泣いて、泣いて、泣き尽くしたその果てに。
私は文章を書きたいと思った。
それが、今の私を構成しているのだと思う。
「ねえ、マルボロなんか吸ってた?」
久しぶりに遊びに来た彼女が、私の鏡台の上を見て言った。
「ううん。それ、忘れ物よ。私煙草は吸わないもの」
ふうん、と言って、彼女は笑う。
「彼氏?」
「そんなものいないわ。友達よ。しばらく前までね、一緒に住んでいたの」
そして私も笑う。ちゃんと笑顔だろうか。そんなことを頭の片隅に置いて。
「今は、いなくなっちゃったけど」
私の笑顔に何かを感じたのか、彼女はそれ以上聞いてこようとはしなかった。私は彼女のそんなところを本当に素敵だと思う。
「私ね、煙草は嫌いなの」
次に話題を振ったのは私。
「煙が目に染みて、ひどく、泣きたくなるから」
友人は何も言わずに、私に背中を寄せる。
しばらくしてぽつりと、彼女は言った。
「よかったらその煙草、持って帰ろうか? 捨てられないんでしょ?」
辛い思い出を、いつまでも側に置いておく必要なんて無いんだよ。
彼女の言葉は本当に優しい。私は彼女のことを本当に、言葉が見つからないくらいに、大切に思う。
「ううん、いいの。またいつか、必要になる日が来るかも知れないから」
そっか、と言って彼女は黙った。
その日はそれまで。
彼女は私の家の、外へと続くドアから姿を消す。
友人は。私とともに住んでいた友人は。
いつの間にか私の心の中に転がり込んできていた。気付いたらいつも一緒にいた。
随分と困った性格で、煙草が好きで、ビールが好きで。生来の面倒くさがり屋で、片づけることが苦手で。彼女が何かした後を片づけるのは、いつも私の役目で。
それでも大切な友人だった。
いつまでも一緒にいられないなんてことは、分かっていたのに。
分かっていたのに。
友人との別れを決めたのは私。
友人を消してしまったのも私。
彼女はまるで、彼女の好きだった煙草のような存在だった。
「さようなら、あなた」
カウンセリングを受けたことは、今でも後悔していない。けれど、大切な友人を失ってしまったその悲しみを埋めるため、私は文章を書き続けるのだ。
彼女の好きだった煙草のように。