cinema eye
鑑賞日97/11/24(ビデオ)
今年カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得して話題になった今村昌平監督の『うなぎ』。外国で評価されると急によく見えてくる日本人ならではの現象です。この映画も話題作ではありますが、それほどのものか、というのが感想でした。
ストーリーは妻の浮気現場を目撃した普通のサラリーマン(役所広司)が、思わず妻を殺害・自首するところから始まります。8年後仮出所した彼は、刑務所の中で飼っていたうなぎだけが友達。そして千葉県佐倉で細々と床屋を始めます。
典型的な真面目な良い人ながら、実は過去の自分の罪は反省していない、すなわち立ち直ってもいない寡黙な男を役所広司が好演しています。この役、20年前なら高倉健の十八番と言った感じです。また彼に助けられて一緒に床屋で働く過去を引きずる女・清水美砂は、相変わらず自分のカラーを出さずに、淡々と役を演じます。多くの監督がさほど美人でもなく華もない彼女を起用するのは、清水美砂が自分の色を持たない珍しい女優だからでしょうね。だからこそ彼女はどんな役でも演じられるのです。さらに脇には常田富士夫、倍賞美津子、佐藤充、柄本明、市原悦子らベテランの芸達者を揃え、全てにベテランの味で職人的に作られた確かな手応えの作品という感じがします。
しかし、ある意味それだけの映画です。特に面白いわけでもなく、感動的なわけでもありません。女房殺しの男が周りの好人物たちに支えられて、その傷を徐々に癒していく、その姿を描くこの作品は確かに佳作と言って良い仕上がりですが、じゃあ映画史に残るような傑作かと言えば、そこまで大げさな作品でもありません。例えば山田洋次監督・高倉健主演の『幸福の黄色いハンカチ』のようなエンターテイメント性があれば、もっと幅広いファンを獲得できるでしょうし、あそこまでウェットでなくても、『ショーシャンクの空に』のような爽快感と叙情があれば、またそれはそれで感動的でしょう。結局この『うなぎ』がカンヌでグランプリを獲得したのは、現代の日本とは思えないような水郷風景が広がるオリエンタルな異国情緒が、ヨーロッパ人に受けたのではないかと思われます。
今回の木戸銭…1000円