4 サニーサイドアップ

 

 

「よし、じゃあやるぞ」

ジーハーがナイフを握りしめた。

いや、それはナイフというよりも肉切り包丁だ。刃は、消毒のためか真っ赤に灼かれていた。

俺の腕に寄生した天使を、右腕ごと切り離すつもりだ。

――ダメだ、よせ!

俺は叫んだが、なぜか言葉にはならなかった。

手術台に横たわる俺の右腕。

いや、それはもうほとんどがイグドラシルに乗っ取られているので、俺のと呼んでいいのかわからない。

「すまねえ!」

その右腕に向けて、ジーハーがナイフを振り下ろす。

――やめろ! そんなことをしたら・・・!

ぐるりと回転し、イグドラシルが目を覚ました。

細長い瞳孔で、ジーハーを見つめる。

――やめてくれ!

声にならない叫びで、俺は懇願した。

しかし、その願いは聞き入れてもらえなかった。

イグドラシルの瞳が、スッと細くなる。

それは、世にも残酷な嗤い。

俺の腕を引き裂いて、イグドラシルの根が飛び出す。

それはジーハーの腕に絡みつき、凶悪な力で締め上げた。

「ぐああああぁぁぁ!」

ナイフを取り落とし、ジーハーが悲鳴を上げる。

そんなジーハーに向かって、イグドラシルはさらに触手を伸ばす。

――頼む! やめてくれ!

木の根にがんじがらめにされ、ジーハーのシルエットがぎゅっ、と細くなる。

そう。まるで雑巾でも絞るように。

俺の顔に、大量の返り血が降りかかった。

 

 

俺は食卓に着いていた。

ここは誰の家だったっけ?

暖かく燃える暖炉。

壁にかけられた油絵は神聖な聖書の一場面。

純白のテーブルクロス。

顔が映るほど磨き込まれたグラスには、芳醇な香りの赤ワイン。

そして目の前の皿には、じゅうじゅうと音を立てるステーキが盛られている。

――ここは誰の家だったっけ?

俺は疑問を口に出したが、答えてくれる人はいなかった。

ナイフとフォークを使って、ステーキを口に運ぶ。

血の滴るステーキは、俺が今までに食べたどんな肉よりも美味かった。

それなのに、味がわからない。

――ああ、コレは夢だ。

気味の悪い夢。悪夢だ。

俺はそう理解したが、目は醒めてくれなかった。

ワイングラスを手に取り、口に含む。

アルコールがダメな俺でも、この赤ワインはすんなり飲めた。

なじみの深い味がする。

――わかった、わかった。オチは読めてるよ。だから、もういいだろ?

俺の意志とは無関係に体は動き、俺は取り憑かれたように肉を貪り、ワインを飲んだ。

やがて皿が空になると、目の前に銀のドームカバーが現れる。

高級料理なんかで見かけるアレだ。

――もういい、充分だ。

俺は口の中の肉を嚥下すると、それに手を伸ばした。

右手だった。

――やめてくれ!  そんなもの、見たくない!

心とは裏腹に、身体は尋常じゃなく興奮していた。

痛いほどに勃起しているのがわかる。

イグドラシルが、ドームカバーを持ち上げる。

 

虚ろな目をしたジーハーと、目が合った。

 

 

「――うわあああああああぁぁぁっ!」

悲鳴を上げて、俺は飛び起きた。

夢だと、悪夢だと気付いていたのに。

それでも心臓は早鐘のように鳴って、シャツは寝汗で背中に張り付いていた。

くそ。せっかく昨夜ジーハーに着替えさせてもらったのに。

俺は右手で顔を押さえて、心を落ち着かせる。

コイツだ。このイグドラシルのせいで、あんな夢を見てしまったんだろう。

いや、夢にしてはイヤにリアルだった。

もしかするとあれは、イグドラシルが俺の精神に干渉して意図的に見せたものなのかもしれない。

最後のシーンがフラッシュバックし、俺は猛烈な吐き気に襲われた。

反射的に枕元に常備してある袋を取り寄せ、こみ上げてきたものを吐瀉する。それはもう、血なんだか胃液なんだかわからない。

「ごほっ、ごふっ・・・」

鼻水と涎を乱暴にぬぐい、俺はそこでジーハーの姿がないことに気が付いた。

隣で寝ていたはずだが・・・?

ジーハーのベッドを見ても、もぬけのから。シーツは少しも乱れていなかった。

「・・・ジーハー・・・?」

かすれた声で、呼んでみる。

引いていた汗が再び噴き出す。

「ジーハー・・・?」

もう一度呼んだとき、ドアが開いてジーハーが顔を覗かせた。

「んん? 起きたか?」

俺は安堵し、脱力した。

ジーハーは火のついたタバコをくわえていた。俺に気を遣って部屋の外で一服していたのだろう。

気を遣ったつもりが、却って心配させるコトになるとはつゆ知らず。

「・・・おはよ」

不機嫌顔で挨拶する俺。

ジーハーは手にした灰皿に煙草を押しつけると、部屋に入ってきた。

「おう。・・・もう昼過ぎてっけどな」

言われてみると、日は高い。

「ま、明け方まで苦しんでたんだ。ムリもねえ」

ジーハーはベッドのそばまで歩み寄ると、俺の頭に手を乗せた。

「よく頑張ったな。偉い偉い」

「・・・子供扱いするなっ」

その手の重さが無性に嬉しくて、ついついヒネた態度を取ってしまう。

「へいへい。・・・ハラ減っただろ?」

肩をすくめて去ろうとするジーハーの裾を、俺はくいっと引っ張った。

「ん?」

振り返るジーハーの腹に、顔を埋める。

「お、おい・・・?」

タバコの匂い、汗の匂い、男の匂い。

ああ、ジーハーの匂いだ。

よかった。あれが夢で、本当に良かった。

「ノヴィス? ・・・泣いてんのか?」

「泣いてなんか、ないっ」

ジーハーの腹は、柔らかくて、暖かくて、逞しくて。

震える声で、俺は答えた。

「・・・そうか」

ジーハーはもう一度俺の頭に手を置くと、そっと撫でてくれた。

 

 

「ノヴィス起きたんだって?」

その後すぐ。

ルシアが部屋を訪ねてきた。

「おはよう、ルシア」

俺はジーハーの持ってきてくれたシチューをすすりながら答えた。

「うわ、ヒドイ顔色。大丈夫?」

「平気だよ。コレでも結構マシな方なんだ」

「ガンガン血ィ吐いてっけどな」

「やかましい」

俺はジーハーをキッと睨み付ける。

ジーハーは「さっきまでびーびー泣いてやがったくせに」と呟いて俺の肝を冷やしたが、幸いルシアには聞こえなかったようだ。

「まあ、とりあえずは大丈夫そうね。ハイお見舞い」

といって懐からリンゴを放ってよこす。

「悪かったね。コレ食ったらすぐ出発するから」

「オイオイ、まだムリだろ」

「そうよ。今日はゆっくり養生するといいわ」

「いやでも・・・」

「大丈夫よ。急ぐ旅でもないし。賞金首は逃げないって」

・・・いや、逃げるだろ。

そりゃもうスゴイ勢いで。

「汽車に乗ってるだけなら平気なんだけどな・・・」

「そもそも、ターゲットが王都にいるかどうかもわからないんでしょ?」

っていうか、普通いないだろう。

そもそも、ターゲットが暗殺をしくじったのが王都ファルリーザだ。普通の神経だったら、速攻で街を出て、姿をくらましているハズだ。

「だったらなんでファルリーザなんかに行こうとしてたんだ?」

俺はため息をついた。

「・・・聞き込みするために決まってるだろ? 賞金首が、当てもなく探して見つかるものかよ」

「ふーん」

そもそもこの仕事は90パーセント以上が地味な聞き込み捜査だ。

俺の名前がそこそこ売れているのも、その地味な捜査を根気よく続け、集めたデータを元に完璧な推理を行っているからに過ぎない。天使の翼や召喚魔法なんていう派手な特徴のおかげで霞んでしまっているが、真に評価されるべきなのは、この天才的な頭脳の方なのだ。

「だから一刻も早く王都に行きたかったんだが・・・」

「どっちにしろ、その身体じゃムリよ」

「うーむ」

まあたしかに。

コンディションの悪い日に動き回るのは得策ではない、か。

「・・・そうだな。今日のところは情報整理だけにしとくか」

そういって俺は賞金首の手配書を取り出した。

手配書には、いかにもな顔をした狼人が載っている。

サイラス・レグハーン。推定24歳。

「星七つ。生け捕りの場合のみ500万デファンス。殺しちゃった場合は50万デファンス」

「10分の一か。キビシイな」

「キビシイわね」

「キビシイな。・・・で、罪状は王族暗殺。ただし未遂。・・・暗殺者なのかな?」

「英語で言うと『ASS ASS IN』だな」

「・・・・・・」

「・・・意味ありげな区切り方をしないように」

俺はため息を一つついて、再び手配書に目を落とす。

「最後に目撃されたのが、やっぱり王都ファルリーザだ」

「何してたのかな?」

「さあ? 逃げる準備でもしてたんじゃないか?」

「コイツさ、仕事に失敗してんだよな?」

ジーハーがリンゴをかじりながら聞いてきた。って、それ俺がもらったリンゴ・・・。

「そうね」

「だったらさ、まだ狙ってんじゃねえの? 暗殺」

「まさか」

俺はかぶりを振った。

「相手は王族だぞ? 一度しくじれば警戒は厳重になる。一般人のそれとは比べものにならないほどにな。チャンスは、もう二度と無いだろう」

それが常識的な考え方だ。

「でも、そもそも王族を暗殺しようとしていること自体、常識はずれなのよね」

「そうそう。オレが言いたかったのもそれだ」

「ホントかよ・・・」

「ノヴィスはどう思うの?」

「俺?」

俺は顎に手を当てて思案した。

「・・・何とも言えない、ってのが正直なところだな」

「なんだよ、それ」

「情報が少なすぎるんだよ。そもそもさあ、王族暗殺、ってなんだ?」

「え? 王族を暗殺しようとしたんでしょ?」

「そうじゃなくて。王族って言ったってピンキリだ。国王、王妃、王子から、親戚の親戚のそのまた親戚まで。そのうちどれを狙ったのかわからなきゃ、答えようがない」

「親戚の誰かなんじゃねえの? だって、たとえば国王を狙ったんなら、ここに国王暗殺って書かれるハズだろ?」

ジーハーが短絡的な考えを口にした。

「そんなわけない。むしろ逆だろ」

「・・・威厳を保つため?」

ルシアが言う。

「それもあるだろうな。でも、もちろんそれだけじゃない。国王なんて立場になると、世論的にも外向的にも公にできない事柄というのが発生するんだろう。政治的問題ってヤツだ」

「じゃあ、国王暗殺ってのを隠すために、こう書いたのか?」

「さあね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。この曖昧な書き方だと、どうとでも取れるんだ。

・・・もしかしたら、この手配書は王室付きの諜報課が情報操作のために流したものかもしれない」

「あたし達にしてみれば、お金さえもらえればそれで良いわけだけどね」

「そういうことだ」

「・・・よくわかんねえけど。結局このサイラスってヤツは誰を狙ったんだ?」

俺は頭痛を覚えた。

「だから、それがわからない、って話をしてたんだろ? 今」

「そうなのか?」

「そうよ」

「わざとわからないように書いてあるんだってば。この分じゃ、箝口令も敷かれていそうだ」

聞き込みも苦労しそうだな。

まあ、その反応次第では、ヒエラルキーのどの辺りを狙っていたのか割り出せると思うが。

「・・・いずれにせよ、王都に行ってみないことには始まらないな」

俺はジーハーからリンゴを奪いとって、かじった。

 

 

その日の晩。

俺は目を覚まし、ベッドの上に身体を起こしていた。

隣では大の字になったジーハーが、大イビキをかいて眠っている。

窓には、わずかに欠けた月。

月光を浴びたイグドラシルが、嬉しそうに蠢いているのがわかる。

俺はジーハーを起こさないように、そっとベッドを抜け出すと、屋上に上がった。

「ん〜っ」

月に向かって大きく伸びをする。

「・・・ノヴィス?」

月光浴していた俺に、いきなり声がかけられた。

声の主はルシアだった。

屋上の階段室、そのさらに屋根の上に、彼女はいた。

「何してるんだ? こんなところで」

「それはこっちのセリフよ。起きて大丈夫なの?」

ルシアは屋根の上から飛び降りると、手にしたアルコールボトルをかざして見せた。

どうやら月を見ながら一杯やっていたらしい。

「大丈夫だよ。今日は一日中寝てたからな。眠れないんだ」

「そう」

俺達は無言で月を見上げた。

 

「・・・ヤマトではね」

沈黙に耐えかねたのか、ルシアが言う。

「お月見って言って、満月をお祝いする習慣があるの」

「へえ」

「あそこでもやっぱり月は神様の住む国で、神聖視されてるのよ。

・・・ノヴィスにとっては、月は忌み嫌うものなんでしょうけどね」

「まあね。・・・でも、俺は別に月が嫌いなワケじゃない。満月の晩、コイツが暴れ回るのがキライなだけだよ」

俺は右手を月に伸ばす。

天使イグドラシル。

コイツも、やっぱり月から来たのだろうか。

「あたし、天使って人の味方だと思ってた」

寂しそうにルシアが言う。

そうか、ルシアは昨夜の俺の悲鳴を聞いているんだっけ。

俺は恥ずかしくなって歩き出す。

「普通はそう教えられているからな」

俺はフェンスに手をかけると、自分の背丈よりも高いそれを飛び越える。

後ろで、ルシアが息を飲むのがわかった。

「ちょっと、危ないわよ!?」

「平気だよ」

眼下には寝静まった街。

15メートルはあるだろうか。ここから落ちるコトができたら死ねるな。

「ねえ、それって腕に寄生してるのよね?」

「そうだよ。最初は手の甲だけだった。でも次第に俺の身体は喰われていって、今では肘の上くらいまで乗っ取られてる」

「切り落としたり、できないの・・・?」

「何度も試した。でも・・・」

俺は言葉に詰まった。

「・・・コイツ、イグドラシルは自己防衛本能の塊だ。自分と、その宿主である俺を守るためなら、手段を選ばない」

今朝の悪夢がフラッシュバックする。

そうだ。あれは夢なんかじゃなかった。

「反撃してくるのね?」

「ああ」

たっぷり時間をおいて、俺は振り返った。

「・・・ジーハーの顔の傷。あれはコイツの仕業なんだ」

ルシアが言葉を失う。

あのとき、もうほんの少しイグドラシルが力を込めていたら。もうほんの少し互いの位置がずれていたら。

ジーハーは、今この世に存在しない。

「そんなに危険なものなんだ・・・」

「俺以外にとってはね」

風が出てきた。

俺の髪が、尻尾が風に踊る。

「・・・見せてやろうか?」

フェンスの向こうにルシア。

金網一枚隔てただけだというのに、その距離は果てしなく遠い。

「え? ・・・いいの?」

「攻撃の意志さえ感じさせなければ無害だ。だから間違っても切り取ろうなんて考えるなよ?」

「あたしが言いたいのはそうじゃなくて・・・」

「わかってる。・・・別にかまわないよ」

俺は手袋に手をかけると、そっと外した。

月夜に目覚めていたイグドラシルと、ルシアの目が合う。

手の甲に植えられた、いびつな目玉焼き。

イグドラシルが不思議な物でも見るように二、三度瞬きすると、ルシアは顔を歪めて目をそらした。

まあ、そうだろうな。

この距離は縮まらない。

俺はふっと笑うと、床を蹴った。

ピョン、という効果音すら聞こえてきそうなほど、軽く後ろへジャンプする。

しかし、その跳躍は致命的だ。

世界が一瞬スローモーションになり、次の瞬間、俺の身体は大地に向けて真っ逆さまに落下していった。

「――!」

猛スピードで上へと流れる景色の中、ルシアが慌てて駆け寄ってきてフェンスに手をつくのが見えた。

びゅうびゅう唸る風の音に混じって、がしゃん、という音が聞こえる。

 

――バサリ。

 

風が止んだ。

地面に叩き付けられる前に、俺は漆黒の翼を広げていた。

自分の意志とは、まるで無関係に。

右手を見ると、イグドラシルと目が合う。

――そうはさせるか。

そんな声さえ、聞こえてきた。

「・・・くそったれが」

俺は4枚の翼を羽ばたかせ、大空へ舞い上がる。

ポカンと口を開けたルシアが、今では足下にいた。

きっと今の俺は苦虫をかみつぶしたような顔をしているんだろう。

俺は屋上に降り立つと、闇の翼を畳んだ。

「・・・ごらんの通り。俺は自殺する権利すら、取り上げられてしまっているのさ」

自虐的に肩をすくめてみせる。

ぱん、と大きな音がした。

何が起きたのか一瞬わからなかったが、どうやら俺はルシアに平手打ちをされたらしい。

「・・・・・・ないで・・・」

「――え?」

「もう、二度とこんなコトしないで・・・!」

顔を上げたルシアの目には、大粒の涙が浮かんでいた。

「ル、ルシア・・・?」

そういえば、以前にも一度、こんな顔をされたことがあったっけ。

あのときも俺は自殺しようとし、失敗した。

それを止められなかったジーハーは、泣きながら本気で怒っていた。怒ってくれた。こんな俺のために。いずれにせよ、先はもう長くない俺のために。

「・・・悪かったよ」

今になって、殴られた頬がひりひりと痛んだ。

 

 

部屋に戻った俺を待っていたのは、ジーハーの大イビキだった。

せっかく俺がかけてやったシーツを蹴飛ばし、だらしなく大口を開けて眠っている。

彼は寝るときいつも全裸なので、その様相も推して知るべし、だ。

「ほら、風邪引くぞ」

まあ、この季節なら平気だろうけど。おまけに熊人は寒さに強いし、バカは風邪引かないっていうし。

それでもこの恰好は目に毒だ。

俺はジーハーの身体をゆさゆさ揺すって起こそうと務めた。

「・・・おーい、起きろー」

シーツは完全に身体の下になってしまっている。

引っ張り出すのは難しそうだ。

「おーいってば」

腹に手をついて揺すると、股間に垂れ下がった男根もぶらんぶらん揺れる。

・・・・・・。

・・・ダメだ。何を考えている?

「ジーハー?」

もう一度揺すってみる。

ぺたんぺたん、と玉袋が蟻の戸渡りを打つ音が響いた。

気が付くと、俺は唾を飲み込んでいた。

・・・やめろ。ダメだって。

「起きろー」

・・・起きるなよ。

俺はジーハーの様子をうかがいながら、そっと股間に顔を近づける。

むわっ、とした雄の香りが、俺の鼻をくすぐった。

ダメだとわかっている。もしジーハーが目を覚ましたら大変だ。

・・・でも、少しだけなら・・・

心臓の鼓動がやけに大きく聞こえる。ジーハーにも聞こえてしまうんじゃないか、というほどに。

俺は、ジーハーの一物をそっと口に含んだ。

柔らかい。

平時の状態のコレをくわえたのは初めてだ。

俺はできるだけ刺激を与えないように、ジーハーのモノを味わった。

しかし、それでもやっぱり感触は伝わったのだろう。ジーハーのモノは俺の口の中で徐々に体積を増し、同時に硬化していった。例え眠っていても生理現象は起きるものなんだな。

そうはさせじと、押さえ込むようにくわえなおす。

「・・・ん・・・」

ジーハーのうめき声が聞こえ、俺は慌てて口を離した。

圧力から解放され、ジーハーの男根がむくむくと屹立していく。

文字通り目と鼻の先で、涎に光る一物が勃起していく様は、とても扇情的だった。

「はぁ・・・」

思わず熱い吐息を漏らし、俺は再びそれをくわえ込んだ。

ついつい喉の奥まで飲み込んでしまい、しまったと思ったときには、俺はえずいていた。

一物を吐き出し、咳き込む。

口を押さえた手が血で染まる。

「ごほっ、ごほっ・・・」

い、いかんいかん。今日は体調の悪い日だってコトをすっかり忘れていた。

あやうくジーハーの股間を血まみれにしてしまうところだった。

「・・・ふぅ」

吐血したことで、頭に上っていた血も下がったのか、俺は冷静さを取り戻すことができた。

あー、ヤバかった。

あのまま続けてジーハーに目を覚まされていたら、俺の余生は陵辱の毎日だ。

俺は床の血を拭くと、空いていた方のベッドに横になった。

「・・・そりゃねえよ・・・」

情けない声が聞こえたような気がした。

・・・空耳、空耳。

 

 

 

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