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JACKET COLLECTION

2002/05/16


chet baker in new york

 『塩通』を始めて間もなくの頃、僕は一度、グレちゃったことがあります。いや、僕はわりとグレやすい体質でありまして、今までにも何度かグレては2〜3日後に社会復帰を果たすという、そういった経緯を繰り返してまいりました。ま、グレる程度としては極めて軽度でありまして、言うなれば“プチグレ”といったところなんですが、ところで不良になることをどうして「グレる」と言うんでしょうね?昔、不良化した集団のことを「愚連隊」と称しておりましたので、そこから来た言葉なのではないか?という説もあるようですが、これは順序が逆でございます。ペアヤングのことを「ペヤング」と言うように、グレ連隊だから「愚連隊」という言葉が生まれたわけでありまして、順序としてはて「グレる」という言葉のほうが先にあったわけなんですよね。

 今ではもう完全に日本語と化した感のある「サボる」という言葉は、元を正せば「サボタージュ」という外来語から来ております。同じく「扇動する」という意味の「アジる」は「アジテーション」ですよね。おさかなのアジとはまったく関係ありません。となると「グレる」という言葉もおさかなのグレとはまったく関係なくて、何か外来語から来ているのでありましょうか?ものは試しに“gure〜”、あるいは“gule〜”で始まる単語をちょっと調べてみましょうかね?………。はい、該当なし。調べてみるだけ無駄でしたなぁ。。。仕方がないのでネットで「ぐれる」の語源を調べてみると・・・、おお!これは意外ですな。「ぐれる」というのは魚のグレとはまったく何の関係もなく、貝類の「はまぐり」から来た言葉なんだそうでありまして。「ぐれる」「はまぐり」。この2つの間に一体どんな関係があるんでしょうね?

 結論から申しましょう。「貝合わせ」です。えー、ハマグリの殻を2つに分け、そこに詩歌なんかを書き込むわけですな。そういうのをたくさん作ってシャッフルして並べ、カルタみたいにしてピッタリと一致する貝を探して取っていくわけであります。ハマグリの殻は元の組み合わせでないとピッタリとは合わないことから、ハマグリはギャルの貞操の象徴とされているわけでありますが、なるほど、いくらハマグリ的な行為に耽ったとしても、特定の相手と1対1の関係ならば貞操的にはまったく問題ないということなんですね。これで世の中のペヤングたちも安心したことと思いますが、ところがこの「貝合わせ」において、もし貝殻を逆さまにしてしまったら一体どういうことになるでしょう?貝殻はどう頑張ってもピッタリと重ね合わせることは出来ず、自分の意のままになりません。このような自分の思い通りにならない「よくない状態」のことを「ぐりはま」と読んだんだそうです。「はまぐり」の逆さまだから「ぐりはま」。いや、正確に逆さまにすると「りぐまは」になるハズなんですが、細かいことは気にしないで「ぐりはま」。このようにして「よくない状態」「ぐりはま」という言葉が生まれたわけでありますな。

 そして言葉というものは、使われていくうちに変化していくのが常であります。長い言葉は覚えにくいし、言いにくいしー。。。というので次第に省略された形になっていきます。「アジテーションする」がやがて「アジる」という言葉になったように、「ぐりはまする」の“ハマ”の部分がどこかへ消えて、「ぐりる」、あるいは「ぐりった」という言葉になったとしても別に不思議ではありませんよね。ただ、「ぐりる」だと何だか魚を焼くガス器具みたいだし、「ぐりった」だと何だか「魚のフリッタ」みたいで今ひとつだよねぇ。。。…というので、「ぐれる」とか「ぐれた」といった言葉にマイナーチェンジしたのでありましょう。いずれにせよ、「ぐれる」というのは高度成長期に入ってグレる子供が増えだしてから作られた言葉だとばかり思っていたら、おそらくは平安時代くらいから使われている、実に由緒正しい大和言葉であったわけでありますな。

 で、僕がどうしてグレちゃったのかというとですね、Nifty“F-jazz”というフォーラムで、ちぇっとというハンドルネームの人から「今日のチェットは似てねーぞ。」と言われちゃったからなんですけどね。多感な少年の心は傷付きました。ナイーブな僕のハートはブレイクしました。こんなことを言われてグレちゃわないほうが、どうかしてますよね。かくして僕は昼間の員弁(いなべ)川の堤防を“けった”でサイクリングするという、非常に健康的な不良行動に走った次第でありますが、いや、今になって冷静に判断してみると、このチェットはどう考えても似てません。

(自己採点)

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 どう贔屓目に見ても、30てん。僕はそこまで冷静に自分を見られるまでオトナになりました。