さて、10年程前から人気商品として定着してきた季節限定ビールの市場で異変が起きている。ビールの全売上量に占める季節限定ビールの割合は93年に3.7%に達したが昨年は1.2%に激減してしまった。その大きな理由が若者の「季節限定ビール」離れという。1昨年に同ビールの販売から撤退したアサヒビールは「季節感に訴えかける販売戦略が、愛飲家の多い20代から30代の男性に受け入れられなくなった」とみている。
日本人がビールと出合ったのは江戸時代。一部の蘭学者は、オランダ渡来の麦酒をひそかに味見していたらしい。幕末の開国後、日本人とビールの接点が増えていく。福沢諭吉が麦酒の味を知ったのも、横浜の外国人居留地だった。物心ついたころから酒好きだったと自伝に記した福沢諭吉は、「至って苦けれど、胸襟を開くに妙なり」とビールの魅力を語っている。
一人でしんみり飲むのに向かない。世界のどこでもビールは談論風発の酒である。とはいえ、ところ変われば味も変わる。チェコのブジェヨビツェ(ドイツ名ブドワイス)で作られる”元祖バドワイザー”は濃厚なコクが特徴。軽さが魅力の米国製バドワイザーとは、対照的な中欧の風味は、中欧の風土に合う。
日本でも、いつの間にかビールの種類がずいぶん増えた。キレ、コク、のど越し、レトロ調ーー大手メーカーの様々な新製品に加えて、地ビールも次々に登場している。様々な土地の味を選べるのも規制緩和のたわものだ。週末の天気予報は雨模様。夏のような陽気は一服しても、胸襟を開いてくれるビールの爽快さは変わらない。