cinema eye
鑑賞日92/11/16(ビデオ)
昨年国内の映画賞を総なめした竹中直人監督作品の『無能の人』をビデオで見ました。原作がかのつげ義春ということで、かなり暗い実験的な作品かと思っていたのですが、想像していたより遥かに普通の作品でした。この「普通」は良くも悪くも、です。
マンガ家でありながら、マンガを描くことから逃避し、さまざまな商売に手を出しことごとく失敗している主人公が、今度は河原の石を売る石屋をはじめるところから物語はスタートし、妻との葛藤や周囲の不可思議な人物との交流の果てに、一応の心の平穏を得るわけですが、ハッピーエンドに見えるラストシーンまで、竹中監督は実に緻密に作品を練り上げ、つげ的世界をうまく映画的に消化しているように思います。しかし、上手に作った感じはしますが、決して冒険的ではなく、そのあたりが今一つ「普通」だなぁ、と思わせるところで、映像的にもドラマ的にもちょっと退屈な印象を受けました。
とは言え、決して駄作ではありません。登場する人物群の個性的なキャラクターの魅力は、監督の演出の成果でしょうし、なんと言っても風吹ジュンの奥さんが見事です。社会的に適応できず生活力のないダンナに文句を言いつつ、本当はその才能の一番の理解者でありファンである妻。この妻と主人公の心の結びつきこそが、この作品のテーマであり、それをかっちりと監督は描きました。一風変わった夫婦の愛情を丹念にジグソーパズルのように拾い集めて示した竹中直人の監督としての才はなかなかのものだと思います。
ただ本作の魅力のかなりの部分は原作によっているところも多いと思います。本当に竹中監督の力量を図るにはもう少し様子を見なくてはいけないかも。
今回の木戸銭…1000円