マンガ時評vol.22 97/9/12号

『GTO』は二重底の教育マンガだ。

 昔から教師を主人公にしたマンガと言うのは、どっちかと言うと型破りの先生が、管理された生徒の味方になって、悪どい教育委員会や教頭なんかと対決していく、という図式がほとんどでした。少年マガジンで湘南を舞台にした人気暴走族マンガ『湘南純愛組』が、いきなり学園教師マンガ『GTO』に変身した時は、いったい何事か、と思いましたが、基本的なパターンはこの従来の教師マンガの図式から外れてはいません。

 かつての札付き(死語)の不良少年(これも死語)鬼塚英吉が、なぜか大学生になり、なぜか教師になる。このあたり、かなり無茶苦茶な展開ながら、それでも現在の学校にはびこる教育問題に意外と正面から挑んでいる姿は、それなりに胸を打つモノがあります。かなりデフォルメとエンターテイメント化されていますが、鬼塚が遭遇する教育問題は、決していい加減なマンガにありがちなステレオタイプではなく、かなり現代的かつ現実的です。鬼塚が担任する問題児ばかりのクラスは、不良生徒がたむろすような単なる暴力的なクラスという訳ではなく、どちらかというと頭も良い生徒たちが陰湿かつ残酷なイジメを繰り返すようなクラスです。そんな「現代的」な学校の中で、今や「アナクロ」と化したヤンキー上がりの教師が、そのアナクロさゆえのプリミティブなパワーで、現代的な生徒たちに立ち向かい打ち勝っていく様は、なかなか感動的ですらあります。

 しかし、このマンガの面白さは、そういう単なる教師モノの範疇に収まっていそうに見えながら、もう一つの側面を持っていて、その面白さでも読者を惹きつけている二重底構造にあります。それは、暴走族やチーマーという「敵」と命をはった喧嘩をしてきた鬼塚が、今度は学校で生徒という新たな手強い敵と対決していることにあります。つまり不良マンガの基本的な構図である「敵との対決」「勝利」「和解」「新たな敵との対決」というパターンを踏襲している、典型的なヒーロー対決マンガのパターンです。『ドラゴンボール』に代表される、ヒーローが次々と新しく現れる強大な敵と戦い続けるマンガの黄金パターンは、今ではあらゆるジャンルのマンガに普遍的に利用されようとしています。スポーツマンガや格闘系マンガはもちろん、恋愛マンガですら、恋というバトルの舞台設定とライバルの存在が不可欠です。そして、学園教師マンガである『GTO』にもその構図が取り入れられているというわけです。

 さて、『GTO』の今後の展開ですが、どうなるんでしょうか?現在はまだスタートしたばかり(と言っても結構連載を重ねてはいますが)なので、主要キャラクターも鬼塚以外は固まりきっていない感があります。今後はやはり鬼塚の仲間になっていくキャラクター数人、マドンナ的女性キャラクター、話を引っかき回すような狂言回し的キャラクター、準レギュラーになるような敵キャラクターなどが登場してこないと大化けするのは難しいでしょうね。今はその模索段階という感じですが、未だに魅力的なキャラクターを作り得た感じはしません。今はどちらかと言うとストーリーの面白さで読ませていますが、そのままずっと引っ張るには、少々辛い段階に入ってきた気がします。ここ数カ月が勝負、と見ていますが、果たしてどうでしょうか。