僕らがニューロンではない理由

           
さぼさぬけ

 人間は不便だ。この上なく、不便だ。
 何が一番不便かというと、それぞれが個であって繋がりを持たないことではないだろうか。まとまって行動することを選んだ人間にとって、お互いが違う個体であるということは非常に不便だ。
 なにかひとつ行動を起こすにも、いちいち話し合いの場を設け、時間をかけて方向を決めていく。そうして決めた規範も、必ずそれを逸脱する者が現れる。
 全てを満たすものはなく、必ず誰かが何かに不満を覚えている。
 それは、とても不便なことだ。
 人類は何故、その様な不便で煩雑な道を選択したのだろう。私ならば違う。全ての個体は繋がって、ひとつの巨大なネットワークを形成するべきだ。個は全体であり、全体は個である。個の思考は全体へと瞬時に浸透し、そして全体が個を支配する。
 そこに背反は無く、全てに置いて統合の取れた生命体となるのだ。それは何と素晴らしいことだろう。
 そんな考えを私はBに話した。Bは私の話にあまり興味を覚えないといった風にため息を吐く。ああ、本当に個というものは不便だ。私はBをこんなにも愛し、信頼しているというのに、Bは私の思考を理解することができない。もし私とBが同一だったなら、このようなジレンマを感じることもないだろうに。
 Bは言う。私の考えに興味はないと。個は、個であるべきだと。人間同士が精神を結合することなどあり得ないのだから、人類が個であることを選択した意義を見いだすために生きる方が得策なのだ、と。
 私はBの話にため息を吐く。
 ああ、本当に個というものは不便だ。私はBをこんなにも愛し、信頼しているというのに、Bの思考を理解することができない。
 私の思いを知らないBは、困ったような顔をして私の指先を取った。指先から、Bの体温が伝わる。
 伝わっているのは、体温だけなのだろうか、はたして。

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