マンガ時評vol.12 97/4/6号

『ナニワ金融道』の引き際と『美味しんぼ』。

 モーニングに連載されていた『ナニワ金融道』が見事な引き際を見せて連載を終了しました。あれほどの人気マンガですから、きっと編集部サイドではもっと続けて欲しかったのでしょうが、作者青木雄二はこれで限界、これ以上やる気も力もない、という感じです(週刊朝日のインタビューを読むとよくわかります)。

 確かに『ナニワ金融道』を読んでいると、まるで鶴が機を織るように作者が身を削ってマンガを描いているような印象を受けました。あれ以上はもう無理じゃないか、と読者にすら思わせるほどの全力投球の果てのリタイアです。余力を持って連載を終えるのもそれはそれで見事ですが、このように全力を使い果たした、というところですっぱり止めるのもまた素晴らしいと思います。だいたいマンガの連載は、人気作になるほど幕の引き方が難しいものです。これまで有終の美をうまく飾れずにボロボロになった作品がどれほどたくさんあったことか。最近では『SLAM DUNK』くらいでしょ、うまく終わることができた作品というのは。

 で、ここでスピリッツの『美味しんぼ』です。僕の印象ではモーニングにおける『ナニワ金融道』とスピリッツにおける『美味しんぼ』のポジションは非常に近いものがありました。単に雑誌の看板になるような長期連載作品というだけではなく、かなり専門分野に特化しながら、それを素人にもわかりやすいカタチで、しかもマンガとして完成度の高い作品に仕上げていること、しかもその分野に対する作者のはっきりしたメッセージ性があること、そしてパロディにされやすいそのオリジナリティと臭みまで共通しています。

 ところが『美味しんぼ』の方は、『ナニワ金融道』と違って、いつまで経っても話は進まず終わる気配を見せません。未だに究極のメニューは完成せず、山岡と海原の和解もせず、辛うじて山岡と栗田ゆう子の結婚があったくらいです。はっきり言って、もう『美味しんぼ』は限界を超えていると思います。どんな料理を見せられても、かつてのような驚きも感動もありませんし、話の展開はワンパターンで、この作品が当初提示した食に対するコンセプトを繰り返し見せられているだけです。すでに引き際を見失っている感じもしないではないですが、とにかく山岡と海原を和解させ、同時に連載を終えてはどうでしょうかね。そうじゃないと、せっかくあれほど鮮烈だった『美味しんぼ』の価値が下がっていくばかりだと思います。