マンガ時評vol.2 96/11/2号

少年ジャンプが普通の雑誌になる日。

 かつて隆盛を誇ったどんな雑誌も、いつかは落ち目になります。もしかしたら、週刊少年ジャンプも今その過程にあるのかも知れません。

 以前は600万部という驚異的な発行部数を誇り、数多のヒット作を連載していたあのジャンプが最近とんと冴えません。単に部数の話だけではありません。確かに巷間伝え聞くところによると、ジャンプは部数的に少年マガジンに肉迫されていると言うことですが、しかし、問題は部数よりも本当にワクワクさせられるような充実した連載陣を揃えているか、そして、これから伸びる新しい作家を育成できているか、ということです。

 『ドラゴンボール』『幽々白書』『SLAM DUNK』などのスーパーヒット作が次々と連載を終え、今ジャンプにはマンガ界に影響を与えるようなマンガはないと言っていいでしょう。『こち亀』や『キャプテン翼』のようなベテラン作家の力に支えられているだけで、せいぜい『るろうに剣心』と『ジョジョの奇妙な冒険』がジャンプらしい若さと視点の新しさを感じさせる(とは言え『ジョジョ』も随分長い連載になってきただけに今さらだが)くらいです。ギャグマンガで辛うじて『幕張』に少し可能性を感じますが、まだ突き抜けてはいないし、『レベルE』は相当面白いのですが、定期的な連載ではないのが辛いです。

 どうして「ジャンプ」は面白かったのか。良く言われることですが、それはやはり編集者と作家の強力なタッグプレーの賜物でしょう。これまでのジャンプの強さとは、作家の能力を十二分(時にそれ以上)に引き出す編集者のマーケティング力及びディレクション力にあったわけです。読者のニーズを高い精度で把握する力と、その方向に合った作品に仕上げていく力。ジャンプのマンガは作家内面のみから生まれる表現と言うよりも、いわば広告作りに近い気がします。その手法に対する賛否はともかく、少なくともジャンプがそれで読者の圧倒的な支持を集めてきたことだけは確かです。

 ところが最近のジャンプの作品は、その編集者の力が衰えたのかとしか思えないようなつまらない作品ばかり。総じて平均点狙いの二番煎じが多く、一体どんな層をターゲットに雑誌を作っているのか、大人か、子どもか、昔からの読者か新規客か。そのあたりがちゃんと整理できていない作品が多いですね。このままでは、ジャンプは他誌と変わらないごく普通のマンガ雑誌になってしまうことでしょう。もちろん普通が悪いわけではないのですが、ライバルのマガジンの熱さと濃さ、またサンデーの都会っぽさとクールさという対照的な個性に対し、ただ売れている雑誌というのではなく、どんなカラーの雑誌にしていくのか考えないと、ジャンプの未来は暗いことでしょうね。「努力・友情・勝利」は今や他誌も巧みに取り込んでいて、ジャンプだけの専売特許ではなくなっています。新しいジャンプらしい提案を早く見せてもらいたいものです。