マンガ時評vol.4 96/12/1号

罵詈雑言マンガがモーニングの魅力。

 モーニングで楽しみにしていた『薫の秘話』が連載を終わってしまい非常に残念です。とにかく決して気持ち良いとは言えない絵柄にも関わらず、主人公のハゲデブホモの中年薫ちゃんの切れ味鋭い悪口は、読むたびに一服の清涼剤と呼べるほどの爽快感がありました。

 この『薫の秘話』に限らず、今のモーニングで面白いマンガは悪口・罵詈雑言・遠慮会釈ない本音が渦巻いています。例えば『ショムニ』。OLの辛辣なサラリーマン社会、そして同性への批判。また『ナニワ金融道』。欲に溺れて自らを見失っていく人間たちへの厳しい、しかし愛情を抱いた目線。さらに『気分は形而上』のスーパーサラリーマン元木。はたまた『ギャンブルレーサー』の関。下品でがさつで毒々しいけれどみなストレートな物言いで、すかっと世間を切り捨ててくれます。さらに言えば『蒼天航路』もマキャベリスト曹操を主人公にしているところで似た味わいがありますし、下品ではありませんが『オフィス北極星』にも『ヨリが跳ぶ』にも、本音をぶつけ合いせめぎ合う強さが感じられます。

 もちろん、そうじゃない『クッキング・パパ』や『菜』と言ったマンガもモーニングにはありますが、ほのぼのしている温かい作品よりも、僕はがさつで荒削りでも、パワフルで生命力に満ちあふれた上記のようなマンガたちの方がモーニングらしくて好きです。それはピカレスク・ロマンの楽しみを一番味わえるのがモーニングだから、と言ってもいいでしょう。

 ビッグコミック系各誌が、どうしても優等生的な主人公が多くなるのに対して、モーニングの主人公たちの悪漢ぶりは、まさに圧巻(笑)。口も人も性格も悪い登場人物たちを眺めていると、不良の方が優等生よりも、女の子にもてるのが良くわかりますね。生きていることの楽しさを知り満喫していると、必然的に人は不良にならざるを得ないのかもしれません。

 さて、この先どこまでモーニングがこの本音全開バリバリ路線を堅持できるかわかりませんが(最近小学館系の作家の起用が多いようだし)人の臓腑をえぐるような強烈な悪口マンガを、これからも期待したいと思っています。ちなみにスピリッツなら断然西原理恵子ですね。怖いくらい凄いです。