cinema eye
鑑賞日95/6/30(ビデオ)
トム・ハンクスが2年連続のアカデミー主演男優賞を取った最初の作品。すでにご覧になった方も多いと思いますが、ビデオで今回ようやく見ることができました。
ご存じのように、フィラデルフィアで腕利きの若手弁護士として活躍しているトム・ハンクスが、エイズに罹ったことから事務所を解雇され、不当解雇で訴訟を起こす法廷モノですが、主眼はもちろんエイズや同性愛者を含む差別問題にあります。
もちろん、エイズだから、同性愛者だからと言って差別していいわけはない、それは最初から自明のことなのですが、しかし、反面人は皆、心の中にしてはならない差別をしてしまう偏見を持ってもいます。その人間としてのどうしようもないダークな部分をどこまで描ききれるかがこういう映画のポイントだと思います。そうでなければ、「差別はやめよう」という、お役所が作るようなつまらない教科書のような教条主義的映画になってしまいます。
この作品ではトム・ハンクスの弁護人を依頼され活躍するデンゼル・ワシントンが、その人間くさい部分を一手に引き受けています。黒人でありながら、社会的にはそこそこ成功している彼は、娘が生まれ幸せな家庭を持つまさに平均的なアメリカ人。その彼は最初はゲイでありエイズであるトム・ハンクスを敬遠しますが、それでも法と正義を守ることこそ大切だと考え、偏見と闘いながらも弁護を展開します。彼の偏見と正義の狭間で揺れる部分こそ、この映画の本当のコアだと思うのですが、僕にはいまひとつ突っ込みが弱いかな、という印象を受けました。それは映画としての面白さを追求するために、法廷での駆け引きを描くことに時間を費やされているためで、そういう意味では、重いテーマとエンターテイメントの狭間で監督自身が揺れ動いてしまったのかもしれません。この結果として、差別問題に興味がある人にとっては多分少々甘い仕上がりの映画になっていると思いますが、反面大多数のあまり興味のない人にとっては、それなりに面白く、かつ啓蒙的な作品に仕上がっていると思います。
ただ、単純に法廷映画として見た場合は、過去の幾多の名作に比べて、少々弱いです。もっとはらはらするような駆け引きやどんでん返しがなければ観客の胸は躍りません。評決の結果はどうせトム・ハンクスが勝つと予想がついているのですから、そこまでどう持っていくかが面白さのポイントだと思うのですが、その展開が結構平板で、そういう点では不満が残ります。
アカデミー賞という言葉に期待しすぎると、ちょっと裏切られるかもしれません。決して悪い映画ではなく、面白いのですが。
今回の木戸銭…1400円