KOJI

           
さぼさぬけ

 青い花、赤い遊具、茶色い土。
 ピンクの服、オレンジの靴、グリーンのリボン。
 けれど私が見上げるのは象牙色の空。
「なにを描いてるの?」
 先生が聞いた。
「お空」
 と、私は答えた。
 白い画用紙はパステルエナメルで一面に塗りつぶしてある。見上げると、それと同じ色の空が頭上に広がっている。
 私は満足してふふんと息をはいた。
 けれど先生は困った表情で、私の画板をのぞき込む。
「あのお花とかは描かないの? ほら、とってもきれいよ」
 先生の目線の先には青い花。
 今年の初めにみんなで作った花壇から、空に向かって伸びている。
「ねえ、どうかな」
 先生の言葉に私は困った。
 それは多分、私が描いているものが間違いなのだという言葉。
 でもね、先生。
 私が本当に描きたいのは青い花じゃなくて、どうしようもなく不思議な色をしたこの空なの。
 あの青い花が、目指している先のものなの。
 懸命に求めている、私も手に入れたいもの。
「うーん、じゃあ、ブランコはどうかな? よく遊んでたよね」
 私は困って、本当に困って、なぜなら先生の言葉が悪意からではないからで、けれどもそれは私の意図とは違って、それがどうしようもなく胸を苛んで、ぎゅっと唇を噛んだ。
「お空だけで何もないと、寂しいでしょ?」
 そんなことない。
 そんなことないよ、先生。
 伝わったのか、伝わらなかったのか。先生は曲げていた腰を伸ばして、私から一歩離れた。
 そして空を仰ぐ。
「あら」
 先生は顔をしかめた。
「降ってきそうね」
 蒸した草原の匂いは、その前兆なのだろう。
「そろそろ帰ろうか」
 私の頭を軽く撫でて、聞こえないほどの小さなため息。哀れみと不満が混じった、苦手な色。
 先生にとって私は、思い通りにならない、困った子。
 あの空の色が不思議なみたいに、いつか降ってくるんじゃないかって。
 先生はきっと私のことをそんなふうに思ってる。手を焼いているの。そして必要以上に構うのよ。
 先生、私、それを知ってるわ。
 いつか空が降ってくるんじゃないかって大騒ぎした人のこと。
 杞憂って言うんだわ。
 空にしてみれば、ただそのままでそこにありたいだけなのに。本当の自分を偽らないだけなのに。
 象牙色が次第に曇って、薄灰色の雲の端に太陽はぼんやりと隠される。
 まだ明るいのに、ぽつりと雨粒が私の頬に落ちた。
 透明な色。
 象牙の空から落ちた雨は、私を同じ色に染めてはくれなかった。
 あの空に、私はやっぱり取り残されてひとりぼっち。

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