マンガ時評vol.8 97/2/7号

クールなマンガがホットです。

 クールとホットは本来対義語であるはずなんですが、インターネットの世界では、結構クールもホットも同じような誉め言葉になっていたりして、なにがクールで、なにがホットなんだかよくわかりません。まあクールと言っても元々の「冷たい」という意味ではないから仕方ないのでしょうけど、もう少し厳密にクールとホットは使い分けるべきなのかも知れませんね。ただ、今はクールだからホットなんだ、という空気があることもまた事実でして、それはマンガの世界でも同じだと思います。

 で、いまマンガ界でもっともクールでかつホットだと僕が思うのが松本大洋の『ピンポン』と荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』です。特に前者は現在進行形ながら松本大洋の最高傑作と決めてしまいたいほどに面白いですね。クールなスマイルとホットなペコという2人の少年(松本大洋のマンガにはこのパターンが多いですね)が交差しながら織りなす物語。そう、これは物語なんです。

 松本大洋という作家は、独特の絵と構図のせいで、ついついストーリーのことは二の次になってしまいそうな危険性をはらんだ作家だと思うのですが、実は結構ストーリーテラーなんですよね。特に今回の『ピンポン』は、卓球というマイナー世界を丹念に描いていて、これまでの彼の世界からまた一歩踏み出したという感じがします。きちんと丁寧に運ばれていく展開。きっちりと描き上げられたキャラクター。もちろん、彼が出てきた頃から変わらない、非常にデザインされた感じのする絵も相変わらず冴えてますし、このままいけば『ピンポン』は、日本のスポーツマンガ史に残るような傑作になるのではないか、という大いなる予感を僕は抱いています。

 ところで、逆にホットに描いてクールなマンガはないか、と考えていたら、ホットに描いて暑苦しいだけの全然クールじゃないマンガを思い出してしまいました。土田世紀『編集王』。僕は彼の土臭い絵柄は決して悪いと思いませんが、なにせあまりにもご都合主義でパターン化された展開は、バカバカしくて付き合い切れません。もしかしたら、それらはわざと意識して取り入れている部分かも知れませんが、そうだとしても全く効果はなく面白くないです。いつも最初はイヤな奴が、最後は結構良い奴になってしまうし、苦しい時は島耕作以上に必ず都合の良い人物が現れて助けてくれるし。現在の連載ではいよいよ最後の悪役だった編集長までもが、理想を追う好青年だったことになっています。うーん、一体なんなんでしょう。良い奴=かっこ良い奴でもないと思うんですけどね。ほんと、ヒールこそクールなんですから。