cinema eye

『ジャック』

鑑賞日98/4/26(ビデオ)
 人より4倍の速度で成長するジャック。10歳にして肉体的にはすでに40歳の彼が、学校に通い悩み迷い成長していく様を描いたコメディタッチのヒューマンドラマです。監督はなんとあのコッポラ。随所に映像に対するコッポラらしいこだわりを感じさせます。そして主役は演技派ロビン・ウィリアムス。複雑な肉体と精神の関係を表現しなければならないこの映画は、彼なしでは考えられない企画です。微妙に10歳らしさを表情や仕草で演じきってみせました。ただちょっとカマトトっぽいぞ、と感じるところもなきにしもあらず。そこが映画の見せ所でもありますが、あまり子どもらしさを強調する演技というのも、さじ加減が難しいものですね。

 映画の主題は短い人生をどう生きるか、という結構重たいものです。人より早く成長するということは、人より早く死を迎えるということ。ジャックは普通の子どもなら当たり前に考え夢想する「どんな大人になりたいか」という問いに答えを持たないのです。彼が大人になるということは、死んでしまうということ。「大人になったら…生きていたい」というジャックの願いほど、見ているものをせつなくさせるものはありません。悩むジャックに家庭教師が、彼の人生を流れ星に例えてジャックに生きる意味を教えようとします。人はどうせ死んでいくものだから、せめてその短い人生を輝いて終えよう、という言葉は、自分の意外と長い人生を漠然と思い描いている人間にこそ耳障りがいいですが、本当に短い人生しかない人間にはそう単純に受け容れられるものでもないと思います。映画の中のジャックは自分の運命を受け容れ克服したようですが、では癌と告知されたような人がこの映画を見て本当に勇気づけられるのでしょか?

 まあ中年にさしかかった僕としては、この映画を見て今さら人生を頑張ろう、と思うほど単純ではありませんが、残り後半生をいかに生きるべきか、ちょっと考えさせられたところもあり、青春まっただ中の人のみならず、人生に疲れ始めた30代にも見て貰いたい映画です。 

今回の木戸銭…1200円