マンガ時評vol.56 99/12/15号

ギャグマンガは「安定」と「マンネリ」の狭間に揺れる。

 前回の「マンガ時評」を書いてから2ヶ月。すっかり間が空いてしまいました。前回は立て直しを期待されるスピリッツ新連載陣の予測をしたのですが、この2ヶ月でだいたい思った通りの展開。特に期待薄と酷評した相原コージ『なにがオモロイの?』は、まさに何が面白いのかわからないままに消えていこうとしています。いや、現在は休載しているだけかも知れませんが、僕の中では完全に無視すべきレベルにまで落ちてしまいました。

 ただ、相原コージは何が面白いのかわかりませんが(と言うより面白くないことがわかっているんですが)、ストーリーマンガが全体に今一歩のスピリッツの中で、ギャグマンガ系は比較的安定した力量を発揮しています。代表的なところでは、中崎タツヤ『じみへん』。この作品の渋い味わいは、例えて言えばイッセー尾形の一人芝居のようなものでしょうか。爆笑ではなく微苦笑を誘うような脱力感を伴うギャグセンス。作者はよほどの苦労人なのだろうと思わせます。

 同じく安定感のある笑いを積み重ねているのが、中川いさみ『大人袋』。ただし、こちらは「安定」と言うよりも、かなり「マンネリ」に近いので、そろそろ新しい展開を考えないと厳しいでしょう。同じくマンネリ感たっぷりなのが、ホイチョイプロダクション『気まぐれコンセプト』ですが、スピリッツ最古参連載だけに(最新号でなんと778話でした)、そのマンネリさはかえって水戸黄門の如く気持ち良いくらいの世界に突入しています。それに『じみへん』や『大人袋』のような全てを作者の頭の中で作らなければならない正統派ギャグマンガではなく、あくまでも時事ネタを利用した、ある意味ずるい作品ですから、ギャグマンガとしてよりも情報マンガの側面が強いため、これからも生き残っていけるのでしょう。

 またかつて『江戸むらさき特急』で時代劇をパロディにして笑いをとった仕掛け人ほりのぶゆきの『旅マン』もドキュメンタリー・ギャグマンガ路線。こちらは観光スポットをネタにしていますから、やはりマンガとしては少々ずるいという感じです。連載開始以来10回、現状はまだほりのぶゆきらしさが希薄です。これ以上面白くならないのなら、早々にやめてもいいんじゃないでしょうか。

 で、これらに比べてはるかにギャグマンガとして安定したクオリティの高さを維持しているのが吉田戦車『学活!!つやつや担任』です。かつて『伝染るんです』で一世を風靡した吉田ですが、ギャグマンガ家の宿命として、これ以降は苦しむだけで落ちていくかと思っていました。ところがこの『学活!!つやつや担任』で新しい鉱脈を発見したという印象です。

 学園を舞台にして彼独自の不条理ギャグを展開しているんですが、そのキャラクターの突飛さには毎回驚かされます。主役のつやつやも相当に変ですが、それを上回る奇妙なキャラクターたち。なにせ人間以外の動物やモノまでが人格を持ってしまい学園生活を送っているという設定だけに、なんでもあり状態です。

 ただこの「なんでもあり」というのは、思いつきを自由に描けるから面白いかというと、そうでもないあたりが難しいところです。自分の中でどこまでは「あり」で、どこからは「なし」なのか、その線の引きどころを間違えると全然つまらなくなってしまいます。まさにギャグセンスが問われるところ。吉田戦車は、その感覚が抜群だからこそ不条理ギャグマンガ家の代表として活躍し続けられるのでしょう。相原コージとの差はまさにそこにあります。

 特に僕のお気に入りは誰からも怖れられている妙に親切な生徒・三浦です。石や骨やたんこぶまでもが生徒になってしまう世界で、かえって普通の人間の方が面白いキャラクターになるんだから、本当にギャグマンガというのは奥が深いと思います。ただ、最近はちょっと突飛さにも慣れてきてしまい、当初の驚きは少なくなりました。いよいよこれからは「マンネリ」との戦いです。

 「安定」と「マンネリ」の狭間で描き続けるギャグマンガ。最初は面白くても、すぐにダメになっていくマンガ家が多い中で、すり減っていく才能を技術でカバーして少しでも長持ちさせよう小出しにすると、途端にマンネリ感が強くなります。いつでも全開で才能を放出し続ける、いわば100mの走り方でマラソンに挑むようなことをしているわけですから、ギャグマンガ家は結局最後は倒れずにはいられません。さて、吉田戦車はいつぶっ倒れるのか?願わくば100m走のスピードで42,195kmを走り抜ける超人ランナーであって欲しいとは思いますが。