DISCLAIMER:
「ベルサイユのばら」の著作権は、池田理代子先生および、池田理代子プロダクションにあります。この作品は作者が個人の楽しみのために書いたもので、営利目的はありません。
Author:
miki
Email:
miki@he.mirai.ne.jp
Date:
2001/01/14(再掲載 2008/07/19)
Category:
オスカルとアンドレのある年のノエルのできごと
Spoiler:
「フランス文化誌事典」  原書房  1996年
Authors note:

現在は閉じられているサイトに、昔、ノエルの企画として載せていただいたお話です。サイトのデザインが、すてきでしたので、昔のままにさせていただき、使わせていただきました。

クレーシュは、本来、ノエルの頃に教会の前に飾られる大きなものだったそうです。現在でも、飾られているのを、旅行先で見た方も多いのではないかと思います。家庭で飾られる小型のクレーシュは、フランス革命で、教会を含む宗教が否定され、仕事を失った職人達が、考え出したものらしいと読んだことがあります。ですから、クレーシュの小型を家庭に飾る習慣は、本来、フランス革命後に広がったものらしいですから、このお話は史実としては、間違っております。

クレーシュは、結婚するときに少し買って、家族が増えるたびに買い揃えていくという話も読んだことがあります。教会に毎週通う人も減り、ガチガチの個人主義が国民性かと思えるフランス人も、実は、意外なところで、宗教が深く心に入り込み、家族思いの人々が多い国らしいです。(私がフランス語を学んでいた時のフランス人の先生の言い分によりますと・・・真実は謎ですが。)さすがに、「バチカンの長女」(それとも、カトリックの長女だったかも・・・)と呼ばれるフランスらしいです。個人で楽しむ以外の無断転載・再配布は、ご遠慮願います。

 

Creche(クレーシュ)


 

クレーシュ1 〜手探りの心〜 1788年12月19日(金)  ダメだ…体がいうことをきかない。熱のせいか…だるくて… 「アンドレ、もう起きなさい。いつまで寝ている気だい、こら!」 おばあちゃんのいつもの怒りも、今は体を起す気力にはつながらない。 「…今日は熱が高くてダメだよ。オスカルに伝えてくれ、伴ができないって。 働かざる者は…食わずに寝ているよ。」 扉の向こうに返事をしたら、すごすごと引っ込んで行った。 これ以上、怒鳴り声なんて聞いたら、頭が割れるよ。 ああ、情けない。俺も歳かな…まだ若いつもりだったけど…。 昨夜まで何十年ぶりの寒さのパリを仕事でかけまわっていた。 さすがに昨夜、寝る時にやばいと思ったけど、毎年の習慣のクレーシュを 飾ることに夢中で、しかも、疲れていたから、つい酒を一口飲んだだけで、 煎じ薬を作るのも面倒で飲まずに、寝台に直行した。 まあ、今日は一日寝ていることにしよう。 しばらくして、目をさますと寝台の横に、食事と煎じ薬が用意されていた。 おかしいな?扉には閂がかけてあるのに…まさか?あの隠し扉からか? …ということは、オスカルが気を利かしてくれたのかな?珍しい! 俺の性急な愛の告白の後で、あの扉は開けられることはなくなった。 オスカルもさすがに俺が忍び込める様にはしたくないらしかった。 勿論、俺もあんな涙を見たあとでは、忍び込むなんて、できるはずもない。 自分で飾ったクレーシュを熱のある頭で見つめながら、俺の気分はさらに 落ち込んで行った。 このまま、病のせいで死ぬことができれば、俺の人生も楽になるだろうに…。 身分違いの恋に悩むこともなくなる。 今回の結婚話は、なぜか立ち消えたが、この先また同じようなことが 起こらないと、誰が断言できる。 あるいは…オスカル自身が、またフェルゼン伯爵のように別の男を 愛することになるかもしれない。 とりあえず、死ぬ前にオスカルの心遣いだけは、貰っておこうかな。 自分で飾った俺とオスカルを表すクレーシュの人形を見ながら、 ふと昔を思い出した。 まだ若い20代の頃、北欧のノエルの話を楽しそうにするオスカルの横顔… 俺がどんな気持ちでおまえの話を聞いていたか…考えたことあるか?オスカル… 「アンドレ、北欧には、小人や妖精の伝説がたくさんあるだろう。 その中でも、ノエルに最も関係のあるのが、家の守り神として、 バイキング時代から大切にされてきた“ニッセ”だそうだ。 ニッセはいたずら者の小人で、灰色の粗末な服をまとい、 赤い帽子と赤い靴下、白い木靴を身に付けているらしいぞ。 そして、実際にニッセを見ることができるのは、その家のネコだけだそうだ。 このニッセは、悪者には罰を、善人には褒美をくれるらしいぞ。」 「その話は誰に聞いたのだ?オスカル」 「ああ…アクセルが…フェルゼン伯が、昔、王妃様にご説明申し上げていたのだ。 しかし、同じヨーロッパのノエルでも違いがあって、面白いな。 そう思わないか?アンドレ」 話を聞くそぶりをして、自分の不機嫌をごまかしていた。 もう数年前から、俺の部屋のクレーシュに俺達二人の人形を飾る習慣を おまえは忘れていた。 そのかわりに彼女の部屋には、米独立戦争へ参加したフェルゼン伯爵の無事を 祈るために、彼の木彫りの人形が、人目から隠すように、棚の奥に飾られた 小さなクレーシュの中に置かれていた。 幼い頃の友情より、恋のほうを選ぶようになったおまえ… 女性としての美しさに磨きがかかり、眩しいほどなのに、その美しい蒼い瞳が みつめているのは、俺ではない男…北欧の貴公子だ。 嫉妬に苦しみながらも、嫉妬する権利すらない自分…恋人でもなんでもない、 ただの従僕で幼馴染みなだけの存在…自分すら情けなかった。 オスカルがフェルゼン伯爵を諦めた後でさえ、結婚話がでただけで俺は… 愛しい女さえこの手にかけようと…毒を盛ろうとしたのだ。 こんな俺は、この世から消えた方がおまえのためなのかもしれない。 暖かい…誰?ママン? 誰が俺を優しく抱いてくれているのだろうか? そうか、これは望みがかなって天国で母に抱かれているのだな…。 柔らかな髪の感触…、優しい指が俺の髪を梳いてくれている… 暖かで、柔らかな胸の膨らみ…俺の体にまわされた細い腕… ああ、とても落ちつくよ。ママン…子供の時もこうされたかった。 一番欲しかったのは、ママンの腕だったのに…。 「アンドレは、どうしたのだ。アンヌ?」 いつもならアンドレが私の出かける準備を確認しに来るはずなのに、 その時間にやってきた侍女のアンヌに私は問い掛けた。 「それが…熱が高くて、起きられないらしいのです。 ばあやさんは、“この役立たず”と怒っていますが、こればかりは…」 昨夜、夜遅くまでパリの高官宅で会議が行われて、その連絡や準備でここ数日、 寒さの厳しい中を、彼は走りまわっていた。 そのために酷い風邪を引き込んだらしい。 「私のせいだから、ちょっと兵舎へ行く前に見てやろう。」 「それが…昔のくせが、久しぶりに出てしまって…どうしましょう?オスカル様」 「またか?最近なかったのに…しかたない、久しぶりに例の手でいくか。」 アンドレも私も、どちらかというと姉達や他の子供達と比べても、元気な子供であり、 大人になってもめったに病気もしないタイプだったが、一旦なってしまうと、 彼は、気分まで落ち込むタイプだった。 理由は、彼の幼い頃からの環境だろう。 彼は、幼い頃に屋敷に引き取られて、それ以来いろいろと仕事をまかされていた。 だから、彼が病気になると、ばあやはいつも彼に自己管理が甘いと叱った。 子供心にばあやの愛情は十分感じていても、まだ母親の膝が恋しい歳の少年に、 その言葉はつらく響き、彼は落ち込んでいった。 彼はかわいらしい子供だったので、そんな様子を見た屋敷の侍女達は同情し、 病気の時には、なにくれとなく彼の世話をやくようになった。 それを彼は恐縮して受けていたが、次第に気持ちを閉ざし、病気になると、 使用人棟の彼の部屋へ閉じこもることが多くなった。 病気で寝込むと、彼は「ママン…」と寝言を言うことを子供の頃に知った。 思春期になると甘い顔立ちの彼は、侍女達の興味の対象となった。 女性に必要以上にかまわれることの苦手な彼は、病気になると、 私のわがままから、私の部屋の隣に居室を与えられていたので、 そこへ閉じこもるようなった。 昔から、そうなると声をかけても返事をする人間は、私だけになった。 私だけが彼の本当の主人で、さすがに無視はできないからだ。 私が看病するわけではないのだが、親友のいつもと違う状態が心配で、 結局は、私が抜け道から、侍女に世話をさせることになった。 またそうなると、ばあやがうるさいのだが、さすがのばあやも私の意思を 無視はできなかった。 私の部屋には、隣室への隠し扉があった。 私の屋敷はルイ14世がヴェルサイユ宮殿を建てた時に建てられた。 多少の建て直しは行われたが、まだフロンドの乱のような内乱の記憶が あったせいか、いざという時に隣室や外への逃げ道を確保するために、 所々に隠し扉が作られていた。 だから、彼の部屋へ誰にも知られずに入ることが、私には可能だった。 昔、彼から少々乱暴な愛の告白をされた私は、それ以来、私の部屋側の その扉が開かないように、小卓を置いていた。 アンヌは、古くからいる侍女で、アンドレの昔の様子も知っているし、 私のいつもの手も知っていたので、笑いながら、そうして欲しいと言った。 久しぶりに私は小卓を移動させて、彼の部屋へ忍び込んだ。 アンドレは、熱のせいか眠っているようだった。 彼の額に手を当ててみると、確かにかなりの熱がある。 暖炉には、薪さえくべられていなかったので、アンヌに暖炉の火をいれさせた。 そして、煎じ薬とウォーマーにのせた食事を用意させ、彼が目覚めた時に自分で 暖めて食べることができるように、寝台の脇に置いておいた。 こうして見まわすと、彼の部屋には、本当に久しぶりに入った。 昔と同じで、几帳面に整理された余分なもののない、すっきりとした部屋だった。 でも、ノエルが近いせいか、クレーシュ(原義は、まぐさ桶)が台の上に飾られていた。 私はそれをちらりと見て、そのまま彼の部屋をさり、兵舎へ出かけた。 クレーシュは、普通、藁や紙、土人形で作られたキリスト降誕の情景を表す飾りで、 人形の切りぬきや、木や蝋で作られた人物が並べられて、さらに紙製の花、 花輪かざり、彩色絵や小さな蝋燭までが飾られるものだ。 大抵、家族のつどう部屋に置かれる習慣だった。 アンドレがこの屋敷に引き取られた時、少ない荷物の中に、グランディエ家の 家族全員がそろった最後のノエルに飾ったクレーシュを思い出の品として入れてきた。 親友として始めて一緒に迎えたノエル以来、彼の部屋には、古くなって壊れた物は、 変えられながらも、このクレーシュが毎年さりげなく飾られていた。 子供の頃、私達は互いの姿を描き、このクレーシュに飾りとして加えていた。 いつの頃からか、私は彼のこの習慣に加わらなくなっていた。 多分、フェルゼンに恋する頃から、アンドレの気持ちを考えないことが 多くなったせいだろう。 その日は、彼の様子が心配で、必要なだけの仕事を終えると、急いで帰宅した。 そして、再び彼の部屋への扉を開けた。 彼はまた眠っていたが、食事と煎じ薬は片付けられていた。 思わず彼の黒髪を優しく撫でて、額に手をあててみた。 朝よりは熱は下がっているようだった。 彼は「うん…」と軽く声を発し、寝返りを打つと、また眠りの世界へ入った。 彼は眠りが深い方だった。それも、そうだろう。 幼い頃から、朝早くから夜遅くまで仕事があり、さらに、私の要求する 勉強までしなければならなかったから、一旦眠ると、睡眠時間が 短くても疲れがとれるような、深い眠りにならざるを得ないように、 自然に身体がなっていったのかもしれない。 でも、不思議に私以外の人間の気配には敏感なのだ。変な奴だ。 朝、久しぶりに見た彼の部屋のクレーシュを、私はまた再びよく見てみた。 すると、明らかに私と彼だとわかる金と黒に髪を塗った木で作られた人形が 聖家族のそばに、仲良く並んで飾られていた。 私はふいに涙が出てきた。彼はまだ私を愛してくれている…。 この人形が、言葉にこそしないが、彼の愛情の証だ。 私も彼を愛している。いつか、私は彼に愛を告白せざるを得ない。 それは、私の確かな予感だった。 突然の私の結婚話、馬車が襲われて二人ともけがをした事件、 愛らしいディアンヌの突然の死… それらを経た今では、私は彼への愛を自覚せずにはいられなかった。 いつも彼はそばにいてくれると長年思い込んでいた。 でも、いつか彼が私を嫌って出て行くことだってあるかもしれない。 事故で、けがで、病で…突然彼を失うかもしれない。 彼を失うことには耐えられない。彼がそばにいてくれなくては、生きていけない。 ディアンヌの姿は、未来の私の姿かもしれない。 ただ、彼へ愛を告げる勇気は、私にはなかった。 多くの不安が私の心に存在したからだ。 彼は、昔のように私を愛してくれているのだろうか? 私が愛を告げることは、彼の人生をさらに縛ることになるのではないか? どうせ二人で生きていくのならば、失恋する可能性のある関係よりは、 今までのままでいいのではないか? でも、私の考えは、なんて自分の傷つくことばかりを恐れている、 受身のものだったのだろうか… 彼を本当に愛しているのならば、彼にもう一度愛されるように 努力するべきだったのに…。 彼に愛されるだけでなく、自分からも愛さなければいけなかったのに… 私はなんて卑怯者だったのだろう。自分ばかり愛されることを望んでいた。 彼の気持ちを考えてみたことがあっただろうか? 「…っ…ううん…」 アンドレは、一度落ちついた熱がまた高くなり始めたらしく、 身体をまるめて寒気と戦っているようだった。 暖炉の火を再び強くするために薪をくべた。でも、彼の様子はかわらない。 熱のためか、紅潮した頬は子供のようで、彼が愛しくてならなかった。 私は一瞬躊躇したのちに、上着を脱いで、彼の寝台にもぐり込んだ。 身体を寄り添わせれば、多少は暖かいだろう。 すると、まるで子供が安心したように、私の胸に頭を預けて、 気持ちよさそうにまた寝入り始めた。 「…ママン…」 彼の夢の中には、病の時、母に抱かれて眠った記憶がきっと蘇っているのだろう。 こんなに背も高く大柄な彼が、子供みたいでおかしかった。 そういえば…この場面は私にとっても懐かしい気がする。 まだ幼い頃、私が風邪をひいて、寒気がすると言ったら、 彼が同じように身体を抱きしめて、温めてくれた。 その時、ばあやの用意してくれた湯たんぽよりも、彼の温もりに安心して、 私は寝入ったことがあった。 懐かしいだけでなく、不思議とおだやかな時間が過ぎていった。 私がフェルゼンに夢中だった時、アンドレはどんな気持ちで長年 私を見つめていたのだろうか? 誰よりも愛しているのに、告げることさえかなわない恋… そんな尊い愛に応えることが相応しいほど、私は魅力的な女なのだろうか? 彼の手触りの良い黒髪を梳きながら、私も何時の間にか、 彼を抱きしめる幸せな気持ちを味わいつつ、疲れがでて寝入ってしまった。 「…オスカル…大丈夫か?どうしてここにいるのだ?」 「…う…うん、なに…アンドレ?」 寝ぼけまなこでアンドレを見上げると、彼が驚いた表情で、私を見つめていた。 「おまえがあんまり寒そうだったから、暖めてやろうと思ってな。大丈夫か?」 「…あ、あ…そうか、ありがとう…オスカル」 彼は、戸惑いながら答えた。 私はスルリと彼の寝台から降りて、再び彼を見下ろした。 「身体の調子はどう?アンドレ」 「ああ、朝よりだいぶいいよ。食事と煎じ薬はおまえが用意させてくれたのか? ありがとう。オスカル」 「いや、いいよ。昔のように部屋に閉じこもっているとアンヌが言ってきたから。 あの隠し扉を久しぶりに開けたのさ。」 「…別に閉じこもったわけではなくて…皆に風邪を移すといけないから、 用心のためさ。ただそれだけだよ。オスカル」 「…ふふふ…それならいいけどな。それに寒そうだったから、 昔のお礼代わりに暖めてやっていたのさ。感謝しろよ。アンドレ」 「はい、はい、オスカルお嬢様、私ごときのために、大事なお嫁入り前の身体を お貸しくださり、どのように感謝するべきか、私は想像さえつきません。」 「おまえ、それ嫌味か?」 「別に…本心だよ。感謝しているよ。暖かくて気持ちがよかったよ。」 「おまえ…なんて寝言を言っていたか教えてやろうか?」 「別にいいよ。またおまえのからかいのネタになるだけだろう?」 「まあ、そういうことさ。良く分かっているな。さすが“私のアンドレ”だ。」 「お褒めに預かり恐縮でございます。オスカルお嬢様」 「バカな話はこれくらいにして、おまえも食事をしろ。風邪がなおらないぞ。 アンヌに行って、二人分を持ってきてもらおう。一緒に食べよう。」 「ああ…でも、食欲がないよ。一日中、寝ていただけだから。 明日には兵舎へ行くよ。今日は悪かったな。オスカル」 「だめだ、ちゃんと食べろ。スープとブラマンジュくらいなら、食べられるだろう。 それとも、私の食事の相手は嫌なのか?それに、明日も寝ていろ。 これは主人の命令だ。まだこれからが忙しいのだからな。」 「食事の相手はいいけど…おまえに風邪がうつるといけないし…」 「大丈夫さ。おまえほど、寒いところを駆けずり回ったわけじゃないからな。」 「じゃ、遠慮無く…お相手させていただきます。オスカルお嬢様」 「それとおまえにだけは話しておきたい…決めたことがあるのだ。アンドレ」 「決めたこと…何を?オスカル」 「私は、もう一生涯…結婚なんてしないぞ。軍人として生きていく。 優秀な従僕殿…そのつもりでいてくれよ。離さないからな。」 「もう…って言っても、おまえ、一度も結婚なんてしたことないだろう?」 「ははは…そういえば、そうだな。じゃ、こういう場合なんて言うのかな?」 「…さあ…わからんが…でも、突然何を言っているのだ?」 「まあ、いいさ、何でも。…そういうことだから。」 私は彼に私の決意を告げると、また笑いながら部屋に戻り、 用事を言いつけるためにアンヌを呼んだ。 それから、二人で食事をしたが、先ほどと違い彼は気分が良いようだった。 結婚なんてしない。おまえ以上に好きな男などいない。 私は、食事の手も止まりがちで、彼を見つめていた。 「おい、どうしたのだ、オスカル…風邪がうつったか?」 「…ううん、なんでもないよ。アンドレ」 世の中の忙しない流れとは裏腹に、幸せな時間が流れて行くのに、 私は満足を感じていた。 次のページへ







冬の部屋へ