マンガ時評vol.10 97/3/5号

『め組の大吾』受賞の意味。

 先日発表された小学館漫画賞に少年サンデー連載の曽田正人『め組の大吾』が選ばれました。偉い、よく選んだ(笑)。もっとも自分のところの雑誌に連載している作品なんだから当たり前と言えば当たり前なんですけどね。これが講談社漫画賞に選ばれたなら本当に偉いんだけど、滅多にそういうことはないですから。

 で、『め組の大吾』ですが、久しぶりに少年マンガで職業もののいい作品に出会ったという感じです。普通はある職業をテーマにしたマンガというものは、ほとんどが青年マンガです。少年誌ではコアターゲットが子どもである以上、どうしても学園が舞台になりがちで、そうでなければ勝負の世界に走ってしまいます。スポーツマンガにしろ料理マンガにしろ、それを職業として捉えているのではなく、あくまでも勝負を描くためのステージとしてしか考えられていません。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』だけは、そんな環境の中、少年誌でずっと警官という職業をテーマに描き続けられていますが、これもギャグマンガなので、純粋な意味での職業をテーマとしたマンガとは言い難いと思います。

 『め組の大吾』は、そういう職業マンガ不毛地帯で、地味な消防士という仕事を描くことにチャレンジし、見事に成功させています。いまどき流行らない3Kの職業だと思われる消防士が、このマンガでは実に格好良く見えます。ひとつには作者の作画力の確かさもあるでしょう。火災や災害現場の怖さをリアルに描き、その怖さの中で消防士にも天才ってあるのかと思わせる大吾の並外れた勘と根性、それをうまくバックアップするベテラン消防士達を巧みに見せていきます。このマンガを読んでいると、人の命に関わる仕事の尊さと、浮ついた虚業についている自分の情けなさを実感させられます。そして、少年誌だからこそ、読者である子ども達が、そういう消防士のような職業に憧れを感じてくれたらどんなにか素敵なことだろうと思います。

 もちろん、『め組の大吾』が手放しで誉めることができるマンガだとは言いません。いくら災害現場にリアルな怖さがあるとは言っても、本当の意味でリアリティがあるかというと、やっぱりマンガだな、ってご都合主義が多いですし、だいたいあれだけ勘と根性ばかりで消防士に動かれたら逆に怖くて仕方ありません。基本的な構造は野球や柔道などのマンガと同じド根性マンガですし。勝負が対人から対災害になっているだけとも言えます。しかしそれでも、ドラゴンボール的な勝負のインフレに陥らず、またタッチ的ラブコメ路線にも走らずに、あくまでも職業人の誇りを描こうとしている『め組の大吾』の価値は下がることはないと思います。そして今後もこうした地味な職業にスポットを当てるようなマンガが続くことを期待したいですね。今回の受賞がその引き金になれば、たまにはこうした賞も意味があるんですが。