マンガ時評vol.53 99/7/24号

結局ジャンプは『ONE PIECE』が頼りか。

 相変わらず浮かんでは消える少年ジャンプの連載陣。なかなか新しいヒットの鉱脈が発見できずにに苦戦している様が見て取れて、従来の人気マンガ頼りの現状です。まずはここのところ立て続けに始まった新連載作品の今後を占ってみましょう。

 最新連載は久保帯人『ゾンビパウダー』。時代国籍不明、ソンビパウダーなる宝物を探すハンターの物語です。1回目を読んだ限りでは可もなく不可もなく、いかにもありがちなストーリー設定に、ちょっと食傷気味かなという印象。下手をすると3ヶ月で終わってしまうかも知れません。まあまだ1回目ですからあまり早く決めつけるのもどうかとは自分でも思いますが。

 次にブルース・リーをネタにしたギャグマンガ、あずまけいしん『CHILDRAGON』。まだ2回目ですが、これは少し期待が持てます。絵はまだまだ下手ですが、テンポが良いし、笑わせる芸人(?)自体を笑うというスタイルは、いかにも東京で受けそうなギャグです。心配はブルース・リーを知っていれば面白いのですが、知らない若者たちにどこまで理解されるか。まあブルース・リーにこだわらずに軌道に乗ればそこそこは続くかも。

 かなりきっついなー、って感じがするのが許斐剛『テニスの王子様』。僕がテニスマンガには厳しいというのを差し引いても、これはちょっとひどいでしょう。スポーツマンガに必要なスピード感も緊迫感もないし、キャラクターに魅力もないし。連載3回ですが、ここまで盛り上がらないようでは早々の打ち切りは免れないと思います。だいたいタイトルにセンスなさすぎ。

 対して、久しぶりのつの丸の連載『サバイビー』。みつばちハッチのつの丸版ですが、最初から山を作り、謎を仕掛け、キャラクターを次々と登場させて、さすが新人とは実力の差を感じさせる面白さです。最近の子どもは昆虫の世界をどこまで知っているかわかりませんが、それを抜きにしても面白いです。これは期待大。まだシリアス一辺倒でギャグが不発なのがちょっと気になるところですが。

 で、すでに回数を重ねてきた連載陣の中では『ヒカルの碁』『シャーマンキング』あたりが予想外に健闘をしていますが、所詮は脇役。やはり今もっともジャンプの中で乗っているのは尾田栄一郎『ONE PIECE』でしょう。疲れの見えるこれまでのエース『るろうに剣心』に代わって、今や堂々の4番打者です。

 『ONE PIECE』の良さは、いかにも少年マンガらしい爽やかな後味にあります。基本は海賊王を目指すルフィとその仲間たちの戦いと成長にあるのですが、次々と登場する敵味方の魅力的なキャラクター、奇妙でオリジナリティ溢れる技の数々。ギャグとシリアスのバランスも抜群です。

 絵もすっきりしてきてかなり上手くなってきましたし、ファンタジーな味わいもあり、最近は鳥山明の全盛時を思わせるほどです。難を言えば展開が少々遅いことくらいでしょうか。昔のキャラが再登場しても忘れてしまいそうになります。

 現在の少年ジャンプには、そこそこ安定した人気を誇る連載作品はあっても、勢いを感じる作品はこの『ONE PIECE』くらいなものだけに、もっと爆発的に人気が出れば雑誌全体を引っ張ることができるでしょう。そのためには、もう少し展開の早さと、作品に深みというかコクが出てくれば申し分ないと思います。なにせ他のチームメイトが頼りにならないから大変です。