cinema eye

『月はどっちに出ている』

鑑賞日94/8/16(ビデオ)
 去年の映画賞を総なめした話題の『月はどっちに出ている』をようやくビデオで見ました。さすがに評判だけのことはありますね。確かにこれは日本映画史上に残る佳作です。

 映画の主題は在日朝鮮人問題なのかと思っていましたが、そういう生硬な社会派映画ではなく、在日朝鮮人だろうがフィリピン人だろうがもちろん日本人だろうが、みんなごちゃごちゃしながらも生きているんだぜ、という、温かい目で社会の底を見つめているような映画でした。もちろん在日朝鮮人差別を考えさせられる映画ではあります。ただ彼らを代表としながら、彼らを含めた社会的な弱者全てをテーマにしている映画です。

 特にストーリーと呼べるほどのドラマがあるわけではないのに、ここまで映画から目を離させないというのは、やはり演出の力でしょう。登場するキャラクターがみな情けない小市民なのですが、それらの誰もが憎めない連中ばかりなのも、監督がそういう人間にそして、誰もが持っている人間のそういう部分に対して愛情を抱いているからではないかと思います。

 とは言え、やはり差別問題に対して思いを深めざるを得ない映画であります。あからさまな差別をする人間よりも、知らず知らずのうちに差別をしていて、それに無自覚な人間が多いことが、差別用語や直接的な差別発言がポンポン飛び出してくるくるこの映画を見ていると、逆説的に浮かび上がってきます。社会的弱者を見て安心しながら同情する多くの隠れた差別者に対してソフトに刃を突きつけている映画でした。

今回の木戸銭…1500円