マンガ時評vol.5 96/12/21号

サンデーに日は降り注ぐか。

 週刊少年サンデーをつまらない、と言い切るマンガ好きは少なくありません。どちらかと言うと、「おたく」っぽいマンガマニアではなく、単純にマンガを読むのが好きな一般的な読者です。彼らはかつてはジャンプ、今ならマガジンが面白いと口を揃えていいます。実際、部数もそのライバル2誌に大きく水をあけられているのが現状です。なにがいけないのでしょう?

 3誌の違いは、野球マンガで言えば、ジャンプが『アストロ球団』、マガジンは『巨人の星』、対してサンデーが『タッチ』です。それぞれの作品の時代の違いはありますが、それでも『アストロ球団』『巨人の星』『タッチ』の間にある作風の違いは、そのまま3誌のテイストの違いでした。テイストは変わらないまま、その時代のトレンドによって、人気を博す雑誌が変わり栄枯盛衰を繰り返してきただけです。

 ジャンプ・マガジンにあってサンデーにないもの、それは土臭さと熱血だと思います。昔からサンデーという雑誌は都会的・山の手的・綺麗的・クール的雰囲気を醸し出していた雑誌です。「そんなわけあるか!」と思わず突っ込みを入れたくなるようなバカエネルギーを持った作品よりも、センスの良さで安心して読める作品が多く並んでいました。一昔前、『タッチ』や『うる星やつら』を連載していた頃は、確かにそのセンスの良さでサンデーは多くのファンを掴んでいたのです。
 
 さて、それでは現在のサンデーが他2誌に大きく水をあけられているのは、単に時代が悪いからなのでしょうか?僕はノーだと思います。確かに時代のせいもあるかも知れません。しかし、ジャンプにせよマガジンにせよ、他誌との違いは意識しつつも、自らの弱みである他誌の特色を、どんどんと取り入れて、ここまで成長してきました。サンデーの持ち味であるセンスの良いギャグマンガや、山の手っぽい恋愛マンガもどんどん取り込まれています。

 では、逆にサンデーはどうでしょう?実はサンデーも少し遅れましたが、今では熱血マンガや不良マンガもしっかり取り入れてはいます。ただ、どうも編集者のセンスと合わないのか、中途半端な作品が目立って困ります。『東京番長』などが良い例で、学ラン着て不良クンが暴れればジャンプの『ろくでなしブルース』みたいになるか、というと、やはりこれは違うわけで、どうしてもサンデーらしさが出てしまいます。あの手のマンガは、なんと言っても番長同士の殴り合いのカタルシスにあるのですが、それがカタルシスになり切れないもどかしさが、サンデーの限界なのでしょうか。これが不良の対決ではなく、妖怪との対決なら『うしおととら』の例を引き合いに出すまでもなく、サンデーは得意なんですけどね。この超自然・オカルト・妖怪系は、サンデーの金脈ですから、大事にしていくべきでしょうね。

 結局サンデーは、もう一度基本にかえるべきだと思います。中途半端に他誌の真似っこマンガを始めるよりも、都会の男の子が共感できるようなセンスの良いマンガ誌に徹すべきでしょう。『H2』のヒットが良い例で、あだち充自身、『タッチ』以降いろいろ試行錯誤したことと思いますが、基本に戻っての野球+爽やか恋愛路線がやはり受けました。苦しい時は初心にかえることです。そうすれば、いつかまたサンデーに太陽が降り注ぐ日が来ることでしょう。