いいか?」
真面目な声で聞いてくる。俺は、潤んだ瞳でその顔を見つめた。
意地悪な質問だった。
俺がこういう状態になったら、どう答えるのか、わかっているくせに。
「レイプはするなって言われてるからな。・・・なあ、いいか?」
俺は、目を逸らして小さく頷いた。
頷くしかなかった。
たぶん、俺の顔は恥辱で真っ赤に染まっていただろう。
「へへへ」
許可を得たジーハーが嬉しそうにパンツを脱ぎ捨てる。
現れた一物を目にして、俺はごくりと喉を鳴らした。
「ん? ・・・欲しいか?」
「くっ・・・」
俺は俯く。
そんな俺に向かって、ジーハーは腰を突きだした。
ちらりと見上げたあと、観念して俺は舌を伸ばした。しかし、俺の頭は押さえつけられ、それを嘗めることは許されなかった。
「待て待て。・・・欲しいのか、って聞いてるだろ?」
思わず、ジーハーの顔を見る。
ニヤニヤと、白い歯を見せて笑っていた。
まさか・・・言わせる気か?
ずいっと差し出される男根。
雄の香りが鼻孔をくすぐった。
俺はいても立ってもいられず、こくこくと何度も頷いた。
「よし、いいだろう」
許しを得て、俺はようやくジーハーのモノをくわえることができた。
「でも、次からはちゃんと言えよ?」
屈辱にまみれながら、俺はジーハーを貪った。
しかし、口の中に広がるジーハーの味に、いつしか幸福感すら覚える。
「しっかり濡らしとけ。痛くないようにな」
・・・痛くないように?
まさか・・・?
疑問を口にするより早く、俺は下着を脱がされた。
怒張した一物がぶるんと跳ね上がる。
しかし、ジーハーはそれには手を触れようとせず、俺の秘部へ手を伸ばした。
「あっ、ちょっ・・・!」
ジーハーのモノを吐き出し、抗議する。
「ん? ・・・もういいのか」
ジーハーの腰が下がり、身体が離れる。
・・・もっとしたかったのに。
いや、今はそれどころじゃない。
「ま、待って・・・」
しかし、ジーハーは待ってくれなかった。
彼の太い指が、俺の中に入ってくる。
「ひっ・・・!」
激痛に、俺は悲鳴を上げた。
体をくねらせて逃げようとするが、ジーハーは俺をしっかりと押さえ込み、それを許さない。
「いっ、痛い、痛いっ」
「なにいってんだ。このあいだは二本入っただろ」
そんな無茶な。
いくら初めてじゃないからって、痛いものは痛い。
「今日は、もっと太いモンが入るんだ。・・・覚悟決めとけ」
も、もっと太いモノって、まさか・・・
「む、無理! 絶対無理! そんなモノ入れられたら、死んじゃうって!」
「平気平気。案外あっさり入っちまうモンだって」
とか言いつつも、指をグリグリさせるので、俺は激痛によがり泣く事しかできず、抗議しようにもできなかった。
「い、痛・・・あっ、んっ・・・いい・・・」
「ほれ、だんだん良くなってきたろ?」
指を抜き差しし、肛門をほぐしながらジーハー。
いつの間にか指は二本になっていた。
「んっ・・・はぁっ・・・」
あえぐ俺の口を塞ぐように、キスをする。
俺は夢中でジーハーの舌を吸った。
なにがなんだかわからないほど、俺は興奮していた。
ジーハーの指が引き抜かれたときには、寂しさすら感じてしまった。
「そろそろいいかな」
ジーハーの腕が、俺の足を広げる。
まるでおむつを替えられる赤ん坊のような恰好をさせられ、俺は赤面した。
「へへへ。絶景、絶景」
奥歯をかみしめて恥辱に耐える。
そんな俺を見下ろして、ジーハーはいつまでもニヤニヤと笑っていた。
「は、早くしてくれ・・・!」
耐えかねて、俺はせかした。
おそらくこの言葉が聞きたかったのだろう、ジーハーは満足そうに頷くと、俺の秘部に顔を近づけた。
熊人の太い舌が、侵入してくる。
「んっ、く、はあああっ!」
俺はよがり泣いた。
たっぷりと唾を塗りつけられ、肉壁を広げられて、俺はジーハーを受け入れる準備を整えた。
「さて」
体を起こしたジーハーが、自慢の一物を俺に押し当てる。
「・・・いくぞ」
恐怖はあった。
というか、かなり怖かった。
いくら入念にほぐされたとはいえ、痛くないわけはない。
しかし、それ以上に。
貫かれる痛みという恐怖を、ジーハーに抱かれるという悦びが上回った。
「・・・う、うん」
処女喪失の予想以上の激痛に、俺は泣き叫んだ。
慌ててジーハーがキスで口を塞ぐ。
俺は我を忘れてジーハーの舌を吸い、口の中を嘗めつくした。
「・・・ほれ、全部入った」
ジーハーの優しい声に、我に返る。
震える手をそこに導かれ、俺はやっと状況を理解した。
「・・・な?」
「うん・・・全部入ってる」
とはいえ、痛みが消えたわけではない。
俺達は繋がったまま何度もキスをした。
ジーハーの体が動くたびに、激痛が走る。
「んんっ・・・」
「はっ、はぁ・・・っ」
気が付くと、ジーハーの呼吸も荒い。
・・・気持ちいいのかな?
俺は嬉しくなった。
「わ、悪い、ノヴィス・・・」
「?」
「お、オレ、もう、我慢できねえ・・・っ!」
ジーハーが動き出した。
腰を引いて、再び突き刺す。
俺は悲鳴を上げた。
「すまねえ、悪い・・・!」
謝りながらも腰を振る。
汗が滴って、俺に降り注いだ。
俺は焼け付くような痛みに耐えるため、ジーハーの背中に手を回す。
結果、二人はますます密着して痛みは増した。
・・・いや、増さなかった。
麻痺してきたのか、肛門は熱く火照るばかりで痛みはない。
代わりに、なにか熱いものがこみ上げてくる。
「はぁっ、はあっ、あっ、あああっ!」
「感じる、か? ん?」
荒い呼吸でジーハーが聞いてくる。
俺はその首にかじりついたまま何度も頷いた。
覆い被さるように、ジーハーの体がのしかかってきた。
最後に大きく腰を突き上げ、俺の奥深くまで到達する。
そして、ジーハーは果てた。
「んっ、ふッ!」
何度も痙攣し、俺の中に精を吐き出す。
受け止めきれなかった精液が溢れ、俺の尻尾を汚した。
しばらくそのまま抱き合っていた。
やがて、ジーハーが腰を引くと、俺の中から一物が引き抜かれる。
ずるり、という音すら立てて引き抜かれたそれは、いまだに天をついていた。
「はぁ・・・はっ・・・」
心に穴が空いたような喪失感にとらわれ、俺はジーハーを見た。
ジーハーは照れたように笑って、俺の頭を撫でてくれた。
「良かったぜ。最高のケツマンコだった」
デリカシーのない言葉に、顔を赤くする俺。
ジーハーを失ったそこは、彼を求めてヒクついていた。熱いような、ヒリヒリ痛むような感覚が残っている。
俺はジーハーにキスをせがむと、彼自身に手を伸ばした。
まだ堅さを失ってはいない。
「・・・っかい・・・るか?」
かすれた声で、俺は言う。
恥ずかしさのあまり、彼の顔をまともに見ることができないが、きっと目を丸くしているだろう。
「なんだって?」
案の定、驚いた声で聞き返してくる。
・・・二度も言わせるなよ・・・。
「・・・も、もう一回・・・できる、か?」
ジーハーはニヤリと笑った。
今度は四つんばいにされた。
垂れた尻尾を握られて、俺は短い悲鳴を上げる。
「おら、尻尾上げてろ」
高圧的な態度。
尻尾を握られた事も相まって、俺は支配されたと強く感じた。
「おお、すげえ恰好だな、オイ」
「っ・・・!」
言葉責めに、激しく反応してしまう自分が情けない。
そんな俺の感情が伝わったのか、ジーハーはますます言葉で責めてくる。
「こんなにケツマンコひくつかせやがって。・・・とんだ淫乱だな」
「ううっ・・・!」
ジーハーは股の間に手を入れて、俺を揉みしだいた。
「そういえば、おめえはまだイッてなかったな」
「はあっ、ん、んんっ!」
「おいおい、何気分出してやがる?」
も、もう言葉責めはいいよう・・・。
俺は目でジーハーに懇願した。
ジーハーも理解してくれて、立ち膝になると、先端を俺にあてがった。
「あ、ああっ、ああ・・・!」
まだ入れられてもいないのに、俺の口から吐息が溢れる。
「おい、コレが欲しいのか?」
さっきと同じセリフ。
俺は頷いた。
しかし、ジーハーはまだ許してくれなかった。
「コレが欲しいのか、って聞いてんだ」
「ううっ・・・」
し、仕方ない。
背に腹は代えられない。
「ほ・・・欲し、い・・・」
「聞こえねえな」
う、嘘だ! 聞こえてるはずだ。
悔しさで涙が出てきた。
「・・・欲しい・・・ジーハーの、チ、チンポ・・・ください・・・」
もう、俺のプライドはズタズタだった。
いつしか涙は流れていた。
「やれやれ。淫乱な相棒を持つと苦労する・・・ぜ!」
ずん、と一気に貫かれ、俺は悲鳴を上げた。
痛みによるものか、快楽によるものかはわからない。
「んん? どうだ? いいのか?」
「はあっ、はぁっ、あ、ああっ・・・いいっ・・・き、気持ち、いいっ!」
泣きながら。
哭きながら。
俺は犯された。
「あんまり大声出すなよ。ルシアに聞こえちまうぜ?」
後ろからのしかかるように、耳元で囁いた。
熱い吐息が耳にかかる。
俺の感度はますます上がり、必死であえぎ声を抑えなければいけなかった。
「んっ、はあっ、ふぅっ・・・!」
「あ、忘れてた」
腰を振りながら、ジーハーが言う。
乱れていた俺には、その声がわざとらしい事など全く気付かず、ただ不思議そうに振り返ることしかできなかった。
「悪い、悪い。部屋のカギ、かけ忘れた」
「――!!」
思わず血の気が引く。
こんな姿をルシアに、いや、人に見られたら・・・!
「だっ、ダメ、やめて・・・!」
カギをかけてこなくては。
しかし、ジーハーはなおいっそう激しく腰を使い始めた。
「ひっ、あ、あぁっ、ひぃっ!」
俺のツボを的確に責め立てる、絶妙な腰使い。
悲鳴と呼んでも差し支えないあえぎ声を上げて、俺は悶えた。
「へへへ。あんましいい声で泣くと、誰か来ちまうぞ?」
「い、いや・・・! やめて・・・!」
「んん? やめてもいいのか?」
「っ! ・・・いや・・・やめないで・・・!」
もうダメだった。
いまやめられたら、気が狂ってしまいそうだ。
・・・いや、もうとっくに、俺の気は狂っていた。
声が漏れるとか、人に見られるとか、もうどうでも良かった。
ただ、ジーハーに犯されたい。
ジーハーのものになりたい。
それしか考えられなかった。
ずり、ずりと、ジーハー自身が俺の肉壁をこする音が響く。
いや、多分それは犯されている俺にだけ聞こえる体内の音。
きっと外には、ぐちゅぐちゅと湿った音が響いているのだろう。
「おい、気持ちいいか?」
俺は泣きながら頷く。
「そうか。男にケツ掘られて、泣くほど気持ちいいのか」
「ううっ」
ジーハーの腰が止まる。
俺は思わず振り返った。
ジーハーは勝ち誇った顔で、ニヤニヤ笑っていた。
「は、はぁっ・・・う・・・」
俺は懇願の視線を送ったが、いつまで待っても、彼は腰を動かしてくれない。
「ん? どうした?」
わかっているくせに、ジーハーは俺を焦らした。
仕方なく、俺は自ら腰を振る。
くっくっく、と押し殺した笑い声が聞こえて、俺の羞恥をかき立てた。
「よしよし、ちょっと待て」
ジーハーの手が、俺の動きを止めた。
「はっ・・・はっ・・・な、なんで・・・?」
なんでそんな意地悪ばかりするんだよぉ。
声にならない抗議を受けて、ジーハーが腰を引いた。
ちゅぽん、と音を立てて男根が引き抜かれる。
「あっ、そんな・・・ジーハー・・・」
「まあ待てって」
ジーハーは仰向けに寝転がった。
ぬらぬらと光る一物がそびえ立つ。
「ほれ」
言われるまでもなく、俺はジーハーに跨った。
その先端を自らにあてがうと、俺を見上げるジーハーの視線と目があった。
「・・・ないで・・・」
「ん?」
「・・・見ないで・・・お願い・・・」
肉欲に負け、自ら男に貫かれる。こんな惨めな姿は見られたくない。
ジーハーは仕方ねえな、と呟くと目を閉じてくれた。
俺は安心して、ゆっくりと腰を下ろし始めた。
押し寄せる圧迫感に、目を閉じる。ずぶずぶとジーハーが入ってくるのが感じられて、俺はため息を吐いた。。
「おお、これも絶景だな」
ジーハーの言葉に、顔が熱くなる。
「み、見ないでって・・・!」
言ったじゃないか。
その言葉は続かない。
ジーハーが、腰を突き上げたから。
下から突き上げられ、俺はびくっと体を反らせた。
俺の反応に気をよくしたか、ジーハーは何度も俺を突き上げた。
「ひっ、ひぃっ、んっ、ああああっ!」
「ホント、いい声で泣くよなぁ」
「は・・・ぁんっ」
ジーハーの腰が止まる。
「よし、じゃあ自分で動いてみろ」
「は、はい・・・」
服従される悦びに打ち震えつつ、俺は体を上下させた。
ぺたんぺたん、と玉袋がジーハーの腹を打つ。
「よぉし、いいぞ・・・」
興奮しているのか、ジーハーの息も荒い。
俺はジーハーの胸に手をついて、その乳首を弄びながら、懸命に腰を振った。
「へへへ。ノンケが聞いて呆れるなぁ、おい」
うう・・・。
俺は涙を流した。
それが快楽によるものか、屈辱によるものかはわからない。
ただ一つ言えたことは、どんなになじられようと、腰の動きは止められないということだった。
「おいノヴィス」
「はぁっ、はぁっ・・・え?」
「ヨダレ、ヨダレ」
気が付くと、俺の口から溢れた涎が、細い糸を引いてジーハーの腹に垂れていた。
「・・・あっ、ご、ごめん・・・」
慌てて口をぬぐい、謝る。
謝ったあと、何かヘンだな、と思った。
何しろ、俺達の体はお互いの体液でベタベタだ。いまさら涎を垂らしたくらいで、ジーハーが怒るだろうか。
「いや。別にいいけどよ。・・・ヨダレに気付かないほど、気持ちいいのか?」
気持ちよかった。
もう痛みは感じない。
そこにあるのは、胸を焦がすような快楽だけ。
「う、うん・・・ふぅっ・・・気持ち、いいよぉ・・・」
「そうかそうか」
ジーハーが、俺自身を握りしめる。
たっぷりと溢れていた先走りを塗りつけ、しごかれた。
突然の刺激に、電撃のような快感が走る。
「ああっ、ジーハーっ! ダメ! イク、イッちゃうッ!」
俺はもうとっくに発射態勢に入っていた。このまま放って置いても絶頂に達したんじゃないかと思えるほどに。
「おい、くそ、そ、そんなに締め付けたら、オレも・・・!」
ジーハーの声に焦りが混じる。
俺の中で、ジーハーが膨れあがるのがわかった。
「あ、ああっ、すごい・・・!」
「ジーハー、ああ、ジーハーっ!」
ほぼ同時に、俺達は絶頂を迎えた。
二度目の吐精だというのに、ジーハーは何度も痙攣してくれた。
いや、ひょっとするとそれは俺の痙攣だったのかもしれない。
繋がっていた俺達は、お互いの絶頂を共有することができたのだ。
俺はジーハーの手の中に大量の精を吐き出すと、気を失うように眠りに落ちた。
「・・・・・・」
見上げると、ジーハーが片手で煙草を吸っている。
もう片手、右手は俺の頭の下、つまり腕枕になっていた。
「お? 気が付いたか?」
サイドテーブルの灰皿に煙草を押しつけてジーハー。
「え? あ、うん」
今まで繰り広げられた痴態を思い起こし、俺は俯いた。
鼻先に当たったジーハーの腋の下から、クラクラするような匂いが漂ってくる。
普段は顔を背けたくなる匂いだが、今だけは不思議と心地よい。
・・・まだ余韻が残ってるのかな。
「いや、まさか失神するとは思わなかったな」
「失神?」
そうか。俺は寝たんじゃなくて、気を失ったのか。
「・・・シャワー浴びてくる」
そういって起き上がろうとした俺を、ジーハーは抱きしめた。
「お、おい」
「いいじゃねえか。今夜はこのまま寝ようぜ?」
「でも・・・」
「おめえ、イッちまうと途端に冷めるからな。どうせ別のベッドで寝るつもりだっただろ?」
そんなつもりは毛頭無かったのだが、なるほど確かに。
いつもの俺だったら、事が済めばジーハーなど軽くあしらって別々に寝ていただろう。
「・・・まあ、な」
一応、そう言っておく。
「じゃあやっぱりダメだ。今夜は一緒に寝てくれるって約束だろ」
「・・・最初に約束を破ったのはジーハーじゃないか」
「破ってねえよ。今夜のことは、同意の上だろ?」
・・・どちらかというと俺から求めたような気もするが。
もちろんそんなことはおくびにも出さず、
「俺はもうジーハーの言う事なんて信じない」
「そりゃねえよ。・・・気持ちよかったろ?」
俺は答えずに、くるりと背中を向けた。
そんな俺を抱きかかえるような形でジーハーが密着する。
「・・・好きだよ、ノヴィス」
赤くなる顔を悟られたくなくて、俺は俯いた。
回されたジーハーの逞しい腕に顔を埋める。
ジーハーは何も言わずに腕に力を込めた。
それが嬉しくて、俺はもう一度呟く。
「――大嫌いだ・・・」
翌朝。
俺がトイレから出てくると、二人はすでに朝食のテーブルについていた。
「ノヴィス、今日も顔色悪いわね」
「え? ああ、昨夜クスリ飲んだからな」
「大丈夫か?」
俺は無言でジーハーを殴った。
「いってぇー・・・何するんだよう・・・」
「うるさい、黙れ」
「あらら、機嫌も悪いわね」
「な、なんで怒ってるんだ?」
「うるさい、黙れ」
コイツ、量多すぎ・・・。
「でもさあ」
ルシアがにこにこ笑いながら口を開く。
「ジーハードって我慢強いよね」
「へ? オレが?」
「だってさ、完全にノヴィスの尻に敷かれてるじゃない? 主導権握られちゃって可哀相かな、って時々思うよ」
時々かい。
「え? そう、かな・・・? そうでもないと思うけど・・・」
ジーハーは首を傾げて、やがてポンと手を打つ。
「ああ、そりゃおめえ、ベッドの上のノヴィスを知らないから・・・」
「ああぁーっ!」
俺は大声でジーハーの言葉を遮った。
「な、なによ、突然」
「こんなところでノンビリしてるヒマは無いぞ! さっさとメシ食って聞き込み開始だ!」
「と、突然ハリキリ出したわね・・・」
ルシアは不思議そうな顔をしていたが、すぐに「それもそうね」と頭を切り替えてくれた。
――もちろん彼女は知らない。
俺とジーハー、本当にイニシアティブを握っているのは、どちらかということを。
身も心も虜にされてしまっているのが、本当はどちらかということを。
彼女は、何も知らない。