マンガ時評vol.21 97/8/30号

野球マンガの現在・過去・未来。

 昔から野球マンガというのは少年マンガの王道であったと断言して間違いないでしょう。それは昔から野球というスポーツ自体が少年にとってダントツの人気スポーツであったからに他なりませんが、もう一つ、野球というスポーツの特質がマンガという表現と相性が良かったということも大きな要素だったと言えます。基本的な勝負のパターンが投手対打者という一騎打ちでできていてわかりやすいこと、攻防がはっきりしていて展開がしやすいこと、試合に関わる人数が適当でポジションによって性格が描き分けやすいこと、頭脳戦を十分に描く間があること。野球のこれらの要素がマンガを面白くするのに大いに役立ったことは疑いありません。

 過去、本当に数え上げれば枚挙にいとまがないほど野球マンガからヒット作が生まれました。ちょっと思い浮かぶだけでも『ちかいの魔球』『巨人の星』『父の魂』といった懐かしい古典から、『キャプテン』『アストロ球団』『侍ジャイアンツ』『すすめ!!パイレーツ』など少年ジャンプの躍進を支えた作品、『男どアホウ甲子園』『ドカベン』『野球狂の詩』『あぶさん』などの水島マンガ、そして『タッチ』『がんばれ!!タブチくん!!』『甲子園の空に笑え!』『花男』など変わり種(?)まで、実に野球マンガはヒット作の宝庫でした。

 しかし、ひるがえって今のマンガ界で、野球マンガはどういうポジションにあるのでしょうか?現在スポーツマンガで目立つのは何と言ってもサッカーマンガと格闘マンガです。少年ジャンプには純粋な野球マンガは現在連載されていませんし、少年マガジンにはないわけではないのですが、スポーツマンガなら『はじめの一歩』や『シュート!』がメインでしょう。今やスポーツマンガの宝庫(?)少年サンデーですら、ようやく『H2』『MAJOR』の2本があるだけ。サンデーはサッカー、陸上、ラグビー、体操、テニス、ゴルフ、競艇、競馬とまさにスポーツマンガ専門誌かと思うほどですから、その中で2本というのはそれほど目立つ方ではありません。

 この凋落ぶりは野球というスポーツ自体の地盤沈下ということもありますが、それ以上に野球マンガがあまりにも描き尽くされたために、どうやってもマンネリ化・類型化に陥ってしまって、もはや新しいヒットの方程式は見つからないと考えられているからではないでしょうか。実際、辛うじて現在ヒットしていると思われる『H2』にしても『ドカベン〜プロ野球篇』にしてもかつての「あだちマンガ」「水島マンガ」の焼き直しでしかありません。パターンとなった名人芸を楽しんでいるだけです。読んでつまらないとは言いませんが、決して未来を感じるような作品でもありません。一体マンガ界はこれから野球マンガのどこに新しい鉱脈を見つければ良いのでしょう?それとも本当に野球マンガはこのまま滅びていくのでしょうか?

 僕はそのヒントは野茂にあると思います。そう、アメリカのメジャーリーグ・ベースボールです。ちょっと前に『REGGIE』というマンガがモーニングで連載されていました。アメリカと日本の異文化衝突を描いた新しい野球マンガとして、なかなか斬新でスマッシュヒットしたマンガです。日本のプロ野球や高校野球・少年野球にないもうひとつのベースボール、それがメジャーリーグにはあります。ちまちました駆け引きの野球ではない、スピードとパワーに溢れる格闘技センスを持つベースボールこそ、これからの少年の心を惹きつけるのではないでしょうか。かつて川崎のぼるの『フットボール鷹』というアメリカンフットボール・マンガがありましたが、同じようにアメリカに渡って活躍するプレーヤーの物語が現在の状況なら違和感なく描けるはずです。ドジャースだろうがヤンキースだろうが、渋くホワイトソックスあたりでも今なら選び放題。島国的視野から抜け出した新しい野球マンガを読みたいものです。