マンガ時評vol.13 97/4/26号

がんばれ『あぶさん』。

 この春、水島新司の長寿連載『あぶさん』の主人公景浦安武が50歳のシーズンを迎えています。景浦のデビューは忘れもしない昭和48年。ジャイアンツV9最後の年、そしてホークス(当時は南海でした)が最後にリーグ優勝した年です。あれから早くも24年。落合だって佐藤義則だって、このマンガが始まってからのデビューです。いくらマンガとは言え、ここまで描き続けているだけでも大したものです。

 当初はのんべの代打屋という秀逸な設定で、現実のプロ野球世界とうまく折り合いをつけていた(なにせ代打だからレギュラー選手のポジションを奪うこともないし、タイトル争いにも加わらないから、現実のプロ野球と誤差が小さくなります)このマンガも、途中から景浦が超人的なスーパースターになってしまったために、ちょっと「なんだかなぁ」という展開になってきていました。毎年景浦が三冠王を取っていたらイチローはどうなる、なんてね。しかし、さすがにここにきて年齢への挑戦というテーマに切り替えたおかげで、人間くさいドラマに路線が変わってきています。家族(特に息子の景虎)が登場する頻度も格段に増え、僕はそれはそれで悪くないとは思っていますが、やはり野球選手としての景浦の魅力をもっともっと描いて欲しいと思います。

 なんと言っても『あぶさん』の本当の魅力は、やはり連載当初のような超人的な「代打の一発屋」にあります。超人的なスーパースターでは話が出来過ぎで面白くないし、苦悩する人間的なキャラクターだけではスポーツマンガとしてのカタルシスがありません。『ゴルゴ13』のように、最後に出てきて一発できちっと物語を締める、というのが『あぶさん』における黄金パターンではないでしょうか。今はどうやら景浦が選手生活の終焉に立ち向かっていく物語になっていますが、できることなら景虎との親子鷹を目指すだけではなく、やはりホークスの優勝に向かってゲームで活躍する景浦の勇姿をもっと見せてもらいたいものです。

 ところでその『ゴルゴ13』ですが、律儀に年齢を重ねていく景浦と違って、こちらは時間の経過を無視しているのか全然ゴルゴが年をとりません。もちろんマンガの中ではちゃんと東西冷戦は終わっているし、アメリカやロシアの大統領の交代しているんですから、『サザエさん』的な異次元ワールドとも違うようです。一体ゴルゴは何歳になったことやら。時々やるゴルゴのルーツ探し的な話の時には、たいてい第2次世界大戦の時に子供くらいの年齢で描かれていますから、今ならさしずめ60代というところでしょうか。うーん、全然そんな年には見えない。若いぞ、ゴルゴ(笑)。

 現実の世界と重なり合うように描かれているマンガの中で、『ゴルゴ13』のように主人公だけが年を取らないという設定は、ジャンプの長寿マンガ『こち亀』も同様です。両さんも中川も麗子もずっと若いまま。オリンピックの時だけ活躍するキャラクターもいるくらいですから、マンガの中でもやはり時間は流れているはずなんですがね。こうして見ると、20年くらい続くような数少ない超長期連載マンガの中で、現実ときちんと向き合いながら描かれている『あぶさん』は、やはり凄いです。このまま60歳まで現役を続けて「還暦プレーヤー」(笑)が誕生するのか、楽しみにしているので、もう少し頑張れ!あぶさん。