cinema eye
鑑賞日98/1/29(劇場)
チベット仏教の指導者ダライラマ14世と、オーストリア登山家の交流を静かに描いたヒューマンな作品。ブラッド・ピット主演ということで話題になっていますが、それよりもチベットの美しい風景の方が映画としては心を洗われるような感動を与えてくれます。
第二次世界大戦開戦前夜のドイツ。オーストリアの登山家ハインリヒ(ブラッド・ピット)は、妊娠した妻から逃げるようにヒマラヤ登山隊に加わります。しかし、英独が開戦したために英領インドに滞在していた登山隊は捕虜となって収容所に。脱走を試みた彼は、仲間の登山家と2人、外国人が入れないチベットへ。そこでまだ少年のダライラマ14世と出会い、ハインリヒとダライラマはお互いに交流を続けながら影響を与え合い成長していきます。しかし、平和な時間は長く続きません。やがてチベットに中国共産党が侵攻してきます。
映画は長い期間のドラマながら、テンポ良くストーリーは展開していきます。ただテンポが良すぎて、もう少しじっくりと描いて欲しいダライラマとハインリヒの交流部分もダイジェスト的になっているのが残念です。少年らしい好奇心と素直さと聡明さでダライラマが成長していくのですが、それ以上にハインリヒがチベットの文化に触れることで人間的に成長していく姿が、じんわりと美しいドラマです。まあ欧米文化がアジア文化に持つ一種のコンプレックスと言えば言えなくもない感じですが。
ちょっと話を端折り気味の脚本・演出に対し、チベットの映像の美しさは絶賛に値します。チベットの澄んだ空気、乾いた大地、荘厳なラサの宮殿、冷たく厳しい冬の風景、全てリアリティと迫力がたっぷりあって見るものを圧倒します。残念なのはチベット人役の俳優達がとてもチベット人に見えないことですね。よくハリウッド映画で日本人役の俳優が、どう見てもネイティブアメリカンか中国人にしか見えないのと同様に、主要なチベット人役は、皆いかにもハリウッドにいそうなアジア系アメリカ人なのです。ネイティブアメリカン、インド人、中国人、そしてある者は日本人(正確には日系人ですが)。仕方ないことなのかも知れませんが、もう少し人種的統一感が欲しかったです。
蛇足ながら、この映画はチベット問題に関して多少の知識がないと理解しがたい映画です。僕の後ろに座っていたカップルも「可哀想な映画だったね」くらいしか感想がなかったようですが、せめて中国とチベットの関係くらいは勉強してから見た方がいいでしょう。ほんと、余計なお世話かも知れませんが。
今回の木戸銭…1100円