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この映画は20年以上観ていません。少ない資料と曖昧な記憶を頼りにして
の考察です。

  ●ゾーンの謎

映画「ストーカー」で大きな謎はゾーンです。ゾーンとは何でしょうか?

81年日本公開時の映画パンフレットのあらすじから言葉を三つ拾い上げま
す。その言葉からゾーンの正体を連想してみることにします。

                鉄条網が張られ
                発電所の跡
                足の動けない娘

この映画の完成は1979年。この時点でゾーンの正体を連想することは困難で
す。事故は1986年に起こりました。タルコフスキーが予言者にも思えてきます。
ゾーンはチェルノブイリ原発事故跡地です。

大江健三郎も小説「案内人」の中で言い当てているようです。


  ●ストルガツキ―兄弟

原作と脚本は旧ソ連のSF作家、ストルガツキー兄弟。

映画「ストーカー」の脚本をめぐってのアルカジー・ストルガツキーの証言。

http://members.aol.com/Satokimit/arkady.html

サイトより引用
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「アルカジー、『路傍のピクニック』を10度も書き直すのはうんざりするだろ
うね。」
「うん」私は慎重に、そして、全く誠実に答えた。

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脚本はうんざりするほどの書きかえが行われたようです。原作のオリジナル
タイトルは「路傍のピクニック」。原作と映画はまったく違う話になっていて、
共通点はゾーンという設定だけのようです。

サイトより引用
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彼は、時間をかけて読んでは読み返す。彼の口ひげがぴんとなっている。
そして、ためらいがちに言う。「まあ、今のところはこれで間に合う。少なくと
も、とっかかりができた・・・・この対話は書き直すことができるし。」何だか私
がしづらい言い訳をやっているかのようだ。それを、その前後のエピソードに
合うようにしなければ。「合ってないよね?」「うん、合ってない」「会話の何が
気に入らないのですか?」「分からない、とにかく直してよ。明日の夜までに
仕上げて」とうの昔に公式の許可と承諾を得ていたこの脚本をめぐる私たち
の共同作業はこんな具合だった。

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タルコフスキーに促されながらも、ストルガツキー兄弟は脚本を書きかえて
いたようです。

サイトより引用
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「どうだろう、アンドレイ、この映画にSFがどうして必要なんだ?SFはやめ
よう」

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脚本の書きかえで、SFとしての形すらなくなってしまったようですが、映画
「ストーカー」はSF大作として知られています。

この映画は「不自然なSFの意匠」をまとっている。ということが言われてい
ます。また、この映画は「原作が意匠」である。と言う人もいます。さらに、こ
の映画は「脚本すら意匠」である。と言えるかもしれません。

なぜタルコフスキーはこのような意匠を映画「ストーカー」にまとわせる必要
があったのでしょうか?


  ●ゾーンの設定

冒頭のタイトル。パンフレットのシナリオより引用
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”隕石が落ちたのか宇宙人が来たのかわからない。とにかく、ある地域に奇
怪な現象が起きた。そこがゾーンだ。軍隊を派遣したが、かれらは全滅して
しまった。それ以来、ゾーンは立入禁止になっている。手の打ちようがない
んだ・・・・ノーベル賞受賞物理学者ウォーレス博士がライ記者に語った言葉
より”

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戦車の残骸シーンが映画には出てきます。しかし、原発事故が発生したら
「軍隊を派遣」しないはずです。「全滅してしまった」はわかります。放射能で
汚染された地域だからです。

なぜ、ここに戦車や軍隊が出てくるのでしょうか?

いろいろと考えてみました。いろいろと考えてみた結果は・・・・、ゾーンは果
たして原発事故跡地なのか?ではなく、ゾーンは果たして原発事故跡地だ
けなのか?です。ゾーンにはもう一つの設定があったのです。そのもう一つ
の設定と原発事故跡地との組み合わせによって、国家批判が発生します。
映画に意匠をまとわせることによって、タルコフスキーはこの国家批判を隠
そうとしていたのです。

冒頭のタイトルは、おおまかにゾーンを説明したような文章です。このゾーン
の設定が二つあるために、おかしなことになっているわけです。二つの設定
がぶつかってパラドックス(矛盾)になっています。

「”隕石が落ちたのか宇宙人が来たのかわからない。とにかく、ある地域に
奇怪な現象が起きた。そこがゾーンだ。」

これは原発事故発生のことです。もう一つの設定では何にあたるのでしょう
か?

「軍隊を派遣した」

これはもう一つの設定に関係します。ここから連想できることは?

「それ以来、ゾーンは立入禁止になっている。手の打ちようがないんだ・・・・」

これは、原発事故跡地ともう一つの設定と両方に共通します。

パンフレットのあらすじより引用
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「部屋」を眼前にして、三人とも無事にここにたどりついたことを喜ぶストーカ
ー。がこの時、教授は、かって友人と共に製造した爆弾をリュックから取り出
す・・・・。かれは、人間が胸に秘めている最も大切な夢をかなえるというゾー
ン内の「部屋」が、犯罪者に利用され、人類が不幸に襲われるかもしれない
という危倶を抱いていたから、「部屋」を爆破することを目的にゾーンに来て
いたのだ。

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「部屋」は原発事故の中心部、事故をおこした原子炉のあった部屋です。も
う一つの設定でも、「部屋」は中枢部にあたります。

「軍隊を派遣した」から連想するのは軍事体制。「奇怪な現象が起きた」は、
軍事体制の始まり。タルコフスキーはゾーンを原発事故跡地との組み合わ
せによって、もう一つの設定を放射能で汚染され、立入禁止になった手の
打ちようがない地域に喩えたのです。そして事故を起こした原子炉のあった
「部屋」をもう一つの設定の中枢部として、これを爆破しようとしたわけです。

ゾーンのもう一つの設定は、スターリン体制後のソ連です。


  ●ノスタルジア

チェルノブイリには放射能汚染地域に今でも住み続ける人々がいます。ま
た、避難先から戻って来た人々もいるそうです。チェルノブイリはそこに住む
人々にとって故郷です。

ゾーンに到着した直後のストーカー。シナリオより引用
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「さあ、着きました。この静けさ。ここが一番ですよ。いま、ご案内します。き
れいな所で、人ひとりいません。」

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この映画は単なる国家批判ではありません。タルコフスキーの故郷にたい
するノスタルジアのようなものが感じられます。

あらすじより引用
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ゾーンには鉄条網が張られ、警戒厳重な警備隊がゾーンを守っていた。だ
が、このゾーン内には、人間の一番切実な望みをかなえる「部屋」があると
いわれていた。そこで、禁を犯してゾーンに侵入しようとする者たちが現われ
る。彼らを「部屋」まで案内する者はストーカー(密猟者)と呼ばれた。この日
も、ストーカーは妻が引きとめるのを振り切って、ゾーンヘと出発する。

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ストーカーもチェルノブイリに住む人々と同じく、ゾーンへと戻っていくのです。

しかし、タルコフスキーはこの映画の次の映画「ノスタルジア」完成後、亡命
を宣言しました。


  ●母なる大地

映画では、教授、作家、ストーカーが「部屋」へと進む道筋を決定するのに、
ナットに白くて細長い紐を結んだものを投げ、それが落ちた場所へと一人
ずつ進み、3人がその場所に揃ったら、もう一度同じことを繰り返す。これを
何度も繰り返して、「部屋」へと進みます。ナットに白くて細長い紐を結んだも
のは何を意味するのでしょうか?

ところで、「部屋」に到着して、ゾーンの外へ出る行程のシーンがないことを
不自然だと言う人がいました。

シナリオより引用
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3人の男たちは"部屋"の前に、互いに背を向けあったまま坐り、考えこんで
いる。ひとしきり雨が降って、"部屋"の中の水面が波紋で光る。

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ポスターにも使用された印象的なシーンです。このあと数分のシーンの後、
すぐゾーンの外です。これは何を意味しているのでしょうか?

ある人は眠っているストーカーが胎児のようだ、と言います。

別のある人はゾーンとは子宮ではないか?と言います。

ゾーンにはもう一つの設定があります。

ナットに白くて細長い紐を結んだものは男性の精子。「部屋」はゾーンの出口、
女性の性器です。

あらすじより引用
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かれらは、水が滝の如く流れ落ちる「乾燥室」という皮肉な名を持つトンネ
ルを通り、何人もの生命を奪った「肉挽き機」と呼ばれる非常に危険で恐ろ
しい管(バイプ)をくぐりぬけ、深い井戸をもつ、波紋が連なる砂丘の部屋を
通過し、ついに「部屋」の入口にたどりつく。

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胎児のシーンは「乾燥室」と「肉挽き機」の間に入るシーンです。「管(パイプ)」
とは産道です。

母なる大地という言葉があります。ゾーンの三つめの設定は母体。彼ら3人
は胎内回帰をはたし、そしてもう一度新しく生まれたのです。


  ●ラストシーンの謎

この映画のラストシーンは、ゾーンとともに大きな謎です。

先にあげた大江健三郎の小説「案内人」で、このラストシーンと関連するシ
ーンを指摘しているようです。

それは冒頭シーンです。

シナリオより引用
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ベットには娘をはさんでストーカーと妻が寝ている。かすかに汽笛が聞こえ
くる。
ベットの傍の椅子の上には綿や水を入れたコップが置いてある。列車の近
づく音と振動につれて、コップが静かにずり動く。

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ラストシーンは超能力でコップが動きますが、冒頭シーンは列車の振動で
コップがずり動きます。


  ●20世紀の精神

さて、ここで、今までの話に1冊の書物が加わります。

「20世紀の精神」 書物の伝えるもの 多木浩二/著 平凡社新書

無意識―フロイト『精神分析入門』
言語―ソシュール『一般言語学講義』
文明―T.S.エリオット『荒地』
国家―カール・シュミット『政治的なものの概念』
想像力―ベケット『ゴドーを待ちながら』
人間―プリモ・レーヴィ『溺れるものと救われるもの』

想像力―ベケット『ゴドーを待ちながら』 より引用
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このヴラジーミルの言葉は、夢のなかで働くわずかの昼の意識のように聞
こえる。決して分からないゴドーを、まるで会う約束をしていて、彼に会うと
救われるような相手として人格化しているのも夢と似た置換ではないか?
このとき夢という言葉は、当人にも分からない願望から、ある種のメカニズ
ムを経て形成されるものをさしている。ベケット劇に固有な性格は、不在の
中心(ゴドー)があり、すべての行為、すべての科白は、この不在の中心と
の関係であるが、決して当人たちに異様と思われていないのは、夢同様で
ある。

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「決して当人たちに異様と思われていないのは、夢同様である。」これは映
画「ストーカー」にもあてはまります。映画の登場人物の科白も「夢のなかで
働くわずかの昼の意識のように聞こえる」ようです。
 
無意識−フロイト『精神分析入門』 より引用
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無意識はすべての意識的に生きている人びとが、それぞれの精神世界を
生きているときに気づかずにもっている願望が宿る心的な領域である。

無意識に関係する重要な研究のひとつは夢の形成に関するものである。

いうまでもなく夢には奇妙なところがある。たとえば何人かの人が一人の
人物に合成されていたり、出来事が不明瞭で非合理的なのに、夢のなか
ではそれなりに物語になり、一向に不思議に思わないのである。

夢思考が夢内容に変換する際に、夢内容にこうした歪曲を生み出す過程を
「検閲」と名づけた。「検閲」という言い方が出てきたのは、彼の時代ではま
だ政府による検閲が新聞にたいして行われていたからである。

フロイトは『夢判断』の終わりで次のように述べている。「夢形成に際しての
心的作業は二つの仕事に分かれる。夢思考〔潜在思考〕の生産とそれの夢
内容〔顕在内容〕への変容である」とし、後者、すなわち潜在夢を顕在夢に
置き換える作業、つまり材料の省略、模様変え、編成変えが「夢の作業」と
呼ぶに相応しい、と。それと反対の方向、つまり顕現夢から潜在夢に到達
しようとする作業が「解釈作業」である。

フロイトによれば「夢の作業」には四つの機制が働いている。

まず「圧縮」である。顕現する夢は「潜在する夢の、一種の短縮された翻訳
である」。

第二に「置換」がある。

夢の作業はフロイトを超えて、言語化の方向に発展させられている。ラカ
ンはさらに発展させ、置換を換喩、圧縮を隠喩と見なすようになる。

第三に思考の「形象性への配慮」がある。つまりすべてが視覚化されると
は言えないにしても、多くの場合、思考は視覚像に置き換えられる。われ
われの通常の思考の前段階は感覚的印象の記憶像であるとするなら、夢
の作業とは、思考になんらかの退行的な処理を行って記憶像にまで戻る
ことを意味する。言語によって論じられることと、視覚的イメージは食い違う。
したがって視覚化は、思考を変容させる。しかし夢内容は、なんらかの方法
によって因果関係を仄めかす方法をとっている。

第四に「二次的加工」と呼ばれる夢の作業がある。これはむしろ顕現夢に
かんするものだと言えよう。つまりこれまで述べてきたような夢の作業の直
接の結果は知的に理解することが困難な結果をもたらすが、右の三つの
夢の作業の結果にたいして働きかけ、それを一種の物語に整えていくもう
ひとつの作業がある。三つの作業の結果を組み立て直し、「ある全体的な
ものとし、ほぼ調和したものとする」ことである。


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ゾーンには、さらにもう一つの設定があります。四つめの設定、それは夢の
中です。


  ●夢

感覚的に上の引用文と映画「ストーカー」を結びつけてみました。

無意識は「部屋」。3人は無意識へと向かっていたのです。

検閲は文字通りソ連当局の検閲。

換喩と隠喩はゾーンの設定。タルコフスキーの父親は詩人です。タルコフ
スキーも映像において換喩と隠喩を用いる、いわば映像詩人です。

そして、潜在夢は冒頭シーン、顕在夢はラストシーンとすると、3人は「夢
の作業」をしていたことになり、顕現夢を冒頭シーン、潜在夢をラストシー
ンとすると、3人は「解釈作業」をしていたことになります。

3人はゾーン内で冒頭の列車の振動でコップがずり動くシーンを、ラストの
超能力でコップが動くシーンへと、置き換える作業をしていたわけです。


  ●眠り

この映画には多くの眠りのシーンが出てきます。冒頭シーンも眠りです。

作家と教授、そして、胎児も眠っています。

シナリオより引用
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妻の声「"私が見ていると大地震が起こって、太陽は毛織の荒布のようにな
り、月は血のようになり・・・・」
ストーカーうつ伏せになって眠っている。
(画面は変わってモノクロとなる)
ストーカーのあお向けの寝顔のクローズ・アップ。

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画面がモノクロとなり、ゾーンの外でストーカーは夢を見ています。

そして、画面はカラーとなり、ゾーンの中。

シナリオより引用
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(画面は再びカラーとなる)
コンクリートの広場に坐っていた黒い犬、突然、立ちあがる。

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黒い犬も謎です。

シナリオより引用
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眠っているストーカー、夢うつつでため息をつきながら、目を覚まし、上目づ
かいにちょっと見て、起きあがる。
ストーカー(つぶやく)「この日、ふたりの弟子が・・・・」
眠っている教授に重なるようにして横になっている作家。
ストーカーの声(つぶやくように)「エルサレムから7マイルばかり離れたエ
マオという村へ行きながら、語りあい、論じあっていると、イエス自身が近づ
いて来られた。しかし、彼らの目がさえぎられて、イエスを認めることができ
なかった。」折り重なるように横たわっていた作家と教授、すっかり目を覚ま
し、ストーカーに注視している。
ストーカーの声「イエスは彼らに言われた。互いに語りあっているその話は、
何のことか?」

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胎児が目を覚し、ストーカーが生まれかわる。


  ●再びストルガツキ―兄弟

ゾーンに到着した直後のストーカー。シナリオより引用
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ストーカー、草叢にひざまずいて、溜息をもらす。やがて草叢に顔をうずめ、
大地にうつ伏せになる。そして静かにあおむけになり、額に手を当てて何か
瞑想している。

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「瞑想」という言葉は、ストルガツキー兄弟がタルコフスキーの意図を理解せ
ず、ストーカーを観念論者として脚本を書いている為です。

アルカジー・ストルガツキーの証言。サイトより引用
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私たちは、SFのシナリオではなく、寓話を書いた。(寓話では、登場人物が
時代の典型であり、典型的な理念と行動を担う者として登場するお話であ
ると理解するならば、の話である。)流行作家、及び、傑出した科学者が、
自分の最も大事にしている夢を実現してくれるであろうゾーンに入る。2人
を導くのは、新しい信仰の使徒、一種の観念論者である。

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作家と科学者。合体させればSF作家。

あらすじより引用
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わが家に帰って、ストーカーは「あんな作家や学者ども、何がインテリだ!
・・・・骨折り損だった」と絶望的に叫ぶ。

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これはストルガツキー兄弟に対して言ったものです。すなわち、脚本を書い
たストルガツキー兄弟は自分達で自分達をバカにしているのです。


  ●ラストシーンと黒い犬の正体

「20世紀の精神」 多木浩二/著 おわりにより引 用
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「精神分析入門」は、芸術を専門にしてきた人間から見ると、一種の「芸術
論」に近いものとして読める

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映画「ストーカー」はタルコフスキーの一種の「芸術論」に近いものとして観
ることもできます。

作家と科学者はストルガツキー兄弟。ストーカーはタルコフスキー本人。

冒頭シーンはストルガツキー兄弟の原作。ラストシーンは映画「ストーカー」
そのもの。

3人がゾーンの外へ出て、画面はモノクロとなり、そして、しばらくして画面
は再びカラー。

黒い犬が夢の中からゾーンの外までついて来る。ストーカーは眠る。カラー
は夢の続き。

そしてラストシーン。

シナリオより引用
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机の脇に少女が本を読みながら腰かけている。やがて少女はふと眼をあ
げ本を膝に置いて、じっと窓の方を見据える。
少女のモノローグ
「ふと、まなざしを上げ、まわりを閃光のごとく、君が眺めやる時
その燃える魅惑の瞳を、私はいつくしむ
だが一層まさるのは、情熱の口づけに目を伏せ
そのまつ毛の間から、気むずかしげでほの暗い、欲望の火を見る時・・・・」

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黒い犬は原作からの置き換え。そして黒い犬は映画「ストーカー」へとさら
に置き換わり、映画「ストーカー」そのものが自らのラストシーンへと置き換
わる。

シナリオより引用
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犬が鼻を鳴らす声が聞こえる。
少女はいったん、窓の外に眼をやると、その眼差しを机に置かれたコップに
注ぐ。コップはひとりでに静かに机の上を滑りだす。少女は机の上のコップ
と花びんに次々と視線を向ける。視線を受けると、コップが静かに動き出し、
床に落ちる。
少女は机の上に頬を載せて、眼を凝らしている。
ベートーヴェンの”歓喜の歌”が響き、やがて消える。

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  ●おわりに

Eさん、Aさん、Bさん、Yさんに貴重なご意見を頂きました。リンクを張らせて
いただいた佐藤公俊さん。タルコフスキーを通じてインターネットで知り合っ
た方々、昔の知人。多くの人に感謝します。ありがとうございます。

                                          2003.10.15