マンガ時評vol.27 97/11/30号

マンガの未来はインターネットにあるかも。

 今回はいつものマンガ時評を休憩して、ちょっとインターネットとマンガを巡る状況を考えてみたいと思います。

 最近インターネット上にWEBサイトを開設するマンガ家が増えています。以前にもここで取り上げた井上雄彦をはじめ、ちばてつややいしかわじゅん、モンキーパンチ、野間美由紀、秋本治などまさに多士済々。内容は凝ったものから、単なる作家紹介的なものまでレベルにかなり差はありますが、アクセスはどこも結構あるようです。その中でも爆発的な人気を集めているのが少女マンガ界のベテラン青池保子のホームページ「★★「エロイカより愛をこめて」★★青池保子の公認公式サイト!!★★」です。1997.9.17にオープンして以来、2か月そこそこですでに25000アクセスを達成してしまいました。もちろん1年足らずで100万アクセスに到達した秋本治の「こち亀OFFICIAL SITE」の方がアクセス数で言えば圧倒的に上です。でも「こち亀」サイトが少年ジャンプという超メジャー誌で大々的に宣伝しているのに対し、「エロイカ」のサイトは同時期に発売された「エロイカより愛をこめて」22巻の巻末にアドレスが小さく書かれていただけです。ボーっとしていたら見落としてしまいそうな小さな文字を目敏く発見し、それで月1万アクセスというのですから、これは結構すごいことだと思います。

 実際、エロイカサイトの掲示板に書き込みをしているファンたちのメッセージの熱さ・濃さ・深さには感動的なものがあります。少佐や伯爵の年齢や出自、女性関係の話など、わずかな作品の手がかりから、さまざまな論議をファンが続けています。時々青池保子自身の書き込みがあったりするものだから、ますますファンの熱気はヒートアップしています。これは「エロイカ」自体が長い休止期間を経て復活した作品だけに、余計に溜まっていたファンの熱気が一気に爆発したとも考えられますが、それにしても作品にそれだけの魅力がなければ、ここまでファンはついてこないでしょう。そして同時に、少女マンガでありながらこれだけインターネットにアクセスするファンが多いことに、マンガとインターネットの親和性の高さを改めて確認した思いです。

 僕は以前から。こうしたWEBサイトとマンガは極めて相性がいいのではないかと思っていました。以前『BUZZER BEATER』について取り上げたときにも書いたように、まだまだインターネットはマンガそれ自体を鑑賞するには適した環境とは言いがたいと思っています。それは画像表示の精密さに劣ることと、表示の時間がかかり過ぎるために、マンガを読む一定の速さを保てないからです。一覧性に劣ることはマンガに限らずパソコン全般の弱点です。

 しかし、エロイカサイトの熱狂ぶりを見ていると、ここからやはり何らかの新しいムーブメントが起こるのではないだろうか、と思わざるを得ません。マンガはテレビと同様に基本的には受け身なメディアですが、テレビ番組のように専門家でなくても誰でも作れるところに違いがあります。ホームページ作りも同様、素人にも簡単に作ることができます。またコミケなどに出てくるマンガのパロディや評論集を見ればわかるように、なんとか主体的にマンガに関わろうとするファンが多いのも、インターネットの大きな特性である双方向性と極めて相性がいいと考えられます。マンガ家と一緒に作品を作ることはできなくとも、いろいろな形で関わりファンが作品自体に影響を与えていくことはできるでしょう。

 それだけではなく、資源問題も関わってきます。例えば現在少年マガジンや少年ジャンプは毎週300ページも400ページもある雑誌を400万部以上発行しています。その紙の使用量と言えば計算するまでもなく実に莫大なものがあります。今後ますます地球資源の保護が重要になってくる時に、いつまでこんな紙資源の無駄使いをしていられるでしょうか?その点、インターネットをマンガのメディアとして使えば、極論すれば一切紙資源はマンガのためには使わなくて済みます。マンガ生き残りのためにも、インターネットとの融合は必要なことなのです。

 まだまだインターネット自体が発展途上のメディアだけに、今後の展開はなかなか予想がつかないのですが、さほど遠くない将来、インターネット特性を生かした全く新しいマンガが生まれてくるのではないでしょうか。今はまだマンガの補完メディアとしての機能くらいしかありませんが、その頃には作品の存在にインターネットが不可欠だ、というような時代がきっと来ると思います。その日を楽しみに待ちながら、しばらくはマンガ関連のWEBサイトをネットサーフィンすることにしましょう。